規約違反少女がマッチングアプリで無法すぎる!

アメノヒセカイ

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8章 魅了少女が不安すぎる!『前期』90~108話

その13 ヒウタとお菓子の儀式

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「一応私が勝ち?」
 ビンゴゲームは早くビンゴした人から景品を選ぶシステムになっている。
 最新ゲーム機や温泉旅行券などもあるが、ヒウタが最後の景品をもらうことになってカワクロ、ヒウタの順でビンゴになった。カワクロは駄菓子の詰め合わせ、ヒウタは入浴剤の詰め合わせをもらった。
「そうですね」
「ほら、私の幸運」
「誤差では?」
「そうなの。でも一番と二番にはそれはもう想像できないほどの差がある」
 カワクロは天を指差す。
「それはトップの話でワースト一と二には差がないと思いますよ?」
「でも勝ちなの」
「そうではあるけど」
 続いて、パティシエが作ったクッキーである。
 箱に入っていて四種類のクッキーが入っているらしい。パティシエが一枚ずつ焼いて作ったもので、手作業であったため相当な額が使われているだとか。
 仮装して、『トリックオアトリート』と言えばもらえることになっていて、大赤字を生む一因であった。
 カワクロが涎を垂らしながら目をキラキラと輝かせているのを見ていると、シュイロが赤字を覚悟してまでお菓子を用意する気持ちも分かるかもしれない。
「ほらほら。シュイシュイは私のことが大好きなの。私の提案なの!」
 シュイシュイとはシュイロのことである。
「どうしてクッキーをもらってからダンス、後夜祭なんですか?」
「お菓子を一人でも多く渡したいから。シュイシュイは赤字でイベントをするのが好きなの。今、変って思った?」
「シュイロさんについてはずっと変だって思ってますけど」
「そっか」
「赤字の話ばかりで雇われてる僕が心配になりますよ?」
「ただ普段の利益で全体としては黒字。そこにシュイシュイの真髄がある。ってことで食べるの! ふわあ、ほわあ」
 カワクロは両手の拳を握って胸の辺りに近づける。目がうるうると潤っていた。というか肌のつやも良くなっていて全身から光を放つのではないのかと思えてしまう。
 列に並ぶ。 
 カワクロは後ろに並ぶヒウタを見る。
「果たしてヒウタの分はあるか、なの」
「え?」
「元々ダンスから参加するならこのお菓子配布は不参加だと思うなの」
「え?」
 ヒウタは背中に冷たい汗を感じた。
 カワクロはおかしそうにプッと吹き出して笑った。
「シュイシュイに聞いたら私が受け取ってほしいって言われたの。だから本人が並んで受け取っても問題ないから」
 ヒウタはホッと胸を撫で下ろす。まだ心臓が鳴っている。
 悪いことをしているような気分になっていた。
 どうやらカワクロが事前に話をしてくれたのか。
「そういやスイーツパーティみたいに全部私の! とか言わないんですね」
「買うわけじゃないからなの。個数制限なくてお金を出せばいくらでも買える場合は私が食べるだけ買うなの」
「まともですね」
「私をどう思ってるの?」
 ようやくカワクロとヒウタの番が来た。
 ケーキが入っているような持ち手付きの白い箱はずっしりと重かった。
 カワクロは待ちきれないようで既に食べ始めて頬にクッキーが崩れた粉を付けている。
 ヒウタはその様子を見ると、気づいたように離れる。
 クッキーを持って踊るわけにはいかない。
 相談口に戻る。
 女性スタッフ二人がビニール袋を眺めていた。
「ビンゴ?」
「はい。入浴剤が当たりました」
「ゲーム機も温泉旅行券も間に合わなかったのか。残念だね」
「お、クッキーじゃん。私たちは後でもらうんだけど、中見てもいい?」
「いいですけど、僕はダンスの準備なので」
「いってらっしゃい」
「青春だねえ」
 女性スタッフは感慨深げに呟く。
 ヒウタよりは年上だろうが二人とも大学生である。
 何を言ってるんだか。
「行ってきます」
 ヒウタはダンス会場まで。喧騒がヒウタを焦らせる。
 スマホを取り出してメッセージを見る。
『ヒウタさん一時間は遅れます』
 果たしてトアオは来るのだろうか?
 それは神のみぞ知る。
「始めは私でどうよ?」
「口にクッキー付いてますよ」
「何それ。恥辱を受けた、ヒウタのクッキーももらうの」
「駄目ですが」
 ヒウタが応えると司会者が声を上げる。
 仮面を付ける。
 バイオリンとピアノの音、透き通った音律が会場に広がっていく。甘美な音が耳を満たす。カワクロはヒウタの手を取って足でステップを踏む。それが上手いものではないだろう。きっとここで踊る人たちはダンスが上手いわけではない。これは儀式だ。身体中を包む音楽に身体を浸すための儀式だ。人と人との出会いを色づける、時間を彩って象るための儀式だ。非日常を切り取って日常に貼るための儀式だ。
 ヒウタもカワクロに合わせる。手の温もりを感じて一瞬遅れて躓きかける。
 カワクロの歩幅は小さい、自分ではない存在、自分にはない存在。
 くるくると回るようにステップを繰り替える。
 夏のような熱気が会場を溢れる。
「ヒウタ、そんなもんなの?」
「どうだろ?」
 カワクロが挑戦的に言うものだから、ヒウタは余裕そうに応える。
 ステップを速くする。ヒウタが息を切らすとカワクロは楽しそうに笑う。ヒウタはやり返したくてカワクロをふわりと浮かばせる。カワクロの足が床を離れる、そしてまた離れる。カワクロは顔を赤くした。
「やるなの。ただまだまだ」
「僕だって」
 なんてカワクロはステップを速めると、ヒウタはカワクロを持ち上げて回す。
 ついにカワクロはバランスを崩してヒウタの手から離れる。
 すぐに床に頭を衝突させんとして、慌ててカワクロの腰に手を回すようにしてヒウタが支える。
「危ないっ」
「うん。ヒウタ、私は負けてないなの。けどこれ以上は怒られるなの」
「そうですね、気を付けます」
 音楽が変わる。どうやら交代らしい。
 次はピエロの格好の女性、続いて自前だろうか悪魔のような格好の女性と踊った。
 カワクロのように無茶をし合うわけではなかったが、上品な音楽の中で踊るのは身体も温まって楽しかった。
 だがまだトアオの姿はない。








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