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8章 魅了少女が不安すぎる!『前期』90~108話
その10 ヒウタとメッセージ
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イベントの準備を終えて、ヒウタは家に戻った。
スマホでカワクロにミドリの連絡先を渡す。
部屋の掃除や洗濯をしていると、カワクロからメッセージが届いた。
幼い女の子が魔女の格好で尖がった帽子やぶかぶかの服を着ているデフォルメされたスタンプが送られてきた。スタンプでは女の子の目の前にケーキやパフェ、マカロンが置いてあって、背景には橙色のかぼちゃが目と口の位置で切り抜かれている。
スマホを開くと、カワクロがパフェを持って自撮りしている様子が見える。
写真の端に見える腕は自撮り棒だろうか。自撮り棒は一人では取りにくいアングルでも写真を撮ることができるアイテムで、まさにパフェのサイズを伝えるのは丁度いいだろう。
……小さいカワクロと比較するとパフェの大きさが想像しやすい、とは本人に言えば機嫌を悪くしてしまうだろうが。
カワクロが団子ヘアにしてる分、写真の納まりがよく雑誌に載せるレベルだった。
と思ったら実際に乗せるそうだ。
『スイーツ中心のグルメ雑誌なの。私が紹介する店は注目度が高いらしくて。たまにこういう取材をしてる。だから忙しくて今日は行けなくて。無事、シフユの元恋人の連絡先を手に入れて良かったなの』
カワクロは仮面舞踏会の当日は参加するらしい。
美味しいお菓子がもらえると喜んでいた記憶がある。
「カワクロさん、すごい人なんだな。美味しそうだし」
パフェを見る。その隣に楽しそうに笑うカワクロ。
太陽のような明るさ。
長く伸びる眉毛の反りまでもよく見える。
載せるのはグルメ雑誌らしい。
「って俺は何じっと見てるんだ」
写真を閉じる。
電話が掛かってきた。
メッセージだけでは話しがしにくいとのこと。
『話してみてどう?』
「怖い印象だったと思います」
『それはよく頑張ったなの。シフユを取られないように警戒してる? いや、二人の時間を邪魔するなって? それとも関係を壊そうとしているように思った? うん、敵だと思われてしまってるなの』
「そうですね」
電話越しにカワクロの息遣いが聞こえる。
背徳感と耳に感じる空気の振動で一瞬スマホを離す。
『シフユと話した?』
「話そうとしたらすぐに元恋人の人が出てきて。名前はミドリさんっていうみたいですが」
『私はシフユのミスではあると思ってるから。二人の傷が最小で事を進められるのが一番なの。でももしどちらかの利益を損なう場合は、私は、一体どうしたらいいかなって』
二人とはシフユとその元恋人であるミドリのことを指す。
「ミドリさんってそんなにも被害者ですか?」
『少なくとも被害者ではあるかな』
「シフユさんが悪かったことは。同性を好きになることですか? 男のアカウントでマッチングしたことですか? 惚れさせたことですか? 付き合ったことですか? 振ったことですか? それとも、振ってもなお一緒に居ることですか? 僕はそれも含めてはっきりさせたいです」
『私は男のアカウントを作ることは明確な規約違反。だからシフユが悪いと思うなの』
カワクロは風船が萎んでいくようにだんだん小さい声になる。
ヒウタは自身の失敗に気づく。
「カワクロさんを責めるつもりはなくて。ごめんなさい」
『ちょっと怖かったの。けどその熱い気持ちは伝わった。じゃあ、また』
電話が切れた。
ヒウタはホッと息を吐く。
「仮面舞踏会ってことはハロウィンか。早いな」
ヒウタがマッチングアプリを始めたのは五月。
最初にシュイロに出会ってアプリの管理バイトを始めた。それからカズサに会ってスイーツパーティをした。マッチングアプリに苦戦してアキトヨに会った。コウミに会って期末テストを越えた。夏休みにメリアによる洗脳事件、カワクロと運ちゃんと共にオーパーツを集める旅をして、カワクロに再会してシフユの件を聞いた。
時の流れは早いとヒウタが感じたときだった。
……ってマッチングアプリに通知?
アプリを開くとトアオからのメッセージだった。九月からマッチングしている女性である。
『ヒウタさんと仮面舞踏会行きたい』
ストレートなメッセージがトアオらしい。
遠回しや遠慮した言い方にならないのは、トアオのあがり症と不慣れであることが関係している。経験値不足のトアオは悩んでるのは間違いないが、最終的に伝えたいことを素直に言うことが多いように思われる。
「一緒に行きたい、か。トアオさんが誘ってくれるのは嬉しいけど、俺はバイトがある」
断るしかないだろう。
ヒウタはどうにかできないか悩む。
『その日は仕事なのでおそらく』
『ずっと? もし時間あったら来てください。私、行きます』
期待させていいのだろうか?
時間が見つからなかったらトアオはどうするつもりだろうか?
他の人と出会うのだろうか?
あがり症で人見知りのトアオができるとは思えない。
無理をして気を使っているのだろう。
申し訳ない。
「トアオさんは俺に来てほしいのか」
自身の言葉を反芻する。
嬉しい。
ヒウタのことを気にかけてくれる数少ない女性である。
でも申し訳ないのだ。
もし会いに行けなかったらと思うとゾッとする。
『もし僕が会いに行けなかったら』
続きを打とうとすると謝って送ってしまった。
『他の人と踊ってお菓子はもらうよ』
トアオさんが?
信じてもいいのだろうか?
って。
ヒウタは。
大きな溜め息を。
『恋してるから、ヒウタさんに』
トアオは確かにそう言っていた。
トアオの顔は真っ赤でそのまま燃えて無くなってしまうようにも思えた。
確かに好きと言ってくれたのだ。
危険な旅でトアオが誘拐されたり廃校の屋上で地面が崩れて落下したりした。それだけのピンチの中でトアオはヒウタに恋を錯覚したのかもしれない。
吊り橋効果でトアオは、……違う!
「トアオさんは俺に価値があると思ってくれたんだ。行くなら俺が行く。行かないならトアオさんは行かない決断をするはず。ちゃんと答えないと。俺は君に生きてほしかった、それを叶えた。あの人を独りぼっちにしたくないんだ」
しかし胸の奥に黒い煙が渦巻く。
ヒウタはスマホの電源を落として天井を見る。
どうしたらいい?
たぶんシュイロに言えば時間がもらえるかもしれない。
ヒウタは考える、トアオの誘いをどうするべきか。
悩むということはきっと。
部屋の空気が汚く臭く思えた。
窓を開ける。
寒気がようやく隙を見せたと言わんばかりに入り込む。
床にうずくまった。
この痛みの正体は何だろう?
スマホでカワクロにミドリの連絡先を渡す。
部屋の掃除や洗濯をしていると、カワクロからメッセージが届いた。
幼い女の子が魔女の格好で尖がった帽子やぶかぶかの服を着ているデフォルメされたスタンプが送られてきた。スタンプでは女の子の目の前にケーキやパフェ、マカロンが置いてあって、背景には橙色のかぼちゃが目と口の位置で切り抜かれている。
スマホを開くと、カワクロがパフェを持って自撮りしている様子が見える。
写真の端に見える腕は自撮り棒だろうか。自撮り棒は一人では取りにくいアングルでも写真を撮ることができるアイテムで、まさにパフェのサイズを伝えるのは丁度いいだろう。
……小さいカワクロと比較するとパフェの大きさが想像しやすい、とは本人に言えば機嫌を悪くしてしまうだろうが。
カワクロが団子ヘアにしてる分、写真の納まりがよく雑誌に載せるレベルだった。
と思ったら実際に乗せるそうだ。
『スイーツ中心のグルメ雑誌なの。私が紹介する店は注目度が高いらしくて。たまにこういう取材をしてる。だから忙しくて今日は行けなくて。無事、シフユの元恋人の連絡先を手に入れて良かったなの』
カワクロは仮面舞踏会の当日は参加するらしい。
美味しいお菓子がもらえると喜んでいた記憶がある。
「カワクロさん、すごい人なんだな。美味しそうだし」
パフェを見る。その隣に楽しそうに笑うカワクロ。
太陽のような明るさ。
長く伸びる眉毛の反りまでもよく見える。
載せるのはグルメ雑誌らしい。
「って俺は何じっと見てるんだ」
写真を閉じる。
電話が掛かってきた。
メッセージだけでは話しがしにくいとのこと。
『話してみてどう?』
「怖い印象だったと思います」
『それはよく頑張ったなの。シフユを取られないように警戒してる? いや、二人の時間を邪魔するなって? それとも関係を壊そうとしているように思った? うん、敵だと思われてしまってるなの』
「そうですね」
電話越しにカワクロの息遣いが聞こえる。
背徳感と耳に感じる空気の振動で一瞬スマホを離す。
『シフユと話した?』
「話そうとしたらすぐに元恋人の人が出てきて。名前はミドリさんっていうみたいですが」
『私はシフユのミスではあると思ってるから。二人の傷が最小で事を進められるのが一番なの。でももしどちらかの利益を損なう場合は、私は、一体どうしたらいいかなって』
二人とはシフユとその元恋人であるミドリのことを指す。
「ミドリさんってそんなにも被害者ですか?」
『少なくとも被害者ではあるかな』
「シフユさんが悪かったことは。同性を好きになることですか? 男のアカウントでマッチングしたことですか? 惚れさせたことですか? 付き合ったことですか? 振ったことですか? それとも、振ってもなお一緒に居ることですか? 僕はそれも含めてはっきりさせたいです」
『私は男のアカウントを作ることは明確な規約違反。だからシフユが悪いと思うなの』
カワクロは風船が萎んでいくようにだんだん小さい声になる。
ヒウタは自身の失敗に気づく。
「カワクロさんを責めるつもりはなくて。ごめんなさい」
『ちょっと怖かったの。けどその熱い気持ちは伝わった。じゃあ、また』
電話が切れた。
ヒウタはホッと息を吐く。
「仮面舞踏会ってことはハロウィンか。早いな」
ヒウタがマッチングアプリを始めたのは五月。
最初にシュイロに出会ってアプリの管理バイトを始めた。それからカズサに会ってスイーツパーティをした。マッチングアプリに苦戦してアキトヨに会った。コウミに会って期末テストを越えた。夏休みにメリアによる洗脳事件、カワクロと運ちゃんと共にオーパーツを集める旅をして、カワクロに再会してシフユの件を聞いた。
時の流れは早いとヒウタが感じたときだった。
……ってマッチングアプリに通知?
アプリを開くとトアオからのメッセージだった。九月からマッチングしている女性である。
『ヒウタさんと仮面舞踏会行きたい』
ストレートなメッセージがトアオらしい。
遠回しや遠慮した言い方にならないのは、トアオのあがり症と不慣れであることが関係している。経験値不足のトアオは悩んでるのは間違いないが、最終的に伝えたいことを素直に言うことが多いように思われる。
「一緒に行きたい、か。トアオさんが誘ってくれるのは嬉しいけど、俺はバイトがある」
断るしかないだろう。
ヒウタはどうにかできないか悩む。
『その日は仕事なのでおそらく』
『ずっと? もし時間あったら来てください。私、行きます』
期待させていいのだろうか?
時間が見つからなかったらトアオはどうするつもりだろうか?
他の人と出会うのだろうか?
あがり症で人見知りのトアオができるとは思えない。
無理をして気を使っているのだろう。
申し訳ない。
「トアオさんは俺に来てほしいのか」
自身の言葉を反芻する。
嬉しい。
ヒウタのことを気にかけてくれる数少ない女性である。
でも申し訳ないのだ。
もし会いに行けなかったらと思うとゾッとする。
『もし僕が会いに行けなかったら』
続きを打とうとすると謝って送ってしまった。
『他の人と踊ってお菓子はもらうよ』
トアオさんが?
信じてもいいのだろうか?
って。
ヒウタは。
大きな溜め息を。
『恋してるから、ヒウタさんに』
トアオは確かにそう言っていた。
トアオの顔は真っ赤でそのまま燃えて無くなってしまうようにも思えた。
確かに好きと言ってくれたのだ。
危険な旅でトアオが誘拐されたり廃校の屋上で地面が崩れて落下したりした。それだけのピンチの中でトアオはヒウタに恋を錯覚したのかもしれない。
吊り橋効果でトアオは、……違う!
「トアオさんは俺に価値があると思ってくれたんだ。行くなら俺が行く。行かないならトアオさんは行かない決断をするはず。ちゃんと答えないと。俺は君に生きてほしかった、それを叶えた。あの人を独りぼっちにしたくないんだ」
しかし胸の奥に黒い煙が渦巻く。
ヒウタはスマホの電源を落として天井を見る。
どうしたらいい?
たぶんシュイロに言えば時間がもらえるかもしれない。
ヒウタは考える、トアオの誘いをどうするべきか。
悩むということはきっと。
部屋の空気が汚く臭く思えた。
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寒気がようやく隙を見せたと言わんばかりに入り込む。
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