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8章 魅了少女が不安すぎる!『前期』90~108話
その12 ヒウタと仮面舞踏会Ⅱ
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「これが接客だ、ヒウタ」
女性スタッフが相談口へ来る客を次々と捌いていく。
男女問わず新しい扉を開いていた。
ヒウタはマップ案内や落とし物探しのようなものばかりをして会場内を駆け回る。
相談口のスタッフは全部で三人である。女性スタッフ二人は窓口で話をして移動が必要な場合はヒウタが対応していた。対応が女性スタッフほどではないヒウタが走り回るのは最適で文句を言うこともできないが。
ヒウタは息を切らしてペットボトルの緑茶を一気飲みする。緑茶は五百ミリリットルの一割増量タイプであるが、喉が枯れたヒウタの前では一瞬で無に帰す。
「ビンゴ大会始まったから。ヒウタは仮装して来な」
女性スタッフが言う。
「え、もう行ってきていいんですか?」
元々トリックオアトリートの時間に行けば間に合うと考えていたが。
どうやら。
「仮装はあとで変える人もいるから。化粧直しとかもあるし。混むからね、行きなよ。彼女一人とは言わずに、二人とか三人とかゲットしちゃいなよ。どうせ二人で回せるし?」
ヒウタは頷く。
相談口に関してはヒウタがいなくてもベテランの二人がいれば良さそうだ。
……彼女の二人や三人って。
ヒウタはニコニコと笑顔を見せる二人のスタッフに礼をして、更衣室へ行くことにした。仮装は自前で準備していないため、レンタルをすることにした。
「二十分待ちか」
ヒウタは更衣室の前に並ぶ。
男女別で更衣室は分かれているが、女性用の更衣室の待ち時間はもう少し長いそうだ。
一応、女性用の更衣室は男性用よりも多く増設していたが。
「トアオさんは」
……今起きたって。
スマホを開いてトアオのメッセージを見る。
流石は『怠惰』といわれるだけあって遅刻するらしい。
涙の顔文字が送られてきた。
『後から合流します。先行っててください』
このとき、ヒウタは気づかなかった。
イベントの趣旨を考えれば悪手である。
「そっか」
ただし、ヒウタはそんなに深く考えていなかった。
ヒウタは服を選んで更衣室へ。
ビンゴ大会に間に合った。
人が集まるまでの時間差が生まれた結果、ヒウタはビンゴカードを手に入れた。
「あ、ヒウタ」
スケルトンの格好をした団子ヘアの女性がいた。
サイズが合わないらしく少し弛んでいて襟が下がって鎖骨が見える。
幼さと無防備で大胆な艶やかさを醸し出していた。
……嘘だろ。
「カワクロさん、一体何してるんですか? 服」
「仮装。スケルトンなの! 一番ハロウィンみたいな?」
「もっとサイズが合うものは」
「サイズ、これで合ってる。ね?」
カワクロは威圧的な口調で言う。しかし瞳には涙を湛えていた。
ヒウタは気づく。
レンタルしたが小柄なカワクロに合うサイズがなかったと。背が低いことがコンプレックスであるカワクロにとっては受け入れがたい状況であると。
「そうですね」
無防備な姿であるが指摘しても怒らせてしまうだろう。
ヒウタは諦めた。
「仕事はどうなったの?」
「あとは回せるから行ってきなって言われて。元々ダンスだけ参加するつもりらしくて」
「誰かとダンスしたいなの? 誘われたんだ。この私以外に!」
キリッと親指と人差し指を立てて顎に添える。
ポーズを決めるとカワクロは肘でヒウタは突く。
「この、このー」
機嫌良さそうにしていた。
しかし、カワクロは突然ボロボロと泣き出す。
ヒウタは慌ててティッシュを取り出して紙を三枚抜いて渡す。
「コウミたんに彼氏ができたみたいなの。うう、……どこの馬の骨が!」
どうやらつい先日の話で、今日のイベントに出掛けるときに一言声掛けしようとしたところ、彼氏ができたと報告されたらしい。
もしかしたらぶかぶかな服も自暴自棄の結果かもしれない。
とはいえ、実際にサイズが合わなかったと思う。
「そ、そうなんですね」
「その通りなの。早く姉である私と合わせて吟味する。絶対コウミたんに相応しくない。コウミたんの魅力に気づくのがこんなにも遅いのにまともなやつじゃないなの。私のすべてを使って化けの皮を剥がし二度と地面を二本足で歩けないようにしてやるなの、ふふふふふふふ」
カワクロが壊れた。
不気味な笑みを零して、僅かに空いている口の隙間から呪文のようにぶつぶつと言う。
「良かったと思いますよ、楽しそうならいいと思います」
「何言ってるの? 彼氏になる前に私の試験を乗り越えるべき。ヒウタは妹が彼氏できても嫌ではないの?」
妹のことになるとカワクロは暴走してしまう。
が。
「妹は中学二年生、まだ恋しないので大丈夫です。はい」
すっきりとした笑みでヒウタは答える。
不気味さを持つ。
ヒウタも妹のことになると冷静さの欠片もなかった。
「楽しそうではあるから。けど私と話す時間もよくよく考えれば減ってて。その分が今の彼氏と思うと寂しい気持ち。どこか行ってしまうって結構怖いなの」
「どこかに行ってしまいますが、どこかにはいるので十分では?」
「ヒウタ。今日は踊り明かそう。お菓子もらって、その前にビンゴで勝って。一回くらいは一緒に踊ろうなの」
トアオは微笑んでビンゴカードの真ん中を折った。
ヒウタも気合を入れてステージ上を見る。
司会者が回転抽選器をガラガラと回す。
コンと音がすると番号が書いてある白い玉を拾って叫ぶ。
「今宵のラッキーボーイ、ガールは、五十六番から!」
ヒウタの隣から切り取り線が切れた音がする。
少女の見上げる表情を見てしまう。目は仄かに赤くなっている。
少女は気がつくと得々な表情でヒウタを見て、大事そうにビンゴカードをヒウタから遠ざける。
「まだ一つ目だろ」
「言ってろなの。私の幸運に跪くがいいなの」
「なんだそれ」
司会者が番号を叫ぶ。
……。
番号が聞こえる。
カワクロはビンゴカードをプチッと鳴らした。
「ほら?」
「これからだが?」
ヒウタとカワクロは勝負している気持ちになった。
カワクロはコウミの姉である。
勝負少女の姉であるならビンゴゲームが勝負になるのも仕方がない。
女性スタッフが相談口へ来る客を次々と捌いていく。
男女問わず新しい扉を開いていた。
ヒウタはマップ案内や落とし物探しのようなものばかりをして会場内を駆け回る。
相談口のスタッフは全部で三人である。女性スタッフ二人は窓口で話をして移動が必要な場合はヒウタが対応していた。対応が女性スタッフほどではないヒウタが走り回るのは最適で文句を言うこともできないが。
ヒウタは息を切らしてペットボトルの緑茶を一気飲みする。緑茶は五百ミリリットルの一割増量タイプであるが、喉が枯れたヒウタの前では一瞬で無に帰す。
「ビンゴ大会始まったから。ヒウタは仮装して来な」
女性スタッフが言う。
「え、もう行ってきていいんですか?」
元々トリックオアトリートの時間に行けば間に合うと考えていたが。
どうやら。
「仮装はあとで変える人もいるから。化粧直しとかもあるし。混むからね、行きなよ。彼女一人とは言わずに、二人とか三人とかゲットしちゃいなよ。どうせ二人で回せるし?」
ヒウタは頷く。
相談口に関してはヒウタがいなくてもベテランの二人がいれば良さそうだ。
……彼女の二人や三人って。
ヒウタはニコニコと笑顔を見せる二人のスタッフに礼をして、更衣室へ行くことにした。仮装は自前で準備していないため、レンタルをすることにした。
「二十分待ちか」
ヒウタは更衣室の前に並ぶ。
男女別で更衣室は分かれているが、女性用の更衣室の待ち時間はもう少し長いそうだ。
一応、女性用の更衣室は男性用よりも多く増設していたが。
「トアオさんは」
……今起きたって。
スマホを開いてトアオのメッセージを見る。
流石は『怠惰』といわれるだけあって遅刻するらしい。
涙の顔文字が送られてきた。
『後から合流します。先行っててください』
このとき、ヒウタは気づかなかった。
イベントの趣旨を考えれば悪手である。
「そっか」
ただし、ヒウタはそんなに深く考えていなかった。
ヒウタは服を選んで更衣室へ。
ビンゴ大会に間に合った。
人が集まるまでの時間差が生まれた結果、ヒウタはビンゴカードを手に入れた。
「あ、ヒウタ」
スケルトンの格好をした団子ヘアの女性がいた。
サイズが合わないらしく少し弛んでいて襟が下がって鎖骨が見える。
幼さと無防備で大胆な艶やかさを醸し出していた。
……嘘だろ。
「カワクロさん、一体何してるんですか? 服」
「仮装。スケルトンなの! 一番ハロウィンみたいな?」
「もっとサイズが合うものは」
「サイズ、これで合ってる。ね?」
カワクロは威圧的な口調で言う。しかし瞳には涙を湛えていた。
ヒウタは気づく。
レンタルしたが小柄なカワクロに合うサイズがなかったと。背が低いことがコンプレックスであるカワクロにとっては受け入れがたい状況であると。
「そうですね」
無防備な姿であるが指摘しても怒らせてしまうだろう。
ヒウタは諦めた。
「仕事はどうなったの?」
「あとは回せるから行ってきなって言われて。元々ダンスだけ参加するつもりらしくて」
「誰かとダンスしたいなの? 誘われたんだ。この私以外に!」
キリッと親指と人差し指を立てて顎に添える。
ポーズを決めるとカワクロは肘でヒウタは突く。
「この、このー」
機嫌良さそうにしていた。
しかし、カワクロは突然ボロボロと泣き出す。
ヒウタは慌ててティッシュを取り出して紙を三枚抜いて渡す。
「コウミたんに彼氏ができたみたいなの。うう、……どこの馬の骨が!」
どうやらつい先日の話で、今日のイベントに出掛けるときに一言声掛けしようとしたところ、彼氏ができたと報告されたらしい。
もしかしたらぶかぶかな服も自暴自棄の結果かもしれない。
とはいえ、実際にサイズが合わなかったと思う。
「そ、そうなんですね」
「その通りなの。早く姉である私と合わせて吟味する。絶対コウミたんに相応しくない。コウミたんの魅力に気づくのがこんなにも遅いのにまともなやつじゃないなの。私のすべてを使って化けの皮を剥がし二度と地面を二本足で歩けないようにしてやるなの、ふふふふふふふ」
カワクロが壊れた。
不気味な笑みを零して、僅かに空いている口の隙間から呪文のようにぶつぶつと言う。
「良かったと思いますよ、楽しそうならいいと思います」
「何言ってるの? 彼氏になる前に私の試験を乗り越えるべき。ヒウタは妹が彼氏できても嫌ではないの?」
妹のことになるとカワクロは暴走してしまう。
が。
「妹は中学二年生、まだ恋しないので大丈夫です。はい」
すっきりとした笑みでヒウタは答える。
不気味さを持つ。
ヒウタも妹のことになると冷静さの欠片もなかった。
「楽しそうではあるから。けど私と話す時間もよくよく考えれば減ってて。その分が今の彼氏と思うと寂しい気持ち。どこか行ってしまうって結構怖いなの」
「どこかに行ってしまいますが、どこかにはいるので十分では?」
「ヒウタ。今日は踊り明かそう。お菓子もらって、その前にビンゴで勝って。一回くらいは一緒に踊ろうなの」
トアオは微笑んでビンゴカードの真ん中を折った。
ヒウタも気合を入れてステージ上を見る。
司会者が回転抽選器をガラガラと回す。
コンと音がすると番号が書いてある白い玉を拾って叫ぶ。
「今宵のラッキーボーイ、ガールは、五十六番から!」
ヒウタの隣から切り取り線が切れた音がする。
少女の見上げる表情を見てしまう。目は仄かに赤くなっている。
少女は気がつくと得々な表情でヒウタを見て、大事そうにビンゴカードをヒウタから遠ざける。
「まだ一つ目だろ」
「言ってろなの。私の幸運に跪くがいいなの」
「なんだそれ」
司会者が番号を叫ぶ。
……。
番号が聞こえる。
カワクロはビンゴカードをプチッと鳴らした。
「ほら?」
「これからだが?」
ヒウタとカワクロは勝負している気持ちになった。
カワクロはコウミの姉である。
勝負少女の姉であるならビンゴゲームが勝負になるのも仕方がない。
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