規約違反少女がマッチングアプリで無法すぎる!

アメノヒセカイ

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8章 魅了少女が不安すぎる!『前期』90~108話

その9 ヒウタとイベントⅡ(100話達成!)

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「ミドリ、どうかした?」
 先ほどまでスタッフに指示をだしていたシフユは、ヒウタとミドリが話しているのを見てミドリの前に出た。
「って何の用なのさ。モブくんの方は仕事片付いた?」
 シフユは冷たい視線をヒウタに向ける。
 ……気まずい。シフユが来てしまった以上、ミドリと話すのは難しいだろう。ヒウタもだがミドリはシフユを気にした発言しかできなくなるだろう。
 カワクロにシフユの元恋人であるミドリと接触するようにとお願いされたが、シフユがいる状態では難しい?
 ミドリからシフユを引き離す必要がある。しかし、シフユにミドリと接触する予定で来ていると思われるのは都合が悪い。あくまでもシフユに会いに来たと振舞いながらミドリと話せる状況に持っていく必要がある。
 ゆえに。
「シフユさん、イベントに参加してくれて、しかも今日も来てくれて嬉しいです。また今度お礼します、また会いましょう」
 ヒウタはニコッと笑顔を見せて去ろうとする。
「急に変顔?」
 シフユは真面目な顔で困惑している。
 ヒウタは気にしないことにした、もちろん気にならなかったし大したことではなかったが、既にナイフで胸を切り裂かれたくらいの微小のダメージは入ってしまった。
 それでも胸を押さえて深呼吸をしてひどい冷汗を全身に流してめまいを踏ん張れば平気な程度である。
「ん? シフユのなに?」
 ヒウタは一礼して体の向きを変える。
「待て。ちょっと時間ある? 話そう」
 やけに聞き取りやすい声には確固たる怒りが見える。
 ヒウタは頭の中でガッツポーズをした。やはり乗って来たか。
 問題はここからだが。カワクロが言う真意を聞けとは一体。
 シフユが指示出しに戻っているのを確認して、ミドリが向かうところへ付いていく。
 ミドリは自動販売機が並ぶスペースで立ち止まった。
 カップ式自動販売機で抹茶オレとコーラを購入すると、コーラをヒウタに渡す。
 カップを持つ手が冷える。細かい氷が褐色の上でじっと浮かんでいた。氷は炭酸の泡を抱えていてぶくぶくと昇っていく泡の終着点になっていた。ヒウタがカップをテーブルに置くと振動で氷から解放された泡が境界で割れる。途端、スパイスの刺激が鼻孔に届く。
「で、どういう関係?」
 設営で移動したため、唯一のテーブルに着いた。椅子は運んでしまって、腰辺りの高さしかないテーブルにカップを置く。
「何度か会って話した関係です。そう多くはないですが。シフユさんのおかげでイベントが開催されるので感謝したくて来ました」
「そういってシフユに会いに来たって? 好かれて仲良くなれるとでも」
「いえ」
 ヒウタは即答する。
 あまりに淡々と言うものだから、あらかじめ用意したメモでも読んでいるようだった。
 ミドリは納得できずヒウタを睨む。
 ヒウタは息を吐いて口を開く。
「僕はとある人物にお願いされてあなたに接触するために来ました」
「人に言われて来ただけってことね。なんとも流れやすい操り人間ですこと」
「思い通りになるかならないかに対しては、どちらが正義でしょうね? 反抗するのも流されてしまうのもどちらが正解か分からない」
「なにそれ? まあいいや。私に用があるのね。分かった、女性同士でマッチングしたこと?」
 ミドリはヒウタの顔を顎から頭の頂点まで見る。
 ヒウタはミドリの目を瞬きの間に一度見る。
「それはシフユさんの問題ですから」
 ミドリは人差し指を曲げて目頭を掻く。
 それから頭に手を置くと、すぐにカップに持ち替えて抹茶オレを啜る。
「いろいろ知ってるのね。つまり何者?」
「僕はシフユさんをイベントに参加するように促した人間の一人です」
「ふーん。けどね、シフユは乗り気じゃなかった。私は嫌そうにして愚痴るシフユを間近で見ていた」
「そうですか」
「淡々とした口調。あなたは誰?」
「シフユさんを助けてほしいと」
「私に用があると」
 怒気が含まれていた。
 歯を擦る音がヒウタにも聞こえる。
 ミドリの存在がシフユを追い込んでいる、そう言っているようなものだ。
「敵としてではない。あなたは当事者であると共に、シフユさんを助けるための協力者になるべきだから」
「何言ってるの? 私は許すものか」
「僕を?」
「もちろんあなたも。そう、シフユを許さないために私はシフユといることを選んだ」
 ミドリの瞳はヒウタを捉えているようでどこか違う世界を覗いているような奇妙さと恐ろしさがあった。
「なら恨みと憎しみと共に生きると。だったら」
「だったら?」
「全力であなたを否定する、邪魔をするつもりの僕らを全力で説得するべきだ」
「は?」
「僕はシフユさんに会っているし、また会うこともできる」
「だから?」
「改めて話そう。あの人も話したいと思うだろうから。名前は?」
 ヒウタはスマホを取り出す。
池馬いけうまみどり。私に話したいことはほとんどないわ。でも私の憎しみの邪魔をするなら釘を刺しておきたい」
 嫌々であったが、ヒウタはミドリの連絡先を手に入れた。
「戻りましょう」
 紙コップを空にする。
 ヒウタはミドリと分かれて元の作業場に戻った。
 机や椅子を雑巾で拭くカズサとヨウレンがいた。
 楽しそうに気になっているスイーツの話をしていた。
「良かった。あのときシュイロさんに話して。スイーツパーティを開くことができて。幸せそうだな」
 カズサとヨウレンを見て微笑ましく思う。幸せのおすそ分けということだろう。
 ヒウタがしてきたことすべてが正しいとは思わないが、目の前に広がる光景は正しかった選択によるものだろうと思える。
「カズサさん、ヨウレンさん、今日はありがとうございました」
 残りの作業を終えて。
 帰り際に感謝を伝えると、ヨウレンはカズサの手を取って。
「イベントは僕ら参加するので」
 楽しそうに言うヨウレンをカズサは照れくさそうに見ていた。
 これがカップルか。
 羨ましいと思える恋人同士の姿だった。
 ヒウタが期待する恋の形が見えた。






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