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8章 魅了少女が不安すぎる!『前期』90~108話
その6 ヒウタと図書館
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「大学祭実行委員会、幹部が一人なの!」
カワクロは腕章を見せる。
そこには『大学祭実行委員会』の文字が。
どうやらカワクロは大学祭実行委員の活動として、髪がぼさぼさの男を引っ張っているらしい。
「この人が救世主!」
ハクは過去問を回してくれたカワクロに両手を合わせる。
「名前はカワクロさん。名字は琴春」
「……小動物みたいでかわいい!」
ハクが言うと、カワクロの肩が一瞬震えた。そしてさらに肩を震わせながら振り返る。カワクロは耳を赤くして、涙を溜めていた。
「私、そんなにチビじゃない」
小柄で愛されキャラらしいカワクロは、周りから小動物らしいと言われることが少なくないのか。
どうやらハクは地雷を踏んだらしい。
「最高だ、かわかわ。ずるいぞヒウタ。俺もこんなにもかわいい先輩と仲良くしたい」
「は? ぜ、絶対嫌ですけど」
弱々しい声でカワクロは言う。
腕章のない方で涙を拭うと、再び髪がぼさぼさの男を引く。
「何してるんですか、カワクロさん。実行委員の活動は分かるんですけど」
「社会研究会の部長であるキクラさん。今から部室を見るなの。二次元のイラストや漫画、自作イラストを抱えている。そのなかには」
「芸術にはいろんな形がある。表現と芸術のために権力に屈しない、それが正義なのだよ」
髪がぼさぼさの男、もといキクラはようやく個室スペースから姿を現した。するとさっきまで引っ張っていたカワクロは勢い余って尻餅をつく。
「大丈夫ですか?」
「そう見えるなの? 手伝ってヒウタ。あと鼻伸ばしくそダサ男」
「……あ、ハクのことか」
「ん? 鼻伸ばし?」
「らしい」
「もっと罵ってくれ」
ハクという男は繊細だと思ってしまったが、よくよく考えれば下品だとして周りから避けられるような男だった。
「カッカッカ。俺の勝ちだ。名はなんという?」
「山吹刃玖。俺はキクラさんの弟子になります!」
「任せた。同胞よ、こやつらに負けるな」
二対二になってしまった。
ヒウタはハクに、こういうところであちら側に付いてしまうところだぞと言ってやりたい。血眼になるハクとキクラを説得するのは難しそうだ。
「俺の勝ち、君は合鍵を持っていない。つまり実行委員会の権力の一部しかない。そこに無理やり部室に入るというのは含まれていないだろう」
「くっ」
カワクロはキクラを連れ出そうとするが、ハクがキクラの前に立っていて難しい。そもそもキクラの体格は体育会系で文化系サークルには見えない。
拮抗状態、しかし追い詰められているのはカワクロ側だ。キクラは時間経過を持てばいいだけである。
「カワクロさん、本当のことを言いましょう」
ヒウタが三人に聞こえる声で言う。
カワクロは首を傾げた。それもそのはず、今の発言はハクとキクラに聞かせるためだ。
先ほどの発言、カワクロとキクラの仲はほとんどないと見た。ならばいける。
「カワクロさんはそういうのが実は好きで周りには隠しているんですけど。実行委員として情報を得ただけで、キクラさんに会いに来たのは個人的な理由というか趣味趣向というか。カワクロさん、キクラさんのものを物色したいだけですよ。ほら、そういう世界って女性にとっては表にしにくいと思うので。実行委員の幹部としては周りにバレるわけにはいかないと思います」
キクラはうんうんと頷く。腕を組んで目を閉じながら。
ハクはカワクロをじっと見ていた。
カワクロは眉をひそめる。
「分かった。そういうことなら来い。カワクロさんだな、俺の力を見せてやる」
キクラは個室スペースに積んでいた十数冊の分厚い本を持ち上げる。
あまりに軽々と持っていたため、カワクロが物理的にキクラを引っ張るのは不可能だっただろう。よく見ると筋肉質だった。ぼさぼさの髪もあって野生児感が強い。
「僕も手伝いますよ、片付けるの。ハクも頼む」
「ああ」
「ん? 私も?」
「多少は」
ヒウタが言うとカワクロはムスッと頬を膨らませる。
ハクがキラキラした目でカワクロを見ると、視線を感じたのかカワクロはビクッと身体を震わせて大事そうに自身を抱き締めるように縮こまる。
「一冊なの。もう疲れた」
「分かりましたよ、カワクロさん」
本は広い分野で借りていて、それぞれの本を返す棚やフロアが分かれてしまった。
ヒウタは重いものをあまり持ちたくないと言うカワクロのために、多めに本を抱えていた。
ハクやキクラには声が届かない距離だ。
「どうやって部室へ入れるようになったの?」
「カワクロさんがそういうのが好きってことにしました。たくさん紹介されると思うので、後の処遇はそれから考えてください。それとハクとキクラさんの雰囲気から分かるようにそういうのを宝物って呼ぶ人もいるので。加減しろというわけではありませんが、粗末に扱うのはやめておいた方がいいと思います」
「そっか。私がそういうの好きと思われてるのは一生の不覚。ヒウタは好きなの?」
「嫌いではないですよ」
「無責任なの」
「けど、ルールは守るべきなので。悪法でない限りは」
カワクロは必死に踵を上げて背を伸ばす。ヒウタは本を受け取って上の棚に置いた。
「私は好きなものを否定される痛みも、周りとは違うことで排斥される痛みも知っている。妹のコウミたんも苦しんできた。だから最小限の処置だけして見逃したい」
カワクロは手を合わせて、人差し指をくるくると回す。
ヒウタは微笑ましいと思ってしまった。
つまりこの大学祭実行委員会の幹部様は、キクラに重い罰が下されないように、独断でキクラに話を付けようとしていたわけだ。
「私はいっぱい食べないと痩せ細ってしまう体質なの。コウミたんは病弱体質で学校行けなくなってそのまま高校は中退。それから家庭教師を雇ってこの大学に来た。シュイロさんがヒウタを頼るのもすごい分かるなの。私たち姉妹は救われてしまったから。戻ろうか、こういう話は私に似合わないなの」
カワクロは和らいだ表情で言う。その小さな背中はそれでも大きく見えた。
「カワクロさん」
「ん?」
「コウミさんはカワクロさんのことが大好きです。シュイロさんもカワクロさんが大好きです」
「だろうね」
カワクロは足早に進んでいく。ヒウタはその後ろを付いていった。
軽やかな足取り。
こうして、部室へ行くことになった。
が問題はここからである。
カワクロは腕章を見せる。
そこには『大学祭実行委員会』の文字が。
どうやらカワクロは大学祭実行委員の活動として、髪がぼさぼさの男を引っ張っているらしい。
「この人が救世主!」
ハクは過去問を回してくれたカワクロに両手を合わせる。
「名前はカワクロさん。名字は琴春」
「……小動物みたいでかわいい!」
ハクが言うと、カワクロの肩が一瞬震えた。そしてさらに肩を震わせながら振り返る。カワクロは耳を赤くして、涙を溜めていた。
「私、そんなにチビじゃない」
小柄で愛されキャラらしいカワクロは、周りから小動物らしいと言われることが少なくないのか。
どうやらハクは地雷を踏んだらしい。
「最高だ、かわかわ。ずるいぞヒウタ。俺もこんなにもかわいい先輩と仲良くしたい」
「は? ぜ、絶対嫌ですけど」
弱々しい声でカワクロは言う。
腕章のない方で涙を拭うと、再び髪がぼさぼさの男を引く。
「何してるんですか、カワクロさん。実行委員の活動は分かるんですけど」
「社会研究会の部長であるキクラさん。今から部室を見るなの。二次元のイラストや漫画、自作イラストを抱えている。そのなかには」
「芸術にはいろんな形がある。表現と芸術のために権力に屈しない、それが正義なのだよ」
髪がぼさぼさの男、もといキクラはようやく個室スペースから姿を現した。するとさっきまで引っ張っていたカワクロは勢い余って尻餅をつく。
「大丈夫ですか?」
「そう見えるなの? 手伝ってヒウタ。あと鼻伸ばしくそダサ男」
「……あ、ハクのことか」
「ん? 鼻伸ばし?」
「らしい」
「もっと罵ってくれ」
ハクという男は繊細だと思ってしまったが、よくよく考えれば下品だとして周りから避けられるような男だった。
「カッカッカ。俺の勝ちだ。名はなんという?」
「山吹刃玖。俺はキクラさんの弟子になります!」
「任せた。同胞よ、こやつらに負けるな」
二対二になってしまった。
ヒウタはハクに、こういうところであちら側に付いてしまうところだぞと言ってやりたい。血眼になるハクとキクラを説得するのは難しそうだ。
「俺の勝ち、君は合鍵を持っていない。つまり実行委員会の権力の一部しかない。そこに無理やり部室に入るというのは含まれていないだろう」
「くっ」
カワクロはキクラを連れ出そうとするが、ハクがキクラの前に立っていて難しい。そもそもキクラの体格は体育会系で文化系サークルには見えない。
拮抗状態、しかし追い詰められているのはカワクロ側だ。キクラは時間経過を持てばいいだけである。
「カワクロさん、本当のことを言いましょう」
ヒウタが三人に聞こえる声で言う。
カワクロは首を傾げた。それもそのはず、今の発言はハクとキクラに聞かせるためだ。
先ほどの発言、カワクロとキクラの仲はほとんどないと見た。ならばいける。
「カワクロさんはそういうのが実は好きで周りには隠しているんですけど。実行委員として情報を得ただけで、キクラさんに会いに来たのは個人的な理由というか趣味趣向というか。カワクロさん、キクラさんのものを物色したいだけですよ。ほら、そういう世界って女性にとっては表にしにくいと思うので。実行委員の幹部としては周りにバレるわけにはいかないと思います」
キクラはうんうんと頷く。腕を組んで目を閉じながら。
ハクはカワクロをじっと見ていた。
カワクロは眉をひそめる。
「分かった。そういうことなら来い。カワクロさんだな、俺の力を見せてやる」
キクラは個室スペースに積んでいた十数冊の分厚い本を持ち上げる。
あまりに軽々と持っていたため、カワクロが物理的にキクラを引っ張るのは不可能だっただろう。よく見ると筋肉質だった。ぼさぼさの髪もあって野生児感が強い。
「僕も手伝いますよ、片付けるの。ハクも頼む」
「ああ」
「ん? 私も?」
「多少は」
ヒウタが言うとカワクロはムスッと頬を膨らませる。
ハクがキラキラした目でカワクロを見ると、視線を感じたのかカワクロはビクッと身体を震わせて大事そうに自身を抱き締めるように縮こまる。
「一冊なの。もう疲れた」
「分かりましたよ、カワクロさん」
本は広い分野で借りていて、それぞれの本を返す棚やフロアが分かれてしまった。
ヒウタは重いものをあまり持ちたくないと言うカワクロのために、多めに本を抱えていた。
ハクやキクラには声が届かない距離だ。
「どうやって部室へ入れるようになったの?」
「カワクロさんがそういうのが好きってことにしました。たくさん紹介されると思うので、後の処遇はそれから考えてください。それとハクとキクラさんの雰囲気から分かるようにそういうのを宝物って呼ぶ人もいるので。加減しろというわけではありませんが、粗末に扱うのはやめておいた方がいいと思います」
「そっか。私がそういうの好きと思われてるのは一生の不覚。ヒウタは好きなの?」
「嫌いではないですよ」
「無責任なの」
「けど、ルールは守るべきなので。悪法でない限りは」
カワクロは必死に踵を上げて背を伸ばす。ヒウタは本を受け取って上の棚に置いた。
「私は好きなものを否定される痛みも、周りとは違うことで排斥される痛みも知っている。妹のコウミたんも苦しんできた。だから最小限の処置だけして見逃したい」
カワクロは手を合わせて、人差し指をくるくると回す。
ヒウタは微笑ましいと思ってしまった。
つまりこの大学祭実行委員会の幹部様は、キクラに重い罰が下されないように、独断でキクラに話を付けようとしていたわけだ。
「私はいっぱい食べないと痩せ細ってしまう体質なの。コウミたんは病弱体質で学校行けなくなってそのまま高校は中退。それから家庭教師を雇ってこの大学に来た。シュイロさんがヒウタを頼るのもすごい分かるなの。私たち姉妹は救われてしまったから。戻ろうか、こういう話は私に似合わないなの」
カワクロは和らいだ表情で言う。その小さな背中はそれでも大きく見えた。
「カワクロさん」
「ん?」
「コウミさんはカワクロさんのことが大好きです。シュイロさんもカワクロさんが大好きです」
「だろうね」
カワクロは足早に進んでいく。ヒウタはその後ろを付いていった。
軽やかな足取り。
こうして、部室へ行くことになった。
が問題はここからである。
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