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8章 魅了少女が不安すぎる!『前期』90~108話
その5 ヒウタと大学生活
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「估志世さん、過去問持っているって本当ですか?」
教室で。ヒウタは講義終わりに同学科の女性グループに話しかけられていた。
次の時間は講義がない空きコマであるため、要求された小テストの過去問を渡すことはできる。できるのだが、友人のハクが廊下から窺うように何度もヒウタを見てくる。
「あるけど」
ヒウタは女性の目を見る。試しにタメ口を使ってみたがどうだろうか?
女性は気にしない様子でスマホをヒウタに向ける。
「はい、連絡先交換ね。そこでもらうから。あ、そういえば估志世さん一味って学科のグループ入ってないよね?」
気が付きましたみたいに、あたかも頭の上の電球が光ったように言う。
だがヒウタは分かる。確信していたからこそ、わざわざ講義終わりにヒウタを捕まえたのだろうと。メッセージアプリのグループ機能ではメンバーに関する操作をいくつかできる。その中に連絡先の取得もある。つまり、分かっている発言だ。
とはいえ気にしても仕方がないけど。
「分かった。過去問渡すよ、あるだけ」
ヒウタは持っている過去問のすべてを渡す気はない。
トラブルを生まないための都合のいい言葉である。
「あざっす。じゃあ、估志世さん。それと廊下からじろじろ見てくるのって山吹さんだっけ? 変な組織作ってるのやめてほしい。気持ち悪いし。言っといてよろしく」
女性のグループは教室から出ていった。
ヒウタは廊下で待っていた友人のハクに合流する。
「女の子と幸せそうだったな。ヒウタ、充実オーラが出てきたぞ。前期は俺と同じ負け組だったのによ」
「いつものメンバーと夏休みに喧嘩してから落ち込みすぎてる。って泣くな、俺は夏休み予定が合わなかったし何があったか分からないけど」
ハクの足取りが重い。
食堂へ行くつもりだったが、そもそもハクが食べられるのか分からなかった。
「いや、ちょっとずつずれていって。喧嘩だって突発的なものじゃなくて溜りに溜まったものだろうな。非モテ協会は既にない。彼女ほしくて集まったときにナンパしてたら警察呼ばれそうになって。少し話しかけたつもりだったけど。それで大喧嘩になって」
「マッチングアプリはどうした?」
「いや仮登録から進んでないな」
「ナンパは規制が進んでいるから。実際女性からすれば怖いものだからな」
「それもそうだな。馬鹿なことした」
「反省してもうやらないなら、後は次へ行動を移すだけだ」
ハクは元気がない。大学が始まると既に病んでいたが、日に日に弱っていく気がする。
「ハク。仲直りはできないのか?」
ハクは頷く。糸に操られながら動く人形のような生気のなさと強制される感覚があった。ハクが仲直りしたくないというわけではないだろう。当事者ではない以上、ヒウタにできることは少ない。
「分かった。仲直りしたいのか?」
「もし可能なら。けど今は無理だろうな」
「そっか、分かった。ハク、今度大学祭に行かないか? それとできれば仮面舞踏会。仮面舞踏会は紹介したマッチングアプリの対面イベントの一つだけど」
「どうだろうな。なあ、ヒウタ。俺はヒウタに悪いことしたよな」
売店に着いた。ハクは店の前で待たせる。ヒウタは二人分のお握りセットを買った。
「さっきの言葉だけど、楽しかったって思ってるよ。あ、縛られるのが好きとか痛めつけられるのが好きとかではないけど。馬鹿やるのは実に楽しかった」
「そうなのか」
「非モテ協会で同学科の女性陣やウェイ系には距離置かれていたけど。今過去問とか不足しているらしいし、十分に持っている俺たちの勝ちだ」
「俺たちってヒウタの力だろ?」
「俺と仲良くしてくれる人って多くはないからな。仲良くしてくれることを選んだハクは勝ちって言ってもいい」
「ありがとな。本当に良いやつだ」
建物の外にある木製のテーブルに座る。
弁当の蓋を開けた。ヒウタは割り箸を一膳ハクに渡す。
「これから実験レポート用に図書館へ行くぞ。ハク、時間あるか?」
「独り身ゆえ」
「どんな返答だよ」
「ヒウタ、これからも遠慮しなくていいか?」
「遠慮はしろ」
ヒウタは笑って言う。
「だよな」
やけに聞き取りやすい声。それが騒がしいハクに似合わないものであることをヒウタは分かっている。
「本当に疲れてるみたいだな。俺は強盗されないか殺されない限りはハクの敵にはならない」
「泣かすなよ」
ハクはお握りを口に突っ込んでリスのように頬を膨らませる。涙が頬骨辺りに溜まっていく。
ヒウタはティッシュをハクに渡すと意外そうな表情をした。ティッシュを用意しているだけでそんなにも驚くのだろうか?
妹のアメユキがハンカチやティッシュをすぐに出せる男はモテると言っていたために、ヒウタは常に準備している。だがアメユキと出掛けたときに実際に渡すと驚かれるのだ。
「泣くなよ」
「男泣きだ」
「今はジェンダー平等の時代だ。男泣きも女泣きもあるものか。いや涙を否定してるわけではないからな」
「そうだな。俺、これからどうしようか。恋人もくそもまずは友達作りからだな」
「サークルでも入るか?」
「ありだな、案外」
食事を終える。ヒウタとハクは近くのゴミ箱に弁当の容器を捨てる。
ヒウタはハクの背筋が伸びたことを確認した。
「どうしたじっと見て。もしかしてアメユキちゃんを?」
「紹介するか。不審者なんだよ」
「なんてことを。友達いなくなって病んでる期間なのに」
「アメユキは諦めろ。そもそもあいつは恋愛する気がないだけでモテる。同じ親から生まれてるとは思えないほどの出来だからな。性格は似てるって親や親戚には言われるけど」
「それは相当モテるな」
「なんだよ、それ。けど外見の出来は圧倒的だ。あいつはモテる。紹介する余地なんてないし、年齢が大きく離れてて良かった。比べられるようなことはないし。ただのかわいい妹で済んでる」
図書館に入る。
階段を上って工学の専門書を探す。いくつか見つけて作業スペースを探していると、個室スペースのような席で知り合いの姿を見つけてしまった。
……小柄な少女が、髪がぼさぼさの長髪の男を引っ張っている。
「ヒウタ?」
「目の前で知り合いがいる」
「女の子?」
「あれ学科は違うが先輩で、過去問くれる人。どうする? 帰るか」
ヒウタがハクに訴える。しかしハクが反応する前に小柄な少女と目が合った。
「ヒウタ手伝って!」
カワクロが必死に男を引っ張る。
手伝う?
ヒウタは逃げたかったが、カワクロに話したいこともある。
溜め息を一つ。
教室で。ヒウタは講義終わりに同学科の女性グループに話しかけられていた。
次の時間は講義がない空きコマであるため、要求された小テストの過去問を渡すことはできる。できるのだが、友人のハクが廊下から窺うように何度もヒウタを見てくる。
「あるけど」
ヒウタは女性の目を見る。試しにタメ口を使ってみたがどうだろうか?
女性は気にしない様子でスマホをヒウタに向ける。
「はい、連絡先交換ね。そこでもらうから。あ、そういえば估志世さん一味って学科のグループ入ってないよね?」
気が付きましたみたいに、あたかも頭の上の電球が光ったように言う。
だがヒウタは分かる。確信していたからこそ、わざわざ講義終わりにヒウタを捕まえたのだろうと。メッセージアプリのグループ機能ではメンバーに関する操作をいくつかできる。その中に連絡先の取得もある。つまり、分かっている発言だ。
とはいえ気にしても仕方がないけど。
「分かった。過去問渡すよ、あるだけ」
ヒウタは持っている過去問のすべてを渡す気はない。
トラブルを生まないための都合のいい言葉である。
「あざっす。じゃあ、估志世さん。それと廊下からじろじろ見てくるのって山吹さんだっけ? 変な組織作ってるのやめてほしい。気持ち悪いし。言っといてよろしく」
女性のグループは教室から出ていった。
ヒウタは廊下で待っていた友人のハクに合流する。
「女の子と幸せそうだったな。ヒウタ、充実オーラが出てきたぞ。前期は俺と同じ負け組だったのによ」
「いつものメンバーと夏休みに喧嘩してから落ち込みすぎてる。って泣くな、俺は夏休み予定が合わなかったし何があったか分からないけど」
ハクの足取りが重い。
食堂へ行くつもりだったが、そもそもハクが食べられるのか分からなかった。
「いや、ちょっとずつずれていって。喧嘩だって突発的なものじゃなくて溜りに溜まったものだろうな。非モテ協会は既にない。彼女ほしくて集まったときにナンパしてたら警察呼ばれそうになって。少し話しかけたつもりだったけど。それで大喧嘩になって」
「マッチングアプリはどうした?」
「いや仮登録から進んでないな」
「ナンパは規制が進んでいるから。実際女性からすれば怖いものだからな」
「それもそうだな。馬鹿なことした」
「反省してもうやらないなら、後は次へ行動を移すだけだ」
ハクは元気がない。大学が始まると既に病んでいたが、日に日に弱っていく気がする。
「ハク。仲直りはできないのか?」
ハクは頷く。糸に操られながら動く人形のような生気のなさと強制される感覚があった。ハクが仲直りしたくないというわけではないだろう。当事者ではない以上、ヒウタにできることは少ない。
「分かった。仲直りしたいのか?」
「もし可能なら。けど今は無理だろうな」
「そっか、分かった。ハク、今度大学祭に行かないか? それとできれば仮面舞踏会。仮面舞踏会は紹介したマッチングアプリの対面イベントの一つだけど」
「どうだろうな。なあ、ヒウタ。俺はヒウタに悪いことしたよな」
売店に着いた。ハクは店の前で待たせる。ヒウタは二人分のお握りセットを買った。
「さっきの言葉だけど、楽しかったって思ってるよ。あ、縛られるのが好きとか痛めつけられるのが好きとかではないけど。馬鹿やるのは実に楽しかった」
「そうなのか」
「非モテ協会で同学科の女性陣やウェイ系には距離置かれていたけど。今過去問とか不足しているらしいし、十分に持っている俺たちの勝ちだ」
「俺たちってヒウタの力だろ?」
「俺と仲良くしてくれる人って多くはないからな。仲良くしてくれることを選んだハクは勝ちって言ってもいい」
「ありがとな。本当に良いやつだ」
建物の外にある木製のテーブルに座る。
弁当の蓋を開けた。ヒウタは割り箸を一膳ハクに渡す。
「これから実験レポート用に図書館へ行くぞ。ハク、時間あるか?」
「独り身ゆえ」
「どんな返答だよ」
「ヒウタ、これからも遠慮しなくていいか?」
「遠慮はしろ」
ヒウタは笑って言う。
「だよな」
やけに聞き取りやすい声。それが騒がしいハクに似合わないものであることをヒウタは分かっている。
「本当に疲れてるみたいだな。俺は強盗されないか殺されない限りはハクの敵にはならない」
「泣かすなよ」
ハクはお握りを口に突っ込んでリスのように頬を膨らませる。涙が頬骨辺りに溜まっていく。
ヒウタはティッシュをハクに渡すと意外そうな表情をした。ティッシュを用意しているだけでそんなにも驚くのだろうか?
妹のアメユキがハンカチやティッシュをすぐに出せる男はモテると言っていたために、ヒウタは常に準備している。だがアメユキと出掛けたときに実際に渡すと驚かれるのだ。
「泣くなよ」
「男泣きだ」
「今はジェンダー平等の時代だ。男泣きも女泣きもあるものか。いや涙を否定してるわけではないからな」
「そうだな。俺、これからどうしようか。恋人もくそもまずは友達作りからだな」
「サークルでも入るか?」
「ありだな、案外」
食事を終える。ヒウタとハクは近くのゴミ箱に弁当の容器を捨てる。
ヒウタはハクの背筋が伸びたことを確認した。
「どうしたじっと見て。もしかしてアメユキちゃんを?」
「紹介するか。不審者なんだよ」
「なんてことを。友達いなくなって病んでる期間なのに」
「アメユキは諦めろ。そもそもあいつは恋愛する気がないだけでモテる。同じ親から生まれてるとは思えないほどの出来だからな。性格は似てるって親や親戚には言われるけど」
「それは相当モテるな」
「なんだよ、それ。けど外見の出来は圧倒的だ。あいつはモテる。紹介する余地なんてないし、年齢が大きく離れてて良かった。比べられるようなことはないし。ただのかわいい妹で済んでる」
図書館に入る。
階段を上って工学の専門書を探す。いくつか見つけて作業スペースを探していると、個室スペースのような席で知り合いの姿を見つけてしまった。
……小柄な少女が、髪がぼさぼさの長髪の男を引っ張っている。
「ヒウタ?」
「目の前で知り合いがいる」
「女の子?」
「あれ学科は違うが先輩で、過去問くれる人。どうする? 帰るか」
ヒウタがハクに訴える。しかしハクが反応する前に小柄な少女と目が合った。
「ヒウタ手伝って!」
カワクロが必死に男を引っ張る。
手伝う?
ヒウタは逃げたかったが、カワクロに話したいこともある。
溜め息を一つ。
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