規約違反少女がマッチングアプリで無法すぎる!

アメノヒセカイ

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7章 のんびり少女が悠長すぎる!67~89話

その19 ヒウタと運ちゃん

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「逃げてたら倒壊が早まる」
 ヒウタたちは大鎌を振るう男バブルから必死に逃げていた。
「見てみて、あの構えは違うよ。バブルって男は賢いらしい」
 ヒウタは運ちゃんの言葉を聞いて振り向く。
 バブルは鎌を両手で握って片足立ちをした。それからハンマー投げのように回しながら加速する。
「あら怖い」
「あれまずくないですか、ほら」
 鎌が回転しながらヒウタに迫る。
「お辞儀しな、じゃないと首から上がなくなる。モテないぞ!」
「それってどういうテンションですか!」
 ヒウタは屈んだ。
 すると鎌は進行方向を変えてバブルの手元に戻る。
「壁や天井に一度も当たっていない。倒壊を避けながらあたしたちを殺すつもりだ。プロ魂」
「何を感心してるんですか」
 ヒウタは銃をバブルに向ける。
「たぶん数発では倒せないよ。だから屋上に行く。理由はいくつかあるけど、説明する時間はないかな」
「分かりました」
「ではリアルアクションゲームの時間です。一度でも操作を間違えたらゲームオーバーの残基なしアクションなので真面目にプレイしてね! てへ」
「笑うな! 死にたくないから」
 鎌が飛んでくる。
「ジャンプ」
 ヒウタは血眼になって飛ぶ。
「ダッシュして屈む」
 ヒウタの髪が短くなった。
 舞う髪の毛。あと少し反応が遅れたら。
「やっぱ死ぬじゃないか」
「そういう旅だったけど。殺人鬼からひたすら逃げるのって憧れない?」
「全く、髪の毛一本ほども」
「最近髪切ってなかったでしょ? 良かったかもね、切ってもらえて」
「首もカットされそうですけど?」
「またまた面白いボケだね」
「現実だよ」
 階段を上る。
 あと一つ上れば屋上だ。
「はい、ヒウタくん油断した!」
 運ちゃんはいつの間にか剣のように長い金属棒を持っていた。ヒウタを強く飛ばす。
「急に何する、……」
 鎌が壁に刺さっていて、運ちゃんは床に倒れていた。手元に金属棒。
「あたし。駄目かも」
 バブルはゆっくりと運ちゃんに近づく。
 ヒウタは銃を撃った。
 しかしバブルは鏡を取り出す。
 高出力の光はヒウタの腿を撃ち抜いた。
 動けない、……。
 ヒウタは激痛で倒れ込んでしまう。
 バブルはヒウタの首を掴む。
「くっ」
 ヒウタは暴言を吐こうとしたが声にならない。
 足を前に動かしてバブルを蹴ろうとするが届かない。
 ヒウタは苦しさで手から力が抜けた。
 そこに握る力は残っていない。
 バブルはヒウタのバッグを片手で破る。
 そこにあった高出力銃を手にしてヒウタの耳に当てる。
「まずは一匹」
 引き金を引こうとしたそのときだった。
 男は引き飛んで床に打ちつけられる。
「俺は負けるわけにはいかないからさ」
 ヒウタとバブルの前に金属の壁が現れる。
 折り畳み式の壁。地下の要塞で炎に追われたときに使ったものだ。
「お前の力ならこっちに来られるだろう。でも大鎌は俺たちのところにある。この隔てられた壁、大鎌を回収できない状況。屋上で待ってるよ、バブル。俺たちはお前に勝てなかった、戦い屋として誇っておけ。そして、リーダーがボロボロに負けるのをそこで後悔してろ」
 ヒウタは床に倒れた運ちゃんを起き上がらせる。
 一応大鎌を壁から抜こうとしたがあまりの重さに諦めた。
 廊下を進む。階段を上って扉に立つ。ドアノブを捻るが動かない。ヒウタは銃を撃って無理やり開けた。
 そこには、白色のタキシード姿の男と銃を向けるトアオ、床に転がる大人が丸まったよりも大きい真っ赤な球体があった。
「いやあ、観客が多くなってしまったね。我々の勝ちはなくなった気がするよ」
 タキシード姿の男は木製の椅子に座って足を組む。
「私たちの邪魔」
 トアオが睨む。
「ああ、観客が来たのに紹介が送れたね。我はドゥンケル・ハイト」
 運ちゃんも銃を向けた。
「幼稚だな。だがそれを人に押し付ける時点でただのクソだ、反吐が出る」
「あー、そういうことね。大丈夫、我は負けたって分かってるからさ。そんなに睨まないでよ、怒らないでよ。それにね、我は頑張ったな。あとは君と最期までいたい、お嫁さんになってよ、ムギシナトアオ」
 トアオが撃った。
 しかしぐらついて外してしまう。
 視界が大きく傾く。
 そしてようやく天才は気づいた。
「くそ!」
 運ちゃんがハイトの胸を撃つ。
 ヒウタは急いで飛んだ。
 ヒウタはトアオを、トアオはヒウタを見る。
 あ、死んだか? ヒウタはそれでも笑ってしまう。
 トアオはヒウタに手を伸ばす。
 崩れて落ちていくトアオ、そこに自ら飛んだヒウタ。
 それは出会いに似ている、トアオは思う。
 あのときだってヒウタはトアオを探してくれた。そして二人は出会った。
 運が良かった、それに互いが互いとの出会いを望んでいた気がした。
 ヒウタはトアオに手を伸ばす。
 風の中でトアオを抱き締めた。
 どうか、せめてこの人を。この人を独りにしないでください。
 もしここで死んだとしても、この死と引き換えに助けてください。
 トアオは笑った。
「私たちは生きてる」
 落下する二人。
 ヒウタが目を閉じる。
 トアオはヒウタの頭を撫でた。
「見て」
 トアオの穏やかな声を聞いてヒウタは目を開けた。
 ふわふわと浮いていることに気づく。
 ヒウタが背負っていたバッグからパラシュートが広がっていた。
「どうして?」
「ヒウタさんも運ちゃんもちゃんと守ってほしいから。まさか私が助けられるなんて。ヒウタさん、助けてくれてありがとう」
 地面に着いた。
「さあ、全部終わらせよう。あとはハイトの組織の壊滅。それで勝利条件をすべて満たせる」
 トアオはヒウタのバグから銃を取り出した。
「トアオさん、パラシュートどこにあったんですか? バッグ途中で破れてしまって」
「ほら?」
 バッグにあるポケットから膨らみかけたパラシュートが見えた。
 つまりあらゆるところに仕込まれていて、一番うまく開ける箇所が使用されるらしい。
 トアオの考えはよく分からない。
「サスケさんも来てくれて。そろそろ完成かも、『ふぉーている』は」
 屋上が光を放つ。
 光が消えた。
「あ、来た」
 トアオが言う。
 屋上から一人の少女が下りてきた。
 ピンク色のツイン団子ヘア、白いワンピース姿で、すべてを見透かすような青い目。その神秘的な姿に一瞬声を忘れそうだった。
「ようやく話せますね? 私が『ふぉーている』。ご主人様、何でも命令してください。この最強人工知能『ふぉーている』、人間ではないので法律の適用外です」
 一音ずつ丁寧に話すところやアクセントが少し平坦であるところが機械らしさを残すが、姿は完全に人間だった。
「トアオさん、世界征服するんですか?」
「さて」
 トアオは笑う。




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