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7章 のんびり少女が悠長すぎる!67~89話
その18 ヒウタと作戦A
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「ダウジングとサスケさんの情報、『ふぉーている』の力で辿り着いたのは、……」
ヒウタが車を降りて見上げる。
窓は無数にある。ただ一部は割れてしまっていた。壁は薄橙色が剥がれて灰色が出てしまった。黒く派生していくように広がるのはひびだろうか?
視線を下ろすとそこは小さな砂漠のようにも思われた。一面が砂に覆われている。遠くを見るとサッカーのゴールや目立つ白色の倉庫が広がっていた。腐った木、枯れてもなお地面にしがみつく草がここにあった記憶を見せる。
ヒウタはその場所を見て何のための場所かはすぐに分かる。しかし、屋上から吊るされた布切れはその場所に似合わない。
「廃校?」
ヒウタが言うと、情報屋のサスケは頭を掻く。運転席から降りた運ちゃんは圧倒的な大きさの建物とその残酷な様子に息を飲んだ。
「正確には廃校になったものをとある企業が買い取りましたが、企業は倒産。予算が足りずに壊すこともできず、最終的には立ち入り禁止に。これ以上は場所を絞れませんか?」
「うーん、あたしには無理だね。手探りで行こうか」
運ちゃんはダウジングに使っていた金属棒をバッグにしまった。代わりにヘルメットをする。それから武器をいくつか持って。
三人と空飛ぶ人工知能『ふぉーている』は廃校の中を調べることにした。
「ところで朝、どうしたんですか? 俺ちゃんは別の部屋だったので。まあ今日の戦いに問題がなければいいでしょう」
大男のサスケは屈みながら進む。
中はたまにガラス片や電灯から電線が垂れている程度で足場の悪さは感じない。
「「ぎくっ」」
運ちゃんとヒウタは身体を震わせた。
サスケは化学実験室を見つけると、『ふぉーている』の探知を使う。
「ないなら進みましょう。薬品はないと思いますが危険があるかもしれないので」
「そ、そうですね。あはははは」
運ちゃんは苦笑い。
ヒウタは分かりやすく運ちゃんから視線を反らす。
「見つかりません。教室は軽く探したと思いますが。図書室や音楽室、職員室。手間ですね」
「でも絞れてるので」
「うーん、後は体育館か外?」
「埋まってるみたいなことですか? ラジコンみたいに」
「その通りですねって、時間切れ」
体育館に行くと、黒い服の集団がいた。
銃を向けられている。
サスケが手を上げると、ヒウタたちもそれに従う。
冷汗が背中を流れた。
「捕まえたな、ひゃはは」
男が笑う。
そして腹から血を流して倒れた。
男たちが的をサスケに合わせようとするが、先に撃ち抜かれる。
その様子を理解しきれなかったヒウタはぼうっと立ってしまった。
「ヒウタくん!」
「ごめん、なさい!」
運ちゃんの手に引かれて体育館から逃げる。
外を見渡すと黒服の男たちが建物や腐った木に隠れているのが見えた。
ヒウタたちは一度建物の陰へ。
「サスケさんは?」
「負けないだろうね。これで第一段階クリアって言いたいところだけど、どうやら最後のパーツは取られちゃったみたいだね」
「どうしてそれを?」
「ほら」
クリオネ型の宙に浮くメカ。バッグから手袋を取り出す。着けると空間に画面が現れた。
『屋上に発見しました。急いで向かってください。そこにご主人様もいます』
表示される文字。運ちゃんはヒウタの背中を叩いた。
「さあ、ヒウタくん最後の頑張りだよ。囚われの姫を救おう。昨日、言ってたでしょ。自信なんてなくてもそれが普通だから。最強の世話焼き、マッチングした程度で命懸けの旅にやって来た。いつだって君はヒーローになりたかった。あたしたちの友達を助ける」
「ああ」
ヒウタは銃を手に取った。
一直線を焼き尽くして溶かす高出力銃。
「あたしが道を開く。勝利条件は『ふぉーている』がご主人様のトアオちゃんまで、屋上まで辿り着くこと」
「分かった」
ヒウタたちは割れた窓から忍ぶように建物へ。
階段を上がると黒い服の男がいる。
「あたしは運だけはいいから」
運ちゃんが天井を撃つと、剥がれて男の頭を打つ。
男はそれでも立っていたが、気づいたときには上から瓦礫が降ってきた。
「はい、次」
「本当に運ですか?」
「見てみたらもしかしたらって。それも含めて運なんだよ」
それを聞いて、ダウジングで必要なパーツを探していた理由が分かった気がした。
ヒウタたちはさらに階段を駆ける。
黒服の人たちを次々と倒す。
「あちゃ、ここまでか」
「運ちゃんさん? その血、まさか」
運ちゃんは体中に血が滲んでいて、腹部は特に多かった。
「あ、全部返り血かな。あはははは、心配しすぎ。でもね、心配しすぎることはない。あれは強いよ」
埃の舞う廊下に大鎌を片手で振り回す男がいた。
塵埃は男が壁や天井を破壊したときに生じたものらしい。
いかにも殺人鬼のようで、ぶくぶくと身体中に泡のような脂肪を溜めている。大男のサスケよりも頭までの高さは高く、膨れた手足は恐竜のようだった。
「組織、副リーダー兼戦闘担当。戦い屋、バブル。一人もここを通すな、とのこと。リーダーはこのあと結婚式を控えている。二人の力があれば世界征服も時間の問題。つまり鏡をきっかけに世界は俺たちのものになる」
声が聞いた者の耳を打ちつける。
ヒウタは銃を男に放った。男は鎌を振ると感心した。鎌の刃に穴が空いている。寒気がしてヒウタは一歩下がった。
「軌道をずらしてなんとか耐えられる。問題なのは光由来の高エネルギーであること。埃を立てればその威力は大幅に下がる。ネズミどもここまでだ」
バブルと名乗った男は暴れるように鎌を振る。
轟音を立てる。
砂のような塵と埃が視界を悪くする。
「ヒウタくん、ごめん!」
運ちゃん床を連射した。瞬間足場が消えて、砕け落ちていくのだと認識できる。
身体を瓦礫に打った。
「運ちゃんさん!」
「痛いな。今ので勝利条件の一つはクリアかな。ラストは、生き残ること」
「クリア?」
「あたしの作戦通りかな。一番強い人を配置して、さらに油断もして。ここはネズミを通さないつもりでいるかもしれないけど、ここを越えたらがら空き。馬鹿なロマンチストだね」
「どういう意味ですか?」
「『ふぉーている』はトアオに出会う。鬼ごっこは得意?」
そのとき、ヒウタは眉を細めた。
……違和感?
これってもしかして。
ヒウタは運ちゃんの手を取って走り出す。
「ここは脆すぎる。そして大鎌を振るう、何も考えていないような男。にしては一瞬で高出力銃の話を始めた。誘導してる、そんな違和感」
「信じる。つまりあたしたちは変わらずトアオちゃんを助けるため屋上を目指す」
「お願いします。この建物を壊す気でいる。もし『ふぉーている』が最終形態になっても建物の崩壊を防ぐかと言われれば分からない」
「無理だろうね。ただ、バブルだっけ? あれから逃げながらかな」
ドンと音がした。
目の前に立つ大鎌の男。
その刃先は銀色に光ってヒウタに向く。
ヒウタが車を降りて見上げる。
窓は無数にある。ただ一部は割れてしまっていた。壁は薄橙色が剥がれて灰色が出てしまった。黒く派生していくように広がるのはひびだろうか?
視線を下ろすとそこは小さな砂漠のようにも思われた。一面が砂に覆われている。遠くを見るとサッカーのゴールや目立つ白色の倉庫が広がっていた。腐った木、枯れてもなお地面にしがみつく草がここにあった記憶を見せる。
ヒウタはその場所を見て何のための場所かはすぐに分かる。しかし、屋上から吊るされた布切れはその場所に似合わない。
「廃校?」
ヒウタが言うと、情報屋のサスケは頭を掻く。運転席から降りた運ちゃんは圧倒的な大きさの建物とその残酷な様子に息を飲んだ。
「正確には廃校になったものをとある企業が買い取りましたが、企業は倒産。予算が足りずに壊すこともできず、最終的には立ち入り禁止に。これ以上は場所を絞れませんか?」
「うーん、あたしには無理だね。手探りで行こうか」
運ちゃんはダウジングに使っていた金属棒をバッグにしまった。代わりにヘルメットをする。それから武器をいくつか持って。
三人と空飛ぶ人工知能『ふぉーている』は廃校の中を調べることにした。
「ところで朝、どうしたんですか? 俺ちゃんは別の部屋だったので。まあ今日の戦いに問題がなければいいでしょう」
大男のサスケは屈みながら進む。
中はたまにガラス片や電灯から電線が垂れている程度で足場の悪さは感じない。
「「ぎくっ」」
運ちゃんとヒウタは身体を震わせた。
サスケは化学実験室を見つけると、『ふぉーている』の探知を使う。
「ないなら進みましょう。薬品はないと思いますが危険があるかもしれないので」
「そ、そうですね。あはははは」
運ちゃんは苦笑い。
ヒウタは分かりやすく運ちゃんから視線を反らす。
「見つかりません。教室は軽く探したと思いますが。図書室や音楽室、職員室。手間ですね」
「でも絞れてるので」
「うーん、後は体育館か外?」
「埋まってるみたいなことですか? ラジコンみたいに」
「その通りですねって、時間切れ」
体育館に行くと、黒い服の集団がいた。
銃を向けられている。
サスケが手を上げると、ヒウタたちもそれに従う。
冷汗が背中を流れた。
「捕まえたな、ひゃはは」
男が笑う。
そして腹から血を流して倒れた。
男たちが的をサスケに合わせようとするが、先に撃ち抜かれる。
その様子を理解しきれなかったヒウタはぼうっと立ってしまった。
「ヒウタくん!」
「ごめん、なさい!」
運ちゃんの手に引かれて体育館から逃げる。
外を見渡すと黒服の男たちが建物や腐った木に隠れているのが見えた。
ヒウタたちは一度建物の陰へ。
「サスケさんは?」
「負けないだろうね。これで第一段階クリアって言いたいところだけど、どうやら最後のパーツは取られちゃったみたいだね」
「どうしてそれを?」
「ほら」
クリオネ型の宙に浮くメカ。バッグから手袋を取り出す。着けると空間に画面が現れた。
『屋上に発見しました。急いで向かってください。そこにご主人様もいます』
表示される文字。運ちゃんはヒウタの背中を叩いた。
「さあ、ヒウタくん最後の頑張りだよ。囚われの姫を救おう。昨日、言ってたでしょ。自信なんてなくてもそれが普通だから。最強の世話焼き、マッチングした程度で命懸けの旅にやって来た。いつだって君はヒーローになりたかった。あたしたちの友達を助ける」
「ああ」
ヒウタは銃を手に取った。
一直線を焼き尽くして溶かす高出力銃。
「あたしが道を開く。勝利条件は『ふぉーている』がご主人様のトアオちゃんまで、屋上まで辿り着くこと」
「分かった」
ヒウタたちは割れた窓から忍ぶように建物へ。
階段を上がると黒い服の男がいる。
「あたしは運だけはいいから」
運ちゃんが天井を撃つと、剥がれて男の頭を打つ。
男はそれでも立っていたが、気づいたときには上から瓦礫が降ってきた。
「はい、次」
「本当に運ですか?」
「見てみたらもしかしたらって。それも含めて運なんだよ」
それを聞いて、ダウジングで必要なパーツを探していた理由が分かった気がした。
ヒウタたちはさらに階段を駆ける。
黒服の人たちを次々と倒す。
「あちゃ、ここまでか」
「運ちゃんさん? その血、まさか」
運ちゃんは体中に血が滲んでいて、腹部は特に多かった。
「あ、全部返り血かな。あはははは、心配しすぎ。でもね、心配しすぎることはない。あれは強いよ」
埃の舞う廊下に大鎌を片手で振り回す男がいた。
塵埃は男が壁や天井を破壊したときに生じたものらしい。
いかにも殺人鬼のようで、ぶくぶくと身体中に泡のような脂肪を溜めている。大男のサスケよりも頭までの高さは高く、膨れた手足は恐竜のようだった。
「組織、副リーダー兼戦闘担当。戦い屋、バブル。一人もここを通すな、とのこと。リーダーはこのあと結婚式を控えている。二人の力があれば世界征服も時間の問題。つまり鏡をきっかけに世界は俺たちのものになる」
声が聞いた者の耳を打ちつける。
ヒウタは銃を男に放った。男は鎌を振ると感心した。鎌の刃に穴が空いている。寒気がしてヒウタは一歩下がった。
「軌道をずらしてなんとか耐えられる。問題なのは光由来の高エネルギーであること。埃を立てればその威力は大幅に下がる。ネズミどもここまでだ」
バブルと名乗った男は暴れるように鎌を振る。
轟音を立てる。
砂のような塵と埃が視界を悪くする。
「ヒウタくん、ごめん!」
運ちゃん床を連射した。瞬間足場が消えて、砕け落ちていくのだと認識できる。
身体を瓦礫に打った。
「運ちゃんさん!」
「痛いな。今ので勝利条件の一つはクリアかな。ラストは、生き残ること」
「クリア?」
「あたしの作戦通りかな。一番強い人を配置して、さらに油断もして。ここはネズミを通さないつもりでいるかもしれないけど、ここを越えたらがら空き。馬鹿なロマンチストだね」
「どういう意味ですか?」
「『ふぉーている』はトアオに出会う。鬼ごっこは得意?」
そのとき、ヒウタは眉を細めた。
……違和感?
これってもしかして。
ヒウタは運ちゃんの手を取って走り出す。
「ここは脆すぎる。そして大鎌を振るう、何も考えていないような男。にしては一瞬で高出力銃の話を始めた。誘導してる、そんな違和感」
「信じる。つまりあたしたちは変わらずトアオちゃんを助けるため屋上を目指す」
「お願いします。この建物を壊す気でいる。もし『ふぉーている』が最終形態になっても建物の崩壊を防ぐかと言われれば分からない」
「無理だろうね。ただ、バブルだっけ? あれから逃げながらかな」
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