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7章 のんびり少女が悠長すぎる!67~89話
その17 ヒウタと誘拐犯
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『ルート変更を望みます。こちらのルートに変更してください』
ヒウタの眼の前に画面が表示される。
地図上に最適ルートが三種類用意されていて、赤色、青色、黄色の線で示されている。
画面はヒウタしか見えないため、ヒウタが運ちゃんの運転を案内する。
県立図書館に行けば、情報屋のサスケがいるらしい。彼は戦闘も適度にこなせる。そして、最強の人工知能を完成させるためのパーツの在り処も知っているそう。
「三つ目の信号を右折です」
ヒウタが言う。
「よっしゃー、追手から逃げるぞ!」
「いるんですか?」
「もちろんですとも。だからルート変更しながら。けど、どうせならサスケさんを捕まえたら迎撃しておきたい。面倒だし」
「分かりました」
「それまでは追い込まれてるふりだね。街中で仕掛けられると困るから」
「追い込まれてるふり?」
「向こうが追い込まれてると銃撃ってくるよ、大変だから」
人工知能に従って車を進める。何度もルート変更したり迂回したりした。
ようやく図書館に着く。
駐車をして車から降りた。想像よりも涼しい風が吹く。
「よし、探そう! っと言ってもどうせ」
運ちゃんは頭を掻いた。
自動扉を抜ける。運ちゃんは全体のマップを確認すると、迷いもせず早歩きをする。ヒウタは黙って付いていく。
そこには、サイズの合わない服を着た大男がいた。相変わらず中折れ帽子もしていて、一瞬でサスケだと分かる。
読書スペースで分厚い図鑑を眺めていた。
「サスケさん、どうせ図鑑好きだから」
「付き合い長いんですか?」
「長くはないけど。趣味は図書館、ほとんど図鑑見てますからって言ってたからね。すぐ分かる」
静謐な図書館だからこそ、ヒウタと運ちゃんの会話が目立った。
しまったと思った。マナーに関しては次から気を付けるしかない。
声に気がついたサスケは目を見開いた後、一瞬考え込む。
そして本を棚に戻した。
「まずは車へ。俺ちゃんは頑張りたくないのですが」
嫌々ではないか?
サスケの態度を疑ってしまうが、初めて見たときよりも背筋が伸びていた。
こうして見ると圧のある大男だ。
車に乗る。
「どうやってここに? おそらくトアオさんのメカだと思いますが」
「その通りです」
「トアオさんがいないということは、分かりましたよ。最後のオーパーツを探しに行きましょう、もっと冷静な人だと勘違いしていました。あの人は大天才なのに無茶な選択肢を採用する。どんな状況で誘拐されたかは分かりませんし最悪な状態ですが、わざと捕まったのでしょう。おそらく敵のすべてを把握するため。今から最後のオーパーツを探しますが、結局」
サスケは窓の外を見る。
「幸運に賭けるみたいですね、ダウジングの」
運ちゃんがチェンジレバーを動かす。アクセルを踏む。
「方角は知りたい」
「ここからは遠いですが、それは誘拐犯も変わらないでしょう」
「そうそう。ところで追手はどこで迎撃しよう?」
「いえ、最後まで逃げましょう。パーツを回収して迎え撃つ、それが十分というか。周りの目を気にせずに戦える場所がないので向こうも仕掛けるのは難しいです」
それから僕らは高速道路で移動した。
サービスエリアではできるだけ一人にならないように気を遣う。
一日、二日で辿り着くことは諦めてホテルで泊まりながら。
一度も戦闘がなく進んでいった。ただし後ろには常に追手がいてなかなか休まらない。
運ちゃんしか運転できる人がいないことが良くなかった。
休息を増やす分、トアオを誘拐した人たちよりも遅く着いてしまうだろう。
もし先にオーパーツを回収されたら、トアオが持っているのが『ふぉーている』の偽物だとバレてしまう。組織のリーダーがトアオを病的に好んでいるらしくおそらく殺されはしないだろ。しかし危害を加えられる可能性は高い。
「トアオさんも最後のパーツの位置をおおよそ知っている。それからできる限り時間稼ぎをするでしょう。俺ちゃんたちは急ぐよりも準備をしっかりして戦うべきです」
サスケは冷静に言う。
急いでも目的地に着いたら誘拐組が来るまで待つしかないのだ。
ホテルにて。
サスケが一人部屋、運ちゃんとヒウタが二人部屋である。
「サスケさんが明日には着くと。あたしたちどうなると思う?」
運ちゃんとヒウタはベッドの上で仰向けになっていた。
薄暗い天井だけが広がっていく。もう夜で外は月明かりのみ。
ヒウタには運ちゃんの表情が全く見えなかった。逆も然りである。
「オーパーツをゲットして、トアオさんを助けて、誘拐犯を倒す。それ以上でもそれ以下でもない。そろそろ寝ようかなって」
ごそっと音がした。手が届かないはずの運ちゃんがヒウタの掛け布団に潜る。
それから顔を布団から出してヒウタの腕を取る。
膝枕の状態になった。
運ちゃんの柔らかさと甘い香りがヒウタの思考を鈍らす。
「運ちゃんさん?」
「ヒウタくんは罪な男だ。トアオちゃんと友達って言った以上、あたしに手を出すことはできないから。あたしから近づくのはセーフかな? まだカップルじゃないし」
その高い声は次々と言葉を吐く。急かされたように息継ぎを小さくして。
「あたしもちゃんと恋したいね。誰か紹介してよ、ヒウタくん」
「ええ、いや、マッチングアプリ使います?」
「ケチ。少しだけ君を気になったから、君が責任取ってあたしの恋を応援するべきでしょ?」
「それってどういう」
運ちゃんはヒウタの腕を自分の頬に置いて体勢を変える。そして、体を回しながら捻ってヒウタの顔を見た。
「ねえ、間違えちゃおうよ?」
震えた声。
詰まりながら恥ずかしがりながら紡いだ言葉。
ヒウタは暗闇に浮かぶ表情を捉えてしまう。
「運ちゃん? らしくないっていうか、急に変ですけどどうしてこういうことを」
ヒウタが言いかけたときだった。
運ちゃんは倒れるようにしてヒウタの胸に顔を。
「こう見えて繊細だからさ、こんな性格やめたいよ。助けてよ、ヒウタくん、あたしは君が」
時が止まった気がした。
「好きになっちゃったから」
運ちゃんは自分のベッドに戻る。
「って冗談冗談。トアオちゃんがマッチングした人を見てみたくて。リアルだったでしょ? あたし演技派なのかもね、あはははは」
運ちゃんは天井を見たくなくて布団を顔まで被った。
冬だったら足が出てしまうし顔を隠すことはできなかっただろう。
「僕のせいですよね。運ちゃんさんが眠たくなるまで僕の話をします、そしたら気持ちは楽になりますよ。ヒウタって人間はこんなものかって」
運ちゃんは声を出すために顔を出した。
それからヒウタは自分の話を面白おかしく話した。運ちゃんは明るい反応を続けた。そして運ちゃんが疲れて眠ってしまったのを確認して。
ヒウタは瞼を閉じた。
ヒウタの眼の前に画面が表示される。
地図上に最適ルートが三種類用意されていて、赤色、青色、黄色の線で示されている。
画面はヒウタしか見えないため、ヒウタが運ちゃんの運転を案内する。
県立図書館に行けば、情報屋のサスケがいるらしい。彼は戦闘も適度にこなせる。そして、最強の人工知能を完成させるためのパーツの在り処も知っているそう。
「三つ目の信号を右折です」
ヒウタが言う。
「よっしゃー、追手から逃げるぞ!」
「いるんですか?」
「もちろんですとも。だからルート変更しながら。けど、どうせならサスケさんを捕まえたら迎撃しておきたい。面倒だし」
「分かりました」
「それまでは追い込まれてるふりだね。街中で仕掛けられると困るから」
「追い込まれてるふり?」
「向こうが追い込まれてると銃撃ってくるよ、大変だから」
人工知能に従って車を進める。何度もルート変更したり迂回したりした。
ようやく図書館に着く。
駐車をして車から降りた。想像よりも涼しい風が吹く。
「よし、探そう! っと言ってもどうせ」
運ちゃんは頭を掻いた。
自動扉を抜ける。運ちゃんは全体のマップを確認すると、迷いもせず早歩きをする。ヒウタは黙って付いていく。
そこには、サイズの合わない服を着た大男がいた。相変わらず中折れ帽子もしていて、一瞬でサスケだと分かる。
読書スペースで分厚い図鑑を眺めていた。
「サスケさん、どうせ図鑑好きだから」
「付き合い長いんですか?」
「長くはないけど。趣味は図書館、ほとんど図鑑見てますからって言ってたからね。すぐ分かる」
静謐な図書館だからこそ、ヒウタと運ちゃんの会話が目立った。
しまったと思った。マナーに関しては次から気を付けるしかない。
声に気がついたサスケは目を見開いた後、一瞬考え込む。
そして本を棚に戻した。
「まずは車へ。俺ちゃんは頑張りたくないのですが」
嫌々ではないか?
サスケの態度を疑ってしまうが、初めて見たときよりも背筋が伸びていた。
こうして見ると圧のある大男だ。
車に乗る。
「どうやってここに? おそらくトアオさんのメカだと思いますが」
「その通りです」
「トアオさんがいないということは、分かりましたよ。最後のオーパーツを探しに行きましょう、もっと冷静な人だと勘違いしていました。あの人は大天才なのに無茶な選択肢を採用する。どんな状況で誘拐されたかは分かりませんし最悪な状態ですが、わざと捕まったのでしょう。おそらく敵のすべてを把握するため。今から最後のオーパーツを探しますが、結局」
サスケは窓の外を見る。
「幸運に賭けるみたいですね、ダウジングの」
運ちゃんがチェンジレバーを動かす。アクセルを踏む。
「方角は知りたい」
「ここからは遠いですが、それは誘拐犯も変わらないでしょう」
「そうそう。ところで追手はどこで迎撃しよう?」
「いえ、最後まで逃げましょう。パーツを回収して迎え撃つ、それが十分というか。周りの目を気にせずに戦える場所がないので向こうも仕掛けるのは難しいです」
それから僕らは高速道路で移動した。
サービスエリアではできるだけ一人にならないように気を遣う。
一日、二日で辿り着くことは諦めてホテルで泊まりながら。
一度も戦闘がなく進んでいった。ただし後ろには常に追手がいてなかなか休まらない。
運ちゃんしか運転できる人がいないことが良くなかった。
休息を増やす分、トアオを誘拐した人たちよりも遅く着いてしまうだろう。
もし先にオーパーツを回収されたら、トアオが持っているのが『ふぉーている』の偽物だとバレてしまう。組織のリーダーがトアオを病的に好んでいるらしくおそらく殺されはしないだろ。しかし危害を加えられる可能性は高い。
「トアオさんも最後のパーツの位置をおおよそ知っている。それからできる限り時間稼ぎをするでしょう。俺ちゃんたちは急ぐよりも準備をしっかりして戦うべきです」
サスケは冷静に言う。
急いでも目的地に着いたら誘拐組が来るまで待つしかないのだ。
ホテルにて。
サスケが一人部屋、運ちゃんとヒウタが二人部屋である。
「サスケさんが明日には着くと。あたしたちどうなると思う?」
運ちゃんとヒウタはベッドの上で仰向けになっていた。
薄暗い天井だけが広がっていく。もう夜で外は月明かりのみ。
ヒウタには運ちゃんの表情が全く見えなかった。逆も然りである。
「オーパーツをゲットして、トアオさんを助けて、誘拐犯を倒す。それ以上でもそれ以下でもない。そろそろ寝ようかなって」
ごそっと音がした。手が届かないはずの運ちゃんがヒウタの掛け布団に潜る。
それから顔を布団から出してヒウタの腕を取る。
膝枕の状態になった。
運ちゃんの柔らかさと甘い香りがヒウタの思考を鈍らす。
「運ちゃんさん?」
「ヒウタくんは罪な男だ。トアオちゃんと友達って言った以上、あたしに手を出すことはできないから。あたしから近づくのはセーフかな? まだカップルじゃないし」
その高い声は次々と言葉を吐く。急かされたように息継ぎを小さくして。
「あたしもちゃんと恋したいね。誰か紹介してよ、ヒウタくん」
「ええ、いや、マッチングアプリ使います?」
「ケチ。少しだけ君を気になったから、君が責任取ってあたしの恋を応援するべきでしょ?」
「それってどういう」
運ちゃんはヒウタの腕を自分の頬に置いて体勢を変える。そして、体を回しながら捻ってヒウタの顔を見た。
「ねえ、間違えちゃおうよ?」
震えた声。
詰まりながら恥ずかしがりながら紡いだ言葉。
ヒウタは暗闇に浮かぶ表情を捉えてしまう。
「運ちゃん? らしくないっていうか、急に変ですけどどうしてこういうことを」
ヒウタが言いかけたときだった。
運ちゃんは倒れるようにしてヒウタの胸に顔を。
「こう見えて繊細だからさ、こんな性格やめたいよ。助けてよ、ヒウタくん、あたしは君が」
時が止まった気がした。
「好きになっちゃったから」
運ちゃんは自分のベッドに戻る。
「って冗談冗談。トアオちゃんがマッチングした人を見てみたくて。リアルだったでしょ? あたし演技派なのかもね、あはははは」
運ちゃんは天井を見たくなくて布団を顔まで被った。
冬だったら足が出てしまうし顔を隠すことはできなかっただろう。
「僕のせいですよね。運ちゃんさんが眠たくなるまで僕の話をします、そしたら気持ちは楽になりますよ。ヒウタって人間はこんなものかって」
運ちゃんは声を出すために顔を出した。
それからヒウタは自分の話を面白おかしく話した。運ちゃんは明るい反応を続けた。そして運ちゃんが疲れて眠ってしまったのを確認して。
ヒウタは瞼を閉じた。
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