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7章 のんびり少女が悠長すぎる!67~89話
その16 ヒウタと悪の組織
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トアオが誘拐された。
ヒウタも運ちゃんもショックを受けていたが、トアオを助けられる可能性が高い以上いつまでも悲しくなっている場合ではない。
二人はネットカフェで仮眠を取った。
近くのコンビニで菓子パンを一つずつ。
ヒウタはきなこの揚げパン、運ちゃんはショコラのドーナツ。
車内で朝食を済ませることになった。
「トアオさんは、人間が怖くて、その怖さに何度も負けて、それでも挑戦し続けた。俺に何ができる? 優れているわけではない人間が、ここにいるだけの凡人は何ができる?」
「アジトの位置は分かってる。けど、あたしたちが目指す場所は違う。トアオちゃんが『ふぉーている』を守った。つまりあたしたちに託したということ。あたしとヒウタくんの力では足りなくても『ふぉーている』に頼ればいい。ヒウタくん、操作できる?」
ヒウタは運ちゃんから革のような手袋を渡された。すると目の前に画面が現れる。
パソコンのようにアプリやソフトが並んでいた。
そこに『ふぉーている』の文字。触れるとポンと音を立ててパスワードを入力するように表示が出る。
「キーワードはトアオちゃんとあたしの誕生日、そしてオーパーツの頭文字。一二二三、ゼロロク二二、ここからは英字の大文字で、エイチ、イ―、エム。『ヘラクレスオオカブトのラジコン』、『エジプト棺を模した金色のライタ―』、『巻貝型の屋根付きランタン』。どう?」
「開きました」
命令を日本語で入力してください。
主語や動詞を分かりやすくした方が間違いにくい、とのこと。
「トアオさんの友人である僕と運ちゃんさんは、トアオさんを助けたい。どうすればいい?」
画面に表示が出る。
『早く助けに行くためには最後のオーパーツを回収する必要があります。そして私はパーツさえあれば自力で完成することができます』
ヒウタの瞳に光が戻る。
やることが分かった。だがその前に疑問がある。
「どうして『ふぉーている』は奪われなかった?」
敵はトアオのことを調べているはず。そうでなければ一瞬離れた隙に誘拐されることはないだろう。
『相手は私の姿を知りませんでした。命懸けで別のメカを私だと言いました。早く救出しなければ私のご主人様は無事ではありません』
ヒウタは頷く。
『相手はアジトには向かいません、ご主人様を連れてオーパーツを回収するでしょう。もし回収されてしまったらご主人様の嘘がばれてしまいます。殺されてもおかしくありません』
「分かった。先回りして返り討ちにする。最後のパーツはどこにある?」
『煌星茶助、彼が予想をつけているでしょう。会いに行きます。美術館近くの県立図書館で本を読んでいる可能性が極めて高いです』
「信じる」
「どうだった?」
運ちゃんは菓子パンの包装をビニール袋に丸めて入れる。ペットボトルのお茶をごくりと飲み干した。
「昨日の道に戻ります。近くの図書館にサスケさんがいるので捕まえて話を聞くべきと。運転お願いします」
「もちろん。ところでゴミはここにまとめて置いて」
ヒウタにビニール袋を渡した。
「反撃開始だ。トアオさんを取り返してこの旅を終わらせる」
「あたしたちのことがそんなに嫌い?」
「もっと安全な旅になら付き合いますよ」
運ちゃんはアクセルを踏んで車は動き出す。
ヒウタは流れる景色を眺めていた。
すれ違う対向車、歩道を挟んで並ぶ飲食チェーン店、終日駐車可能を謳う駐車場、絶え間なく見える青色や赤色の自動販売機。
ヒウタは息が詰まるように苦しかった。呼吸が乱れる、喉が上手く開いていない。指先が震える。トアオがいなくなって麻痺していた恐怖が甦ってしまった。
「ヒウタくん、さっき自分のことをトアオちゃんの友人って言ってた。トアオちゃんが聞いたら喜ぶと思う、友達だって。そしたら存在しないしっぽを振りたいくらい嬉しいくせに、緊張も誤魔化してさ。その通りって言うと思うよ」
「想像できる」
ヒウタは楽しくなってしまう。トアオと何を話そうか、何をしようか。どんな反応をするのか。だから、どれだけ怖くても戦うしかない。
「それにしてもサスケさんを捕まえろ、か。せっかくなら一緒に戦ってほしいけどね。あの人、情報屋としてももちろん優秀だけど武器を持たせるとびっくりするくらい強いよ。さて、そこまで協力してくれるか分からないけど」
「大男ですしね」
「姿勢悪いけどね、小屋にずっといるから。トアオちゃんが信用しているのは大事な物を管理させてもそう簡単には奪われないだろうって思えるから。サスケさん自身は戦えるからね」
ヒウタはペットボトルを抱えた。
「でも美術館で戦ったときは震えてましたよ」
「臆病だから。スイッチが入ると強い。普段は逃げ回って追い詰められると強い。まさに最適でしょ? 大事な情報を管理するには」
「そうですね」
「悪の組織についてどれくらい知ってる?」
「ほとんど知りません」
「だよね、あたしがトアオちゃんに聞いたのはトアオちゃんの技術力を欲しがっていること、『ふぉーている』に興味を示していること、リーダーの男がトアオちゃんの陰湿ストーカーであること。だから殺されないって思ってるけど早く助けないとどうなるか。でも相手にしないトアオちゃんを憎んで殺す可能性も否定できない。急ぐ、安全運転の範囲だけどね。だからヒウタくん最適ルートをよろしく」
ヒウタは手袋の手首部分を引っ張る。
空間に表示された画面を操作する。
赤色の風船のような表示が地図に現れる。風船同士が赤い線で繋がっていく。また。青色、黄色のルートが現れる。第二、第三の最適ルートらしい。
「これって」
「車のナビと繋げて音声で案内させる。いつでもルート変更できるように画面に表示された地図から目を離さないこと。まずはサスケさん、そしてオーパーツを回収する」
「敵は倒す。それもトアオさんが言っていた勝利条件なので」
ヒウタの言葉を聞くと運ちゃんの表情が和らいだ。
それでも車内には緊張感が漂う。
それは活路がある証拠だ。
ヒウタも運ちゃんもショックを受けていたが、トアオを助けられる可能性が高い以上いつまでも悲しくなっている場合ではない。
二人はネットカフェで仮眠を取った。
近くのコンビニで菓子パンを一つずつ。
ヒウタはきなこの揚げパン、運ちゃんはショコラのドーナツ。
車内で朝食を済ませることになった。
「トアオさんは、人間が怖くて、その怖さに何度も負けて、それでも挑戦し続けた。俺に何ができる? 優れているわけではない人間が、ここにいるだけの凡人は何ができる?」
「アジトの位置は分かってる。けど、あたしたちが目指す場所は違う。トアオちゃんが『ふぉーている』を守った。つまりあたしたちに託したということ。あたしとヒウタくんの力では足りなくても『ふぉーている』に頼ればいい。ヒウタくん、操作できる?」
ヒウタは運ちゃんから革のような手袋を渡された。すると目の前に画面が現れる。
パソコンのようにアプリやソフトが並んでいた。
そこに『ふぉーている』の文字。触れるとポンと音を立ててパスワードを入力するように表示が出る。
「キーワードはトアオちゃんとあたしの誕生日、そしてオーパーツの頭文字。一二二三、ゼロロク二二、ここからは英字の大文字で、エイチ、イ―、エム。『ヘラクレスオオカブトのラジコン』、『エジプト棺を模した金色のライタ―』、『巻貝型の屋根付きランタン』。どう?」
「開きました」
命令を日本語で入力してください。
主語や動詞を分かりやすくした方が間違いにくい、とのこと。
「トアオさんの友人である僕と運ちゃんさんは、トアオさんを助けたい。どうすればいい?」
画面に表示が出る。
『早く助けに行くためには最後のオーパーツを回収する必要があります。そして私はパーツさえあれば自力で完成することができます』
ヒウタの瞳に光が戻る。
やることが分かった。だがその前に疑問がある。
「どうして『ふぉーている』は奪われなかった?」
敵はトアオのことを調べているはず。そうでなければ一瞬離れた隙に誘拐されることはないだろう。
『相手は私の姿を知りませんでした。命懸けで別のメカを私だと言いました。早く救出しなければ私のご主人様は無事ではありません』
ヒウタは頷く。
『相手はアジトには向かいません、ご主人様を連れてオーパーツを回収するでしょう。もし回収されてしまったらご主人様の嘘がばれてしまいます。殺されてもおかしくありません』
「分かった。先回りして返り討ちにする。最後のパーツはどこにある?」
『煌星茶助、彼が予想をつけているでしょう。会いに行きます。美術館近くの県立図書館で本を読んでいる可能性が極めて高いです』
「信じる」
「どうだった?」
運ちゃんは菓子パンの包装をビニール袋に丸めて入れる。ペットボトルのお茶をごくりと飲み干した。
「昨日の道に戻ります。近くの図書館にサスケさんがいるので捕まえて話を聞くべきと。運転お願いします」
「もちろん。ところでゴミはここにまとめて置いて」
ヒウタにビニール袋を渡した。
「反撃開始だ。トアオさんを取り返してこの旅を終わらせる」
「あたしたちのことがそんなに嫌い?」
「もっと安全な旅になら付き合いますよ」
運ちゃんはアクセルを踏んで車は動き出す。
ヒウタは流れる景色を眺めていた。
すれ違う対向車、歩道を挟んで並ぶ飲食チェーン店、終日駐車可能を謳う駐車場、絶え間なく見える青色や赤色の自動販売機。
ヒウタは息が詰まるように苦しかった。呼吸が乱れる、喉が上手く開いていない。指先が震える。トアオがいなくなって麻痺していた恐怖が甦ってしまった。
「ヒウタくん、さっき自分のことをトアオちゃんの友人って言ってた。トアオちゃんが聞いたら喜ぶと思う、友達だって。そしたら存在しないしっぽを振りたいくらい嬉しいくせに、緊張も誤魔化してさ。その通りって言うと思うよ」
「想像できる」
ヒウタは楽しくなってしまう。トアオと何を話そうか、何をしようか。どんな反応をするのか。だから、どれだけ怖くても戦うしかない。
「それにしてもサスケさんを捕まえろ、か。せっかくなら一緒に戦ってほしいけどね。あの人、情報屋としてももちろん優秀だけど武器を持たせるとびっくりするくらい強いよ。さて、そこまで協力してくれるか分からないけど」
「大男ですしね」
「姿勢悪いけどね、小屋にずっといるから。トアオちゃんが信用しているのは大事な物を管理させてもそう簡単には奪われないだろうって思えるから。サスケさん自身は戦えるからね」
ヒウタはペットボトルを抱えた。
「でも美術館で戦ったときは震えてましたよ」
「臆病だから。スイッチが入ると強い。普段は逃げ回って追い詰められると強い。まさに最適でしょ? 大事な情報を管理するには」
「そうですね」
「悪の組織についてどれくらい知ってる?」
「ほとんど知りません」
「だよね、あたしがトアオちゃんに聞いたのはトアオちゃんの技術力を欲しがっていること、『ふぉーている』に興味を示していること、リーダーの男がトアオちゃんの陰湿ストーカーであること。だから殺されないって思ってるけど早く助けないとどうなるか。でも相手にしないトアオちゃんを憎んで殺す可能性も否定できない。急ぐ、安全運転の範囲だけどね。だからヒウタくん最適ルートをよろしく」
ヒウタは手袋の手首部分を引っ張る。
空間に表示された画面を操作する。
赤色の風船のような表示が地図に現れる。風船同士が赤い線で繋がっていく。また。青色、黄色のルートが現れる。第二、第三の最適ルートらしい。
「これって」
「車のナビと繋げて音声で案内させる。いつでもルート変更できるように画面に表示された地図から目を離さないこと。まずはサスケさん、そしてオーパーツを回収する」
「敵は倒す。それもトアオさんが言っていた勝利条件なので」
ヒウタの言葉を聞くと運ちゃんの表情が和らいだ。
それでも車内には緊張感が漂う。
それは活路がある証拠だ。
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