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7章 のんびり少女が悠長すぎる!67~89話

その13 ヒウタとトアオⅡ

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 機械仕掛けの館にて。
 館というよりも迷宮であるが、元々本土決戦を想定した防塞らしい。
 そこで防衛システムのひとつとして、同伴者の記憶を他の人に見せるトラップが存在する。
 トラップを事前に壊すことも防ぐこともできないらしい。
 とはいえ、物理的に攻撃してくるわけではない。
 ただトアオと運ちゃんは、運ちゃんの記憶がトアオに流れたことによって、二人は喧嘩してしまっていた。
 喧嘩を止めようとヒウタが仲介を試みたが、二人の頭を撫でてドン引きされただけである。
「いつまで被害者なの?」
「は? トアオちゃんがいつも一人だからでしょ? 友達いないし家族には見放されているし、あたしが唯一の友人なんて重すぎるでしょ?」
「運ちゃん!」
「あたしはここでリタイアする。後は二人で、……」
 運ちゃんが言いかける。
「既に追手に囲まれてる。武器を持たないと、金色のライターを見つけないと死ぬ」
 トアオが言うと、運ちゃんはトアオの胸ぐらを掴んで投げた。
「はあ、だからあたしに怒鳴ってきたわけ? トアオちゃんをどう思おうが勝手でしょ? 死ぬわけにはいかないからトアオちゃんに逆らえないってこと? 舐めてるな」
 運ちゃんは踵を返した。
「いいわ、死んでやる! あたしはここから出るから」
 ……まずい。
 どんどん状況が悪化していく。
 トアオの記憶と運ちゃんの記憶。
 どちらも同じ部類とみていいだろう。
「なあ、二人はどういう関係なんだ? ちゃんと聞きたい」
「今更?」「ヒウタさん?」
 ヒウタは地面に胡坐をかいて座る。
「この旅は命懸けだよな? マッチングした男を誘拐して手伝わせるなんてやりすぎだ。だからせめて事情を教えてほしい。喧嘩して仲間割れしたら俺たちは死ぬんだろ?」
「その通り」
「運ちゃんさんもトアオさんも覚悟しろ。死ぬってなったらお前らにチューするからな、男子大学生の願望の一つや二つ叶えてもらう」
 ヒウタの言葉を聞いて、運ちゃんとトアオは両膝を立てて座り込む。
「「それは絶対嫌!」」
 二人の声が揃う。
 なぜか傷を負う、ヒウタ。
 二人を話し合いの場に着かせる作戦は成功した。
「俺はトアオさんの記憶を見ました。開発の天才が事故を起こして孤立し、運ちゃんさんが手を差し伸べてから二人は仲良くしていた。孤立していたトアオさんと異なって運ちゃんさんは人気者で友達も多くてモテていた。いつも一人でいるトアオさんが心配で恋ができない。初恋の人に告白されても断るしかなかった、本当に一人になってしまうトアオさんが心配だったから」
 二人は黙っていた。
 ヒウタは続ける。
「距離が近くて一緒にいるのが当たり前で、そのせいで互いが互いを雑にしてたとか。けど二人とも大好きなんでしょ?」
「違うけど?」「それは違うなあ、あはは」
「ええ、……」
「依存してるだけでしょ、トアオちゃんは」
「憐れんで馬鹿にしたいだけだよ、運ちゃんは」
 睨み合う二人。
 協力しないと死ぬだろうし取り敢えずチューしてやろうか?
 状況が悪化しそうだからしないけれど。
 ヒウタは天井を見上げた。
 金属の白い光沢が瞳に入り込む。
「分かった。この旅が終わったら別居してみろ。互いの魅力に気づけってことじゃない。依存するとか憐れむとかどっちも一緒にいたことによる感情だと思うから」
「もちろん、ヒウタくんの言う通りにするわ」
「私もそう」
 ヒウタは立つ。
「憎んでるのも分かる。けど殺したいのか、死んでもいいのか。できれば死なない方向に進めてほしい。僕は死ぬわけにはいかない。世話焼きでもしかしたら庇って死ぬような人間かもしれないけど、生きて帰るつもりでいる」
「憎いけど死んでもいいとは思わないわ」「死んだらオーパーツどころではない」
 ヒウタは笑う。
「トアオさんが言ったんだ、勝利条件はみんなで生きて帰ることって。死んでほしいからこの旅を始めたわけじゃないだろ、途中でリタイアする設定になっていない。それが答えだ」
 ヒウタは二人の手を取って引く。
 トアオと運ちゃんは立ち上がった。
「お互いのいいところ何個も知ってると思う。それにあんなに一緒にいれば嫌なところだってある、でも旅の中でトアオさんも運ちゃんさんも楽しそうだったし笑ってた。最高の二人なのは間違いないから。いろいろ知っていても嫌いじゃないのは相性がいいと思うけど?」
 トアオは小さな声で、
「ごめん」
 運ちゃんは腕を掻く。
「あたしも言いすぎた。先に進もう」
 一応仲直りしたらしい。
 すべて解決したとは思わないけど。
 ヒウタたちはさらに歩く。
 トラップを高電圧が出るマジックペンで壊す。
 すると金色の扉に辿り着いた。
 南京錠で閉められている。
「まじか」
「電動ドリルで壊す。これは鉛筆型、手よりも少し大きい」
 バッグから出したドリルを扉に当てるがビクともしない。
 むしろ先端が僅かに欠けてしまった。
「金属だろうから溶かしちゃう?」
 運ちゃんは遠慮がちに言う。
「火を使うのは危険。鍵を探すしかない、って」
 天井に金色の鍵が刺さっていた。
 ヒウタが跳んで鍵を掴むが滑ってしまう。
「ジャンプで届く高さだけど固い感じだった。ドリルで開けた方がいい」
「ん」
 トアオはドリルを持ってヒウタの背中に回る。
 女の子を抱えるのがいいとは言わないが、背中となるとあの感触が。
 ヒウタは屈んで腕を背中に回す。
「うっ」
 トアオは肩に足を掛けた。
 背中で十分な高さだと思っていた。
「どうせヒウタさん変態だと思って。そのまま立つと私が天井に頭打つから途中でキープね!」
 トアオは鬼だった。
 ようするに背中だと胸の感触が伝わってしまう。それは避けたいから肩車をするがそのまま立つと天井に激突してしまう。よって鍵を取り出すまで、少しだけ屈んで耐えてほしいという要望である。
「まじか、重いって」
「女の子にひどいなー、ヒウタくん。頑張って」
 運ちゃんは拳を握って応援する。
「いや、前屈みで耐えるから重く感じるだけで、トアオさんは小柄ですしスタイルもいいので軽い方だと思いますが体勢が」
「ご褒美のつもりだけど」
 ドリルで軽く削る。
 小石のような屑と砂のような塵が降ってくる。
「ヒウタさん吸わないで。金属粉だから」
「はいはい」
「取れた」
 トアオが肩から下りる。
 なんだこの解放感は。
「まるで大便を出し切ったような開放感だと思ってるでしょ?」
 運ちゃんが言う。
「変な人」
 トアオが軽蔑するような顔。
「ト、トイレ行ったあとの感じとか思ってないが」
 ヒウタは動揺した。
 トアオは飽きたのかヒウタには触れず。
 南京錠に鍵を入れて回す。
 カチャッと音がして錠は外れた。
「この部屋にライターがあると思う。行こう、運ちゃんとヒウタさん」
「死ぬつもりはないわ」「僕は死んでもいいみたいに」
 扉を抜けると、そこは。







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