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7章 のんびり少女が悠長すぎる!67~89話
その10 ヒウタとトアオ
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結局サービスエリアに来た。
バルコニー席で抹茶オレにチーズケーキ。
「やっぱ間に合わないか。夕食も宿で食べれるみたい。格安だったから予約したよ」
「流石の運の良さ。使い切ってない?」
「残量が見えるといいけどね」
「一体何の話をしてるんですか?」
「幸福の総数は決まってると思っていて。あたしの運が残り僅かだったらどうしようかなという話」
「幸福を借金させてでもオーパーツは手に入れる。じゃないと世界がどうなるか」
「随分と大きい話だと思いますが?」
「そうでもないんだよな、それが。世界の形が変わる」
「私の『ふぉーている』は元々、オーパーツを守るためのメカ。私が悪いことに使うならもっとひどい開発もできる。最も安全な応用でしかない」
ヒウタは抹茶オレを一口。チーズケーキをフォークで一口サイズに切って食べる。
「チーズケーキ食べたら宿だね。温泉付きだっけ?」
「大浴場がある。一部屋、敷布団で三人分。寝るだけだから少し狭いかも。その場合はヒウタさんには立ったまま眠ってもらう」
「な、なんですと!」
「そのためにスポーツをして強さを測っていた。おめでとう、君には立ったまま寝る資格がある。存分にその力を振るってくれ」
「嫌ですが?」
「「え?」」
トアオと運ちゃんは固まる。
真面目な表情でヒウタを見つめる。
「残念だ、君には期待していたが。まああたしがヒウタくんをぎゅっとして寝ればいいから」
「良くないです」
「分かった、皆まで言うな。ヒウタくんがトアオちゃんを抱き締めて寝るのか。忘れていたよ、君たちはマッチング中だったな」
あ、この人面倒だ。
ヒウタは諦めて食べ進めた。
再び車に乗って。
旅館に着いた。
格安というわりには豪華だ。
ししおどしがカタンッと音を立てる。
少しは涼しく感じられそうだ。
「これがあたしの力。予約の人がドタキャンみたいで。キャンセル料はもらうみたいだから飛び入りのあたしたちが安くなった」
「豪運ぷり。運ちゃん、いつか災厄級の不幸が降ってこない?」
「そのときは自慢のメカで守ってくれるんでしょう?」
「もちろんよ!」
「トアオちゃん」
「運ちゃん」
「トアオちゃん」
「運ちゃん」
「トアオちゃん」
「運ちゃん」
二人はハグをする。
まさか仲居が戸惑っていると気づいていないだろう。
こいつらは何やってるんだ?
「ごめんなさい、急に入らせてもらったのに。案内お願いします」
「はい!」
ヒウタが仲居とやり取りして、トアオと運ちゃんは離れた。
部屋に着いた。
食事の時間になったら呼ばれるらしい。
温泉に何度入っても良いそう。
最高だ!
「よし、温泉温泉。美容美容、あたしたちこれ以上美人になっちゃうのー」
「美人になりすぎても悪いことはない」
「そうだね!」
「ところで一つどうしても謝りたいことがあって」
トアオは俯いて言う。
ヒウタはトアオの表情をじっと見た。
真剣な顔、ヒウタは応えるつもりだ。どんなことでも。
「ごめんなさい、こういうつもりはなかった」
「トアオさん、続けて」
トアオは頷く。
その瞳には涙が見えた。
「この旅館混浴ないんです、運ちゃんの下着姿とかいくらでも見ていいので!」
「いや、一回五千円」
「五千円で見ていいので!」
馬鹿らしい。
ヒウタは二人を置いて大浴場へ。
「はあ、生き返る」
湯に浸かる。熱さが沁み込んで身体中温かい。湯から腕を出すと汗がぷつぷつと浮かんでいた。ホッと吐いた息が湯気を吹く。
誰もいない、一人の世界。
「うわあ、運ちゃんの運ちゃんおっきい」
「着やせするタイプなのです。ふははは、恐れ慄け!」
「水風船ごっこしていい? ここに爪楊枝を指して割れるか」
「おうおう、トアオちゃんもそれなりじゃない。自分ので試したら」
「それは痛い。分かる?」
「仕方ないな。羨ましいなら触ることくらいなら」
「揉み揉みしちゃう」
「あはん、うっふん」
「まだ何もしてない」
「イメージトレーニング。大事でしょ?」
「反応に困る」
「あっはん、というわけで次はあたしのターンです」
「触った瞬間わざと声出した」
「艶やかな声でしょ? だからこっちのターン」
「なんて横暴な」
「ぐへへへへ」
「きゃっ」
「かわいいのう。まだまだまだ」
「次は私だから」
「あっはんってことで」
棒読みである。
「触ってない。ってきゃっ」
……罪悪感。
ヒウタは耳を塞ぐ。哀れな気がして手を離した。
「ねえトアオちゃん。ヒウタくんもらっていい? 応えて」
「応えません」
「あたしとトアオちゃんの仲でしょ?」
「私は運ちゃんがヒウタさんに恋したならちゃんと引く。結局恋心でこの人がいい! なんて信用できない。総合的に判断して人を選ぶ。だから運ちゃんならすべて譲る」
「トアオちゃんらしい。で本音というかヒウタくんへの評価は?」
「役に立つかなくらい。私は利用する側の人間でいたい」
「あははは、まだ傷が。けど復讐したいわけではないでしょ?」
「違う、私はあの人のすごさは認めてる。だからヒウタさんは期待できる」
「何に対して?」
「もちろん、オーパーツ集め」
「素直じゃない。だからこそお似合いだと思うけどね。恋に本気になれない二人、でもマッチングアプリで出会って互いに期待してる。私を変えてくれって。けどそれは無理だよ、どこかでどうせ無理だって思って誰にとっても無理って思ってるから」
「いや、そんなこと。私本気で恋したいって思ってるから」
「でも恋していいよ、僕と恋しよう、その言葉を求めてる。責任を取ろうとしない、深く進めて傷つくのを嫌がって、いつだって相手のせいにできる準備をしている」
「いくら運ちゃんでもそれ以上は」
トアオの声に怒気があった。
「あの人にも言われたはずでしょ? 恋までなら友情をあてにできる、けど結婚したらこの人って決めた人と支え合って長い時間を超えることになる。トアオちゃんは分からないけど、少なくともあたしはそのつもりだよ。だからあたしはトアオちゃんのために死ぬつもりはない」
「だってだって、私は!」
「ねえ。このままじゃ一人になるよ、トアオちゃん」
「けど私、人間が怖いっ」
「だったらいい機会だ。ヒウタくんは悪い人じゃない。ちゃんと見てみなよ」
ヒウタは動けないでいた。
トアオの思い、そして運ちゃんの思い。
聞いて良かったのか?
それ以上に、運ちゃんは明るく振舞っていたのはきっとトアオのためだ。
ヒウタは着替えて出た。
そこには浴衣姿の運ちゃんがいた。
「あたしヒウタくんがいたの知ってた。聞かせるつもりだった、あたしもトアオちゃんも嘘じゃないよ。そもそもトアオちゃんは隣の男湯に声が届いてるなんて考えもしないから。生き返るって声ちゃんと聞こえてたよ」
「ええ」
恥ずかしい。
「まさかゾンビだったなんて。生き返ったとなると捕まえて研究所で解剖だ!」
テキトーなことを言われているのは分かるが。
運ちゃんが急に追いかけるものだから、ヒウタも慌てて走り出した。
そして仲居さんに怒られた。
バルコニー席で抹茶オレにチーズケーキ。
「やっぱ間に合わないか。夕食も宿で食べれるみたい。格安だったから予約したよ」
「流石の運の良さ。使い切ってない?」
「残量が見えるといいけどね」
「一体何の話をしてるんですか?」
「幸福の総数は決まってると思っていて。あたしの運が残り僅かだったらどうしようかなという話」
「幸福を借金させてでもオーパーツは手に入れる。じゃないと世界がどうなるか」
「随分と大きい話だと思いますが?」
「そうでもないんだよな、それが。世界の形が変わる」
「私の『ふぉーている』は元々、オーパーツを守るためのメカ。私が悪いことに使うならもっとひどい開発もできる。最も安全な応用でしかない」
ヒウタは抹茶オレを一口。チーズケーキをフォークで一口サイズに切って食べる。
「チーズケーキ食べたら宿だね。温泉付きだっけ?」
「大浴場がある。一部屋、敷布団で三人分。寝るだけだから少し狭いかも。その場合はヒウタさんには立ったまま眠ってもらう」
「な、なんですと!」
「そのためにスポーツをして強さを測っていた。おめでとう、君には立ったまま寝る資格がある。存分にその力を振るってくれ」
「嫌ですが?」
「「え?」」
トアオと運ちゃんは固まる。
真面目な表情でヒウタを見つめる。
「残念だ、君には期待していたが。まああたしがヒウタくんをぎゅっとして寝ればいいから」
「良くないです」
「分かった、皆まで言うな。ヒウタくんがトアオちゃんを抱き締めて寝るのか。忘れていたよ、君たちはマッチング中だったな」
あ、この人面倒だ。
ヒウタは諦めて食べ進めた。
再び車に乗って。
旅館に着いた。
格安というわりには豪華だ。
ししおどしがカタンッと音を立てる。
少しは涼しく感じられそうだ。
「これがあたしの力。予約の人がドタキャンみたいで。キャンセル料はもらうみたいだから飛び入りのあたしたちが安くなった」
「豪運ぷり。運ちゃん、いつか災厄級の不幸が降ってこない?」
「そのときは自慢のメカで守ってくれるんでしょう?」
「もちろんよ!」
「トアオちゃん」
「運ちゃん」
「トアオちゃん」
「運ちゃん」
「トアオちゃん」
「運ちゃん」
二人はハグをする。
まさか仲居が戸惑っていると気づいていないだろう。
こいつらは何やってるんだ?
「ごめんなさい、急に入らせてもらったのに。案内お願いします」
「はい!」
ヒウタが仲居とやり取りして、トアオと運ちゃんは離れた。
部屋に着いた。
食事の時間になったら呼ばれるらしい。
温泉に何度入っても良いそう。
最高だ!
「よし、温泉温泉。美容美容、あたしたちこれ以上美人になっちゃうのー」
「美人になりすぎても悪いことはない」
「そうだね!」
「ところで一つどうしても謝りたいことがあって」
トアオは俯いて言う。
ヒウタはトアオの表情をじっと見た。
真剣な顔、ヒウタは応えるつもりだ。どんなことでも。
「ごめんなさい、こういうつもりはなかった」
「トアオさん、続けて」
トアオは頷く。
その瞳には涙が見えた。
「この旅館混浴ないんです、運ちゃんの下着姿とかいくらでも見ていいので!」
「いや、一回五千円」
「五千円で見ていいので!」
馬鹿らしい。
ヒウタは二人を置いて大浴場へ。
「はあ、生き返る」
湯に浸かる。熱さが沁み込んで身体中温かい。湯から腕を出すと汗がぷつぷつと浮かんでいた。ホッと吐いた息が湯気を吹く。
誰もいない、一人の世界。
「うわあ、運ちゃんの運ちゃんおっきい」
「着やせするタイプなのです。ふははは、恐れ慄け!」
「水風船ごっこしていい? ここに爪楊枝を指して割れるか」
「おうおう、トアオちゃんもそれなりじゃない。自分ので試したら」
「それは痛い。分かる?」
「仕方ないな。羨ましいなら触ることくらいなら」
「揉み揉みしちゃう」
「あはん、うっふん」
「まだ何もしてない」
「イメージトレーニング。大事でしょ?」
「反応に困る」
「あっはん、というわけで次はあたしのターンです」
「触った瞬間わざと声出した」
「艶やかな声でしょ? だからこっちのターン」
「なんて横暴な」
「ぐへへへへ」
「きゃっ」
「かわいいのう。まだまだまだ」
「次は私だから」
「あっはんってことで」
棒読みである。
「触ってない。ってきゃっ」
……罪悪感。
ヒウタは耳を塞ぐ。哀れな気がして手を離した。
「ねえトアオちゃん。ヒウタくんもらっていい? 応えて」
「応えません」
「あたしとトアオちゃんの仲でしょ?」
「私は運ちゃんがヒウタさんに恋したならちゃんと引く。結局恋心でこの人がいい! なんて信用できない。総合的に判断して人を選ぶ。だから運ちゃんならすべて譲る」
「トアオちゃんらしい。で本音というかヒウタくんへの評価は?」
「役に立つかなくらい。私は利用する側の人間でいたい」
「あははは、まだ傷が。けど復讐したいわけではないでしょ?」
「違う、私はあの人のすごさは認めてる。だからヒウタさんは期待できる」
「何に対して?」
「もちろん、オーパーツ集め」
「素直じゃない。だからこそお似合いだと思うけどね。恋に本気になれない二人、でもマッチングアプリで出会って互いに期待してる。私を変えてくれって。けどそれは無理だよ、どこかでどうせ無理だって思って誰にとっても無理って思ってるから」
「いや、そんなこと。私本気で恋したいって思ってるから」
「でも恋していいよ、僕と恋しよう、その言葉を求めてる。責任を取ろうとしない、深く進めて傷つくのを嫌がって、いつだって相手のせいにできる準備をしている」
「いくら運ちゃんでもそれ以上は」
トアオの声に怒気があった。
「あの人にも言われたはずでしょ? 恋までなら友情をあてにできる、けど結婚したらこの人って決めた人と支え合って長い時間を超えることになる。トアオちゃんは分からないけど、少なくともあたしはそのつもりだよ。だからあたしはトアオちゃんのために死ぬつもりはない」
「だってだって、私は!」
「ねえ。このままじゃ一人になるよ、トアオちゃん」
「けど私、人間が怖いっ」
「だったらいい機会だ。ヒウタくんは悪い人じゃない。ちゃんと見てみなよ」
ヒウタは動けないでいた。
トアオの思い、そして運ちゃんの思い。
聞いて良かったのか?
それ以上に、運ちゃんは明るく振舞っていたのはきっとトアオのためだ。
ヒウタは着替えて出た。
そこには浴衣姿の運ちゃんがいた。
「あたしヒウタくんがいたの知ってた。聞かせるつもりだった、あたしもトアオちゃんも嘘じゃないよ。そもそもトアオちゃんは隣の男湯に声が届いてるなんて考えもしないから。生き返るって声ちゃんと聞こえてたよ」
「ええ」
恥ずかしい。
「まさかゾンビだったなんて。生き返ったとなると捕まえて研究所で解剖だ!」
テキトーなことを言われているのは分かるが。
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