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7章 のんびり少女が悠長すぎる!67~89話
その5 ヒウタと知らない世界
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「高速乗るね、ヒウタくん」
「運ちゃん、よろしく。ヒウタ、さんは、ちょっと息を止めてて」
車の中。
運ちゃんは運転席、ヒウタとトアオは後ろの席にいる。
ヒウタは察して鼻を摘まむ。
「よし!」
トアオは分厚い革製のような手袋を両手にして。
レンズの縁が太めの眼鏡を掛ける。
「いつまで息を止めるの?」
ヒウタの顔がだんだん赤くなる。
「もう、少し、なの」
ヒウタは魅入る。
空中に大量の画面が表示されていて、トアオは次々と操作していた。
「うーん、そろそろ」
ヒウタは中の空気を吸おうとして口をすぼめた表情になる。
そろそろ限界だ
「来た」
トアオが叫んだ瞬間だった。
バンッと音を立てて天井が上がり洗面台や工具が現れる。
そして天井が元の高さまで下がった。
内装が変化して運ちゃんとの間には仕切りがある。
「簡易な作業場。目的地に辿り着いた、ら、運ちゃんがダウジング、してそれ、を頼りにオーパーツ。入手したら持って、帰って、車の中で部品を取り出して取り付ける。オーパーツの行方が分からなくなる、三人のうち誰か、死ぬ。私たちの敗北」
本当に死ぬのか?
車の変形を見ていると死ぬ可能性が否定できない。
ヒウタは深呼吸をする。
「知らないことばかりだ」
その言葉に尽きる。
何でもするとは言ったが予想外である。
「どうして息を止めるの?」
「人の気配が、すると。気が散る」
「あ、そうですかい」
ヒウタは考えるのも反抗するのもやめた。
「あ、バイトとかしてる、なら休みの連絡。当分は帰れない、から」
「分かった。一応してみる」
シュイロにどう説明するのがいいのだろうか?
マッチングアプリでマッチングした相手に誘拐されて、オーパーツ探しの旅に連れていかれた。
うん、事実だが分かってもらえないだろう。
シュイロにメッセージを送る。
『旅行に行くのでアルバイト休みたいです』
送ってから気づく。
高校生は夏休み明けている。
シュイロが通信制高校に通う時間を作るためにヒウタはアルバイトをしている。
元々マッチングアプリのお問い合わせ対応のほとんどをシュイロが行っていたらしい。
ここでヒウタが手伝えなくなったら。
『いつまで?』
当然の質問である。
しかしトアオは当分家には帰れないと言っていた。
「トアオさん、いつまで休みますか?」
「九月中」
「分かりました」
ヒウタはメッセージを送る。
『九月中です』
シュイロからメッセージが来た。
『やけに長い旅行だな。ちょっと話したい、通話できるか?』
急に長い旅行行くとなれば気になっても仕方ない。
シュイロにどこまで説明できるか説明したとして理解できるか。
「トアオさん、雇い主が通話したいそうです。よろしいですか?」
「ん」
トアオは頷く。
電話を掛ける。
ピロリンと音が鳴った。
「すみません、休みを突然報告する形になってしまって」
画面の向こうから笑い声が聞こえた。
『死ぬなよ、ヒウタ』
「たぶん大丈夫ですよ」
ヒウタは言ってから気づく。
トアオの話はしていないはず。
そうしたらなぜ死ぬなという言葉が出てくるのか。
休みの申請が急だったから何かに悩んで自殺すると思っているのだろうか。
「悩みは大きいものはないです。自殺しませんよ」
『ついに恋活が上手くいかずに死ぬかと。ならどうして休みを?』
「シュイロさんには分からないと思うのですが、今日の朝急にオーパーツみたいなよく分からないものを探すと言われて。マッチング相手です」
また、笑い声が聞こえた。
『やっぱりそうだよな、死ぬなよヒウタ。トアオちゃんでしょ?』
ん?
シュイロはトアオを知っている。
ハイテクな話をしていてシュイロが知っている。
パズルのピースがはまった。
「トアオさんってアプリの開発の人か! シュイロさんと喧嘩している」
「私、いつも、説教だけ。野蛮、喧嘩できない。代わりに猫カフェとか行くの止めた。本の読み聞かせ、なんて、私があがり症だ、し、できるわけないのに」
トアオは手を胸に当てながら呼吸を繰り返す。
必死に言葉を紡ぐ。
『優秀な開発者だが命知らずな所ばかり。説教もする!』
シュイロが言い切る。
説教されているのか。
死ぬかもと言われて不安しかない。
世話好きのシュイロが許すはずはない。
「ふん!」
トアオは頬を膨らませて視線を反らす。
『ヒウタ、死なないで帰ってきたら褒美をやる、特別報酬だ。もう私は、ヒウタは最後まで人のために頑張る勇敢な男だった、そう思う準備はしているつもりだ』
「諦めないでください⁉ でもまさかシュイロさんの知り合いで開発の方だったとは」
『そういう運命だ。死にそうになったら逃げろ』
「真剣にシュイロさんに言われるとより怖いですが」
『でも本当に無事で帰ってこい』
「もちろんです」
通話を切る。
まさかシュイロの知り合いとは驚きだ。
「そろそろ高速抜けるから、準備してね。ダウジングパワー、ね」
「トアオさん何をするんですか?」
「武器とか、貴重品を持つ。大丈夫」
円らな瞳がヒウタに刺さる。
うるうるした目を向けられても恐怖が消えることはない。
高速を抜けて。
それから飲食店で昼食を済ませる。
さらに進んでようやく車が止まる。
車を降りると目の前には草木が繁茂する山があった。
「ここね」
トアオは楽しそうに言う。
ヒウタは気味の悪い森を眺めていた。
「運ちゃん、よろしく。ヒウタ、さんは、ちょっと息を止めてて」
車の中。
運ちゃんは運転席、ヒウタとトアオは後ろの席にいる。
ヒウタは察して鼻を摘まむ。
「よし!」
トアオは分厚い革製のような手袋を両手にして。
レンズの縁が太めの眼鏡を掛ける。
「いつまで息を止めるの?」
ヒウタの顔がだんだん赤くなる。
「もう、少し、なの」
ヒウタは魅入る。
空中に大量の画面が表示されていて、トアオは次々と操作していた。
「うーん、そろそろ」
ヒウタは中の空気を吸おうとして口をすぼめた表情になる。
そろそろ限界だ
「来た」
トアオが叫んだ瞬間だった。
バンッと音を立てて天井が上がり洗面台や工具が現れる。
そして天井が元の高さまで下がった。
内装が変化して運ちゃんとの間には仕切りがある。
「簡易な作業場。目的地に辿り着いた、ら、運ちゃんがダウジング、してそれ、を頼りにオーパーツ。入手したら持って、帰って、車の中で部品を取り出して取り付ける。オーパーツの行方が分からなくなる、三人のうち誰か、死ぬ。私たちの敗北」
本当に死ぬのか?
車の変形を見ていると死ぬ可能性が否定できない。
ヒウタは深呼吸をする。
「知らないことばかりだ」
その言葉に尽きる。
何でもするとは言ったが予想外である。
「どうして息を止めるの?」
「人の気配が、すると。気が散る」
「あ、そうですかい」
ヒウタは考えるのも反抗するのもやめた。
「あ、バイトとかしてる、なら休みの連絡。当分は帰れない、から」
「分かった。一応してみる」
シュイロにどう説明するのがいいのだろうか?
マッチングアプリでマッチングした相手に誘拐されて、オーパーツ探しの旅に連れていかれた。
うん、事実だが分かってもらえないだろう。
シュイロにメッセージを送る。
『旅行に行くのでアルバイト休みたいです』
送ってから気づく。
高校生は夏休み明けている。
シュイロが通信制高校に通う時間を作るためにヒウタはアルバイトをしている。
元々マッチングアプリのお問い合わせ対応のほとんどをシュイロが行っていたらしい。
ここでヒウタが手伝えなくなったら。
『いつまで?』
当然の質問である。
しかしトアオは当分家には帰れないと言っていた。
「トアオさん、いつまで休みますか?」
「九月中」
「分かりました」
ヒウタはメッセージを送る。
『九月中です』
シュイロからメッセージが来た。
『やけに長い旅行だな。ちょっと話したい、通話できるか?』
急に長い旅行行くとなれば気になっても仕方ない。
シュイロにどこまで説明できるか説明したとして理解できるか。
「トアオさん、雇い主が通話したいそうです。よろしいですか?」
「ん」
トアオは頷く。
電話を掛ける。
ピロリンと音が鳴った。
「すみません、休みを突然報告する形になってしまって」
画面の向こうから笑い声が聞こえた。
『死ぬなよ、ヒウタ』
「たぶん大丈夫ですよ」
ヒウタは言ってから気づく。
トアオの話はしていないはず。
そうしたらなぜ死ぬなという言葉が出てくるのか。
休みの申請が急だったから何かに悩んで自殺すると思っているのだろうか。
「悩みは大きいものはないです。自殺しませんよ」
『ついに恋活が上手くいかずに死ぬかと。ならどうして休みを?』
「シュイロさんには分からないと思うのですが、今日の朝急にオーパーツみたいなよく分からないものを探すと言われて。マッチング相手です」
また、笑い声が聞こえた。
『やっぱりそうだよな、死ぬなよヒウタ。トアオちゃんでしょ?』
ん?
シュイロはトアオを知っている。
ハイテクな話をしていてシュイロが知っている。
パズルのピースがはまった。
「トアオさんってアプリの開発の人か! シュイロさんと喧嘩している」
「私、いつも、説教だけ。野蛮、喧嘩できない。代わりに猫カフェとか行くの止めた。本の読み聞かせ、なんて、私があがり症だ、し、できるわけないのに」
トアオは手を胸に当てながら呼吸を繰り返す。
必死に言葉を紡ぐ。
『優秀な開発者だが命知らずな所ばかり。説教もする!』
シュイロが言い切る。
説教されているのか。
死ぬかもと言われて不安しかない。
世話好きのシュイロが許すはずはない。
「ふん!」
トアオは頬を膨らませて視線を反らす。
『ヒウタ、死なないで帰ってきたら褒美をやる、特別報酬だ。もう私は、ヒウタは最後まで人のために頑張る勇敢な男だった、そう思う準備はしているつもりだ』
「諦めないでください⁉ でもまさかシュイロさんの知り合いで開発の方だったとは」
『そういう運命だ。死にそうになったら逃げろ』
「真剣にシュイロさんに言われるとより怖いですが」
『でも本当に無事で帰ってこい』
「もちろんです」
通話を切る。
まさかシュイロの知り合いとは驚きだ。
「そろそろ高速抜けるから、準備してね。ダウジングパワー、ね」
「トアオさん何をするんですか?」
「武器とか、貴重品を持つ。大丈夫」
円らな瞳がヒウタに刺さる。
うるうるした目を向けられても恐怖が消えることはない。
高速を抜けて。
それから飲食店で昼食を済ませる。
さらに進んでようやく車が止まる。
車を降りると目の前には草木が繁茂する山があった。
「ここね」
トアオは楽しそうに言う。
ヒウタは気味の悪い森を眺めていた。
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