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7章 のんびり少女が悠長すぎる!67~89話
その3 ヒウタと突然
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トアオと待ち合わせのために駅に来た。
しかも始発の電車で。
太陽がまだ手加減していて涼しい風が心地良い。
スマホを開く。
マッチングアプリのメッセージを見る。
『ここに来て』
地図の画像が送られてきた。
信号の向こう側、居酒屋の方向。
コンビニがあるよう。
「どこ集合か分からないな。集合で使えるような目印があるとは思えない」
ヒウタは歩く。
周りを見渡す。
車やスーツ姿の人を見かけるが、ヒウタが進む方向には誰もいない。
今日は平日、暇なのは大学生くらいである。
信号を駆ける。
ヒウタは視線を左右に。
トアオらしい姿は見えない。
居酒屋?
看板を見る。
十七時から営業らしい。
居酒屋通りだからか人が全くいない。
自分だけが社会に置いていかれる感覚。
一人だけが逆走しているのだ。
「ん?」
ヒウタはバランスを崩して後ろに倒れそうになる。
腕を掴まれたらしい。
これはまずい。
一体?
口を黒い手袋で塞がれてワンボックスカーに連れ込まれる。
「ぷはっ」
車の扉が閉まってようやく手が離れた。
車の中に入ってしまった。
どうする?
「さて、君は誘拐されたわけだ」
ウェーブを掛けたボブカットの女性。
その声は落ち着いていてアナウンサーのように聞き取りやすい。
「誘拐?」
ヒウタは上手く息を吸えずに枯れた声で。
「いつ家に帰れるかな、ヒウタくん! あ、私のことは運転手だから運ちゃんって呼んで!」
運ちゃんはヒウタの頭を撫でて笑う。
悪い人では無さそうだ。
……、誘拐されたのになぜそう思うか分からなかった。
「あたしは敵じゃないよ。トアオちゃんのお友達かな?」
ヒウタは胸を撫で下ろす。
とはいえ。
これから何をするのだろうか?
……、あたしは敵じゃない?
「敵じゃないとは?」
恐る恐る聞く。
「これから敵とやり合うことも少なくないから。あといつもあたしはツインテールかポニーテールだけど、短くしないと生存率下がるからさ。命知らずだね、トアオちゃんに何でもするって言うなんて。けど死ぬ可能性があるのはあたしも久しぶりかも?」
……、何を言っている?
日本語を聞いているはずなのに頭が働かない。
生存率?
「死ぬって」
「そうそう、死ぬけど」
運ちゃんは手の平を見せて人差し指をヒウタに向ける。
「まじか」
「トアオちゃん寝坊だから迎えに行こう!」
「寝坊? 先ほどのメッセージは?」
「あたしが送った」
「どうやって?」
「トアオちゃんが、一時的にあたしが操作できるようにして。理解できないって顔だ。そういうものだって納得しないとすぐ死ぬかも?」
ヒウタはシートにもたれるように崩れた。
関わってはいけない人に関わっている。
「ヒウタくん、朝ご飯食べた?」
運ちゃんは運転席に戻る。
ボタンを押すと車から振動音が聞こえる。
サンドブレーキを下ろして、シフトレバーをリズミカルに動かす。
「一応食べましたけど」
「着いたら一緒にカップ麺食べよう。もちろんラーメン一択」
「え?」
「トアオちゃんの家に行って、カップ麺大会します! 一通り旅の準備はしたけど武器がないから。迎えに行こう!」
ヒウタはシートベルトをきつく締める。
不安しかない。
車は動き出す。
意外にも、といっても当たり前のことだが、安全運転だった。
急ブレーキ、アクセルはなく優しく踏んでいる。
「二人のうちに話したいことある?」
「今からでも抜けていいですか?」
「トアオちゃんは一人でも行くと思うな。それでも帰りたい?」
ヒウタは黙る。
帰った方がいいと思う。
その考えは間違っていないだろう。
それでも帰れなかったのは、日常に非日常を求めているからかもしれない。
「あたしは今のうちに話したいことがある」
「はい」
「トアオちゃんのためには死にたくないから。もう駄目って思ったら逃げるから。ヒウタくんはどうする? あたしはどんな返答をしようが、ヒウタくんはトアオちゃんを守りにいくタイプとは思うよ」
「旅ってどれくらいかけるつもりですか。僕も死にたくないですよ」
「一週間では間に合わないね。だから夏休みに。旅の目的を聞いても理解はできないだろうけど、まあトアオちゃんから聞くといいよ」
車が止まる。
一軒家の屋根付き駐車場。
ヒウタは降りて運ちゃんに付いていく。
広い庭を越えて玄関の扉に着く。
ヒウタはインターホンを押そうとした。
「いいや、鍵で入るから。どうせ起こせないよ」
家に入る。
靴を脱いで進む。
「寝室とキッチン以外には入っちゃ駄目と。一応トアオちゃんに言われてるから」
「分かりました」
「さあ寝室へ!」
木目が見える引き戸を開ける。
白いベッド。
身体がベッドから落ちそうになっていて、頭が逆立ちのように逆さの向きになっている。
足は掛け布団が巻かれていて固定されている。
白いシャツからはピンク色の下着が透けて見える。
「どうせ起きないから好きなとこ触って」
「?」
聞き間違いだ。
ヒウタは床に胡坐をかく。
「ヒウタくん、女体に興味はないの?」
「ふぁっ」
驚いて高い声を出してしまった。
「どこを触っても気づかないと思う。胸とか興味ない?」
「何言ってるんですか!」
からかわれた。
一瞬下着が透けて見えて悔しい。
「カップ麺探してお湯作って戻ってくるから。あたしはトアオと一緒に住んでいて、あたしが毎朝起こしている。カップ麺の香りを嗅ぐまでは起きない。もちろん食べ物の匂いなら他でも目を覚ますけど」
運ちゃんは寝室を出た。
トアオの頭は血が上って赤くなっている。
ヒウタはトアオをベッドの真ん中に移動させた。
甘い温もりがヒウタを包む。
どうして女性はここまでいい香りがするのか?
ヒウタは目を瞑った。
早朝に起きて眠かったらしい。
しかも始発の電車で。
太陽がまだ手加減していて涼しい風が心地良い。
スマホを開く。
マッチングアプリのメッセージを見る。
『ここに来て』
地図の画像が送られてきた。
信号の向こう側、居酒屋の方向。
コンビニがあるよう。
「どこ集合か分からないな。集合で使えるような目印があるとは思えない」
ヒウタは歩く。
周りを見渡す。
車やスーツ姿の人を見かけるが、ヒウタが進む方向には誰もいない。
今日は平日、暇なのは大学生くらいである。
信号を駆ける。
ヒウタは視線を左右に。
トアオらしい姿は見えない。
居酒屋?
看板を見る。
十七時から営業らしい。
居酒屋通りだからか人が全くいない。
自分だけが社会に置いていかれる感覚。
一人だけが逆走しているのだ。
「ん?」
ヒウタはバランスを崩して後ろに倒れそうになる。
腕を掴まれたらしい。
これはまずい。
一体?
口を黒い手袋で塞がれてワンボックスカーに連れ込まれる。
「ぷはっ」
車の扉が閉まってようやく手が離れた。
車の中に入ってしまった。
どうする?
「さて、君は誘拐されたわけだ」
ウェーブを掛けたボブカットの女性。
その声は落ち着いていてアナウンサーのように聞き取りやすい。
「誘拐?」
ヒウタは上手く息を吸えずに枯れた声で。
「いつ家に帰れるかな、ヒウタくん! あ、私のことは運転手だから運ちゃんって呼んで!」
運ちゃんはヒウタの頭を撫でて笑う。
悪い人では無さそうだ。
……、誘拐されたのになぜそう思うか分からなかった。
「あたしは敵じゃないよ。トアオちゃんのお友達かな?」
ヒウタは胸を撫で下ろす。
とはいえ。
これから何をするのだろうか?
……、あたしは敵じゃない?
「敵じゃないとは?」
恐る恐る聞く。
「これから敵とやり合うことも少なくないから。あといつもあたしはツインテールかポニーテールだけど、短くしないと生存率下がるからさ。命知らずだね、トアオちゃんに何でもするって言うなんて。けど死ぬ可能性があるのはあたしも久しぶりかも?」
……、何を言っている?
日本語を聞いているはずなのに頭が働かない。
生存率?
「死ぬって」
「そうそう、死ぬけど」
運ちゃんは手の平を見せて人差し指をヒウタに向ける。
「まじか」
「トアオちゃん寝坊だから迎えに行こう!」
「寝坊? 先ほどのメッセージは?」
「あたしが送った」
「どうやって?」
「トアオちゃんが、一時的にあたしが操作できるようにして。理解できないって顔だ。そういうものだって納得しないとすぐ死ぬかも?」
ヒウタはシートにもたれるように崩れた。
関わってはいけない人に関わっている。
「ヒウタくん、朝ご飯食べた?」
運ちゃんは運転席に戻る。
ボタンを押すと車から振動音が聞こえる。
サンドブレーキを下ろして、シフトレバーをリズミカルに動かす。
「一応食べましたけど」
「着いたら一緒にカップ麺食べよう。もちろんラーメン一択」
「え?」
「トアオちゃんの家に行って、カップ麺大会します! 一通り旅の準備はしたけど武器がないから。迎えに行こう!」
ヒウタはシートベルトをきつく締める。
不安しかない。
車は動き出す。
意外にも、といっても当たり前のことだが、安全運転だった。
急ブレーキ、アクセルはなく優しく踏んでいる。
「二人のうちに話したいことある?」
「今からでも抜けていいですか?」
「トアオちゃんは一人でも行くと思うな。それでも帰りたい?」
ヒウタは黙る。
帰った方がいいと思う。
その考えは間違っていないだろう。
それでも帰れなかったのは、日常に非日常を求めているからかもしれない。
「あたしは今のうちに話したいことがある」
「はい」
「トアオちゃんのためには死にたくないから。もう駄目って思ったら逃げるから。ヒウタくんはどうする? あたしはどんな返答をしようが、ヒウタくんはトアオちゃんを守りにいくタイプとは思うよ」
「旅ってどれくらいかけるつもりですか。僕も死にたくないですよ」
「一週間では間に合わないね。だから夏休みに。旅の目的を聞いても理解はできないだろうけど、まあトアオちゃんから聞くといいよ」
車が止まる。
一軒家の屋根付き駐車場。
ヒウタは降りて運ちゃんに付いていく。
広い庭を越えて玄関の扉に着く。
ヒウタはインターホンを押そうとした。
「いいや、鍵で入るから。どうせ起こせないよ」
家に入る。
靴を脱いで進む。
「寝室とキッチン以外には入っちゃ駄目と。一応トアオちゃんに言われてるから」
「分かりました」
「さあ寝室へ!」
木目が見える引き戸を開ける。
白いベッド。
身体がベッドから落ちそうになっていて、頭が逆立ちのように逆さの向きになっている。
足は掛け布団が巻かれていて固定されている。
白いシャツからはピンク色の下着が透けて見える。
「どうせ起きないから好きなとこ触って」
「?」
聞き間違いだ。
ヒウタは床に胡坐をかく。
「ヒウタくん、女体に興味はないの?」
「ふぁっ」
驚いて高い声を出してしまった。
「どこを触っても気づかないと思う。胸とか興味ない?」
「何言ってるんですか!」
からかわれた。
一瞬下着が透けて見えて悔しい。
「カップ麺探してお湯作って戻ってくるから。あたしはトアオと一緒に住んでいて、あたしが毎朝起こしている。カップ麺の香りを嗅ぐまでは起きない。もちろん食べ物の匂いなら他でも目を覚ますけど」
運ちゃんは寝室を出た。
トアオの頭は血が上って赤くなっている。
ヒウタはトアオをベッドの真ん中に移動させた。
甘い温もりがヒウタを包む。
どうして女性はここまでいい香りがするのか?
ヒウタは目を瞑った。
早朝に起きて眠かったらしい。
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