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6章 恋の価値が重大すぎる!48~66話
エピソード5 これも間違い
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トウヤは肉を焼く。
ヒウタは網の端に一切れのかぼちゃを置いて。
焼き肉屋にて。
トウヤとヒウタが向かい合うように、ヒウタの隣がシュイロになるように座った。
メニューはコースを頼んで、加えて肉や卵スープを追加で。
飲み放題コースもあるが、仕事モードのシュイロは酒を飲まない。
「竹白刀矢、タケシロと呼ぼう。どうして呼んだか分かるか? 私はマッチングアプリの代表をしているんだが」
シュイロはトングで肉を裏に返す。
「まさか歓迎パーティではないことくらいは。焼き肉は美味しそうだけど」
トウヤは焼けた肉をタレに浸ける。
「心当たりは?」
「さあ。余計なこと言ったら不利にならない?」
「ならない。責めたいわけではない、悪意はおそらくないだろうし」
シュイロは水をごくりと飲んで。
ヒウタは緊張感漂う中、雇い主であるシュイロの言葉を待つ。
トウヤはタレから肉を掬って口へ。
「知ってるよ、僕と会った女性が何人もやめた。たぶん良くないことをしてしまっている。けどそれ以上は分からない。これ以上話すことはない」
網の空いたスペースに肉を並べる。
ヒウタは表面が焦げたかぼちゃを取り皿へ。
「トウヤさん、どれだけの女性が傷ついてきたと思って!」
ヒウタは立ち上がる。
トウヤは激しく頭を掻く。
「分からないんだよ、どうなったら恋で本気なのか。なんで数回会っただけで告白できるのか振られて泣けるのか、そんなすぐ俺なんかを好きって思えるか。なのに、学校では教えてくれない、意味が分からない。傷つけたんだろうってそれしか分からなくて。君が恋を教えてって何度も助けを呼んだ、……。なのにっ」
淡々とシュイロは聞いていた。
トウヤは息を切らす。
「みんないなくなって」
「その対処が全て間違ってるからだ。人が何かをするとき、その手前にもその奥にも人がいることを忘れてはいけない」
シュイロはご飯の上に肉を置いて、さらに小鉢にあるキムチを盛る。
焼き肉丼を作って。
箸で肉を掴む。
肉でご飯とキムチを包む。
口をすぼめて息を吹くと、湯気が靡いて消える。
口に入れて幸せそうに頬に手を当てて。
ごくりと飲み込むとようやくトウヤを見る。
「アプリを退会した女性からは、しんどくなったって意見が来てた」
「しんどい?」
「さあ、どうだろう? タケシロは分からないが、相手の女性は恋をしに来ているからな。愛したい人、愛してほしい人を探してる。相手に期待させてたな」
「期待させていたって、僕は恋を教えてって」
「ほらな」
「ほらって言われても」
シュイロは再び肉を網へ。
「その、恋を教えるというミッション的な要素。使命感を与えすぎる。それでもタケシロは恋について分からないし、他の女性にも堪らず会いに行く。しんどいだろうな、それは」
焦げて両面炭になりかけたピーマンをヒウタへ。
よく焼いた肉はシュイロ自身へ。
ヒウタはピーマンを見ると、諦めて焼き肉のタレに浸けた。
「だから傷つけてきたのか? あんなに楽しそうに」
「タケシロに気に入られたいから笑顔を見せた。タケシロの外見が好みだったからしんどくても楽しいと思える瞬間があった。そういうことだろうな」
「そっか。僕は我慢させてそれを真実だと思ってきたのか」
「そういうことだ」
「ああ、ひどいことしたんだな」
「これからどうする? まだ恋を続けるか?」
シュイロは卵スープを飲む。
塩味の効いたわかめ、ふわふわ食感の卵。
「僕はどうしたらいいか分からない。また人を傷つけるのかなって」
「人を傷つけない恋があればそれに越したことはない。ただ人と人の願望が、考え方が、人生が衝突する以上、どうしても譲れないものがある。何度も傷つけるだろう」
シュイロはスマホを取り出す。
トウヤに見せた画面には退会したアカウントの数が時間ごとに表示されている。
「ここはタケシロのためだけの場所ではないからな。こんなにも退会者が出ると問題なんだ」
「それは」
トウヤは気まずそうにして。
箸を一度置く。
「だから聞きたい。まだ恋をするか? せめて一度の恋で会う人間を一人にしてほしい。あとできるだけ気を遣ってな」
シュイロが諭すように言う。
トウヤは俯く。
「僕はもう一度チャンスがほしい。誰かを愛したかった。このまま恋を逃して生きていきたくない。僕は愛されたいっ」
シュイロは微笑む。
「覚悟が決まったなら、もう話すことはないな」
シュイロは肉を完食して。
ヒウタはまるでベジタリアンだった。
ほとんど肉を食べられず。
「いや、そのシュイロさん?」
「どうした表情筋をぴくぴくさせて?」
「野菜ばっかりわざとですよね?」
「肉頼んでいいぞ?」
「野菜ばかり食べて結構お腹膨れてますって」
「そうなのか?」
「はい。もっと肉食べたかった!」
「また奢るから。な?」
「なら許しますけど」
楽しそうに笑う、ヒウタとシュイロ。
トウヤは水を呷って。
「俺は傷つけ過ぎたか」
トウヤは一瞬、目を擦るのだった。
ヒウタは網の端に一切れのかぼちゃを置いて。
焼き肉屋にて。
トウヤとヒウタが向かい合うように、ヒウタの隣がシュイロになるように座った。
メニューはコースを頼んで、加えて肉や卵スープを追加で。
飲み放題コースもあるが、仕事モードのシュイロは酒を飲まない。
「竹白刀矢、タケシロと呼ぼう。どうして呼んだか分かるか? 私はマッチングアプリの代表をしているんだが」
シュイロはトングで肉を裏に返す。
「まさか歓迎パーティではないことくらいは。焼き肉は美味しそうだけど」
トウヤは焼けた肉をタレに浸ける。
「心当たりは?」
「さあ。余計なこと言ったら不利にならない?」
「ならない。責めたいわけではない、悪意はおそらくないだろうし」
シュイロは水をごくりと飲んで。
ヒウタは緊張感漂う中、雇い主であるシュイロの言葉を待つ。
トウヤはタレから肉を掬って口へ。
「知ってるよ、僕と会った女性が何人もやめた。たぶん良くないことをしてしまっている。けどそれ以上は分からない。これ以上話すことはない」
網の空いたスペースに肉を並べる。
ヒウタは表面が焦げたかぼちゃを取り皿へ。
「トウヤさん、どれだけの女性が傷ついてきたと思って!」
ヒウタは立ち上がる。
トウヤは激しく頭を掻く。
「分からないんだよ、どうなったら恋で本気なのか。なんで数回会っただけで告白できるのか振られて泣けるのか、そんなすぐ俺なんかを好きって思えるか。なのに、学校では教えてくれない、意味が分からない。傷つけたんだろうってそれしか分からなくて。君が恋を教えてって何度も助けを呼んだ、……。なのにっ」
淡々とシュイロは聞いていた。
トウヤは息を切らす。
「みんないなくなって」
「その対処が全て間違ってるからだ。人が何かをするとき、その手前にもその奥にも人がいることを忘れてはいけない」
シュイロはご飯の上に肉を置いて、さらに小鉢にあるキムチを盛る。
焼き肉丼を作って。
箸で肉を掴む。
肉でご飯とキムチを包む。
口をすぼめて息を吹くと、湯気が靡いて消える。
口に入れて幸せそうに頬に手を当てて。
ごくりと飲み込むとようやくトウヤを見る。
「アプリを退会した女性からは、しんどくなったって意見が来てた」
「しんどい?」
「さあ、どうだろう? タケシロは分からないが、相手の女性は恋をしに来ているからな。愛したい人、愛してほしい人を探してる。相手に期待させてたな」
「期待させていたって、僕は恋を教えてって」
「ほらな」
「ほらって言われても」
シュイロは再び肉を網へ。
「その、恋を教えるというミッション的な要素。使命感を与えすぎる。それでもタケシロは恋について分からないし、他の女性にも堪らず会いに行く。しんどいだろうな、それは」
焦げて両面炭になりかけたピーマンをヒウタへ。
よく焼いた肉はシュイロ自身へ。
ヒウタはピーマンを見ると、諦めて焼き肉のタレに浸けた。
「だから傷つけてきたのか? あんなに楽しそうに」
「タケシロに気に入られたいから笑顔を見せた。タケシロの外見が好みだったからしんどくても楽しいと思える瞬間があった。そういうことだろうな」
「そっか。僕は我慢させてそれを真実だと思ってきたのか」
「そういうことだ」
「ああ、ひどいことしたんだな」
「これからどうする? まだ恋を続けるか?」
シュイロは卵スープを飲む。
塩味の効いたわかめ、ふわふわ食感の卵。
「僕はどうしたらいいか分からない。また人を傷つけるのかなって」
「人を傷つけない恋があればそれに越したことはない。ただ人と人の願望が、考え方が、人生が衝突する以上、どうしても譲れないものがある。何度も傷つけるだろう」
シュイロはスマホを取り出す。
トウヤに見せた画面には退会したアカウントの数が時間ごとに表示されている。
「ここはタケシロのためだけの場所ではないからな。こんなにも退会者が出ると問題なんだ」
「それは」
トウヤは気まずそうにして。
箸を一度置く。
「だから聞きたい。まだ恋をするか? せめて一度の恋で会う人間を一人にしてほしい。あとできるだけ気を遣ってな」
シュイロが諭すように言う。
トウヤは俯く。
「僕はもう一度チャンスがほしい。誰かを愛したかった。このまま恋を逃して生きていきたくない。僕は愛されたいっ」
シュイロは微笑む。
「覚悟が決まったなら、もう話すことはないな」
シュイロは肉を完食して。
ヒウタはまるでベジタリアンだった。
ほとんど肉を食べられず。
「いや、そのシュイロさん?」
「どうした表情筋をぴくぴくさせて?」
「野菜ばっかりわざとですよね?」
「肉頼んでいいぞ?」
「野菜ばかり食べて結構お腹膨れてますって」
「そうなのか?」
「はい。もっと肉食べたかった!」
「また奢るから。な?」
「なら許しますけど」
楽しそうに笑う、ヒウタとシュイロ。
トウヤは水を呷って。
「俺は傷つけ過ぎたか」
トウヤは一瞬、目を擦るのだった。
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