規約違反少女がマッチングアプリで無法すぎる!

アメノヒセカイ

文字の大きさ
上 下
55 / 162
6章 恋の価値が重大すぎる!48~66話

エピソード4 君が教えて

しおりを挟む
 トウヤと一人の女性は映画館へ行った。
 昼間は暑い。
 できるだけ暑さを感じないところ、そう考えると映画館は適切だろう。
 トウヤは力が抜けたような、輪郭が分からない服を着て。
 対して女性はロングスカートで、丁寧に着ているのが分かる。
「トウヤ君、どれだっけ?」
「これこれ」
 トウヤはチケットを二枚取り出す。
 チケットを持った手で、額縁に入った映画の広告を指す。
「恋愛だっけ、これって」
「その方がデートらしいって思って。僕は詳しくないから」
 トウヤは恋愛に対して詳しくないと言っているが、女性からすれば映画自体にしか聞こえない。
 女性はトウヤの優しい目を見て。
 勇気を振り絞り、手を差し出す。
「あの、どうですか?」
 トウヤは微笑む。
「ポップコーンとジュースを買って。席に座ったらかな。零したら大変」
 トウヤはキャラメルポップコーンを買って。
 ジュースはトウヤも女性もウーロン茶にする。
 トウヤは奢っていた。
 ドリンクホルダーに嵌めるためのトレイをトウヤが運んで。
 券を見て席へ。
「繋ごうか」
 トウヤは女性の手を包むように取る。
 映画が始まる。
 トウヤがポップコーンを口へ運ぶと、女性も遠慮がちに食べる。
 トウヤは恋愛映画が分からない。
 どんどん食べるペースが速くなる。
 トウヤは楽しくなかった。
 しかし女性を見ると目を輝かせている。
 トウヤは口が渇いてジュースを詰めた。
 トウヤのジュースばかりが減っていく。
 キスシーンは気まずいし。
 隣の女性の表情が悲しそうになっても、トウヤには退屈で。
 やはり恋は、重大ではなくて。
 勝手に盛り上がっている気味の悪いものではないのか?
 おそらく感動するシーンでも。
 やけに間を空ける音楽ばかりが気になる。
 退屈だ、という感想は終始一貫して。
 中身のないジュースのストローを噛んでしまう。
 ポップコーンも残りがなく。
 ハッピーエンドでホッとする女性の表情が大げさに見えた。
 トウヤは思う、この空間で一番無駄な時間を過ごしたのはトウヤだと。
 ならば、この先の人生でも恋は必要ないもので。
 トウヤの親友であるミライは好きな人ができてイラストを描かなくなって、トウヤと過ごす時間を減らしていったが、ミライが勝手に舞い上がってると見て間違いだろう。
 映画が終わって。
「トウヤ君、ドキドキしちゃった」
「うん」
「私、素敵な恋がしたいね」
「そうだね」
「あのシーンのさ、……、トウヤ君もしかして寝てた?」
 女性はトウヤの顔を覗き込む。
 女性は微笑んでいて、トウヤは少し怖いと思ってしまった。
 怖気づくと女性は目を擦って。
「楽しくなかった?」
「そうかも」
「ごめん」
「いやいや好きなタイプの映画ではないって思ってさ、僕はアクションの方が好きかなって。さあ、ご飯食べよう!」
 トウヤは急いでスマホを出して。
 近くの飲食店を探す。
「私、映画でたくさん共感してね」
「うん」
 トウヤは先の言葉を聞かないようにスマホを操作する。
 女性はトウヤの手を取って。
「トウヤ君も私と一緒に」
「どうしたの?」
 女性は息を吸って。
「一緒に、恋してるよね? 間違いないよね?」
 女性の目に涙が浮かぶ。
 トウヤはその女性の頭を撫でる。
「優しくしないで。私なんてどうでも良くて」
「そうじゃなくて。そうじゃないんだ」
「だって私だけが苦しそうに」
 トウヤは女性を抱き締める。
「僕は恋が良く分かってないんだ、ごめん」
「なにそれ」
 女性はトウヤから離れて、トウヤに背中を向ける。
「ごめん」
「ごめんって言われも私の魅力がないってことが分かるだけで、やっぱりしんどいよ」
 女性の声が映画館に響いて、大勢からの注目を浴びてしまう。
 トウヤは涙を流す。
 鼻水を流してくしゃくしゃな表情で。
 鼻水を啜る声を聞いて、女性は振り返る。
 トウヤがこんなにも悩んでいるなんて知らなかった。
「僕は君の気持ちも恋というのも分からなくてさ。君をたくさん傷つけてるのも分かってる。だから」
 トウヤは女性の両手を強く握る。
「君が教えて」
「トウヤ君」
 女性は考え込んで。
「もう、本当に変わった人なんだから」
 ハンカチをトウヤに渡す。
「鼻水も出てるけど?」
「ならこっちも」
 ポケットティッシュを渡す。
 必死に溢れる涙や鼻水を拭く。
 それから時間が経って。
「ご飯行くよね?」
「はい」
「もうタメ口でいいわ」
「行く。俺は、うどんでも食べたいなって」
「賛成かな」
「ありがと」
 トウヤはホッと息をして。
 女性の隣を歩く。
 正確にはやや後ろであるが。
 正確には歩いているというより、繋いだ手で引いてもらっているが。
 この恋は順調かも、トウヤは思う。
 それから、この人なら愛していいとも思った。
「トウヤ、よく食べるのね」
「大盛り、トッピングくらいなら普通だよ」
「ふーん、知らない世界もあるものだ」
「そう?」
「トウヤはさ、私と話して楽しいって思ってる?」
 女性は麺を啜りながら。
「楽しいからこそ、恋を知りたいなって」
「本当に分からない人ね」
「そうかも」
「イケメンなのに」
「照れますが?」
「よく言われない?」
「あまり」
 トウヤは黙って食べ進める。
 それを見て女性も食事に集中した。
「トウヤ、じゃあね」
 女性が手を振って。
「ああ。また」
 トウヤが振り返す。
 今日のデートは上手くできた、トウヤは思う。
 こうして、トウヤの恋活が順調に行くはずだった。
 ただトウヤは気づいていなかった。
 トウヤがどんどん堕ちていることを。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クールな生徒会長のオンとオフが違いすぎるっ!?

ブレイブ
恋愛
政治家、資産家の子供だけが通える高校。上流高校がある。上流高校の一年生にして生徒会長。神童燐は普段は冷静に動き、正確な指示を出すが、家族と、恋人、新の前では

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

冴えない俺と美少女な彼女たちとの関係、複雑につき――― ~助けた小学生の姉たちはどうやらシスコンで、いつの間にかハーレム形成してました~

メディカルト
恋愛
「え……あの小学生のお姉さん……たち?」 俺、九十九恋は特筆して何か言えることもない普通の男子高校生だ。 学校からの帰り道、俺はスーパーの近くで泣く小学生の女の子を見つける。 その女の子は転んでしまったのか、怪我していた様子だったのですぐに応急処置を施したが、実は学校で有名な初風姉妹の末っ子とは知らずに―――。 少女への親切心がきっかけで始まる、コメディ系ハーレムストーリー。 ……どうやら彼は鈍感なようです。 ―――――――――――――――――――――――――――――― 【作者より】 九十九恋の『恋』が、恋愛の『恋』と間違える可能性があるので、彼のことを指すときは『レン』と表記しています。 また、R15は保険です。 毎朝20時投稿! 【3月14日 更新再開 詳細は近況ボードで】

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

貞操観念逆転世界におけるニートの日常

猫丸
恋愛
男女比1:100。 女性の価値が著しく低下した世界へやってきた【大鳥奏】という一人の少年。 夢のような世界で彼が望んだのは、ラブコメでも、ハーレムでもなく、男の希少性を利用した引き籠り生活だった。 ネトゲは楽しいし、一人は気楽だし、学校行かなくてもいいとか最高だし。 しかし、男女の比率が大きく偏った逆転世界は、そんな彼を放っておくはずもなく…… 『カナデさんってもしかして男なんじゃ……?』 『ないでしょw』 『ないと思うけど……え、マジ?』 これは貞操観念逆転世界にやってきた大鳥奏という少年が世界との関わりを断ち自宅からほとんど出ない物語。 貞操観念逆転世界のハーレム主人公を拒んだ一人のネットゲーマーの引き籠り譚である。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

処理中です...