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6章 恋の価値が重大すぎる!48~66話
その4 ヒウタとシュイロⅡ
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どうしてこうなった?
ヒウタの一室。
布団は一つ。
いやいや、それはヒウタが譲ればいい。
問題は一人暮らしにも関わらず、聞こえるシャワーの音。
もちろん、ホラー現象ではない。
綺麗な女性が扉の向こうで。
なんて気持ち悪い思考を一時停止。
ここはそもそもシャワーを使っている女性、シュイロが借りている部屋だ。
それをシュイロのマッチングアプリでバイトをしているヒウタに提供している。
問題はそれでもない。
いくらか遠回りしたが一番言いたいことは。
「シュイロさんが泊まるってマジか」
ヒウタは壁を背にして座り込む。
黙ってくれない心臓、熱い汗、あらゆる感触が朧げ。
この状況に陥ってしまったのは、ほんの一時間くらい前。
『ヒウタ、私お酒弱いんだ』
花火を持って。
ヒウタはシュイロと帰路へ。
シュイロは片手に缶を、もう一方にも缶を。
同じビールにも関わらず、飲み比べるように交互に。
酔っているからか、足がふらつく。
「シュイロさん、もう少し休みましょう」
『ええー、どこか自販機あるのか?』
「水必要ですか?」
シュイロは下を向いて立ち止まる。
『……、酒』
顔を赤くするシュイロ。
もうこの人は駄目かもしれない。
ヒウタが一瞬目を離したときだった。
シュイロを見失った。
「シュイロさん⁉」
『どうした、ヒウタ』
探す暇もなくシュイロが戻って。
またビールを持っていた。
『ここで別々か、今日はありがとな』
と言うと、シュイロはふらふらして。
電柱に頭を軽く打って、そのまま寄りかかる。
今日の夜は暑くなさそうだが。
流石に雇い主を放っておくわけにはいかない。
「シュイロさん、大丈夫ですか?」
シュイロは手に持っている缶をクイッと口へ。
喉を鳴らす。
『ヒウタ、私のことは気にせずに先に進め。私、帰れないんだ』
諦めの瞳。
いつだってこの人は自分のことを後回しにして。
こうして最後まで激励して、……。
違う、シュイロの出す雰囲気に流されそうだった。
この人は酔ってるだけ。
戦場の兵士のような台詞に誤魔化されてはいけない。
「行きますよ」
ヒウタはシュイロを電柱から引き剥がして。
シュイロは瞼を閉じたり開いたりしながら、ぼうっと引き摺られる。
『分かった、ヒウタの部屋に帰ろう。私が借りた部屋だろ?』
雇い主であるシュイロに言われたら言い返せない。
ヒウタは諦める。
シュイロを背負ってなんとか部屋まで運んだのだった。
「悪いな、先にシャワーを」
壁越しの声。
浴室に響く声。
高くて透き通っていて。
「シュイロさんが借りてる部屋ですし。野郎が使った後は、ね」
シュイロの笑い声が聞こえてくる。
「別に構わないけどな。なんなら一緒に浴びても」
ヒウタは一瞬シュイロの姿態を浮かべて。
しかも金や宝石のように輝く想像をして。
じんと痛む鼻を摘まむのだった。
「からかい過ぎたか?」
シュイロは下着姿でヒウタの前に。
ヒウタは固まってしまって。
「ああ、私の下着をじっと見ているのか」
シュイロは真顔で言うが。
ヒウタは顔を赤くして目を反らす。
「そういうことか、分かった。ヒウタ、服を貸してくれ」
「そこの、その辺のやつ、何でもいいので」
せっかくシュイロから目を反らしたヒウタだったが、引き出しを探す姿が映ってしまう。
シュイロは服を着る。
「あ、大体ぴったりかな。ありがと、ヒウタ」
手を合わせて感謝をする。
ヒウタは複雑だ。
男性の中だと身長は低い方だけど、認識しているのと実際に目の前で見せられるのは違う。
「そろそろ僕も」
「分かった。今日は添い寝するか?」
「しません」
「女性が泣いてたら添い寝するだろ?」
「暴論ですが」
ヒウタはシャワーを浴びる。
戻るとシュイロは布団に入っている。
ヒウタは床で。
流石にシュイロと同じ布団で寝るわけにはいかないと。
室内灯を切る。
それでもカーテンを透く月明かりが差し込んで。
シュイロの寝顔が見えてしまう。
シュイロの頬には涙で濡れた後が見えた。
ヒウタは胸が苦しくなって、足がじっとしていられなくて。
静かな寝息のシュイロを見る。
頭に優しく触れる。
「シュイロさんに出会って本当に良かった。だから、シュイロさんが苦しいときは頼ってほしいな」
ヒウタは瞼を閉じる。
夜が終わっていく。
次は太陽の出番だ。
朝。
すずめの声が聞こえて。
朝日が瞼を赤く染めて、その煩わしさでヒウタは瞼を開ける。
目の前にシュイロの表情。
ああ、かわいい。
なんて思ってしまった心臓を止めてやりたい、一日の始まりでそんな邪念を抱いて今日はどうすればいいのか。
「ヒウタ、モーニングでも食べに行こう。今日は空いてるか?」
「空いてますよ」
「二日酔いでしんどいから、今日は私とデートだな」
「二日酔いなら家でじっとした方がいいのでは?」
「私は苦しいから。ヒウタに頼っていいでしょ?」
シュイロはヒウタの手を引く。
「そうですけど」
「私の頭を撫でて言ってたから。記憶の無いこともあるが、大事なことは覚えてるぞ!」
「あれ起きてたのかよ」
「ぎりぎりかな」
「最悪だ」
「最高だが?」
シュイロは朗らかに笑う。
その爽やかさというか、清々しさを見ていると。
ヒウタも笑うしかなかった。
ヒウタの一室。
布団は一つ。
いやいや、それはヒウタが譲ればいい。
問題は一人暮らしにも関わらず、聞こえるシャワーの音。
もちろん、ホラー現象ではない。
綺麗な女性が扉の向こうで。
なんて気持ち悪い思考を一時停止。
ここはそもそもシャワーを使っている女性、シュイロが借りている部屋だ。
それをシュイロのマッチングアプリでバイトをしているヒウタに提供している。
問題はそれでもない。
いくらか遠回りしたが一番言いたいことは。
「シュイロさんが泊まるってマジか」
ヒウタは壁を背にして座り込む。
黙ってくれない心臓、熱い汗、あらゆる感触が朧げ。
この状況に陥ってしまったのは、ほんの一時間くらい前。
『ヒウタ、私お酒弱いんだ』
花火を持って。
ヒウタはシュイロと帰路へ。
シュイロは片手に缶を、もう一方にも缶を。
同じビールにも関わらず、飲み比べるように交互に。
酔っているからか、足がふらつく。
「シュイロさん、もう少し休みましょう」
『ええー、どこか自販機あるのか?』
「水必要ですか?」
シュイロは下を向いて立ち止まる。
『……、酒』
顔を赤くするシュイロ。
もうこの人は駄目かもしれない。
ヒウタが一瞬目を離したときだった。
シュイロを見失った。
「シュイロさん⁉」
『どうした、ヒウタ』
探す暇もなくシュイロが戻って。
またビールを持っていた。
『ここで別々か、今日はありがとな』
と言うと、シュイロはふらふらして。
電柱に頭を軽く打って、そのまま寄りかかる。
今日の夜は暑くなさそうだが。
流石に雇い主を放っておくわけにはいかない。
「シュイロさん、大丈夫ですか?」
シュイロは手に持っている缶をクイッと口へ。
喉を鳴らす。
『ヒウタ、私のことは気にせずに先に進め。私、帰れないんだ』
諦めの瞳。
いつだってこの人は自分のことを後回しにして。
こうして最後まで激励して、……。
違う、シュイロの出す雰囲気に流されそうだった。
この人は酔ってるだけ。
戦場の兵士のような台詞に誤魔化されてはいけない。
「行きますよ」
ヒウタはシュイロを電柱から引き剥がして。
シュイロは瞼を閉じたり開いたりしながら、ぼうっと引き摺られる。
『分かった、ヒウタの部屋に帰ろう。私が借りた部屋だろ?』
雇い主であるシュイロに言われたら言い返せない。
ヒウタは諦める。
シュイロを背負ってなんとか部屋まで運んだのだった。
「悪いな、先にシャワーを」
壁越しの声。
浴室に響く声。
高くて透き通っていて。
「シュイロさんが借りてる部屋ですし。野郎が使った後は、ね」
シュイロの笑い声が聞こえてくる。
「別に構わないけどな。なんなら一緒に浴びても」
ヒウタは一瞬シュイロの姿態を浮かべて。
しかも金や宝石のように輝く想像をして。
じんと痛む鼻を摘まむのだった。
「からかい過ぎたか?」
シュイロは下着姿でヒウタの前に。
ヒウタは固まってしまって。
「ああ、私の下着をじっと見ているのか」
シュイロは真顔で言うが。
ヒウタは顔を赤くして目を反らす。
「そういうことか、分かった。ヒウタ、服を貸してくれ」
「そこの、その辺のやつ、何でもいいので」
せっかくシュイロから目を反らしたヒウタだったが、引き出しを探す姿が映ってしまう。
シュイロは服を着る。
「あ、大体ぴったりかな。ありがと、ヒウタ」
手を合わせて感謝をする。
ヒウタは複雑だ。
男性の中だと身長は低い方だけど、認識しているのと実際に目の前で見せられるのは違う。
「そろそろ僕も」
「分かった。今日は添い寝するか?」
「しません」
「女性が泣いてたら添い寝するだろ?」
「暴論ですが」
ヒウタはシャワーを浴びる。
戻るとシュイロは布団に入っている。
ヒウタは床で。
流石にシュイロと同じ布団で寝るわけにはいかないと。
室内灯を切る。
それでもカーテンを透く月明かりが差し込んで。
シュイロの寝顔が見えてしまう。
シュイロの頬には涙で濡れた後が見えた。
ヒウタは胸が苦しくなって、足がじっとしていられなくて。
静かな寝息のシュイロを見る。
頭に優しく触れる。
「シュイロさんに出会って本当に良かった。だから、シュイロさんが苦しいときは頼ってほしいな」
ヒウタは瞼を閉じる。
夜が終わっていく。
次は太陽の出番だ。
朝。
すずめの声が聞こえて。
朝日が瞼を赤く染めて、その煩わしさでヒウタは瞼を開ける。
目の前にシュイロの表情。
ああ、かわいい。
なんて思ってしまった心臓を止めてやりたい、一日の始まりでそんな邪念を抱いて今日はどうすればいいのか。
「ヒウタ、モーニングでも食べに行こう。今日は空いてるか?」
「空いてますよ」
「二日酔いでしんどいから、今日は私とデートだな」
「二日酔いなら家でじっとした方がいいのでは?」
「私は苦しいから。ヒウタに頼っていいでしょ?」
シュイロはヒウタの手を引く。
「そうですけど」
「私の頭を撫でて言ってたから。記憶の無いこともあるが、大事なことは覚えてるぞ!」
「あれ起きてたのかよ」
「ぎりぎりかな」
「最悪だ」
「最高だが?」
シュイロは朗らかに笑う。
その爽やかさというか、清々しさを見ていると。
ヒウタも笑うしかなかった。
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