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6章 恋の価値が重大すぎる!48~66話
その2 ヒウタと夏祭り
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夏祭りとは?
それは騒ぎたいやつらとイチャつきたいやつらが集う地獄である。
今もその意見は変わらないが。
かわいい女性が浴衣を着て水ヨーヨーを片手に。
その姿を見ると、祭りの見え方が変わる気がした。
「ヒウタ? もう暗くなった」
「うん」
今日は夏祭り。
既に辺りは深い青色に染まって。
夕日はもう見えない。
メリアの提案で、ヒウタは地元からやや遠い祭りにやって来た。
「唐揚げ串、一個買おう」
「分かったけど、その手は?」
メリアはヨーヨーを持っていない手をヒウタに向けた。
ヒウタはその意味を理解して。
割れ物に触れるように、ハムスターでも撫でるように。
その手を優しく取って。
「ケチ」
「何が?」
「恋人繋ぎしたかった。ちょっと寂しい」
「こんなにも人がいるのに?」
「明日になったら私たちのことなんてみんな忘れる。けど私たちにとっては大事な忘れられない思い出。それでも嫌なんだ」
ヒウタは鼻を掻く。
気づけば月が出ていた。
「嫌までは」
「じゃ、決まりで!」
メリアは恋人繋ぎに替えると、照れた笑顔をヒウタに見せて。
ヒウタの心臓は歌い出すのだ。
それは決して不協和音ではなく。
むしろノリノリな心地いい旋律。
二人は屋台に着いて。
「唐揚げ一つ」
メリアが頼むと。
「微笑ましいカップルで」
店に立つ男性に、唐揚げを一つおまけしてもらった。
メリアは熱そうに食べる。
噛もうとするが断念。
息を吹きかけてそれでも熱く。
舌をぺろっと出すが熱風に怖気づいて。
ようやく一口齧るのだった。
「覚悟しろ、ヒウタ。熱々だから」
「見れば分かります」
「一応、フーフーしとくね」
「一応とは?」
前よりも赤い唇。
祭りに合わせて口紅を用意したのだろう。
月明かりがメリアの横顔を照らす。
「はい、一口」
「ああ」
ヒウタは唐揚げ一つを口で串から。
それから何度か噛んで。
「まだ熱い!」
「ヒウタ、反応遅い」
まさか横顔に見惚れて意識が遠くに、とは言えず。
苦い笑顔を見せるのだった。
「次は射的」
「そんなにはしゃいでどうしました?」
「さあ、どうしたのでしょう?」
メリアは台の上にある景品を次々と。
発射された弾が早い気がした。
いや、みんな同じ銃使っているはずだ。
なぜメリアだけこんなにも早いのか。
「難しい、取れない」
ヒウタは景品に弾を当てるのがやっとで、景品については一つも取れず。
対して取り過ぎなメリアは店主に頭を下げさせていた。
それでも景品を袋に詰めたメリアは悪魔に見えた。
射的というゲームを提供している以上、メリアを責めることはできない。
「重いですけど?」
「ヒウタにあげるから我慢して。次はクレープとか?」
メリアに強引に手を引かれてクレープ屋へ。
夏祭り以外でも開いている店らしく、屋台ではなく店舗である。
ただし、夏祭りの間は店内飲食ができない。
バターの濃厚な甘さを感じて幸せだ。
人気で列が長い。
「どうする?」
「食べますよ、ここまで来たら」
「仕方ないな」
メリアの瞳の中に月が見えた。
よく見れば星も入っている。
「今日って、月が」
ヒウタの思考が動く。
続く言葉を喉元で止めた。
綺麗と言ってしまえばそれは告白のようだ。
「月が美しい」
「綺麗と同じ意味じゃない?」
メリアは意地悪く微笑む。
ヒウタを覗くメリア。
月はメリアの瞳から取り除かれて。
「綺麗ってのは言い過ぎだから」
言ったヒウタ自身もその言葉の意味が分からなくて。
漠然としまったと思った。
「月が綺麗、とは言いたくない?」
「その」
「私のこと見てドキドキしてた?」
メリアはヒウタの胸に手を置く。
星と月とクレープ屋の光に、華奢な手が照らされて。
「私に好きはあげたくないの?」
メリアは冗談っぽく言う。
ヒウタは戸惑ったまま何も言えずに。
「注文お願いします!」
クレープ屋のレジの女性の声で、ヒウタの思考は戻る。
「そろそろ花火だけど」
メリアは呆れて目を細める。
しかし、ヒウタのたどたどしい落ち着かない様子を見て、マリアは笑ってしまうのだった。
「どこで花火を見る?」
「もう来るよ」
メリアの言葉を聞いて、ヒウタはスマホを取り出そうとポケットに手を入れる。
メリアはポケットに入れたヒウタの手を掴んだ。
「私と花火に集中しなさいな」
子供をあやすような優しい声を聞いて、ヒウタは手の在り処をメリアに。
瞬間、火の玉が龍のように上る。
破裂音と共に、赤色の炎が広がって。
見る見る膨らんですっと闇に消える。
続いて火の玉が一気に三つ。
弾ける瞬間から目が離せない。
「花火の音、久しぶり」
落ち着きのある声にヒウタが視線を下ろす。
前に立つ親子。
娘の方がヒウタと同じくらいの年齢に見える。
母の姿が重なると、ヒウタは温かい気持ちになる。
よく見ると母も娘も花柄のお揃い浴衣で。
しかし色は違っている。
浴衣のベースの色が母は赤で娘は青で。
二人の手にはまだ袋を被ったままのりんご飴があった。
「綺麗だね」
「うん。帰ったら、話したいことたくさんある」
「そっか」
「母さんに対しての愚痴も」
「夜は長そうね」
「どうかな。でも今夜はお酒飲みながら語りたいかも。今度こそはクッキー焦がさないでね」
母は笑って。
「いつぶりに焼くと思ってるの?」
「これからは私が側にいるよ。もう離れ離れにならないように」
「?」
母は花火から娘に視線を移す。
「母さんにも手伝ってほしい。もう目を反らさないで。それからたまには一緒に寝ようよ」
母は涙を浮かべて。
もう一度花火を見た。
「生きてるから涙ぐらい出るよ。忘れ物はここにしかないから。手を繋ごう、母さんのこと信じてる」
その繋いだ手には力が籠っていた。
メリアはその二人を見て。
「家族って何かいいね」
「けど、あの親子の話を知らないから。仲がいいと思うけど」
ヒウタは花火に戻って。
「それでもいいね」
メリアの言葉が弱々しく思えた。
きっとメリアは。
なんて邪推したところで意味がないだろう。
「私家族仲めちゃくちゃなの」
メリアに不意を突かれて。
ヒウタはメリアと繋いだ手の汗を意識することしかできなかった。
「あーあ、暗い話してしまってごめんね」
「僕はメリアさんの話をもっと聞きたいです」
ヒウタは手を離してポケットから出す。
メリアは手を後ろに組んで伸ばす。
足を振り子のように交互に上げながら歩く。
「人間たらしの才能あるわ」
メリアは和やかな顔で、ヒウタの顔を一瞥する。
ヒウタはおかしくて笑った。
ぬるい夜風が二人を包む。
それは騒ぎたいやつらとイチャつきたいやつらが集う地獄である。
今もその意見は変わらないが。
かわいい女性が浴衣を着て水ヨーヨーを片手に。
その姿を見ると、祭りの見え方が変わる気がした。
「ヒウタ? もう暗くなった」
「うん」
今日は夏祭り。
既に辺りは深い青色に染まって。
夕日はもう見えない。
メリアの提案で、ヒウタは地元からやや遠い祭りにやって来た。
「唐揚げ串、一個買おう」
「分かったけど、その手は?」
メリアはヨーヨーを持っていない手をヒウタに向けた。
ヒウタはその意味を理解して。
割れ物に触れるように、ハムスターでも撫でるように。
その手を優しく取って。
「ケチ」
「何が?」
「恋人繋ぎしたかった。ちょっと寂しい」
「こんなにも人がいるのに?」
「明日になったら私たちのことなんてみんな忘れる。けど私たちにとっては大事な忘れられない思い出。それでも嫌なんだ」
ヒウタは鼻を掻く。
気づけば月が出ていた。
「嫌までは」
「じゃ、決まりで!」
メリアは恋人繋ぎに替えると、照れた笑顔をヒウタに見せて。
ヒウタの心臓は歌い出すのだ。
それは決して不協和音ではなく。
むしろノリノリな心地いい旋律。
二人は屋台に着いて。
「唐揚げ一つ」
メリアが頼むと。
「微笑ましいカップルで」
店に立つ男性に、唐揚げを一つおまけしてもらった。
メリアは熱そうに食べる。
噛もうとするが断念。
息を吹きかけてそれでも熱く。
舌をぺろっと出すが熱風に怖気づいて。
ようやく一口齧るのだった。
「覚悟しろ、ヒウタ。熱々だから」
「見れば分かります」
「一応、フーフーしとくね」
「一応とは?」
前よりも赤い唇。
祭りに合わせて口紅を用意したのだろう。
月明かりがメリアの横顔を照らす。
「はい、一口」
「ああ」
ヒウタは唐揚げ一つを口で串から。
それから何度か噛んで。
「まだ熱い!」
「ヒウタ、反応遅い」
まさか横顔に見惚れて意識が遠くに、とは言えず。
苦い笑顔を見せるのだった。
「次は射的」
「そんなにはしゃいでどうしました?」
「さあ、どうしたのでしょう?」
メリアは台の上にある景品を次々と。
発射された弾が早い気がした。
いや、みんな同じ銃使っているはずだ。
なぜメリアだけこんなにも早いのか。
「難しい、取れない」
ヒウタは景品に弾を当てるのがやっとで、景品については一つも取れず。
対して取り過ぎなメリアは店主に頭を下げさせていた。
それでも景品を袋に詰めたメリアは悪魔に見えた。
射的というゲームを提供している以上、メリアを責めることはできない。
「重いですけど?」
「ヒウタにあげるから我慢して。次はクレープとか?」
メリアに強引に手を引かれてクレープ屋へ。
夏祭り以外でも開いている店らしく、屋台ではなく店舗である。
ただし、夏祭りの間は店内飲食ができない。
バターの濃厚な甘さを感じて幸せだ。
人気で列が長い。
「どうする?」
「食べますよ、ここまで来たら」
「仕方ないな」
メリアの瞳の中に月が見えた。
よく見れば星も入っている。
「今日って、月が」
ヒウタの思考が動く。
続く言葉を喉元で止めた。
綺麗と言ってしまえばそれは告白のようだ。
「月が美しい」
「綺麗と同じ意味じゃない?」
メリアは意地悪く微笑む。
ヒウタを覗くメリア。
月はメリアの瞳から取り除かれて。
「綺麗ってのは言い過ぎだから」
言ったヒウタ自身もその言葉の意味が分からなくて。
漠然としまったと思った。
「月が綺麗、とは言いたくない?」
「その」
「私のこと見てドキドキしてた?」
メリアはヒウタの胸に手を置く。
星と月とクレープ屋の光に、華奢な手が照らされて。
「私に好きはあげたくないの?」
メリアは冗談っぽく言う。
ヒウタは戸惑ったまま何も言えずに。
「注文お願いします!」
クレープ屋のレジの女性の声で、ヒウタの思考は戻る。
「そろそろ花火だけど」
メリアは呆れて目を細める。
しかし、ヒウタのたどたどしい落ち着かない様子を見て、マリアは笑ってしまうのだった。
「どこで花火を見る?」
「もう来るよ」
メリアの言葉を聞いて、ヒウタはスマホを取り出そうとポケットに手を入れる。
メリアはポケットに入れたヒウタの手を掴んだ。
「私と花火に集中しなさいな」
子供をあやすような優しい声を聞いて、ヒウタは手の在り処をメリアに。
瞬間、火の玉が龍のように上る。
破裂音と共に、赤色の炎が広がって。
見る見る膨らんですっと闇に消える。
続いて火の玉が一気に三つ。
弾ける瞬間から目が離せない。
「花火の音、久しぶり」
落ち着きのある声にヒウタが視線を下ろす。
前に立つ親子。
娘の方がヒウタと同じくらいの年齢に見える。
母の姿が重なると、ヒウタは温かい気持ちになる。
よく見ると母も娘も花柄のお揃い浴衣で。
しかし色は違っている。
浴衣のベースの色が母は赤で娘は青で。
二人の手にはまだ袋を被ったままのりんご飴があった。
「綺麗だね」
「うん。帰ったら、話したいことたくさんある」
「そっか」
「母さんに対しての愚痴も」
「夜は長そうね」
「どうかな。でも今夜はお酒飲みながら語りたいかも。今度こそはクッキー焦がさないでね」
母は笑って。
「いつぶりに焼くと思ってるの?」
「これからは私が側にいるよ。もう離れ離れにならないように」
「?」
母は花火から娘に視線を移す。
「母さんにも手伝ってほしい。もう目を反らさないで。それからたまには一緒に寝ようよ」
母は涙を浮かべて。
もう一度花火を見た。
「生きてるから涙ぐらい出るよ。忘れ物はここにしかないから。手を繋ごう、母さんのこと信じてる」
その繋いだ手には力が籠っていた。
メリアはその二人を見て。
「家族って何かいいね」
「けど、あの親子の話を知らないから。仲がいいと思うけど」
ヒウタは花火に戻って。
「それでもいいね」
メリアの言葉が弱々しく思えた。
きっとメリアは。
なんて邪推したところで意味がないだろう。
「私家族仲めちゃくちゃなの」
メリアに不意を突かれて。
ヒウタはメリアと繋いだ手の汗を意識することしかできなかった。
「あーあ、暗い話してしまってごめんね」
「僕はメリアさんの話をもっと聞きたいです」
ヒウタは手を離してポケットから出す。
メリアは手を後ろに組んで伸ばす。
足を振り子のように交互に上げながら歩く。
「人間たらしの才能あるわ」
メリアは和やかな顔で、ヒウタの顔を一瞥する。
ヒウタはおかしくて笑った。
ぬるい夜風が二人を包む。
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