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6章 恋の価値が重大すぎる!48~66話

エピソード3 晴れた日の品定め

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 トウヤはマッチングアプリ登録のために、アプリの指示に従って面接をした。
 男の人がモニタに表示される。
 適当に面接を終える。
 後日、申請が通ったとして会員となった。
 それから、親友のミライとラーメンを食べてカラオケで喉が潰れるまで歌って。
 翌日、マッチングアプリを本格的に使い始めた。
 どうやら予想以上に女性とやり取りができる。
 これならすぐに恋というものを知ることができるだろう。
 トウヤは三人の女性に会うことにした。
 一人目は、一つ年下の女性。
「あなたがトウヤさんですか?」
 茶髪のボブカットが印象的な女性だった。
 想像よりも綺麗な人だった。
「そうですけど」
「良かった。いい人そうで」
 女性は笑顔を見せる。
 本当に?
 トウヤは疑ってしまう。
 いい人だと思っているのか?
 とはいえ、身を守るための言葉なら賢い選択といえるか。
「そんなこと言われたら、よりいい人になりたいって張り切ってしまう」
「優しくて素敵です」
 その明るい笑顔に、トウヤは心地よさを覚える。
 なるほど、これは中毒性があるかもしれない。
 一日のデートを終える。
「また会いたいです」
 夕日に揺れる姿。
 夢のように思える。
「楽しみ」
 トウヤが言うと、女性は微笑む。
 胸の奥が温まる気がした。
 二人目は、同学年の女性。
「トウヤ、で間違いないかな?」
「間違ってたらどうする?」
「逆ナンパして、今日一日は君になんとかしてもらおうかな?」
 団子ヘアの女性だった。
 マッチングアプリでメッセージのやり取りをして、その明るさで会いたいと思った。
 女性は会話が上手で。
 気づけばタメ口で話している。
 今日初めて会ったのに。
「強引では?」
「断れないでしょ?」
「よくご存知で」
「よっしゃ!」
 ガッツポーズを決める女性。
 どこか親友の姿を重ねる。
「食べ歩き、ショッピング」
「流行ってるものとかあるの?」
「ボードゲームカフェとかどう?」
 わくわくして落ち着かないよう。
 星を浮かべるように輝く瞳を、トウヤは裏切れなかった。
「ここから遠くないなら」
 ボードゲームを遊んで。
 勝ったり負けたりして。
 五敗三勝のトウヤは罰ゲームとして、一つだけお願いを聞くこととなる。
「また遊ぼ!」
 女性は頭を少し傾けて手を振る。
「同じこと思ってた」
 トウヤは友達が増えたみたいで嬉しかった。
 これが恋活の醍醐味だろうか?
 三人目はショートカットの女性だった。
 二つ年上で。
「トウヤって豆腐みたい。豆腐って呼んでいい?」
 甘え声で言う女性に。
「似た名前の俺も悪かったから。好きなだけ呼んで」
「豆腐、豆腐、豆腐!」
「そんなに連呼されても」
 ショッピングモールに来た。
 そこで互いが互いの洋服を選ぶ。
「豆腐、どう?」
「大人っぽいのは似合わないと思うけど」
「そんなあ」
「俺はこれ試着してみようか」
「どうせ似合わないもーんだ! 豆腐は豆腐だもん、服なんて着ても崩れるだけだもん!」
 駄々をこねる女性に。
 トウヤは近くのハンガーを取って。
「これなら似合う。今着てくれたら買ってあげるから」
「私もそれがいいってちょっと思ってた」
 女性からの対応は好感触。
 今まで恋愛をしてないから気づかなかったが。
 もしかして。
「俺って格好いいのか」
「豆腐? 確かに整ってはいるね」
「あまり恋をしてないから分からなくて」
 トウヤは試着室に消えた。
 女性は咄嗟に頬に手を置く。
 その様子をトウヤが見ることはなかった。
 試着室で。
「経験値が上がってる。これはイラストに生かせる!」
 高まる気持ちにふわふわしていた。
 胸に手を置く。
 鼓動が聞こえる。
「楽しい楽しい楽しい」
 ミライと口喧嘩をしてからイラストを楽しく描けない。
 でも今なら。
 女性も楽しそうで、トウヤ自身もイラストのネタになる。
 これほど美味しい関係はない。
 服を着替える。
 互いが互いのために選んだ服で一日デートした。
「豆腐、またね」
 女性がトウヤの腕を掴む。
「今度はいつ会えるのかな」
「どういうこと?」
 心配そうな目がトウヤに刺さる。
「いや」
 トウヤはじっと女性の目を見て。
「今日は楽しかったから。次も楽しみだなって」
 女性が上機嫌に帰っていくのを見て、トウヤは頷く。
 人助けをしたような清々しさ。
 連日晴天が続いて三人の女性と会うことができて。
 トウヤは充実した日々に感謝するのだった。
 ただトウヤの気持ちが変わるのは二日後のことだった。
「豆腐、ちょっといい?」
 三人目の、ショートカットの女性。
 その女性とショッピングモールで二度目のデートをして。
 それから少し歩いて公園のベンチに座った。
 女性の手が震えている。
 唇が前回のデートよりも赤い気がする。
 水分補給も高頻度で。
 トウヤはそれが表す未来をよく分かっていなかった。
「豆腐?」
「どうした?」
 女性はもごもごと口を動かす。
 体調が悪いのだろうか、それなら心配だ。
 まだ動けるうちに解散するか、今から栄養ドリンクとか薬を買って対処した方がいいのか。
「その、さ」
「大丈夫?」
「うん、きっと」
「ならもう少しだけここで休んで解散にするか」
「それでいい、かな」
 女性は再び水を飲む。
 夏だし熱中症だろうか?
 確かに汗をひどくかいている。
「今日も楽しかったね」
「その通りで」
「また会ってくれてありがとう。短い期間に二回も」
「誘ってくれて嬉しかった」
 女性は一度トウヤを見る。
 それから下を見ながら。
「また遊びたい、かな」
「分かった。またメッセージ送って。そろそろ解散で」
 トウヤが立ち上がろうとすると。
「待って」
 涙を瞳に溜めた女性がトウヤの袖を引く。
 トウヤは驚いて動けなくなった。
「豆腐のこと、好きに、……、大好きになっちゃった」
 熱っぽい表情。
 トウヤはその艶やかに湯気を上げる女性を見て。
 血の気が引くのを感じる。
「好きになっちゃったから、私と、私だけと恋、してくれませんか?」
 女性はトウヤの袖から手を放してじっとトウヤを。
「私と付き合ってくれませんか!」
 決意の強さを感じる。
 トウヤは頭を抱えた。
「ごめん、そんな感じと思ってなくて。本当に」
「え?」
 女性は膝から崩れて、溢れ出る涙を必死に手で拭う。
 右手が濡れたら左手に、左手で拭いたら右手に。
 しかしいつまで経っても止みそうにない。
「君、おかしいよ」
 トウヤはつい思っていたことを口にする。
 まだ二回目、初対面と変わらない。
 なのにもう告白?
 どうしてそんなに本気で、そんなに泣ける?
 なんだ、この生き物は?
 分からない、分からない。
 怖い。
 そう思ってしまえば勝手に足が動いてしまう。
 泣き崩れた女性から逃げるように。
 トウヤは一人走り出す。
 家に戻って女性とのメッセージを見ようとするがもう遅い。
 どうして告白をしたのか、どうして恋に必死なのか聞きたかった。
 それでも、メッセージを開くことができない。
 マッチングアプリを退会した、それを知ったのはアプリの仕様について調べてようやく。
「分からない」
 トウヤは部屋の隅にスマホを投げた。




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