50 / 156
6章 恋の価値が重大すぎる!48~66話
エピソード3 晴れた日の品定め
しおりを挟む
トウヤはマッチングアプリ登録のために、アプリの指示に従って面接をした。
男の人がモニタに表示される。
適当に面接を終える。
後日、申請が通ったとして会員となった。
それから、親友のミライとラーメンを食べてカラオケで喉が潰れるまで歌って。
翌日、マッチングアプリを本格的に使い始めた。
どうやら予想以上に女性とやり取りができる。
これならすぐに恋というものを知ることができるだろう。
トウヤは三人の女性に会うことにした。
一人目は、一つ年下の女性。
「あなたがトウヤさんですか?」
茶髪のボブカットが印象的な女性だった。
想像よりも綺麗な人だった。
「そうですけど」
「良かった。いい人そうで」
女性は笑顔を見せる。
本当に?
トウヤは疑ってしまう。
いい人だと思っているのか?
とはいえ、身を守るための言葉なら賢い選択といえるか。
「そんなこと言われたら、よりいい人になりたいって張り切ってしまう」
「優しくて素敵です」
その明るい笑顔に、トウヤは心地よさを覚える。
なるほど、これは中毒性があるかもしれない。
一日のデートを終える。
「また会いたいです」
夕日に揺れる姿。
夢のように思える。
「楽しみ」
トウヤが言うと、女性は微笑む。
胸の奥が温まる気がした。
二人目は、同学年の女性。
「トウヤ、で間違いないかな?」
「間違ってたらどうする?」
「逆ナンパして、今日一日は君になんとかしてもらおうかな?」
団子ヘアの女性だった。
マッチングアプリでメッセージのやり取りをして、その明るさで会いたいと思った。
女性は会話が上手で。
気づけばタメ口で話している。
今日初めて会ったのに。
「強引では?」
「断れないでしょ?」
「よくご存知で」
「よっしゃ!」
ガッツポーズを決める女性。
どこか親友の姿を重ねる。
「食べ歩き、ショッピング」
「流行ってるものとかあるの?」
「ボードゲームカフェとかどう?」
わくわくして落ち着かないよう。
星を浮かべるように輝く瞳を、トウヤは裏切れなかった。
「ここから遠くないなら」
ボードゲームを遊んで。
勝ったり負けたりして。
五敗三勝のトウヤは罰ゲームとして、一つだけお願いを聞くこととなる。
「また遊ぼ!」
女性は頭を少し傾けて手を振る。
「同じこと思ってた」
トウヤは友達が増えたみたいで嬉しかった。
これが恋活の醍醐味だろうか?
三人目はショートカットの女性だった。
二つ年上で。
「トウヤって豆腐みたい。豆腐って呼んでいい?」
甘え声で言う女性に。
「似た名前の俺も悪かったから。好きなだけ呼んで」
「豆腐、豆腐、豆腐!」
「そんなに連呼されても」
ショッピングモールに来た。
そこで互いが互いの洋服を選ぶ。
「豆腐、どう?」
「大人っぽいのは似合わないと思うけど」
「そんなあ」
「俺はこれ試着してみようか」
「どうせ似合わないもーんだ! 豆腐は豆腐だもん、服なんて着ても崩れるだけだもん!」
駄々をこねる女性に。
トウヤは近くのハンガーを取って。
「これなら似合う。今着てくれたら買ってあげるから」
「私もそれがいいってちょっと思ってた」
女性からの対応は好感触。
今まで恋愛をしてないから気づかなかったが。
もしかして。
「俺って格好いいのか」
「豆腐? 確かに整ってはいるね」
「あまり恋をしてないから分からなくて」
トウヤは試着室に消えた。
女性は咄嗟に頬に手を置く。
その様子をトウヤが見ることはなかった。
試着室で。
「経験値が上がってる。これはイラストに生かせる!」
高まる気持ちにふわふわしていた。
胸に手を置く。
鼓動が聞こえる。
「楽しい楽しい楽しい」
ミライと口喧嘩をしてからイラストを楽しく描けない。
でも今なら。
女性も楽しそうで、トウヤ自身もイラストのネタになる。
これほど美味しい関係はない。
服を着替える。
互いが互いのために選んだ服で一日デートした。
「豆腐、またね」
女性がトウヤの腕を掴む。
「今度はいつ会えるのかな」
「どういうこと?」
心配そうな目がトウヤに刺さる。
「いや」
トウヤはじっと女性の目を見て。
「今日は楽しかったから。次も楽しみだなって」
女性が上機嫌に帰っていくのを見て、トウヤは頷く。
人助けをしたような清々しさ。
連日晴天が続いて三人の女性と会うことができて。
トウヤは充実した日々に感謝するのだった。
ただトウヤの気持ちが変わるのは二日後のことだった。
「豆腐、ちょっといい?」
三人目の、ショートカットの女性。
その女性とショッピングモールで二度目のデートをして。
それから少し歩いて公園のベンチに座った。
女性の手が震えている。
唇が前回のデートよりも赤い気がする。
水分補給も高頻度で。
トウヤはそれが表す未来をよく分かっていなかった。
「豆腐?」
「どうした?」
女性はもごもごと口を動かす。
体調が悪いのだろうか、それなら心配だ。
まだ動けるうちに解散するか、今から栄養ドリンクとか薬を買って対処した方がいいのか。
「その、さ」
「大丈夫?」
「うん、きっと」
「ならもう少しだけここで休んで解散にするか」
「それでいい、かな」
女性は再び水を飲む。
夏だし熱中症だろうか?
確かに汗をひどくかいている。
「今日も楽しかったね」
「その通りで」
「また会ってくれてありがとう。短い期間に二回も」
「誘ってくれて嬉しかった」
女性は一度トウヤを見る。
それから下を見ながら。
「また遊びたい、かな」
「分かった。またメッセージ送って。そろそろ解散で」
トウヤが立ち上がろうとすると。
「待って」
涙を瞳に溜めた女性がトウヤの袖を引く。
トウヤは驚いて動けなくなった。
「豆腐のこと、好きに、……、大好きになっちゃった」
熱っぽい表情。
トウヤはその艶やかに湯気を上げる女性を見て。
血の気が引くのを感じる。
「好きになっちゃったから、私と、私だけと恋、してくれませんか?」
女性はトウヤの袖から手を放してじっとトウヤを。
「私と付き合ってくれませんか!」
決意の強さを感じる。
トウヤは頭を抱えた。
「ごめん、そんな感じと思ってなくて。本当に」
「え?」
女性は膝から崩れて、溢れ出る涙を必死に手で拭う。
右手が濡れたら左手に、左手で拭いたら右手に。
しかしいつまで経っても止みそうにない。
「君、おかしいよ」
トウヤはつい思っていたことを口にする。
まだ二回目、初対面と変わらない。
なのにもう告白?
どうしてそんなに本気で、そんなに泣ける?
なんだ、この生き物は?
分からない、分からない。
怖い。
そう思ってしまえば勝手に足が動いてしまう。
泣き崩れた女性から逃げるように。
トウヤは一人走り出す。
家に戻って女性とのメッセージを見ようとするがもう遅い。
どうして告白をしたのか、どうして恋に必死なのか聞きたかった。
それでも、メッセージを開くことができない。
マッチングアプリを退会した、それを知ったのはアプリの仕様について調べてようやく。
「分からない」
トウヤは部屋の隅にスマホを投げた。
男の人がモニタに表示される。
適当に面接を終える。
後日、申請が通ったとして会員となった。
それから、親友のミライとラーメンを食べてカラオケで喉が潰れるまで歌って。
翌日、マッチングアプリを本格的に使い始めた。
どうやら予想以上に女性とやり取りができる。
これならすぐに恋というものを知ることができるだろう。
トウヤは三人の女性に会うことにした。
一人目は、一つ年下の女性。
「あなたがトウヤさんですか?」
茶髪のボブカットが印象的な女性だった。
想像よりも綺麗な人だった。
「そうですけど」
「良かった。いい人そうで」
女性は笑顔を見せる。
本当に?
トウヤは疑ってしまう。
いい人だと思っているのか?
とはいえ、身を守るための言葉なら賢い選択といえるか。
「そんなこと言われたら、よりいい人になりたいって張り切ってしまう」
「優しくて素敵です」
その明るい笑顔に、トウヤは心地よさを覚える。
なるほど、これは中毒性があるかもしれない。
一日のデートを終える。
「また会いたいです」
夕日に揺れる姿。
夢のように思える。
「楽しみ」
トウヤが言うと、女性は微笑む。
胸の奥が温まる気がした。
二人目は、同学年の女性。
「トウヤ、で間違いないかな?」
「間違ってたらどうする?」
「逆ナンパして、今日一日は君になんとかしてもらおうかな?」
団子ヘアの女性だった。
マッチングアプリでメッセージのやり取りをして、その明るさで会いたいと思った。
女性は会話が上手で。
気づけばタメ口で話している。
今日初めて会ったのに。
「強引では?」
「断れないでしょ?」
「よくご存知で」
「よっしゃ!」
ガッツポーズを決める女性。
どこか親友の姿を重ねる。
「食べ歩き、ショッピング」
「流行ってるものとかあるの?」
「ボードゲームカフェとかどう?」
わくわくして落ち着かないよう。
星を浮かべるように輝く瞳を、トウヤは裏切れなかった。
「ここから遠くないなら」
ボードゲームを遊んで。
勝ったり負けたりして。
五敗三勝のトウヤは罰ゲームとして、一つだけお願いを聞くこととなる。
「また遊ぼ!」
女性は頭を少し傾けて手を振る。
「同じこと思ってた」
トウヤは友達が増えたみたいで嬉しかった。
これが恋活の醍醐味だろうか?
三人目はショートカットの女性だった。
二つ年上で。
「トウヤって豆腐みたい。豆腐って呼んでいい?」
甘え声で言う女性に。
「似た名前の俺も悪かったから。好きなだけ呼んで」
「豆腐、豆腐、豆腐!」
「そんなに連呼されても」
ショッピングモールに来た。
そこで互いが互いの洋服を選ぶ。
「豆腐、どう?」
「大人っぽいのは似合わないと思うけど」
「そんなあ」
「俺はこれ試着してみようか」
「どうせ似合わないもーんだ! 豆腐は豆腐だもん、服なんて着ても崩れるだけだもん!」
駄々をこねる女性に。
トウヤは近くのハンガーを取って。
「これなら似合う。今着てくれたら買ってあげるから」
「私もそれがいいってちょっと思ってた」
女性からの対応は好感触。
今まで恋愛をしてないから気づかなかったが。
もしかして。
「俺って格好いいのか」
「豆腐? 確かに整ってはいるね」
「あまり恋をしてないから分からなくて」
トウヤは試着室に消えた。
女性は咄嗟に頬に手を置く。
その様子をトウヤが見ることはなかった。
試着室で。
「経験値が上がってる。これはイラストに生かせる!」
高まる気持ちにふわふわしていた。
胸に手を置く。
鼓動が聞こえる。
「楽しい楽しい楽しい」
ミライと口喧嘩をしてからイラストを楽しく描けない。
でも今なら。
女性も楽しそうで、トウヤ自身もイラストのネタになる。
これほど美味しい関係はない。
服を着替える。
互いが互いのために選んだ服で一日デートした。
「豆腐、またね」
女性がトウヤの腕を掴む。
「今度はいつ会えるのかな」
「どういうこと?」
心配そうな目がトウヤに刺さる。
「いや」
トウヤはじっと女性の目を見て。
「今日は楽しかったから。次も楽しみだなって」
女性が上機嫌に帰っていくのを見て、トウヤは頷く。
人助けをしたような清々しさ。
連日晴天が続いて三人の女性と会うことができて。
トウヤは充実した日々に感謝するのだった。
ただトウヤの気持ちが変わるのは二日後のことだった。
「豆腐、ちょっといい?」
三人目の、ショートカットの女性。
その女性とショッピングモールで二度目のデートをして。
それから少し歩いて公園のベンチに座った。
女性の手が震えている。
唇が前回のデートよりも赤い気がする。
水分補給も高頻度で。
トウヤはそれが表す未来をよく分かっていなかった。
「豆腐?」
「どうした?」
女性はもごもごと口を動かす。
体調が悪いのだろうか、それなら心配だ。
まだ動けるうちに解散するか、今から栄養ドリンクとか薬を買って対処した方がいいのか。
「その、さ」
「大丈夫?」
「うん、きっと」
「ならもう少しだけここで休んで解散にするか」
「それでいい、かな」
女性は再び水を飲む。
夏だし熱中症だろうか?
確かに汗をひどくかいている。
「今日も楽しかったね」
「その通りで」
「また会ってくれてありがとう。短い期間に二回も」
「誘ってくれて嬉しかった」
女性は一度トウヤを見る。
それから下を見ながら。
「また遊びたい、かな」
「分かった。またメッセージ送って。そろそろ解散で」
トウヤが立ち上がろうとすると。
「待って」
涙を瞳に溜めた女性がトウヤの袖を引く。
トウヤは驚いて動けなくなった。
「豆腐のこと、好きに、……、大好きになっちゃった」
熱っぽい表情。
トウヤはその艶やかに湯気を上げる女性を見て。
血の気が引くのを感じる。
「好きになっちゃったから、私と、私だけと恋、してくれませんか?」
女性はトウヤの袖から手を放してじっとトウヤを。
「私と付き合ってくれませんか!」
決意の強さを感じる。
トウヤは頭を抱えた。
「ごめん、そんな感じと思ってなくて。本当に」
「え?」
女性は膝から崩れて、溢れ出る涙を必死に手で拭う。
右手が濡れたら左手に、左手で拭いたら右手に。
しかしいつまで経っても止みそうにない。
「君、おかしいよ」
トウヤはつい思っていたことを口にする。
まだ二回目、初対面と変わらない。
なのにもう告白?
どうしてそんなに本気で、そんなに泣ける?
なんだ、この生き物は?
分からない、分からない。
怖い。
そう思ってしまえば勝手に足が動いてしまう。
泣き崩れた女性から逃げるように。
トウヤは一人走り出す。
家に戻って女性とのメッセージを見ようとするがもう遅い。
どうして告白をしたのか、どうして恋に必死なのか聞きたかった。
それでも、メッセージを開くことができない。
マッチングアプリを退会した、それを知ったのはアプリの仕様について調べてようやく。
「分からない」
トウヤは部屋の隅にスマホを投げた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた
ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。
俺が変わったのか……
地元が変わったのか……
主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。
※他Web小説サイトで連載していた作品です
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる