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6章 恋の価値が重大すぎる!48~66話
エピソード2 ふざけた友情のなかで
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トウヤは親友のミライに謝罪した。
何とか仲直りをしたが、次に揉めたらきっと。
「俺の誕生日が来たら二人でプチ飲み会しようぜ」
トウヤとミライの家は近い。
自転車で十五分ほど進んで。
ラーメン屋に来ていた。
今日は会えるから、とミライからメッセージが届いて。
その言葉に勝手に棘を感じて。
「酒飲んでる? 誕生日来てただろ」
「それなりには」
「苦いのか? 酒って」
「分からない。それなりに甘いやつ選んだからジュースみたいだった」
トウヤはレンゲで豚骨スープを掬う。
一杯飲むと、その濃厚な脂が染み渡る。
隣にいるミライは豪快にチャーシューを。
「飲めるようになったらおすすめ教えてくれ」
「少しはな。そんな短期間で詳しくはなれない」
「それもそうか」
沈黙。
互いが互いのラーメンを食べ進めるためであるけど。
どうしても耐えられないのは、喧嘩した気まずさが拭えないからだ。
「マッチングアプリ始めた」
トウヤが言うと、ミライは驚いて手を止める。
「マッチングアプリ?」
「そう」
「どうして?」
「出会いを求めて」
トウヤは即答する。
ミライが気になったことに対する返答にはならない、トウヤは分かっていた。
「頑張れよ」
「言われなくとも」
細い麺を啜る。
スープをもう一杯。
「俺たち、変わったな。何を話そうか」
ミライの表情は店内の照明にぼかされる。
変わったのは、ミライだ。
なんて言ったところでまた喧嘩になる。
今度こそ絶縁だろう。
ミライのイラストに対する熱量がなくなって。
もっと話題があれば、自分に起こった出来事を面白おかしく言えたなら。
この重い空気はいくらかましだったのだろう。
「ここのラーメン、また食べたいな。今度はあいつと」
ミライの瞳の中にいる人物をトウヤは知らない。
しかし、瞳の人とミライがどんな間柄かは知っている。
地元さえも侵されていくらしい。
それがどこか悔しくて。
「まだ時間はある?」
「ああ」
「カラオケでも」
「そういう気分?」
「マッチングアプリ頑張るために気合がほしいって」
「どういうことだ?」
「取り敢えず声出して歌いたいってことだ」
「そうか」
ラーメン屋を出て。
より暑くなっていた。
カラオケに着いて。
「フリータイム、どう?」
「二人だぞ、正気か?」
ミライはそう言いながらも、案内された部屋に文句言わずに入った。
もちろん、フリータイムである。
「交互に歌って、喉が潰れたら負け」
「負けたら?」
ノリノリなミライ。
「そうだな、勝った方の好きなところを十個言うってのは?」
「恥ずかしくならないか? 俺は勝つけど」
ミライはタブレットを操作して曲を選ぶ。
「まさか短い曲を選んでないか?」
「そんな盛り下がる曲を。そうそう、テキトーに歌わないように、八十点未満は歌い直しな」
ミライが追加ルール。
「いいぞ」
トウヤは同意する。
ミライが歌い出す。
その次に、トウヤが歌う。
それは実に楽しい時間で、最近口喧嘩が増えたようには見えない。
「トウヤ、点数落ちてきてないか?」
「ミライこそ息が切れてきて」
それでも二人は歌い続ける。
ミライは勝負である以上負けたくないのだろう。
しかし、トウヤが歌い続ける理由は別で。
このかけがえのない時間を感じてほしいのだ。
「ここらでトイレ休憩とか、ドリンクタイムとか」
「トウヤ、タイムってことか?」
「一人一度くらい使えてもいいだろ」
それから五分ほど。
次はトウヤの番だ。
喉にガムでも詰まったような違和感。
一度咳をして。
「限界か?」
ミライが強気で。
トウヤは微笑む。
「これからだ」
マイクを握る。
まだまだミライは余裕だろう。
冷えた汗が鬱陶しい。
喉を開く。
まだ歌える、大丈夫。
「何とかボーダーラインだな、八十一点。次でリタイア?」
「負けないから気にするな、俺の好きなところでも数えてろ」
マイクをミライに渡す。
ミライ、九十点超え。
聞いてる側が勝負相手だと分かっていても感動してしまう歌声。
しかし、この勝負は先に喉を潰したら負けである。
「今の、頑張り過ぎてるよな」
「きっとここまでだろうって」
トウヤは深呼吸をする。
「これが覚悟だ」
あまり綺麗な声ではない。
どこか濁っていて、無理やり声を出していて。
それでも何とか画面に表示される音程バーを捉えて。
ミライは画面から目を離せないでいた。
「どうよ」
八十二点。
トウヤはソファに倒れて。
「タイム使うか?」
「いや。トウヤ、もう歌えないだろ?」
「その通り。歌い切ればミライの勝ちだな」
「分かった」
ミライは声出しをして。
「これがレクイエムになる」
「急に中二病発言だな。もう大学二年生なのに」
「少し格好つけて言ってみただけだろ」
ミライが歌う。
その声には余裕も必死さもあって。
表現力を感じる。
「ミライ、変わらないな。この空間は昔と」
トウヤの声は歌うミライには届かない。
「それに歌が表現したいって言ってる。本当に良かったのか、イラストを描かなくなって」
歌い終わったミライを見て、トウヤは息を吐く。
「好きなところは、譲れないものをきちんと貫くこと。中二病で馬鹿やって明るいところ。豪快に生きてるところ。……」
ミライは照れてしまって脇や背中をつい掻いてしまう。
トウヤは続けて。
「最後。なんだかんだ、誰よりも優しくあろうとするところ」
「なんだそれ、アイスクリーム一個奢りとかの方が嬉しかったな」
「さっきの優しいって言ったの取り消そうか?」
「もう一つ好きなところ言えるなら」
「食い意地があるところ」
「好きなところなのか、それ」
「そういうことだ」
「分からないな、悪口に聞こえるんだけど」
「そうとも言う」
「なら悪口ではっ!?」
カラオケを出て。
二人は帰路へ。
「今日は楽しかったな、また遊ぼう」
笑顔で手を振るミライ。
「楽しかったな」
トウヤは手を振り返して。
ミライの姿が見えなくなるのを眺めていた。
「ミライ、もし会うなら。今度はいつの予定なんだか」
トウヤはこのまま自転車を漕ぐ気分にはなれず。
自転車を押してゆっくり帰るのだった。
何とか仲直りをしたが、次に揉めたらきっと。
「俺の誕生日が来たら二人でプチ飲み会しようぜ」
トウヤとミライの家は近い。
自転車で十五分ほど進んで。
ラーメン屋に来ていた。
今日は会えるから、とミライからメッセージが届いて。
その言葉に勝手に棘を感じて。
「酒飲んでる? 誕生日来てただろ」
「それなりには」
「苦いのか? 酒って」
「分からない。それなりに甘いやつ選んだからジュースみたいだった」
トウヤはレンゲで豚骨スープを掬う。
一杯飲むと、その濃厚な脂が染み渡る。
隣にいるミライは豪快にチャーシューを。
「飲めるようになったらおすすめ教えてくれ」
「少しはな。そんな短期間で詳しくはなれない」
「それもそうか」
沈黙。
互いが互いのラーメンを食べ進めるためであるけど。
どうしても耐えられないのは、喧嘩した気まずさが拭えないからだ。
「マッチングアプリ始めた」
トウヤが言うと、ミライは驚いて手を止める。
「マッチングアプリ?」
「そう」
「どうして?」
「出会いを求めて」
トウヤは即答する。
ミライが気になったことに対する返答にはならない、トウヤは分かっていた。
「頑張れよ」
「言われなくとも」
細い麺を啜る。
スープをもう一杯。
「俺たち、変わったな。何を話そうか」
ミライの表情は店内の照明にぼかされる。
変わったのは、ミライだ。
なんて言ったところでまた喧嘩になる。
今度こそ絶縁だろう。
ミライのイラストに対する熱量がなくなって。
もっと話題があれば、自分に起こった出来事を面白おかしく言えたなら。
この重い空気はいくらかましだったのだろう。
「ここのラーメン、また食べたいな。今度はあいつと」
ミライの瞳の中にいる人物をトウヤは知らない。
しかし、瞳の人とミライがどんな間柄かは知っている。
地元さえも侵されていくらしい。
それがどこか悔しくて。
「まだ時間はある?」
「ああ」
「カラオケでも」
「そういう気分?」
「マッチングアプリ頑張るために気合がほしいって」
「どういうことだ?」
「取り敢えず声出して歌いたいってことだ」
「そうか」
ラーメン屋を出て。
より暑くなっていた。
カラオケに着いて。
「フリータイム、どう?」
「二人だぞ、正気か?」
ミライはそう言いながらも、案内された部屋に文句言わずに入った。
もちろん、フリータイムである。
「交互に歌って、喉が潰れたら負け」
「負けたら?」
ノリノリなミライ。
「そうだな、勝った方の好きなところを十個言うってのは?」
「恥ずかしくならないか? 俺は勝つけど」
ミライはタブレットを操作して曲を選ぶ。
「まさか短い曲を選んでないか?」
「そんな盛り下がる曲を。そうそう、テキトーに歌わないように、八十点未満は歌い直しな」
ミライが追加ルール。
「いいぞ」
トウヤは同意する。
ミライが歌い出す。
その次に、トウヤが歌う。
それは実に楽しい時間で、最近口喧嘩が増えたようには見えない。
「トウヤ、点数落ちてきてないか?」
「ミライこそ息が切れてきて」
それでも二人は歌い続ける。
ミライは勝負である以上負けたくないのだろう。
しかし、トウヤが歌い続ける理由は別で。
このかけがえのない時間を感じてほしいのだ。
「ここらでトイレ休憩とか、ドリンクタイムとか」
「トウヤ、タイムってことか?」
「一人一度くらい使えてもいいだろ」
それから五分ほど。
次はトウヤの番だ。
喉にガムでも詰まったような違和感。
一度咳をして。
「限界か?」
ミライが強気で。
トウヤは微笑む。
「これからだ」
マイクを握る。
まだまだミライは余裕だろう。
冷えた汗が鬱陶しい。
喉を開く。
まだ歌える、大丈夫。
「何とかボーダーラインだな、八十一点。次でリタイア?」
「負けないから気にするな、俺の好きなところでも数えてろ」
マイクをミライに渡す。
ミライ、九十点超え。
聞いてる側が勝負相手だと分かっていても感動してしまう歌声。
しかし、この勝負は先に喉を潰したら負けである。
「今の、頑張り過ぎてるよな」
「きっとここまでだろうって」
トウヤは深呼吸をする。
「これが覚悟だ」
あまり綺麗な声ではない。
どこか濁っていて、無理やり声を出していて。
それでも何とか画面に表示される音程バーを捉えて。
ミライは画面から目を離せないでいた。
「どうよ」
八十二点。
トウヤはソファに倒れて。
「タイム使うか?」
「いや。トウヤ、もう歌えないだろ?」
「その通り。歌い切ればミライの勝ちだな」
「分かった」
ミライは声出しをして。
「これがレクイエムになる」
「急に中二病発言だな。もう大学二年生なのに」
「少し格好つけて言ってみただけだろ」
ミライが歌う。
その声には余裕も必死さもあって。
表現力を感じる。
「ミライ、変わらないな。この空間は昔と」
トウヤの声は歌うミライには届かない。
「それに歌が表現したいって言ってる。本当に良かったのか、イラストを描かなくなって」
歌い終わったミライを見て、トウヤは息を吐く。
「好きなところは、譲れないものをきちんと貫くこと。中二病で馬鹿やって明るいところ。豪快に生きてるところ。……」
ミライは照れてしまって脇や背中をつい掻いてしまう。
トウヤは続けて。
「最後。なんだかんだ、誰よりも優しくあろうとするところ」
「なんだそれ、アイスクリーム一個奢りとかの方が嬉しかったな」
「さっきの優しいって言ったの取り消そうか?」
「もう一つ好きなところ言えるなら」
「食い意地があるところ」
「好きなところなのか、それ」
「そういうことだ」
「分からないな、悪口に聞こえるんだけど」
「そうとも言う」
「なら悪口ではっ!?」
カラオケを出て。
二人は帰路へ。
「今日は楽しかったな、また遊ぼう」
笑顔で手を振るミライ。
「楽しかったな」
トウヤは手を振り返して。
ミライの姿が見えなくなるのを眺めていた。
「ミライ、もし会うなら。今度はいつの予定なんだか」
トウヤはこのまま自転車を漕ぐ気分にはなれず。
自転車を押してゆっくり帰るのだった。
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