規約違反少女がマッチングアプリで無法すぎる!

アメノヒセカイ

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5章 期末テスト大戦が絶望すぎる!33~47話

その13 ヒウタとお出掛けプログラムⅡ

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 ヒウタの腕はとっくに限界を迎えていた。
 たまに痙攣が起きる。
 コウミはどこまで進むのだろうか。
 額に溜まった汗が目に入る。
 足も、腕も、目も痛む。
 疲れからかヒウタは下ばかりを見て。
「ヒウタ?」
 コウミに腰辺りを軽く押されて電柱を回避する。
「危ない」
「そろそろ休みたい」
「唐揚げ食べるから大丈夫」
「何が大丈夫なんだ?」
「唐揚げ嫌い?」
「食べるけども」
 それからさらに歩いて。
 冷房に再会する頃には、紙袋の持ち手は絞ったら汗が出るくらい柔らかくなって。
「唐揚げ、唐揚げ。私と彼、それと持ち帰り用に一つ!」
 駅までの通り道にある店舗型の唐揚げ屋。
 甘酢の香りが鼻孔をくすぐる。
「デートですか?」
 店員の女性は微笑む。
 コウミは固まって。
 ヒウタは頭を高速で左右に振る。
「いい天気ですもんね」
 その店員の笑顔がヒウタにとっては痛かった。
 けど。
 隣にいるこの人に好意を持たれたなら。
 この人を愛していいのなら。
 それはきっと。
「幸せだな」
「悟り?」
 コウミは訝しそうに眉を細めて。
「どうだろ?」
 ヒウタはくだらない想像に蓋をするのだった。
「どうぞ」
 店員から受け取って。
 店内のテーブルに着く。
 カップに唐揚げがいくらか。
 串が刺さっていて、それを使うそう。
 ヒウタが一口食べようとすると、
「ねえねえは」
 コウミが話しをしたそう。
 ヒウタは串を置いた。
「ねえねえは私がボッチだと知っている。心配してる」
 コウミは食べ始めるが、ヒウタは一度見たコウミの横顔から視線を外せずにいた。
 ヒウタは言葉に詰まる。
「私、どうする?」
「孤立してるか? コウミさん」
「こうして私は二人きり」
 ヒウタは唐揚げを頬張る。
 肉汁が口の中全体を浸して頬が緩む。
 蕩けた表情になってしまう。
 酸っぱさが次の一口へ誘って、甘さが脳を満足させる。
「美味い」
「ねえねえの分も用意して本当に良かった。反応楽しみ」
「コウミさんは、もっと簡単に考えていいと思う。他人は他人だけど、何も分かり合えないわけでも分かってあげようとしないわけでもない。学科みんなと勝負したって」
「うん」
「どう見ても愛されてる」
「私、モテモテ?」
 潤んだ瞳がヒウタへ。
「友達はあと一歩の勇気だと思う。今日のお出掛けに関しては何人誘って何人駄目だった?」
「ゼロ。友達いないし」
「やっぱり」
 コウミはアキトヨと似た勘違いをしている。
 学科全員と何かしらの勝負をしてきたコウミ。瀕死の会社を再建し拡大したアキトヨ。
 どちらも周りから向けられる感情に気づいていない。
 コウミは愛されているし、アキトヨは尊敬されている。
「この出掛ける話は?」
「誰もできない。連絡先も過去問送るのに使っただけ」
「今度学校終わりにご飯でも誘ってみたらどうかな? 僕がそれなりに教えながらとか、それでも何かあったら助けるから」
「唐揚げ一個分けてほしいってこと?」
 コウミは串に刺した唐揚げをヒウタのカップに移そうとする。
 あ、これって間接キスでは?
 ……、今の気持ち悪い考えだった。
 振り払うことのできない思考回路、罪悪感が喉を詰まらす。
 それでも手が止まらないのは、目の前の唐揚げがそれほど美味しいから。
「コウミさんは助けてくれるし、いい人だから。いい人には幸せになってほしい、みたいな?」
 ヒウタは途中で恥ずかしくなって、不器用に誤魔化す。
 ヒウタの赤い顔から、コウミは目を反らして。
 唐揚げをヒウタの口の前に差し出した。
「ん」
 んって言われても間接キスでは?
 断っていいのか、それはそれで。
 コウミは気づいてなさそうだし。
 ヒウタは目を瞑って大きく口を開ける。
 一口で口に含んだ。
 できるだけ串に触れないようにして。
「友達作り頑張れそうって思って」
「ありがと」
 コウミの頭から湯気。
「か」
「か?」
「私の、か、か、間接キスなら。それくらいの価値ない?」
 瞳に涙を溜めるコウミ。
 小さな体は震えていて。
 足はばたばたと床を叩いていた。
 ヒウタは返答が見つからず。
「やっぱりうまい」
 否定も肯定もしない言葉を選んだが、そうとしか読み取れず。
 それに気づいたヒウタは石化したように動かなくなって。
 それを見たコウミはテーブルに顔を伏した。
 魔法が解けたのは十分くらいで。
 カップを返すと店員は楽しそうで、ヒウタはどこか悔しい。
「行くよ、荷物係」
「はいはい、お姫様。次はどちらへ?」
「フルーツ飴の店。時間はないから持ち帰りだけ」
「近い?」
「食べていく時間はない、その言い方だけでは足りない?」
 どうやら遠いらしい。
 ヒウタは大きく息を吸って気合を入れた。
 明日は筋肉痛だろう。
 電車を使って、乗り換えも一回あって。
 ヒウタとコウミのどちらにも会話をする体力がなく。
 店でイチゴのフルーツ飴を買うと、コウミはすぐに帰路へ。
「ここまで。荷物持ちご苦労」
 コウミは大量の紙袋を抱える。
 背が低いからか、紙袋はコンクリートに何度も擦ってしまって。
 ヒウタはその姿を見る。
 コウミはすぐふらついて。
 その危うさにヒウタはじっとしていられなかった。
 薄暗い、深い青色の空。
 日は沈みかける。
「送っていく。そろそろ暗くなるから」
「ん」
 ヒウタは再び荷物を。
 電車で移動すると、だんだん暗闇が広がって。
 改札を抜けると月があった。
「ねえねえにお土産!」
 土産っていってもほとんど食べ物じゃないか。
 でもコウミは楽しそうだ。
「迎えに来た」
 あれ、この人って。
「ねえねえ」
 同じ大学ってまじか。
「あ、スイーツパーティで邪魔してきたやつ。コウミたんに近づくな!」
「おま、食い尽くそうとしてただろ」
「先輩だが、過去問を手配したが」    
「うぐ」
 過去問を持ち出されたら仕方ない。
 コウミには負けたとはいえ、フル単は達成したのだ。
 それにしても、食べ物買いすぎたと思っていたが、むしろ少ないんじゃないか。
「ねえねえ、私はねえねえがまた食べたいねって言ってたやつ買ってきた。そのために男手がほしくて」
「ふむふむ、こいつ以外なの。私の食事を邪魔したカスなの、妹に何か?」
 コウミの姉はヒウタの首を掴んだ。
 それでも微笑ましいのは声色とか小柄なところとか雰囲気が、確かに姉妹だと感じたから。
「ねえねえ、だめ!」
 コウミの声でヒウタは解放された。
「私は琴春ことはる川九呂かわくろ。友人からはカワカワとかクロって呼ばれているの。そして食べることに命を懸けてる。妹はすべて、尊い。妹の尊さがお前に分かるなの?」
「分かります、妹は心のオアシスです」
 即答するヒウタ。
 カワクロは目を開いた。
「妹がいるのは知らなかった。けど、食べるのを邪魔したのは」
「イベントのスイーツ食い尽くそうとしたからだが?」
 ヒウタがカワクロを睨むと、カワクロは鬼の形相で顔を近づける。
「足りなくなる方がおかしくて? お菓子だけに」
「食べ過ぎなんだよ、結論出ないな。コウミさんに聞くか」
「もちもち。愛しのコウミたんなら文句ない」
 二人の視線がコウミに向く。
「スイーツはみんなで食べた方がいいですよね、コウミさんはどう思います? カワクロさんは私がすべて食べるのが一番正しいって言って、……」
「その聞き方卑怯なの、コウミたんを誘導なんて」
 ヒウタとカワクロは手を組み合って争う。
 肝心のコウミは一歩引いて。
「その、仲良し?」
 怖がって引いていた。


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