規約違反少女がマッチングアプリで無法すぎる!

アメノヒセカイ

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5章 期末テスト大戦が絶望すぎる!33~47話

その12 ヒウタとお出掛けプログラム

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 駅前の広場。
 そこにある噴水を囲う石の上で小柄な少女が泣く。
 静かに涙を流す少女を、ヒウタは見ていた。
 あまり表情は見えないけど。
「コウミさん、だよな」
 その少女はパーカーに身を包む。
 フードを深く被っていて、うずくまっていて。
 首元から垂れる左右の紐を力強く握っていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
 ヒウタは話し掛けようとしたが躊躇う。
 少女はひどく濡れたタオルで目元を拭う。
 その瞬間ヒウタと目が合って、少女は申し訳なさそうに立ち上がる。
「ヒウタ? 早い」
「やっぱりコウミさんだな。早めに来たつもりだよ。けど、結構待ってただろ?」
 コウミは一歩下がる。
「二人きりになってごめんなさい。友達出来ないままで」
 コウミは友達ができなかったと言うけれど。
 コウミは同学科の人たちとは一通り何かしらの勝負をしているらしいし。
 学科全体から愛されているのだろう。
 コウミ本人は気づいてないだろうけど。
「じゃあ僕が今から、……」
 言いかけてヒウタは止まる。
 今から友達だって言ったところで気持ち悪くないだろうか?
 異性からだと。
「今から荷物持ちになるから、行きたいところ行こう」
「いっぱいあるよ、私」
 コウミの顔は赤くなっていた。
 ヒウタはコウミを見ることを遠慮して視線を反らす。
「行くか」
「重いかもね」
「そんなにも?」
「大盛りコース」
 こうして、ヒウタの罰ゲームが始まった。
 それにしてはヒウタは悔しそうにしていない。
「少しは手加減して欲しいな」
「弱者は食われるのみ!」
「分かりましたとさ」
 ヒウタはペットボトルのお茶を呷って、覚悟を決めるのだった。
「では、まずはイベント会場まで。電車で行きます」
「イベント?」
「通販で人気の食べ物が集まる祭典。荷物持ち、任せた」
「任せろ、任せろ」
「ふふっ」
 コウミは鼻の辺りに握りこぶしを当てて微笑む。
 ヒウタは恥ずかしそうに頭を掻いた。
 それから電車で移動して。
 改札を降りてさらに歩く。
「駅構内にあるんだっけ?」
「ん。一応」
 コウミはスマホをずっと触っていた。
「これとこれと、これと。あ、これも買いたい!」
 先ほどまで泣いていた少女とは思えない様子。
 実に楽しそう。
 憧れのテーマパークにやって来た子供のような。
「結構大荷物じゃないか」
「だから言ったでしょ?」
 イベント会場の建物に入って。
 エスカレーターを数えるのが面倒なほどに上った。
 ようやく会場に着くと、コウミはスキップして進んでしまう。
「待って!」
 離れ離れにならないようにと、ヒウタは咄嗟に動いてしまうが。
 だらしない手汗の中に温もりがある。
 手をだんだん離すと、光沢のある爪、指の関節のしわが見える。
「すみません!」
 ヒウタは温泉に浸けたみたいな熱い手をハンカチで拭き取る。
 コウミを見ると全く動かなくなっていた。
「コウミさん!」
「ん?」
 コウミは何事もなかったように再び売り場へ。
「牛肉コロッケのサンドイッチ。どう?」
「いい香りだな、食べるか」
「んん、お土産に買えるかな?」
「冷凍のやつとか?」
「溶けると思う。まだ他の建物に行く」
「夏だしやめた方がいいもんな」
 ヒウタの正論に、コウミは冷たい視線を送る。
「どうした?」
「何でもない」
 ヒウタはコウミが分からない。
 しかし二人きりの状況で確信に迫る度胸はヒウタにはなく。
 何とか耐えて流すしかなかった。
 ヒウタとコウミはコロッケ屋さんに並ぶ。
 レジを囲うように長蛇の列が整列されて。
 コロッケの衣の香ばしさとじゃがいもの優しい甘さが届く。
 その美味さを期待して、ヒウタの喉が鳴る。
 コウミはきらきらした目で揚げたコロッケの油が落ちるのを眺めていた。
「あれがサンドイッチに。なんて豪華」
「美味そうだな」
「なんか面白い話して」
「ただの荷物係になかなか厳しいお願いで」
「暇。面白かったら私の負け、奢る」
「女性に奢らせるほど貧乏ではないけど」
 コウミは頬を膨らます。
 リスが木の実を頬に貯める姿が想像できる。
「わくわくした雰囲気を壊してた?」
「さて。もう知らない」
 あ、絶対拗ねてる。
 ヒウタは気まずくなってスマホを開く。
「じゃわじゃわじゃわじゃわじゃわ」
 コウミは引き続き揚がるコロッケを見て。
「どうした?」
「揚がる音の真似。川の音みたい」
「川の音?」
「これ! ねえねえが広めの川で録音したやつ。たまに聴いてる」
 コウミはスマホから音声を流す。
 じゅわじゅわとも、ざあざあとも聞こえる。
「フライの音も似てるな、確かに」
「そ!」
 コウミは自慢げに。
 ようやく二人の番が回ってくる。
「「コロッケサンドひとつ!」」
 声が被った。
 続いて、どうぞと譲るために差し出した手も同時だった。
 互いにおかしくなってしまって笑い合ってしまうが、ヒウタの後ろにも大勢の人が並んでいる。
「コホン」
 ヒウタはわざとらしい咳を。
「コロッケサンド二つ」
 会計を済ませてからコロッケサンドイッチは用意される。
 まず、肉厚なコッペパンに切れ目をいれて、茹でたキャベツを撒いてコロッケを乗せる。
 それから、タルタルソースを和えて、ソースを少々。
「ずっしり」
「美味そうだな、これは」
 立ち食い用のイートインスペースに移動して。
 ヒウタがサンドイッチに食らいつく。
「うま!」
 コウミの方を見てみると、写真をひたすら撮っていた。
 その視線にコウミは気づく。
「ねえねえに送る。美味しそうでしょって」
「お姉ちゃんっ子だな」
「ん」
 コウミは小さな口で何度も齧りつく。飲み込めない分で頬を膨らませる。
「急がなくていいぞ」
「私の都合。急ぐ、時間がない」
「そういうことなら仕方ないけど」
 食事を終えると、買い物タイム。
 バウムクーヘン、ドーナツ、マンゴーのジャム、チョコレートのクッキー。加えて草餅や饅頭も。
「そんなに食べれるか?」
「ほとんどねえねえの分。私も食べる」
「期限あるからな」
「一日ももたない」
 どんな姉だよ、と思うが。
 すでに買ってしまったものは仕方ない。
 ヒウタは紙袋を両手に持って、その重さに汗を流す。
 エスカレーターでは紙袋の底を階段の上に置いて。
 イベント会場の建物から外に出た。
「もう一件、いや二件ある」
「まじか」
「罰ゲームの荷物持ち、楽なはずもなく」
「少しは遠慮してくれよ」
「今までの分、取り返すから」
 高く昇った日光がその影を描く。
 瞳に光が灯った気がして。
 ヒウタは一瞬目を反らすのだった。



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