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5章 期末テスト大戦が絶望すぎる!33~47話

その11 ヒウタとこれも夏

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『大事な娘が遊びに行った。あとはよろしく! お父様より』
 そのメッセージが来たのは、ヒウタがまだ眠っていた頃。
 ヒウタが起きて朝ご飯を食べ終え、食器を洗っているときだった。
 インターホンが鳴って。
「にいに、夏休みだよ」
 ヒウタの妹であるアメユキが遊びに来た。
 で、どうするよ。
 特に何も用意してないが?
「アメユキ、朝ご飯は食べてる?」
「寝癖だらけの人には言われたくないな」
「そんな強気なのも今の内。大学生は九月にも休みがあるんだよ」
「ふーん、そうなんだ」
 アメユキは興味無さそうに、ヒウタのベッドの上に腰を下ろした。
 ヒウタは取り敢えず湯呑みを渡す。
「冷たい麦茶。わざわざこんな暑い中ご苦労様。どうしたんだ?」
「にいにの様子見だよ。もし倒れてたら大変って思って」
「そっか。宿題はもう終わったか?」
「あとは読書感想文かな」
 ヒウタは得意げな表情で。
「俺は宿題ないけどな、フハハハ」
「そう? だったら構って」
「構うとは? わざわざ来てもらって悪いけど何もないぞ。あとでスーパー行くか。バイト代あるし、お菓子とか買うよ」
「デートで女の子に奢るでしょ?」
「そこまで金欠ではないのとそこまで貢がないから大丈夫」
「ならチョコとか買おうかな」
「兄貴に任せとけ」
 それから、パソコンで動画配信や投稿を見て。
 アメユキは音楽系をよく見るらしい。
「ねえねえ」
 手招きをするアメユキ。
「どうした?」
 ヒウタが問うと、アメユキは腕をヒウタの背中に回して。
「ぎゅっとして」
 家族だからかアキトヨに感じたようなドキドキはないけど。
 抱き締めたいというこの気持ちの正体は?
「にいに?」
「アメユキ」
 ヒウタもアメユキに応えようと腕を広げる。
 アメユキは笑って。
「はい、時間切れ。また今度ね」
 ヒウタはフラれた気持ちになって。
 一瞬アメユキから視線を反らした。
 気持ちを整理するために静かに一呼吸。
「私、あまあま甘えん坊モードなの!」
 アメユキは先ほど見たミュージックビデオが気に入っているらしい。
 もう既に存在しないアイドルグループのものだが。
 たまに元メンバーの目撃情報がネット上に。
 特に、最年少メンバーはコンビを組んで、動画配信や投稿をしているらしい。
 いろいろ騒いでいたわりには応援されているみたいで。
 アメユキも注目しているコンビだ。
「では今から近所のスーパーに行きます」
「ちなみに結構歩くぞ」
「がーん! 私はにいの部屋まで来て疲れてるのに。おんぶしてくれるの?」
「しません」
「むう、意地悪です」
「ジュースも買う?」
「好きなのがあれば」
 近所のスーパーに着く。
 冷房が効いていて汗をかいた分急激に冷える。
「お昼は何を作ってくれるの?」
「スパゲティサラダとカレーライス」
「お昼から?」
「余るだろうから夜も食べる。夕食は残飯整理かな。スパゲティサラダ用のキャベツとグリンピース、……ツナもいいのがあれば入れたい」
 アメユキは悩んで腕を組むヒウタを見る。
 そして、買い物は長そうだと察してお菓子売り場まで歩く。
 チョコ菓子とスナック菓子を掴んで。
 ジュースコーナーに佇む瓶を抱えた。
「にいに、見つけた」
「結構抱えてるな。ああ、ラムネじゃないか」
「ビー玉見てたらほしくなって」
「そっか。戻ったらしっかり冷やそう」
「ありがと」
「お昼正午には間に合わないけど。それなりに急ぐから楽しみにしてろよ」
「美味しくなかったら実家に戻ってきてもらう」
「厳しくて抜かりない妹ですこと」
「油断は禁物!」
 アメユキは頬を上げて笑う。
 その様子を見て、ヒウタはアメユキの頭を撫でる。
「そっか」
 部屋に戻ってすぐに、パスタを茹でながら野菜を切っていく。
 鍋に切った野菜を入れて水を注ぐ。
 鍋に灰汁が浮いたらお玉で掬って。
 パスタを取り出してグリンピースとキャベツを茹でる。
 コンロが一つではないところも、部屋の広さを表している。
「アメユキ、撮ってる?」
「動画だよ」
「そっか」
 ご飯を炊いて、カレーを煮込んでいく。
 ボウルにパスタとキャベツ、グリンピースを入れて、ツナとマヨネーズを加える。
 よく絡むように混ぜる。
「そろそろ」
「楽しみ」
 テーブルに並べて。
 アメユキは満足そうに頬張る。
 ヒウタはようやく手が空いて、スマホを開いた。
 ヒウタがメッセージを打っていると。
「ガールフレンド?」
「でも女の子でしょ?」
「いや、その」
「ああ、お姉ちゃんほしいなあ」
「そういうのじゃなくて。荷物持ちがほしいって」
「二人きり?」
「友達を連れてくるらしい」
「ならハーレムだ」
「それはない」
 アメユキは不機嫌そうに仰向けで寝る。
「美味しくなかったか?」
「そういうことじゃない。違うのに」
 アメユキはヒウタの腰辺りの位置で服を引く。
 ヒウタはアメユキと目を合わせた。
「にいに圧力を掛けるつもりはなくて。一番はにいにが幸せなことが大事だから」
「優しいよくできた妹だな」
「にいは今幸せ?」
「ぼちぼち、それなりには」
「そうなんだ」
 アメユキは返答に困ってしまった。
 今ある悩みを誤魔化しているとでも思ったらしい。
 ヒウタは妹の落ち込んだ表情を察して。
「めちゃくちゃな友達がいて、ハクって言う人で。大学はすごく楽しい。けど、それだけではなくて。アメユキに恋活の背中を押されてから、世界がバッと広がってさ!」
 ヒウタは楽しそうに腕を広げるジェスチャーをして。
 アメユキは寝たまま、ヒウタを見ていた。
「充実してる。……、アメユキの理想のお姉ちゃんができるかはまた別だけど」
 ヒウタは一瞬アメユキから目を反らす。
 アメユキは体を起こして。
 安心したのか和らいだ表情で。
「にいの理想の彼女なら、妹の私にとっても理想のお姉ちゃんだよ」
「ありがとな」
「にいは力みすぎ。まだ私だけのお兄ちゃんでもいいのだけど」
 それから、スパゲティサラダとカレーを丁寧に平らげて。
 アメユキはスナック菓子とラムネ瓶を準備して。
 黙々とお菓子タイムを堪能するのだった。
 
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