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5章 期末テスト大戦が絶望すぎる!33~47話
その9 ヒウタと水族館
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バスを降りて。
踊る陽炎、佇む青空。
体中を纏わりつく汗が鬱陶しい。
一息が苦しく、足裏はじりじりと痛む気がして。
入場券を事前に準備していなければ、大変な道のりだった。
「はわあ」
アキトヨは欠伸をした。
大きく開けた口を咄嗟に手で隠す。
「痛いっ」
ヒウタは二の腕を抓られた。
火傷をしたかのように、麻痺をしたかのようにじりじりと。
「私は昨日忙しかったから。欠伸の一つや二つ、なんてことないよね?」
「欠伸をして悪いなんて言わない。バスでも寝てたし、頑張ってることは素敵だ」
「寝顔を記憶から飛ばす。私は寝るつもりなんて」
アキトヨとヒウタは自動扉を一つ。
途端、景色が変わって涼しい風がヒウタを撫でる。
すっきりした空気。
熱気から解放されてようやく落ち着いた。
「パンフレットとマップです」
「うんうん、水族館は遠足以来だからわくわくするわ」
アキトヨは目を輝かせてマップとパンフレットを見比べていた。
水族館を体験型と考えるのは、間違っているとも正しいとも取れる。
楽しそうなアキトヨを見ると、嬉しくなってしまう。
「遠足、学校の?」
「学校くらいしか遠足ないと思うけど?」
「確かに」
「変なの。私行きたいとこ決まったわ。ヒウ君、付いてきて」
ヒウタにも興味がある場所を聞く流れではあったが。
アキトヨらしいと言えばアキトヨらしい。
「小さいエビ。これは見ておきたい!」
「分かった」
「分かってくれて良かった。じゃあ」
歩くの早い!
それでも走ろうとはしないように、常識がない人ではない。
それにしても。
……、アキトヨを見失った。どうしようか。
「アキトヨさんはどこだ? エビのところに向かったはずだけど」
マップを細かく確認していないことを後悔した。
エビゾーン、という括りは存在しない。
けど、見比べていたということは。
「パンフレットの写真にはあるもんな」
子供なら丁度目線の高さに水槽。
ということは、アキトヨならしゃがんで見るはず。
それから、エビの水槽がありそうな、低い位置に水槽がありそうな場所を探した。
案外、早く見つかる。
まあ、見つからなかったら怖いけど。
「ここがエビだ。‥‥‥、アキトヨさん?」
ヒウタはアキトヨを呼ぶ。
アキトヨは気づいていないよう。
「エビエビ、お前何してるんだ? ああ、なんだその動き。それ楽しいの?」
アキトヨは笑顔でじっと眺めていた。
その横顔がかわいらしくて、ヒウタは不可侵を感じてしまう。
アキトヨは、ガラスの上からエビを撫でるようにして。
「かわいい、かわいい。お前もなかなか変わりものだな」
アキトヨはその水槽から動こうとしない。
「大好き」
無邪気で和んだ表情。
ショートカットヘアから睫毛が垣間見える。
悪いことをした気がして、ヒウタは一度背を向けるが、それもまたおかしな気がしてゆっくりアキトヨの元に。
「エビエビかわいいなぁ、‥‥‥って。いつの間に!?」
「邪魔してごめん。そんなつもりなくて」
「そろそろ行こうか」
「満足してくれてたらいいですけど。アキトヨさんが楽しめたら大成功なので」
アキトヨはヒウタを見る。
何も話さず動かず。
冷房の風が一度アキトヨを包むとようやく口を開いた。
「なにその気持ち悪いプレッシャー。喧嘩売ってる?」
「いや、その、ごめんなさい」
「ぼったくりのときみたいに情けない感じ?」
「ボッタクリのは話はもういやだのぉ、ひいいいい」
「それはどんな反応? 触れあいコーナー行ってからレストラン行こう」
「触れあいコーナー?」
「ヒ・ト・デ」
アキトヨは手のひらをヒウタに向けて開いたり閉じたり。
なんて微笑ましい。
ヒウタは踵を返した。
「あ、ヒウ君」
「あ、うん?」
急に袖を掴まれた。
ヒウタは驚いたのと急な緊張で赤くなった頬を手で覆う。
アキトヨの手にはスマホが。
「エビがエビエビしてる写真と、動画。いる?」
「はい!」
「あー、エビフライ食べたいなあ」
「ええ、……」
急ぐアキトヨを追った。
触れあいコーナーにて。
夏休みであることもあって、家族連れが多い。
視界には子供か、……カップル。
「ヒウ君、ヒトデ行こうか」
「磯っぽい香りというか」
ヒウタは恐る恐るヒトデに手を伸ばす。
「なかなか慎重な。女の子に対しては手が早いくらいなのにね」
「そう見える?」
「見えないわ。早く勇気出して」
アキトヨが眉を細めてヒウタを見る。
勇気出せ、ヒウタ。
「うりゃあああ! って針みたいな!」
ヒウタは手の感触に違和感があって咄嗟に手を戻す。
「ヒウ君、それウニ」
ヒウタは目の前の黒いトゲトゲを眺めて。
「マジか」
エアコンの風が冷たかった。
それから。
ヒトデに触れて。
「ゴツゴツとプニプニの間みたいな?」
「そうね、なかなか面白い」
アキトヨは満足そうに笑った。
それからお昼は魚たちに愛着が湧いたのか、海鮮メニューは避けて。
ヒウタはサンドイッチを。朝はハンバーガーだったけど。
アキトヨはうどんを食べていた。
かまぼこや鰹節の出汁はいいのか?
ヒウタはこの世には言わない方がいいことを知っている。
昼食後。
海の生き物や生物の進化に関する展示を見たり。
高速で泳ぐペンギンを必死に動画に残したり。
お土産屋でイルカのストラップを買ったりした。
深海の生き物にはまたエビがいて。
アキトヨは楽しそうにしていた。
「置物かと思ったわ」
「ええっと、オオグソクムシ?」
目の前の薄暗い水槽でぴくりとも動かない甲殻を持つ生物。
「静かでかわいい感じ?」
「意外と大きいかな」
「お土産あとで行けば良かったような」
「クラゲの展示見たらもう一度行きましょう」
こうして、ヒウタたちはイベント展示であるクラゲアクアリウムを目指した。
踊る陽炎、佇む青空。
体中を纏わりつく汗が鬱陶しい。
一息が苦しく、足裏はじりじりと痛む気がして。
入場券を事前に準備していなければ、大変な道のりだった。
「はわあ」
アキトヨは欠伸をした。
大きく開けた口を咄嗟に手で隠す。
「痛いっ」
ヒウタは二の腕を抓られた。
火傷をしたかのように、麻痺をしたかのようにじりじりと。
「私は昨日忙しかったから。欠伸の一つや二つ、なんてことないよね?」
「欠伸をして悪いなんて言わない。バスでも寝てたし、頑張ってることは素敵だ」
「寝顔を記憶から飛ばす。私は寝るつもりなんて」
アキトヨとヒウタは自動扉を一つ。
途端、景色が変わって涼しい風がヒウタを撫でる。
すっきりした空気。
熱気から解放されてようやく落ち着いた。
「パンフレットとマップです」
「うんうん、水族館は遠足以来だからわくわくするわ」
アキトヨは目を輝かせてマップとパンフレットを見比べていた。
水族館を体験型と考えるのは、間違っているとも正しいとも取れる。
楽しそうなアキトヨを見ると、嬉しくなってしまう。
「遠足、学校の?」
「学校くらいしか遠足ないと思うけど?」
「確かに」
「変なの。私行きたいとこ決まったわ。ヒウ君、付いてきて」
ヒウタにも興味がある場所を聞く流れではあったが。
アキトヨらしいと言えばアキトヨらしい。
「小さいエビ。これは見ておきたい!」
「分かった」
「分かってくれて良かった。じゃあ」
歩くの早い!
それでも走ろうとはしないように、常識がない人ではない。
それにしても。
……、アキトヨを見失った。どうしようか。
「アキトヨさんはどこだ? エビのところに向かったはずだけど」
マップを細かく確認していないことを後悔した。
エビゾーン、という括りは存在しない。
けど、見比べていたということは。
「パンフレットの写真にはあるもんな」
子供なら丁度目線の高さに水槽。
ということは、アキトヨならしゃがんで見るはず。
それから、エビの水槽がありそうな、低い位置に水槽がありそうな場所を探した。
案外、早く見つかる。
まあ、見つからなかったら怖いけど。
「ここがエビだ。‥‥‥、アキトヨさん?」
ヒウタはアキトヨを呼ぶ。
アキトヨは気づいていないよう。
「エビエビ、お前何してるんだ? ああ、なんだその動き。それ楽しいの?」
アキトヨは笑顔でじっと眺めていた。
その横顔がかわいらしくて、ヒウタは不可侵を感じてしまう。
アキトヨは、ガラスの上からエビを撫でるようにして。
「かわいい、かわいい。お前もなかなか変わりものだな」
アキトヨはその水槽から動こうとしない。
「大好き」
無邪気で和んだ表情。
ショートカットヘアから睫毛が垣間見える。
悪いことをした気がして、ヒウタは一度背を向けるが、それもまたおかしな気がしてゆっくりアキトヨの元に。
「エビエビかわいいなぁ、‥‥‥って。いつの間に!?」
「邪魔してごめん。そんなつもりなくて」
「そろそろ行こうか」
「満足してくれてたらいいですけど。アキトヨさんが楽しめたら大成功なので」
アキトヨはヒウタを見る。
何も話さず動かず。
冷房の風が一度アキトヨを包むとようやく口を開いた。
「なにその気持ち悪いプレッシャー。喧嘩売ってる?」
「いや、その、ごめんなさい」
「ぼったくりのときみたいに情けない感じ?」
「ボッタクリのは話はもういやだのぉ、ひいいいい」
「それはどんな反応? 触れあいコーナー行ってからレストラン行こう」
「触れあいコーナー?」
「ヒ・ト・デ」
アキトヨは手のひらをヒウタに向けて開いたり閉じたり。
なんて微笑ましい。
ヒウタは踵を返した。
「あ、ヒウ君」
「あ、うん?」
急に袖を掴まれた。
ヒウタは驚いたのと急な緊張で赤くなった頬を手で覆う。
アキトヨの手にはスマホが。
「エビがエビエビしてる写真と、動画。いる?」
「はい!」
「あー、エビフライ食べたいなあ」
「ええ、……」
急ぐアキトヨを追った。
触れあいコーナーにて。
夏休みであることもあって、家族連れが多い。
視界には子供か、……カップル。
「ヒウ君、ヒトデ行こうか」
「磯っぽい香りというか」
ヒウタは恐る恐るヒトデに手を伸ばす。
「なかなか慎重な。女の子に対しては手が早いくらいなのにね」
「そう見える?」
「見えないわ。早く勇気出して」
アキトヨが眉を細めてヒウタを見る。
勇気出せ、ヒウタ。
「うりゃあああ! って針みたいな!」
ヒウタは手の感触に違和感があって咄嗟に手を戻す。
「ヒウ君、それウニ」
ヒウタは目の前の黒いトゲトゲを眺めて。
「マジか」
エアコンの風が冷たかった。
それから。
ヒトデに触れて。
「ゴツゴツとプニプニの間みたいな?」
「そうね、なかなか面白い」
アキトヨは満足そうに笑った。
それからお昼は魚たちに愛着が湧いたのか、海鮮メニューは避けて。
ヒウタはサンドイッチを。朝はハンバーガーだったけど。
アキトヨはうどんを食べていた。
かまぼこや鰹節の出汁はいいのか?
ヒウタはこの世には言わない方がいいことを知っている。
昼食後。
海の生き物や生物の進化に関する展示を見たり。
高速で泳ぐペンギンを必死に動画に残したり。
お土産屋でイルカのストラップを買ったりした。
深海の生き物にはまたエビがいて。
アキトヨは楽しそうにしていた。
「置物かと思ったわ」
「ええっと、オオグソクムシ?」
目の前の薄暗い水槽でぴくりとも動かない甲殻を持つ生物。
「静かでかわいい感じ?」
「意外と大きいかな」
「お土産あとで行けば良かったような」
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