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5章 期末テスト大戦が絶望すぎる!33~47話

その5 ヒウタと過去問

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 過去問を手に入れたヒウタは最高の気分になって。
 まず、友人のハクに見せびらかした。
「過去問だ、ひゃひゃひゃひゃ」
 一度冷静にヒウタのスマホを見る。
 電子ファイルを開いた。
「こ、これは」
 ハクの反応は落ち着いていた。
 はずだった。
 だんだん笑いが込み上げる。
 今までの苦労などどうでもいい。
 これが手に入らなかった可能性を捨てきれなかっただけ。
 これでもう必死に勉強しなくていい。
 大学楽勝。
 人生の夏休み、いや夏祭りだ。
「秘伝の書だ、過去問だ、わっしょいわっしょい」
「はは、花火を打ち上げたい気分だな。ひゃひゃひゃひゃ」
 ヒウタが言うと、ハクも乗る。
「わっしょい、わっしょい」
「ひゃひゃひゃひゃ」
「わっしょい、わっしょい」
「ひゃひゃひゃひゃ」
 もしかすると悪いものに憑かれたか。
 大体そんなところだろう。
 過去問神話を信じた二人にとって、妄信的に過去問を求める姿はまるで悪魔が憑いてしまったようだ。
「わっしょい、わっしょい」
「ひゃひゃひゃひゃ」
 大学の学生ラウンジで騒ぐ二人。
 学生がラウンジにいる理由はいくつかある。
 ただ期末テストが近いとなれば、多くはテスト勉強と提出期限の迫った期末レポートだろう。
 そこに現れた悪魔憑き。
 それは普通に恐怖で気味が悪いのと同時に、迷惑行為でしかなかった。
「化け物がいると思ったらヒウタ。テストが絶望過ぎておかしくなった?」
 ロングスカート姿のコウミだった。
 ちょこんとしたベレー帽が頭に乗っている。
 小柄な背もあってか、幼げな危うさと大学生らしいおしゃれが美しさと愛らしさを両立させる。
 不覚にも惹きつけるは、イチジクの芳烈。
 コウミの香水の香りだ。
 鼻孔を抜けた香りをつい目で追ってしまう。
 ぼうっとコウミを見つめたようになってしまった。
「ん? なに」
 コウミは眉を細める。
 訝しむ視線。
 いい香りがしたっていうのは不審だろうか、聞くまでもないが。
「不審だけど、勝負できそう?」
「過去問ありがとな。もう無敵に違いない」
「う? もう全部解けた?」
 何を言っているんだ?
 過去問がある、既にイージーだ。
 今更何を解く?
 過去問を見れば何とでもなる。
 ……、あれ。
「ハク、過去問があれば余裕だよな」
「もちろん。これがないゆえの苦労だった。もう夏休みみたいなもん、すなわちわっしょい」
「そうだよな、もう夏祭りに違いない、つまりひゃひゃひゃひゃってことだ」
 あれ。
 何か違うような。
 過去問を手に入れたってことは、どういうことだ?
 何を解く?
 ヒウタは考えても結論に至らない。
「モテ期、やる気、ウッキッキ」
 ヒウタがよく分からない三単語を並べると、ハクは黙った。
 口をすぼめて頬に力を入れる。
 細めた目がヒウタをじっと。
「いや急に真顔になるな」
 ハクは顔を緩める。
「変顔だったろ、真顔って喧嘩売ってるのか」 
「いいや、違うな」
 ヒウタは謎を解いたような雰囲気を醸しながら、人指し指を左右に振る。
「ちっちっち。分かったぞ」
「ヒウタ、心理に気づいたのか」
「そう。よく見てみろ、愛しの過去問を」
「まさか」
 あまり見ない探偵ドラマのエキストラの想像した演技をしていたハク。
 急に真面目な雰囲気を出して探偵気取りをするヒウタ。
 二人は固まった。
 目の前の電子ファイルは過去四年分の問題がある。
 本気を出せば先生は取り締まることができるはず。
 それが自由に手に入るということはつまり。
「過去問はゴールではない、スタートなのか」
 問題を解く必要性を身に染みて感じた。
 出題範囲は似ているものの、問題は毎年異なっている。
「どうして。俺の過去問が!」
「まだ泣くな、ヒウタ。泣いて溢れ出してしまったら、誰にも自分自身でさえその痛みも悲しみも受け入れられない。耐えろ、ヒウタ」
「でも、もう何に期待していいか分からないよっ」
 熱い演技をする二人。
「仲良しで羨ましい」
 コウミは刹那、笑った。
 ヒウタだけがそれを見ていた。
「また勉強の日々か。勝負もあるし」
「ヒウタ、俺たちはまだまだ強くなれる」
 ヒウタはコウミとの点数勝負のために覚悟を入れ直した。
 コウミは過去問がなければ厳しいことを知っていたのだろう。
「あんなに早く過去問がもらえるわけがない。連絡先交換してからあまりにも早い」
 事前に用意してくれていた。
 ここまでしてくれたらサボるわけにはいかない。
 大学生の性分は勉強なのだ、なんてヒウタは思うが。
 ついさっきまで過去問があれば余裕だの、勉強なんて一切しなくていいだの、もう夏休みみたいだの言っていたことは既になかったことにしていた。


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