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5章 期末テスト大戦が絶望すぎる!33~47話
その3 ヒウタと勉強会
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過去問も情報もない。
ヒウタたちに残された道はただ一つ。
今までの講義と小テストを細かく復習し、如何なるテスト形式でも立ち向かうことだ。
それが学生の本分ではあるだろうけど。
過去問を持っている人がいると知ってしまうと、胸が締め付けられる。
人ひとりが抱えていいストレスではない。
単位を落としてしまったら、特に必修科目を落としたら。
留年か退学か。
過去問への希望が捨てきれない。
それでも手を動かしてあがく。
ヒウタの家で。
ハクたちを迎えて総復習をしていた。
「過去問あって、女の子とムフフして。そういう人間もこの世にいるのか」
ハクが漏らした言葉で同志たちの火が付く。
「そうだそうだ。この期間だってあんなことやこんなこと。くそ、どこでそんな格差が」
「助けてお父さん、おじいちゃん、嫌だよお。ここで一族が途絶えるなんて。彼女来てくれ、俺を見つけてくれ」
なんと悲しきことか。
この言葉を皮切りに。
止めていたダムが決壊していく。
「彼女ほしい!」
「俺を迎えに来てくれ!」
「一人にしないで!」
つまり。
「うるさいが?」
ヒウタはテーブルを叩いた。
一気に静かになる。
「はい、ごめんなさい」
ハクが言う。
沈黙が訪れる。
紙に文字を書く音だけが存在する、許される。
その沈黙を破ったのは。
「ヒウタ、私が来たぞ」
テンション高めに玄関に現れた女子高生だった。
「って、お友達いっぱい」
スーパーで買ったものが入ったエコバッグを抱えて。
「女子高生?」
同志の一人が言う。
「その、ややこしいのだが。私は女子高生であって、けど二十七才で」
シュイロは恥ずかしそうに言う。
「うん? 誰だ、ってえ? あの、その、お邪魔してます」
ハクはシュイロを見て姿勢を正す。
緊張が見て取れる。
「何がいいのかな、……。説明するのも難しいし」
緊張しているハクやその同志は固まっていてシュイロの言葉を聞いていなかった。
って、今から関係性の設定を考えるのか。
確かにマッチングアプリのことを説明するのは面倒だし、理解してくれてもまた椅子に縛られるかもしれない。
「これにするか」
これにするか!?
変なこと言わなければいいけど。
シュイロはハクたちのような馬鹿をやらかす輩ではない。
きっと何とか誤魔化してくれるはずだ。
「私はヒウタの、実の姉だ」
か、家族設定?
それはまずい。
ハクは知ってるから。
「ヒウタって姉いないって言ってた、恐る恐るって言い方だったし」
「それがだな」
シュイロはヒウタをチラチラ窺うように見る。
目を合わせるだけで意思疎通を取ることはできないが?
「そんな。母が言い忘れてたらしいが、私は生き別れの姉で」
「そんな壮絶な過去ないよな、ヒウタ」
ハクはヒウタに詰め寄る。
無理がある説明である。
完全に怪しい関係だと思われた。
「最近暑くて間違ったこと言ってしまったな。私はヒウタとは非嫡出子の腹違いの姉で、……」
再チャレンジ!?
シュイロはハクたちの表情を窺う。
「間違えた、私はヒウタの大事な人だ」
シュイロははにかんだように体をもじもじとくねらせながら、ヒウタをじっと見る。
「ヒウタが、ヒウタが年上の綺麗なお姉さんを侍らせてやがる。うわあああああああああ」
叫ぶハク。
それに続いて、ハクの同志たちも慟哭する。
「ん? 私はヒウタの従者でも恋人でもないぞ?」
シュイロになんてことを言わせるんだ。
キョトンとしてるし。
そのとき、玄関の扉に叩く音。
うるさい、と怒鳴られた。
しっかり謝ると、ハクたちは落ち着いた。
「ええ、本当に誰なんですか」
冷静になった。
「私はこの部屋を借りてる者で、ヒウタに貸しているんだ」
沈黙。
「ヒウタ、綺麗なお姉さんのヒモってこと?」
マッチングアプリの管理アルバイトの話をしなければ、ハクの言う通りヒモにしか聞こえない。
「アルバイト忙しいって言ったら、賃貸を手配してくれて。仕事場の上司」
大体間違ったことは言っていない。
これで納得してくれたらいいが。
「大学も近くて、綺麗な人が上司で。俺ならもっと働けるが?」
「今は募集していないからな。また忙しくなったら募集かな」
「こいつより働けますが?」
「そうか? 接客みたいなものなのに、いちいち私を見て緊張したり、私の気分を害するような言動をしたり、使うと思うか?」
あ、怒ってる。
あまりのショックにハクは固まった。
いや、よく見るとそわそわしてないか。
おそらくどこかに刺さったのだろうと思うが、反応をすると面倒であるため無視を決めた。
「シュイロさん、どうしてここに」
「テストの応援みたいなのと、仕事の話をしたくてな。けど、騒がしそうだから」
シュイロはスーパーの袋を置いて去っていった。
その後ろ姿から嬉しそうにしているのが見えて。
シュイロのことが少し分からなくなっていた。
「ヒウタ、決めたよ」
ハクが真剣そうな顔をして告げる。
「単位を取り切って夏休みに彼女を作る。もう羨ま死をする男ではない。そうだ、神様は努力する人のために。非モテ協会よ、大罪人ヒウタに続け!」
控えめにした声。
「「総帥!」」
同志たちは新たな道を進んだらしい。
それから、再び総復習を開始して。
記述なら採点し合い、議論しながら理解を深め。
計算問題なら演習問題を何度も解き。
教科書や講義内容が記されているレジュメなるものを自分なりにまとめて、重要箇所を確認し合う。
まさに一心同体。
期末テストへの想いは誰もが等しい。
ヒウタも体育で話した女性との勝負に勝つつもりでいた。
ハクたちが去って。
一人焼きそばを頬張る。
また、すぐに勉強しよう。
これが大学生のあるべき姿だ。
ヒウタは悟りの境地へ達する。
そんなヒウタが病んだのはある講義後のこと。
同じ学科の人がテストの話をしているときだった。
演習問題で全く触れたことがない問題の話題が聞こえてきたのは。
それもよく聞き取れはしなかったが、過去問関連の話らしい。
よく見ると、前に過去問をもらえないか頼んだ女子グループの話で。
ヒウタを絶望させるには十分だった。
この不安を抱えてまま期末テストを迎える。
それだけは、絶対駄目だ。
ヒウタたちに残された道はただ一つ。
今までの講義と小テストを細かく復習し、如何なるテスト形式でも立ち向かうことだ。
それが学生の本分ではあるだろうけど。
過去問を持っている人がいると知ってしまうと、胸が締め付けられる。
人ひとりが抱えていいストレスではない。
単位を落としてしまったら、特に必修科目を落としたら。
留年か退学か。
過去問への希望が捨てきれない。
それでも手を動かしてあがく。
ヒウタの家で。
ハクたちを迎えて総復習をしていた。
「過去問あって、女の子とムフフして。そういう人間もこの世にいるのか」
ハクが漏らした言葉で同志たちの火が付く。
「そうだそうだ。この期間だってあんなことやこんなこと。くそ、どこでそんな格差が」
「助けてお父さん、おじいちゃん、嫌だよお。ここで一族が途絶えるなんて。彼女来てくれ、俺を見つけてくれ」
なんと悲しきことか。
この言葉を皮切りに。
止めていたダムが決壊していく。
「彼女ほしい!」
「俺を迎えに来てくれ!」
「一人にしないで!」
つまり。
「うるさいが?」
ヒウタはテーブルを叩いた。
一気に静かになる。
「はい、ごめんなさい」
ハクが言う。
沈黙が訪れる。
紙に文字を書く音だけが存在する、許される。
その沈黙を破ったのは。
「ヒウタ、私が来たぞ」
テンション高めに玄関に現れた女子高生だった。
「って、お友達いっぱい」
スーパーで買ったものが入ったエコバッグを抱えて。
「女子高生?」
同志の一人が言う。
「その、ややこしいのだが。私は女子高生であって、けど二十七才で」
シュイロは恥ずかしそうに言う。
「うん? 誰だ、ってえ? あの、その、お邪魔してます」
ハクはシュイロを見て姿勢を正す。
緊張が見て取れる。
「何がいいのかな、……。説明するのも難しいし」
緊張しているハクやその同志は固まっていてシュイロの言葉を聞いていなかった。
って、今から関係性の設定を考えるのか。
確かにマッチングアプリのことを説明するのは面倒だし、理解してくれてもまた椅子に縛られるかもしれない。
「これにするか」
これにするか!?
変なこと言わなければいいけど。
シュイロはハクたちのような馬鹿をやらかす輩ではない。
きっと何とか誤魔化してくれるはずだ。
「私はヒウタの、実の姉だ」
か、家族設定?
それはまずい。
ハクは知ってるから。
「ヒウタって姉いないって言ってた、恐る恐るって言い方だったし」
「それがだな」
シュイロはヒウタをチラチラ窺うように見る。
目を合わせるだけで意思疎通を取ることはできないが?
「そんな。母が言い忘れてたらしいが、私は生き別れの姉で」
「そんな壮絶な過去ないよな、ヒウタ」
ハクはヒウタに詰め寄る。
無理がある説明である。
完全に怪しい関係だと思われた。
「最近暑くて間違ったこと言ってしまったな。私はヒウタとは非嫡出子の腹違いの姉で、……」
再チャレンジ!?
シュイロはハクたちの表情を窺う。
「間違えた、私はヒウタの大事な人だ」
シュイロははにかんだように体をもじもじとくねらせながら、ヒウタをじっと見る。
「ヒウタが、ヒウタが年上の綺麗なお姉さんを侍らせてやがる。うわあああああああああ」
叫ぶハク。
それに続いて、ハクの同志たちも慟哭する。
「ん? 私はヒウタの従者でも恋人でもないぞ?」
シュイロになんてことを言わせるんだ。
キョトンとしてるし。
そのとき、玄関の扉に叩く音。
うるさい、と怒鳴られた。
しっかり謝ると、ハクたちは落ち着いた。
「ええ、本当に誰なんですか」
冷静になった。
「私はこの部屋を借りてる者で、ヒウタに貸しているんだ」
沈黙。
「ヒウタ、綺麗なお姉さんのヒモってこと?」
マッチングアプリの管理アルバイトの話をしなければ、ハクの言う通りヒモにしか聞こえない。
「アルバイト忙しいって言ったら、賃貸を手配してくれて。仕事場の上司」
大体間違ったことは言っていない。
これで納得してくれたらいいが。
「大学も近くて、綺麗な人が上司で。俺ならもっと働けるが?」
「今は募集していないからな。また忙しくなったら募集かな」
「こいつより働けますが?」
「そうか? 接客みたいなものなのに、いちいち私を見て緊張したり、私の気分を害するような言動をしたり、使うと思うか?」
あ、怒ってる。
あまりのショックにハクは固まった。
いや、よく見るとそわそわしてないか。
おそらくどこかに刺さったのだろうと思うが、反応をすると面倒であるため無視を決めた。
「シュイロさん、どうしてここに」
「テストの応援みたいなのと、仕事の話をしたくてな。けど、騒がしそうだから」
シュイロはスーパーの袋を置いて去っていった。
その後ろ姿から嬉しそうにしているのが見えて。
シュイロのことが少し分からなくなっていた。
「ヒウタ、決めたよ」
ハクが真剣そうな顔をして告げる。
「単位を取り切って夏休みに彼女を作る。もう羨ま死をする男ではない。そうだ、神様は努力する人のために。非モテ協会よ、大罪人ヒウタに続け!」
控えめにした声。
「「総帥!」」
同志たちは新たな道を進んだらしい。
それから、再び総復習を開始して。
記述なら採点し合い、議論しながら理解を深め。
計算問題なら演習問題を何度も解き。
教科書や講義内容が記されているレジュメなるものを自分なりにまとめて、重要箇所を確認し合う。
まさに一心同体。
期末テストへの想いは誰もが等しい。
ヒウタも体育で話した女性との勝負に勝つつもりでいた。
ハクたちが去って。
一人焼きそばを頬張る。
また、すぐに勉強しよう。
これが大学生のあるべき姿だ。
ヒウタは悟りの境地へ達する。
そんなヒウタが病んだのはある講義後のこと。
同じ学科の人がテストの話をしているときだった。
演習問題で全く触れたことがない問題の話題が聞こえてきたのは。
それもよく聞き取れはしなかったが、過去問関連の話らしい。
よく見ると、前に過去問をもらえないか頼んだ女子グループの話で。
ヒウタを絶望させるには十分だった。
この不安を抱えてまま期末テストを迎える。
それだけは、絶対駄目だ。
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