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5章 期末テスト大戦が絶望すぎる!33~47話

その2 ヒウタと作戦会議

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 期末テスト。
 それは高度な情報戦であり、体力勝負であり、知略勝負である。
 誰かが期末テスト大戦と言ったが、激しさと慌ただしさはまさに大戦に相応しい。
 ヒウタたちは、謎にふわふわのソファ、明るい室内灯のある学生ラウンジに集まっていた。
 今日は友人のハクを始めとして、様々な同志が集まったのだ。
「ワンチーム。一人はみんなのために、みんなは一人のために。誰も見捨てるな、死ぬとしたらみな同じ。単位を落とすのもみんななら怖くない」
 ハクは集まったメンバーの中心で説く。
「共倒れなんて嫌だが?」
 ヒウタはなぜかソファの近くの木製椅子に縛られていた。
「まあ、それは最終手段だ」
「手段ではないと思うけど、俺が間違い?」
 ヒウタは不自由な腕を見る。
 大罪人のような扱われ方である。
「ふん。そこまでだ、ヒウタ」
「ふぁっ?」
 ハクは椅子に縛られたヒウタの周りをモデルの真似をしながら歩く。
 前に歩いてみたり後ろに歩いてみたり。
 靴の音をタップダンスのように鳴らしてみたり。
 何かに憑かれているよう。
 きっと中二病ってやつだ。
「いやいや、女性と話しているって言ったって絡まれただけで」
「非モテ協会、掟そのいち。非モテを馬鹿にするべからず。つまりな、女の子と話しかけるよりも、女の子に話しかけてもらう方が羨ましい、憎たらしいってことだ」
 ハクの同志が言う。
 いや、そう言われても。
 確かに綺麗な人だったし、何ならいい匂いしそうなかわいらしい人だし。
 魅了されて勝負を受け入れてしまったところもあるけど。
 って、なかなか羨ましい状況では?
 縛られるのも仕方ないのか、嫌だけど今すぐ外してほしいけど。
「被告、ヒウタを一か月間一切の異性と関わることを禁止する!」
 ハクは高らかに言う。
 高らかに言ってもらっても困る。
「もちろん、母は許そう。でもアメユキちゃんは駄目だ。面倒は俺が見てやるよ、友人としての最大の哀れみだ」
 ハクは悲しそうな瞳でヒウタを。
 出会いが異なれば、もっと平和な世できっと夢を語り合う友人になれただろう。
 しかし、神様は容赦しない。
 実際、ヒウタは椅子に縛られて罪を背負い、ハクは情が動くのを必死に堪えながらその存在したはずの未来は無情にも否定されて再び転がる。
 掴んで何とか導いても、一度手を離れてしまえばまたやり直しか、むしろ悪化してどうしようもない。
 それはまるでゲームセンターのクレーンゲームだ。
「母さんと父さんがアメユキを見てるからな。あとこの茶番いつまで続けるんだ、テストの作戦会議はどうした」
「貴様、その余裕はなんだ。茶番ではない、持つ者と持たざる者の闘いだ」
 ハクは血眼にして言う。
「よせっ。ここはやつの意見を従うしかない。怒りは秘めておこう。期末テスト、やつの協力がなければ我が軍は生き残れません。女の子とキャッキャウフフな夏休みにするためには、一つも欠けてはなりません。フル単しましょう。そしたらモテるはずです」
 ハクの同志が言う。
 フル単したらモテるとは?
 聞いたところで面倒だろう。
「そうです、総帥」
 総帥?
 相手にしない。
 そろそろ縛るのは終わりにしたいのだが。
「分かった。作戦会議をしよう。まずは報告だ」
 何か始まった。
 帰らせてくれ。
「はい。まず、サークルで情報を探す僕から報告があります。噂通り、アウトドア部には同じ学科の先輩がいました」
「よくやった。それで」
「髪をピンクに染めたかわいらしい女性でした」
「聞けたか?」
 同志は膝から崩れていく。
「僕は、総帥の力になれませんでした」
 涙が滲む。
 ハクは小さな声で。
「そうか」
「次に、同郷の先輩がいる僕から報告があります。昔よく遊んだ思い出話が盛り上がり、ずっと連絡を取っていました」
「よくやった。それで」
「僕は、総帥の力になれませんでした。先輩、彼女がいたんです、それで仲違いしてしまって」
 同志は膝から崩れ落ちた。
 ハクはその手を掴んで引き上げる。
「その状況になれば俺もそうした。非モテとリア充、分け隔てられる運命。よく健闘した」
 非モテ協会解散してしまえ。
 マイナスな部分しか見えないが。
「最後に、研究室特攻部隊の僕から報告します」
「それで」
「先生や先輩とも仲良くなりました」
「それで」
 同志は膝から崩れる。
「僕は、総帥の力になりませんでした。総帥の願い通りといかず、一人の先生の過去問とテストのおおよその内容は聞いたのですが」
 泣きながら言う。
 講義ひとつの過去問と大体の問題が分かったってこと?
 それはすごくないか。
 しかし、総帥は言う。
「失敗は誰にでもある、きっと次こそは」
「「総帥っ!」」
 ハクたちは抱き締め合う。
 動けないヒウタは地獄絵図から顔を反らすことができなかった。
「というわけでヒウタ。同じ学年の女子グループから過去問もらってくれ。盗み聞きしたら持ってそうだったから」
 根拠が気持ち悪くないか。
 でも椅子から解放されるためには仕方ない。
「分かった。できる限りな」
 そうして作戦の翌日、講義と講義の間に一人の女性に話しかけて。
估志世こしよ陽唄ひうたさんですよね? あの、女の子を変な目で見てそうな下品なグループに所属してるっていう。あ、違いますよ? 私は、コシヨさんは良心があるとは思いますが、所属しているグループが本当に気持ち悪くて」
 その女性は怯えているようにも、蔑んでいるようにも見える。
 全部ハクのせいでは?
 ヒウタだけなら過去問も先輩からの情報も得られるのでは。
 ただハクたちを下品だと思うのは間違いではないし、変な目で見てるのは全く否定できないから説得できない。
「過去問なしか、まじか」
 大学は過去問大事って言うから、結構追い込まれてしまった。
 必死に勉強したらどうにかなるのか?
 初めての大学のテスト。
 そう思うと不安と不満が募っていく。
 ヒウタは溜め息をひとつ。
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