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5章 期末テスト大戦が絶望すぎる!33~47話
その1 ヒウタと勝負少女
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「そこの兄ちゃん。会計、三百万だ。まさか払えないわけないよな」
個室で食事を終えたヒウタは、筋肉質の怖い男たちに追い詰められて背中を壁に。
もう逃げ場はない。
「ないです、無理ですよ」
途端、首を掴まれる。
だんだん意識が遠のく中で、死の文字が頭に浮かぶ。
こんなところで。絶対嫌だ!
ヒウタが声にならない咽びを見せると、それに気づいた男たちは嘲笑とともにヒウタを解放した。
「さあ。借用書にサインしようか」
「嫌だ嫌だ」
駄々をこねるヒウタ。
男たちは拳を鳴らす。
「妹のアメユキ、かわいいみたいだな。大事な妹だよな。顔ぐちゃぐちゃにしてやろうか」
「卑怯者だ卑怯者だ卑怯者だ」
ヒウタは喚く。
男たちは我慢できなくなって、ナイフを机に刺した。
ナイフでできた木の鋭いささくれがヒウタの方向を指す。
「分かりました、サインします」
ヒウタは諦めて借用書にサインをしようとボールペンを持つ。
あれ、分からない。
借用書だと思っていた紙には化学や物理用語が敷き詰められていて、サイズの大きい行列の問題や複雑な微分、積分公式の難解な証明が並んでいた。
「兄ちゃん、急いでくれや。いつまで待たすのか、こらあ」
「嫌だ嫌だ」
男は机からナイフを抜く。
「なら死ねや」
ヒウタに向かうナイフ。
そして、ヒウタの腹部から血飛沫が上がって。
「うわああ」
部屋に日差しが差し込む。
優雅な朝にしては、ヒウタは汗だくだった。
そして、スマホが鳴り続ける。
「はあ、夢か。すごく疲れた」
アラームを止める。
ただでさえ、ぼったくりの悪夢で辛いのだ。
そこにテストの悪夢がブレンドされてしまえば、苦味も致死量に届く。
ヒウタは取り敢えず冷えた麦茶で体を落ち着かせた。
べっとりした汗をシャワーで急いで流す。
体を拭いて、髪を乾かしながら食パンを焼く。
目玉焼きとウインナーを用意して、昨晩の味噌汁を温める。
それらをテーブルに置いて、手を合わせれば朝食の完成だ。
拘りは焼き過ぎない目玉焼きと表面をしっかり焼いたウインナー。
「そろそろテスト準備しないと。そしたら少しは悪夢見なくて済むだろうし」
ヒウタは午後の体育の講義に使うシャツとズボンを何度も確認する。
肌寒い時期に種目を決めたからか、体育館用のシューズも忘れてはいけない。
大学生となると、スポーツをする機会は一気に減る気がする。
遊ぶとしても運動は選ばない。
一部のウェーイ系集団では友人とジムに行くこともあるらしい。
「久しぶりの運動か」
疲れるとは思う。
その反面、体を動かせる楽しみもある。
それから、午前の講義と午後の講義の一つを終えて、ヒウタは体育館に向かった。
ヒウタの友人のハクは、サッカーを選んでいるので別行動である。
一年のこの時期に数少ない友人と離れるのはなかなか心細い。
そんなつい孤立してしまう残念なヒウタのために、練習のペアは先生が決めている。
「勝負、勝負」
目の前でラケットを構える女性は、小柄な人だった。
テーブルが腰辺りの高さで目線がやましい位置に来てしまう。
心がずきりと痛む。
いや、心が痛む方が失礼ではないか?
「早よ早よ」
学科が異なるとはいえ、貴重なリケジョである。
ヒウタの学科の方が女性比が悲惨とはいえ、学科が変わっても男女比は逆転しない。
まさかヒウタが数少ない枠に入ってしまっていいのか。
先生が決めてしまったなら仕方ないはず。
「下手くそ。勝負、勝負タイム」
サーブをしてもレシーブをしても、次々とスマッシュやドライブで決められる。
「もうすぐテスト。勝負したい、ヒウタと」
「テスト? 僕と君は学科も違うし勝負できないと思うけど」
「教養科目とこれ、社会科目。実は社会科目も同じやつ受講」
卓球の練習時間でペアを組んでいるだけの関係。
ヒウタも社会科目が同じであることに気づいていたが。
気づいていたら気持ち悪くないか?
ヒウタは悩み、知らなかった設定を採用した。
「勝負してどうする? 君はどうしたいんだ?」
その女性はニヤリと。
「私が勝ったら男手として荷物持ち係、友人とショッピングするときに来てもらう。君が勝ったら学食一回奢り」
「まじか、嫌だけど」
「勝負勝負!」
一瞬いいかもって思ったけど。
流石にわざと負けに向かうのは嫌だ。
「勝ちに行くけど、その勝負には乗らない」
「勝つって? なら勝負勝負」
「しないぞ?」
「そう。勝ったら何でも一つだけ聞こうと思った」
何でもだと?
まさかついにヒウタも彼女持ちに。
いやいや本気にしてはいけない。
「そ、そんなに勝負したいなら仕方ないな」
何でもという言葉に惹かれるなんて。
でもどうしてだろうか?
最近雰囲気が似た人と会った気がする。
考えても分からない。
「勝負勝負、絶対勝負」
少女の楽しそうな様子を見ると、勝負も悪くないと思った。
ただそれからというもの、勝負少女に絡まれ続けることになる。
このとき、ヒウタはまだ想像もしなかったが。
個室で食事を終えたヒウタは、筋肉質の怖い男たちに追い詰められて背中を壁に。
もう逃げ場はない。
「ないです、無理ですよ」
途端、首を掴まれる。
だんだん意識が遠のく中で、死の文字が頭に浮かぶ。
こんなところで。絶対嫌だ!
ヒウタが声にならない咽びを見せると、それに気づいた男たちは嘲笑とともにヒウタを解放した。
「さあ。借用書にサインしようか」
「嫌だ嫌だ」
駄々をこねるヒウタ。
男たちは拳を鳴らす。
「妹のアメユキ、かわいいみたいだな。大事な妹だよな。顔ぐちゃぐちゃにしてやろうか」
「卑怯者だ卑怯者だ卑怯者だ」
ヒウタは喚く。
男たちは我慢できなくなって、ナイフを机に刺した。
ナイフでできた木の鋭いささくれがヒウタの方向を指す。
「分かりました、サインします」
ヒウタは諦めて借用書にサインをしようとボールペンを持つ。
あれ、分からない。
借用書だと思っていた紙には化学や物理用語が敷き詰められていて、サイズの大きい行列の問題や複雑な微分、積分公式の難解な証明が並んでいた。
「兄ちゃん、急いでくれや。いつまで待たすのか、こらあ」
「嫌だ嫌だ」
男は机からナイフを抜く。
「なら死ねや」
ヒウタに向かうナイフ。
そして、ヒウタの腹部から血飛沫が上がって。
「うわああ」
部屋に日差しが差し込む。
優雅な朝にしては、ヒウタは汗だくだった。
そして、スマホが鳴り続ける。
「はあ、夢か。すごく疲れた」
アラームを止める。
ただでさえ、ぼったくりの悪夢で辛いのだ。
そこにテストの悪夢がブレンドされてしまえば、苦味も致死量に届く。
ヒウタは取り敢えず冷えた麦茶で体を落ち着かせた。
べっとりした汗をシャワーで急いで流す。
体を拭いて、髪を乾かしながら食パンを焼く。
目玉焼きとウインナーを用意して、昨晩の味噌汁を温める。
それらをテーブルに置いて、手を合わせれば朝食の完成だ。
拘りは焼き過ぎない目玉焼きと表面をしっかり焼いたウインナー。
「そろそろテスト準備しないと。そしたら少しは悪夢見なくて済むだろうし」
ヒウタは午後の体育の講義に使うシャツとズボンを何度も確認する。
肌寒い時期に種目を決めたからか、体育館用のシューズも忘れてはいけない。
大学生となると、スポーツをする機会は一気に減る気がする。
遊ぶとしても運動は選ばない。
一部のウェーイ系集団では友人とジムに行くこともあるらしい。
「久しぶりの運動か」
疲れるとは思う。
その反面、体を動かせる楽しみもある。
それから、午前の講義と午後の講義の一つを終えて、ヒウタは体育館に向かった。
ヒウタの友人のハクは、サッカーを選んでいるので別行動である。
一年のこの時期に数少ない友人と離れるのはなかなか心細い。
そんなつい孤立してしまう残念なヒウタのために、練習のペアは先生が決めている。
「勝負、勝負」
目の前でラケットを構える女性は、小柄な人だった。
テーブルが腰辺りの高さで目線がやましい位置に来てしまう。
心がずきりと痛む。
いや、心が痛む方が失礼ではないか?
「早よ早よ」
学科が異なるとはいえ、貴重なリケジョである。
ヒウタの学科の方が女性比が悲惨とはいえ、学科が変わっても男女比は逆転しない。
まさかヒウタが数少ない枠に入ってしまっていいのか。
先生が決めてしまったなら仕方ないはず。
「下手くそ。勝負、勝負タイム」
サーブをしてもレシーブをしても、次々とスマッシュやドライブで決められる。
「もうすぐテスト。勝負したい、ヒウタと」
「テスト? 僕と君は学科も違うし勝負できないと思うけど」
「教養科目とこれ、社会科目。実は社会科目も同じやつ受講」
卓球の練習時間でペアを組んでいるだけの関係。
ヒウタも社会科目が同じであることに気づいていたが。
気づいていたら気持ち悪くないか?
ヒウタは悩み、知らなかった設定を採用した。
「勝負してどうする? 君はどうしたいんだ?」
その女性はニヤリと。
「私が勝ったら男手として荷物持ち係、友人とショッピングするときに来てもらう。君が勝ったら学食一回奢り」
「まじか、嫌だけど」
「勝負勝負!」
一瞬いいかもって思ったけど。
流石にわざと負けに向かうのは嫌だ。
「勝ちに行くけど、その勝負には乗らない」
「勝つって? なら勝負勝負」
「しないぞ?」
「そう。勝ったら何でも一つだけ聞こうと思った」
何でもだと?
まさかついにヒウタも彼女持ちに。
いやいや本気にしてはいけない。
「そ、そんなに勝負したいなら仕方ないな」
何でもという言葉に惹かれるなんて。
でもどうしてだろうか?
最近雰囲気が似た人と会った気がする。
考えても分からない。
「勝負勝負、絶対勝負」
少女の楽しそうな様子を見ると、勝負も悪くないと思った。
ただそれからというもの、勝負少女に絡まれ続けることになる。
このとき、ヒウタはまだ想像もしなかったが。
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