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4章 怒り少女が乱暴すぎる!24~32話
エピソード2 アキトヨとシュイロ
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アキトヨとシュイロの出会いは、アキトヨが高校二年生の秋。
アキトヨは毎日会社の役員たちに車で送迎させていた。
行きは会社の今日一日流れの把握と指示をして、帰りは今日一日の出来事の説明を受ける。場合によっては帰りに会社に寄って、アキトヨが仕事をすることもあった。
この年は秋にしては一気に冷え込んでいた。
アキトヨは風で涼みたいと考えて、学校から少し遠い道で車を降りた。
熱かった体に風が心地よく当たる。
しかし歩くと急激に肌寒く感じて、近くの街路樹を囲うプランターベンチに腰を下ろす。
アキトヨは体を抱えて鳥肌を必死に抑え込む。
「あれ、動けないけど」
アキトヨは凍える体を動かそうとする。
しかし言うことを聞かない。
ここで凍死してしまうのか?
秋の早朝、アキトヨは晴れた空を見た。
「大丈夫か?」
スーツ姿の若い女性。
アキトヨは下を向く。
「どうやら怪しまれちゃってるな。けど、すごい辛そうだから」
辛そう?
高校でも会社でも家族さえも、アキトヨは絶対的な強者だった。
それが初対面の若い会社員に心配されている。
アキトヨにはそれが新鮮だった一方で、憐れむ行為そのものが気に入らない。
「チッ」
アキトヨは舌打ちをする。
しかし、その女性はアキトヨのすぐ隣に座った。
「今日は帰った方がいいぞ、熱あるだろうし、しんどくて動けないだろ」
アキトヨは苛立つ。
強者であるアキトヨがこの程度の体調不良で動けない?
なんてふざけた話なのか。
「馬鹿にすんなっ」
瞬間。
視界が大きく揺れた。
足を踏ん張ろうとしても地面に空振ってしまう。
頭の後ろに黒いコンクリートが。
「ほらな」
しかし、頭を打つことなく、その女性に支えられた。
「はあ、もう疲れたわ」
「いいや、たぶん風邪じゃないか」
「私に、この学校で一番偉く、会社も多額の金も動かす、この巣桃秋豊に舐めたことを」
意識が遠くなっていく。
「そろそろ限界だろ? 鞄見せてもらうからな」
「何様のつもり?」
「うーん、難しい質問だと思う。でもそうだな、答えるとしたら」
声がだんだん朧げに。
その若い女性はアキトヨをゆっくりベンチに置く。
「私の名前はシュイロ。通りすがりの人間族だ」
シュイロと名乗る人物はそう言って笑った。
一瞬寒気がなくなって。
アキトヨは重い体を黙らせるため眠りについた。
それから。
アキトヨは自宅の、自身の部屋で目を覚ます。
優しくて温かくていい香りがした。
「だし茶漬け、リンゴとパイナップルとキウイ、緑茶を用意した」
そこにいたのは先ほど会ったシュイロだ。
「どうして君が」
「一応高校まで運んだが、そしたらすぐ車を出してくれた。なかなか周りから評価の高い優等生なのか」
「いいえ。私が怖いだけ。恐怖政治で支配されているだけ」
「必死だったがそうなのか。恐怖政治?」
「喧嘩の強さも勉学の賢さも脅威でしかない。運んでくれたのは感謝する」
どうして初めて会った人物に話してしまうか。
シュイロには話してしまう何かがある。
「まだ看病してやる。アキトヨちゃんは事実上の社長なのか? 学校で待っている間も、車で送ってくれた人も話していることが聞こえてしまったから」
会社の話をするなんて。
結局金目当てか。
お金だけ渡して去ってもらおう。
「いくらほしい? 看病分のお金を出す」
「そうだなあ、放っておいたら相当大変なことになっていただろうから、五百万円で手を打とう」
「五百?」
アキトヨが驚いた様子を見せると、シュイロはアキトヨの頭を撫でる。
「破格の値段だぞ。命が助かったわけだからな」
世の中、やはりお金。
社長ということが分かれば、お金を請求する。
この世界はそんなものだ。
「分かった。すぐに用意する」
シュイロは財布から何かを取り出した。
「アキトヨちゃんは本当にこのまま続けるのか?」
シュイロから渡されたものは名刺だった。
マッチングアプリを運営している会社の社長らしい。
「何を続けると?」
「体を壊してもなお、このまま続けるのかって」
「何を知ったように」
アキトヨは怒りを露わにする。
シュイロは気づかないのか、否気づいたうえで愉快そうに笑顔を見せる。
「五百万で君を助けよう。アキトヨちゃん、私なら何とかできる」
アキトヨは母の気持ちが分かった気がした。
追い詰められてしまえば、選択肢はほとんどなくなってしまうのだ。
ここで助けを求めてしまったのが母だった。
もう少しだけ、ここでは倒れないようにするしかない。
これ以上食い物にされたくない。
「私は誰にも頼らない。私の会社は私が守る」
「そうか、だから君は仲間が多いのか。いつか君に向けられた愛に応えたいと思うときが来る。そのときまでもっと頼っていいと思うが」
よく分からない言葉。
そして、シュイロは一礼をして。
「お金は受け取らない。朝からいいものを見せてもらった。今日のえむぶいぴーは君に頼られたかったすべての仲間たちにあげてくれ」
シュイロは名刺を置いて部屋から出た。
アキトヨは体を起こして名刺を手に取った。
裏に何かが書いてある。
『すべての出会いに感謝を』
馬鹿らしい。
いつまでもふざけた人だった。
でもどうしてだろう?
「愛蓮朱色。もっとあなたを知りたい」
そう思ってしまうのは。
アキトヨは毎日会社の役員たちに車で送迎させていた。
行きは会社の今日一日流れの把握と指示をして、帰りは今日一日の出来事の説明を受ける。場合によっては帰りに会社に寄って、アキトヨが仕事をすることもあった。
この年は秋にしては一気に冷え込んでいた。
アキトヨは風で涼みたいと考えて、学校から少し遠い道で車を降りた。
熱かった体に風が心地よく当たる。
しかし歩くと急激に肌寒く感じて、近くの街路樹を囲うプランターベンチに腰を下ろす。
アキトヨは体を抱えて鳥肌を必死に抑え込む。
「あれ、動けないけど」
アキトヨは凍える体を動かそうとする。
しかし言うことを聞かない。
ここで凍死してしまうのか?
秋の早朝、アキトヨは晴れた空を見た。
「大丈夫か?」
スーツ姿の若い女性。
アキトヨは下を向く。
「どうやら怪しまれちゃってるな。けど、すごい辛そうだから」
辛そう?
高校でも会社でも家族さえも、アキトヨは絶対的な強者だった。
それが初対面の若い会社員に心配されている。
アキトヨにはそれが新鮮だった一方で、憐れむ行為そのものが気に入らない。
「チッ」
アキトヨは舌打ちをする。
しかし、その女性はアキトヨのすぐ隣に座った。
「今日は帰った方がいいぞ、熱あるだろうし、しんどくて動けないだろ」
アキトヨは苛立つ。
強者であるアキトヨがこの程度の体調不良で動けない?
なんてふざけた話なのか。
「馬鹿にすんなっ」
瞬間。
視界が大きく揺れた。
足を踏ん張ろうとしても地面に空振ってしまう。
頭の後ろに黒いコンクリートが。
「ほらな」
しかし、頭を打つことなく、その女性に支えられた。
「はあ、もう疲れたわ」
「いいや、たぶん風邪じゃないか」
「私に、この学校で一番偉く、会社も多額の金も動かす、この巣桃秋豊に舐めたことを」
意識が遠くなっていく。
「そろそろ限界だろ? 鞄見せてもらうからな」
「何様のつもり?」
「うーん、難しい質問だと思う。でもそうだな、答えるとしたら」
声がだんだん朧げに。
その若い女性はアキトヨをゆっくりベンチに置く。
「私の名前はシュイロ。通りすがりの人間族だ」
シュイロと名乗る人物はそう言って笑った。
一瞬寒気がなくなって。
アキトヨは重い体を黙らせるため眠りについた。
それから。
アキトヨは自宅の、自身の部屋で目を覚ます。
優しくて温かくていい香りがした。
「だし茶漬け、リンゴとパイナップルとキウイ、緑茶を用意した」
そこにいたのは先ほど会ったシュイロだ。
「どうして君が」
「一応高校まで運んだが、そしたらすぐ車を出してくれた。なかなか周りから評価の高い優等生なのか」
「いいえ。私が怖いだけ。恐怖政治で支配されているだけ」
「必死だったがそうなのか。恐怖政治?」
「喧嘩の強さも勉学の賢さも脅威でしかない。運んでくれたのは感謝する」
どうして初めて会った人物に話してしまうか。
シュイロには話してしまう何かがある。
「まだ看病してやる。アキトヨちゃんは事実上の社長なのか? 学校で待っている間も、車で送ってくれた人も話していることが聞こえてしまったから」
会社の話をするなんて。
結局金目当てか。
お金だけ渡して去ってもらおう。
「いくらほしい? 看病分のお金を出す」
「そうだなあ、放っておいたら相当大変なことになっていただろうから、五百万円で手を打とう」
「五百?」
アキトヨが驚いた様子を見せると、シュイロはアキトヨの頭を撫でる。
「破格の値段だぞ。命が助かったわけだからな」
世の中、やはりお金。
社長ということが分かれば、お金を請求する。
この世界はそんなものだ。
「分かった。すぐに用意する」
シュイロは財布から何かを取り出した。
「アキトヨちゃんは本当にこのまま続けるのか?」
シュイロから渡されたものは名刺だった。
マッチングアプリを運営している会社の社長らしい。
「何を続けると?」
「体を壊してもなお、このまま続けるのかって」
「何を知ったように」
アキトヨは怒りを露わにする。
シュイロは気づかないのか、否気づいたうえで愉快そうに笑顔を見せる。
「五百万で君を助けよう。アキトヨちゃん、私なら何とかできる」
アキトヨは母の気持ちが分かった気がした。
追い詰められてしまえば、選択肢はほとんどなくなってしまうのだ。
ここで助けを求めてしまったのが母だった。
もう少しだけ、ここでは倒れないようにするしかない。
これ以上食い物にされたくない。
「私は誰にも頼らない。私の会社は私が守る」
「そうか、だから君は仲間が多いのか。いつか君に向けられた愛に応えたいと思うときが来る。そのときまでもっと頼っていいと思うが」
よく分からない言葉。
そして、シュイロは一礼をして。
「お金は受け取らない。朝からいいものを見せてもらった。今日のえむぶいぴーは君に頼られたかったすべての仲間たちにあげてくれ」
シュイロは名刺を置いて部屋から出た。
アキトヨは体を起こして名刺を手に取った。
裏に何かが書いてある。
『すべての出会いに感謝を』
馬鹿らしい。
いつまでもふざけた人だった。
でもどうしてだろう?
「愛蓮朱色。もっとあなたを知りたい」
そう思ってしまうのは。
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