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4章 怒り少女が乱暴すぎる!24~32話
エピソード1 アキトヨの過去
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アキトヨは元々頭も良く身体能力も高かった。
しかし、その才能は怒りっぽい性分によって、最強の不良少女を作ってしまう。
巣桃秋豊、十四才。
会社経営の家系に生まれたが、親は放任主義を貫いていて、アキトヨには興味が無さそうだった。
ただ喧嘩沙汰だけは大金で収めていた。
それでも、アキトヨを怒らない。
むしろ、騒がれて問題にされる様子を見下していた。
喧嘩が強い人間は大人では通用しない。
この先、暴力は最弱の力でしかなく、暴力に溺れる者は弱者の未来しかない。
そう言った父の蔑む表情がアキトヨの心に火を点けた。
ゆえに、喧嘩が強い不良娘は、その賢さで不良の頂点に君臨した。
学問でさえも成功を収め、アキトヨに逆らう人間は大人でもいなかった。
アキトヨの人生に異変が起きたのは十六才で迎えた秋だった。
「あなた、私はどうしたら?」
病室にて。
ベッドの上半身部分を起こして、そこに横たわるアキトヨの父は窓の向こうを見ているようだった。
アキトヨは父が外の景色など微塵も興味がなく、泣き崩れる妻の姿を見ていると分かっていた。
妻に申し訳なさのあまり直接顔を見ない父。
窓に映る妻を見る小心者は父とは別人に思えた。
アキトヨの世界の強者そのものだった父の背中は、あまりにも小さく見える。
「君に託す、しかないだろう」
ようやく口を開いた。
アキトヨはつまらなそうに紙パックのカフェオレを飲む。
高校に父が倒れたと連絡が入った。
アキトヨは先生に命令をして車で病院まで。
もはや高校はアキトヨ自身の思い通りだった。
その中での父の入院。
外が明るいのは、夕方に倒れた父の入院準備に時間がかかったからだ。
既に病院で一夜を明かしていたが、母は未だに泣いているようだった。
「話は終わった? 母さんが経営を継ぐしかないでしょ。これ以上どうするの?」
母はもう少しだけ、と病室にいたいらしい。
アキトヨは馬鹿らしくなって、病院を出た。
急に糸が切れた気がして、気づけば歩いて家に帰っていた。
誰か呼べばいい、呼ばなくてもタクシーを捕まえればいい。
それでも歩いて帰っていたのは、秋の風が心地よかったからかもしれない。
「なんか、大げさだったな」
母のリアクションも、親の強さも大げさに見えた。
それから、程なくして経営が傾き始めた。
母と父では手腕が全く違うらしい。
父は快復に向かっていたものの、経営をする体力は無さそうだった。
母は父に頭を下げて、委託経営をすることになった。
しかし、最終決定権は母にあったものの、会社の資産や技術が食われていく。
もう残飯すら残っていないと外部の人間が撤退したときには、会社は既に瀕死の状態だった。
母は心が折れたようで父に必死に謝っていた。
「もう終わりだな」
アキトヨが久しぶりに病院を訪れると、病体の父よりも母の方がボロボロだった。
会社を畳む、その言葉を発した父は淡々としていて。
思えば、病に倒れたときから覚悟を固めていたのだろう。
「結局、弱者は父さんと母さんだね」
「アキトヨ?」
父の声は弱い。
それに、母もアキトヨを叱る体力など残っていなかった。
「弱者は退いてろ。外部の人間に食われるくらいなら、始めからこうすれば良かったのにね」
父と母はアキトヨの言っていることが分からなかった。
アキトヨが経営する、それを認めるのは正気の沙汰ではなかった。
もうすべてがどうでもいい。
アキトヨに期待しているわけではなかった。
十七才になると、アキトヨは母を操って会社の再建を図った。
食い物にした会社はあらゆる手でつぶした。
驚くべき手腕によって、業界外でも有名になる。
その大成功によって、親とアキトヨの関係は一変する。
その裏では不良として喧嘩三昧であったが。
一方で。
アキトヨには友人や仲間がいなかった。
もちろん恋もしていなかった。
アキトヨが尊敬しているのはただ一人。
マッチングアプリの代表である愛蓮朱色だった。
しかし、その才能は怒りっぽい性分によって、最強の不良少女を作ってしまう。
巣桃秋豊、十四才。
会社経営の家系に生まれたが、親は放任主義を貫いていて、アキトヨには興味が無さそうだった。
ただ喧嘩沙汰だけは大金で収めていた。
それでも、アキトヨを怒らない。
むしろ、騒がれて問題にされる様子を見下していた。
喧嘩が強い人間は大人では通用しない。
この先、暴力は最弱の力でしかなく、暴力に溺れる者は弱者の未来しかない。
そう言った父の蔑む表情がアキトヨの心に火を点けた。
ゆえに、喧嘩が強い不良娘は、その賢さで不良の頂点に君臨した。
学問でさえも成功を収め、アキトヨに逆らう人間は大人でもいなかった。
アキトヨの人生に異変が起きたのは十六才で迎えた秋だった。
「あなた、私はどうしたら?」
病室にて。
ベッドの上半身部分を起こして、そこに横たわるアキトヨの父は窓の向こうを見ているようだった。
アキトヨは父が外の景色など微塵も興味がなく、泣き崩れる妻の姿を見ていると分かっていた。
妻に申し訳なさのあまり直接顔を見ない父。
窓に映る妻を見る小心者は父とは別人に思えた。
アキトヨの世界の強者そのものだった父の背中は、あまりにも小さく見える。
「君に託す、しかないだろう」
ようやく口を開いた。
アキトヨはつまらなそうに紙パックのカフェオレを飲む。
高校に父が倒れたと連絡が入った。
アキトヨは先生に命令をして車で病院まで。
もはや高校はアキトヨ自身の思い通りだった。
その中での父の入院。
外が明るいのは、夕方に倒れた父の入院準備に時間がかかったからだ。
既に病院で一夜を明かしていたが、母は未だに泣いているようだった。
「話は終わった? 母さんが経営を継ぐしかないでしょ。これ以上どうするの?」
母はもう少しだけ、と病室にいたいらしい。
アキトヨは馬鹿らしくなって、病院を出た。
急に糸が切れた気がして、気づけば歩いて家に帰っていた。
誰か呼べばいい、呼ばなくてもタクシーを捕まえればいい。
それでも歩いて帰っていたのは、秋の風が心地よかったからかもしれない。
「なんか、大げさだったな」
母のリアクションも、親の強さも大げさに見えた。
それから、程なくして経営が傾き始めた。
母と父では手腕が全く違うらしい。
父は快復に向かっていたものの、経営をする体力は無さそうだった。
母は父に頭を下げて、委託経営をすることになった。
しかし、最終決定権は母にあったものの、会社の資産や技術が食われていく。
もう残飯すら残っていないと外部の人間が撤退したときには、会社は既に瀕死の状態だった。
母は心が折れたようで父に必死に謝っていた。
「もう終わりだな」
アキトヨが久しぶりに病院を訪れると、病体の父よりも母の方がボロボロだった。
会社を畳む、その言葉を発した父は淡々としていて。
思えば、病に倒れたときから覚悟を固めていたのだろう。
「結局、弱者は父さんと母さんだね」
「アキトヨ?」
父の声は弱い。
それに、母もアキトヨを叱る体力など残っていなかった。
「弱者は退いてろ。外部の人間に食われるくらいなら、始めからこうすれば良かったのにね」
父と母はアキトヨの言っていることが分からなかった。
アキトヨが経営する、それを認めるのは正気の沙汰ではなかった。
もうすべてがどうでもいい。
アキトヨに期待しているわけではなかった。
十七才になると、アキトヨは母を操って会社の再建を図った。
食い物にした会社はあらゆる手でつぶした。
驚くべき手腕によって、業界外でも有名になる。
その大成功によって、親とアキトヨの関係は一変する。
その裏では不良として喧嘩三昧であったが。
一方で。
アキトヨには友人や仲間がいなかった。
もちろん恋もしていなかった。
アキトヨが尊敬しているのはただ一人。
マッチングアプリの代表である愛蓮朱色だった。
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