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4章 怒り少女が乱暴すぎる!24~32話
その6 ヒウタと怒り少女
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三百万円の借用書にサインした。
腹に手を当てて必死に座って書き進めていたヒウタを、大男たちは腹を抱えて笑っていた。
シュイロと会ったこともあって世の中は善意だけでできていると錯覚していた。
どうしたら大金を払えるか、ヒウタは考えていた。
アキトヨには暴力を振るわずに帰してくれるらしい。
サインして格好悪いところを見せてしまったが、最低限の正義は貫くことができただろう。
ヒウタは涙を拭き取ってアキトヨに笑顔を向けて。
「解散にしよう」
その様子を見ていた大男たちは激しく笑っていた。
「食材自体は拘ってるんだよな、幸せを感じたやつから大金取るのが一番気持ちいいから」
「そうだな、俺のでかさも強さも脅しに使えてこれ以上いい金儲けはないぜ。ははは」
ただアキトヨだけが動かなかった。
ヒウタが逃げろと視線を送るが一歩も動かない。
本当にぼったくり側の人間だったのか、とつい疑ってしまう。
「今日は散々だった」
透き通った声が場を黙らせた。
「講義は延長する、久しぶりのマッチング相手がイケメンじゃない、飲食店がどこも混んでいる、ガチャをいくら引いても目当ての物がでない、そもそもガチャが見当たらない」
アキトヨは淡々と言う。
「私は卵豆腐の方が好きだ、夜は紅茶の気分だった、カレーは甘口だった。そのすべてに怒ってしまった罪悪感がある」
アキトヨはヒウタを見た。
「私は強い人が好きなのに、真逆の人だった。もしかしたらシュイロさんほど強い人はもういないのかな」
今、シュイロと言った?
アプリの代表であるシュイロを知っている?
「私の尊敬する人は私に怒りすぎだと言った。人と関わればその弱さに苛立ってしまう。まさか情けなくサインするとは、とか。だから私は一度人間関係を最小限にしてマッチングアプリをやめていた、すると人に期待しろなんて意味の分からない助言をもらった。そこで会ったのがヒウ君」
「がはは、何の話をしているんだ?」
すると、大男は顔から床に倒れた。
鈍い音がする。
大男は動かなくなった。
「つまりは、久しぶりに怒りの矛先を向けていいなんて」
アキトヨは長い髪を手で引き裂くように短くした。
軽そうな髪型だが、雑に裂いたからか大人っぽさを失っていた。
ヒウタの目線の向こうに口角を上げる少女がいた。
「今日はツイテル!」
声色が変わった。
むしろ今までは抑えていたのだろう。
「女、……。女ごときに!」
男は指を咥えて笛として吹いた。
響く口笛に轟音が乗る。
雷でも地震でもあり得そうな轟音が屈強な男たちの足音とは夢でも思わない。
「女ごときが、一度ボコボコしろ!」
「「よっしゃ!」」
男たちが声を出す。
耳が壊れそうだった。
だが次々と蹴り飛ばし殴り飛ばす。
戦闘民族ではないかと思った。
「まじか」
アキトヨを除いて誰一人立っていなかった。
借用書をばらばらにして店内にばら撒く。
「私を怒らせるな」
男たちの瞳に浮かぶのは畏怖の対象。
アキトヨは誰よりも笑顔だった。
「で、本当の会計は? 食べ逃げはしたくないから」
「そんな、まさか」
「ん? まさかタダなんて脅してるみたいじゃん」
「いえいえ、私どもが勝手にしていることなので」
「美味しかったから払いたいな。ね?」
お金を請求したら命はないだろう、男たちは思う。
アキトヨも分かっているからこそだろう。
「そもそも急ぎでトイレ探してたのにどこにあるんだよ、怒らせるな。わざわざ外に行った。今日デートなの見れば分かるだろ、私は本気の恋活なんだ。邪魔したよな?」
「いえ、本当に申し訳ございません!」
会計に来た店員がアキトヨに首を掴まれていた。
「でも落ち着いてから探したらあったんだよ、トイレ。もっと分かりやすくしろよ、スタッフルームと勘違いしたんだが、私を怒らせるな」
理不尽すぎる。
けど、助かったのか、助けられたのか。
どうして騙されたと思ってしまったのか。
「はあ最悪なデートだ、もう二度としたくないが。ああ、トイレの件は忘れてくれ、次店作ったら殺すから」
男は固まって。
アキトヨは構わずに男を床に叩きつけた。
すると動かなくなってしまった。
気絶だと思う、うん。死んでないよな、きっとたぶん。
「そりゃ俺とのデートなんてもう嫌だろうな。ごめん、アメユキ、チカフミ。俺、結構恋愛向いてないかもな。情けないし」
涙が溢れる。
我慢する理由がなくなって止まらなくなってしまった。
「今日のデートは楽しくなかった」
床で倒れるヒウタにアキトヨは手を差し出した。
「次は時間があるときにイライラしないデートをしよう。作戦は、頼もうかな」
「ええ?」
ヒウタはその手を借りて起き上がった。
「ねえ、ヒウ君。こう見えて私はラブコメ好きだから」
確かにアニメ化したラブコメのガチャ引いてた。
「私は私の恋活に期待してる」
拳を振るった時とは違う笑顔。
表情がクシャッとしていて。
「すごい綺麗だな」
「はぁ? ヒウ君、喧嘩売ってる?」
アキトヨの言葉で気づく。
つい綺麗だと口にしてたらしい。
なんて恥ずかしい。
「罰ゲームします」
「罰ゲーム?」
「十個ラブコメみたいなデートを考えてきて」
一瞬かわいいと思ってしまったが。
不正解が一個でも入っていたら。
ヒウタは難しいことは取り敢えず未来の自分に託すことにした。
腹に手を当てて必死に座って書き進めていたヒウタを、大男たちは腹を抱えて笑っていた。
シュイロと会ったこともあって世の中は善意だけでできていると錯覚していた。
どうしたら大金を払えるか、ヒウタは考えていた。
アキトヨには暴力を振るわずに帰してくれるらしい。
サインして格好悪いところを見せてしまったが、最低限の正義は貫くことができただろう。
ヒウタは涙を拭き取ってアキトヨに笑顔を向けて。
「解散にしよう」
その様子を見ていた大男たちは激しく笑っていた。
「食材自体は拘ってるんだよな、幸せを感じたやつから大金取るのが一番気持ちいいから」
「そうだな、俺のでかさも強さも脅しに使えてこれ以上いい金儲けはないぜ。ははは」
ただアキトヨだけが動かなかった。
ヒウタが逃げろと視線を送るが一歩も動かない。
本当にぼったくり側の人間だったのか、とつい疑ってしまう。
「今日は散々だった」
透き通った声が場を黙らせた。
「講義は延長する、久しぶりのマッチング相手がイケメンじゃない、飲食店がどこも混んでいる、ガチャをいくら引いても目当ての物がでない、そもそもガチャが見当たらない」
アキトヨは淡々と言う。
「私は卵豆腐の方が好きだ、夜は紅茶の気分だった、カレーは甘口だった。そのすべてに怒ってしまった罪悪感がある」
アキトヨはヒウタを見た。
「私は強い人が好きなのに、真逆の人だった。もしかしたらシュイロさんほど強い人はもういないのかな」
今、シュイロと言った?
アプリの代表であるシュイロを知っている?
「私の尊敬する人は私に怒りすぎだと言った。人と関わればその弱さに苛立ってしまう。まさか情けなくサインするとは、とか。だから私は一度人間関係を最小限にしてマッチングアプリをやめていた、すると人に期待しろなんて意味の分からない助言をもらった。そこで会ったのがヒウ君」
「がはは、何の話をしているんだ?」
すると、大男は顔から床に倒れた。
鈍い音がする。
大男は動かなくなった。
「つまりは、久しぶりに怒りの矛先を向けていいなんて」
アキトヨは長い髪を手で引き裂くように短くした。
軽そうな髪型だが、雑に裂いたからか大人っぽさを失っていた。
ヒウタの目線の向こうに口角を上げる少女がいた。
「今日はツイテル!」
声色が変わった。
むしろ今までは抑えていたのだろう。
「女、……。女ごときに!」
男は指を咥えて笛として吹いた。
響く口笛に轟音が乗る。
雷でも地震でもあり得そうな轟音が屈強な男たちの足音とは夢でも思わない。
「女ごときが、一度ボコボコしろ!」
「「よっしゃ!」」
男たちが声を出す。
耳が壊れそうだった。
だが次々と蹴り飛ばし殴り飛ばす。
戦闘民族ではないかと思った。
「まじか」
アキトヨを除いて誰一人立っていなかった。
借用書をばらばらにして店内にばら撒く。
「私を怒らせるな」
男たちの瞳に浮かぶのは畏怖の対象。
アキトヨは誰よりも笑顔だった。
「で、本当の会計は? 食べ逃げはしたくないから」
「そんな、まさか」
「ん? まさかタダなんて脅してるみたいじゃん」
「いえいえ、私どもが勝手にしていることなので」
「美味しかったから払いたいな。ね?」
お金を請求したら命はないだろう、男たちは思う。
アキトヨも分かっているからこそだろう。
「そもそも急ぎでトイレ探してたのにどこにあるんだよ、怒らせるな。わざわざ外に行った。今日デートなの見れば分かるだろ、私は本気の恋活なんだ。邪魔したよな?」
「いえ、本当に申し訳ございません!」
会計に来た店員がアキトヨに首を掴まれていた。
「でも落ち着いてから探したらあったんだよ、トイレ。もっと分かりやすくしろよ、スタッフルームと勘違いしたんだが、私を怒らせるな」
理不尽すぎる。
けど、助かったのか、助けられたのか。
どうして騙されたと思ってしまったのか。
「はあ最悪なデートだ、もう二度としたくないが。ああ、トイレの件は忘れてくれ、次店作ったら殺すから」
男は固まって。
アキトヨは構わずに男を床に叩きつけた。
すると動かなくなってしまった。
気絶だと思う、うん。死んでないよな、きっとたぶん。
「そりゃ俺とのデートなんてもう嫌だろうな。ごめん、アメユキ、チカフミ。俺、結構恋愛向いてないかもな。情けないし」
涙が溢れる。
我慢する理由がなくなって止まらなくなってしまった。
「今日のデートは楽しくなかった」
床で倒れるヒウタにアキトヨは手を差し出した。
「次は時間があるときにイライラしないデートをしよう。作戦は、頼もうかな」
「ええ?」
ヒウタはその手を借りて起き上がった。
「ねえ、ヒウ君。こう見えて私はラブコメ好きだから」
確かにアニメ化したラブコメのガチャ引いてた。
「私は私の恋活に期待してる」
拳を振るった時とは違う笑顔。
表情がクシャッとしていて。
「すごい綺麗だな」
「はぁ? ヒウ君、喧嘩売ってる?」
アキトヨの言葉で気づく。
つい綺麗だと口にしてたらしい。
なんて恥ずかしい。
「罰ゲームします」
「罰ゲーム?」
「十個ラブコメみたいなデートを考えてきて」
一瞬かわいいと思ってしまったが。
不正解が一個でも入っていたら。
ヒウタは難しいことは取り敢えず未来の自分に託すことにした。
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