規約違反少女がマッチングアプリで無法すぎる!

アメノヒセカイ

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3章 任された仕事が難題すぎる!12~23話

その7 ヒウタと大食らい

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 スイーツパーティのトラブル処理について。
 平日は小さいトラブルくらいで済んだらしい。
 土曜日はいくつか大きなトラブルがあったらしいが、ヒウタ以外の人が対処した。
 その間、ヒウタは汚れたテーブルや椅子を拭いたり、お客様をスイーツ売り場に案内したりしていた。
 そして日曜日。
 ヒウタは二つのテーブルをスイーツで埋め尽くす女性の相手をしていた。
「売り切れてしまうのは店が、テーブルが足りないのはあなたたちの失敗なのです。私の非があるとは思えないのです」
 大食らい少女(以下大食らい)は、店のスイーツを買い尽くそうとしたところ、店の人に止められた。
 お金を出しているのだから売ってほしい、なんなら言い値を出そうと。
 それでも売らないと言うと、大食らいは駄々をこねる。
 そこにヒウタが呼ばれたわけだ。
 床に転がる大食らいを持って椅子まで移動した。
 大食らいは小柄でいい匂いがした。
 持ち上げたものの、意外にも軽い。
「食べるための運動は欠かせない、えっへんなのですよ。私が正解、あなたたちが不正解なの。もっと食べると、お金も出すと。資本主義である以上、お金持ちはいっぱい食べて当然なのです。食べるのです」
 ヒウタは面倒だなと思った。
 パーティを開くにあたって代表であるシュイロの表情に苦労が見えたのも分かってしまう。
「美味しいと僕も思う」
「シュイシュイが食べ盛りの私のために、美味しいもの集めてくれたってことです」
「シュイシュイ?」
「私を愛して止まない、私の大ファンであるシュイロさん。マッチングアプリの代表兼支配者兼絶対的権力者兼私の大ファンのことなのです」
 この大食らいをシュイロが気に入っているとは思えないが、少なくともシュイロのことを知っているらしい。
 シュイロが気にかけていた人の一人なのだろうか?
「美味しいものならなおさら多くの人に知ってもらいたい、食べてほしいって思わない?」
「思うわけないなのです。私が食べて私が幸せになることが大事なのです」
 みんなのために、を優先してしまうシュイロとは反対の性格だ。
 しかし、買い尽くす人を禁止するルールを設けていない。
 出会いが見つからなくても、美味しいものを食べるだけでいいという思いらしい。
 ヒウタもまさか、ここまで食べる人がいるとは想像できていなかった。
「話はいいですか? もっと食べたいので。それか君が私のためにスイーツを持ってくるのですか?」
「それはできない。スイーツパーティとして会場を用意している以上、ここに来る人がスイーツを食べて出会いを求めることが」
 ヒウタが話していると、大食らいは口元をヒウタに近づける。
 生クリームによって光沢を得た唇を手で隠すようにして。
「人の三大欲求には加減がないのですよ? 快適な睡眠を一秒でも多く貪りたい、どこまでも美味しいものをいくらでも味わいたい、そして誰かとらぶらぶしていちゃいちゃして快楽を得たい。私は食欲を優先しているの」
 ヒウタはそれから説得を試みるが、大食らいは聞く耳を持たずに食べ進める。
 頬にクリームを付けたり、手を汚してしまうところは子供っぽいが、スイーツが入っていた容器やスイーツが乗っていた皿は綺麗で、それらの容器や皿はテーブルの上に重ねながら整理されて置いていた。
「いつまで私を見てるつもりなの?」
「まだ買い尽くすのか? 他の店でも」
「一番美味しいと思ったものをたらふく食べるのが一番の幸せなの。分かる?」
「まだ食べてないものもあると思う」
 大食らいはヒウタを睨む。
「食べてなくても匂いや見た目で大体分かるの。時間いっぱい食べるから黙っててくれない? むしろ、私の元からいなくなれなのです」
 大食らいに髪を掴まれた。
 手は出さない、なんて思っていた。
 頭が割れるかと思うような痛みとともに、毛が十本以上抜けた。
「君はシュイシュイに雇われた人間だろうけど、その程度の人間が私の食事を邪魔するな、なのです。次は何するか分かりませんよ?」
 顔を柔らかくする大食らい。
 どうやらヒウタの脅迫に成功したと思ったらしい。
 ただヒウタの考えは違った。
 時間いっぱい食べる、その言葉を聞いて思いついた。
 足止めしたらいいだけでは?
「これならいける」
 ヒウタは、まず大食らいから距離を取る。
 一瞬ヒウタを見たが、離れたことを確認すると再びスイーツへ視線を戻す。
 ヒウタはその瞬間に、店の人に販売を再開するように伝えた。
「本当にいいですか?」
「大丈夫です、足止めするのでその間に販売してください。美味しいスイーツをたくさんの人に届けたいのは、このイベントに関わった僕も同じです。ただ商品を一つ売ってもらってもいいですか?」
 ヒウタは現金を渡す。
 普通はチケットだが、混み始めた券売機に行く時間はない。
 すると、納得してくれたのか商品を売ってくれた。
 大食らいの元へ向かうヒウタの様子を見ているのは、まだ心配だからか。
「お客様。どうやら本当に他の人が食べるよりもお客様が食べる用がいいのか知りたくて。そしたらいくらでも売ってくれるらしいです」
「もぐもぐ、……。ごくん。つまり、私がお金をたくさん出せば売るってことなのですね?」
「いいえ。本当に美味しく食べてもらえるなら本望らしいですけど、たくさん食べるのは迷惑をかけたいだけで、全く味わってないのでは? 食べるのもあまりに早くて」
「ん?」
 大食らいは不満そうにヒウタを見る。
「なので、クイズです。このシュークリームに含まれたクリームの味を答えられたら売るそうです」
「私に馬鹿舌って言いたいのです? そんなの一瞬で分かるのです」
 食いついた、後は簡単だ。
 大食らいは大事そうにシュークリームを一口。
「マスカット味。これでいいですか?」
「隠し味とか考えなくていいですか?」
「何をにやにやしているですか。まるで汚れた雑巾みたいな顔です」
 ヒウタは悪口を言われたことだけは分かった。
「いろんなフルーツが入ってる」
「どんなフルーツかまで答えてください」
「メロン、……。オレンジ? ライチっぽくて、あとはアロエと。まだある」
「意外と時間かかるのですね。やっぱり独り占めするほどスイーツ好きではないですよね。もう二度とこんなことはないように」
 ヒウタは聞き流していて気づいていないが、大食らいの舌は正確でクリームをほぼ再現できるような解答だった。
 ただ答えられるか否かは関係ない。
 この手の問題は挑戦したが最後、いくらでも不正解にできてしまう。
 正解を確認する方法がないならなおさらだ。
 理不尽なクイズを出して、ひたすら煽る。
 それだけで時間稼ぎとしては十分で。
 大食らいがついに諦めたときだった。
「「それでは終了時刻になったので、会場から出るようにしてください。そして、会場の外やその他の場所の迷惑にならないようにしてください」」
 シュイロのアナウンスが鳴った。
 大食らいは急いで残りのスイーツを口に詰めると涙目になって。
「うう」
 会場の外へ消えていったのだった。
 どの店も売り切れらしく、アナウンスから戻ってきたシュイロが店の人たちと嬉しそうに話していた。
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