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3章 任された仕事が難題すぎる!12~23話
その6 ヒウタと準備
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建物内の広い会場にて。
十数人でアプリのイベントのための準備をしている。
「ということでスイーツパーティだ」
ヒウタはシュイロと高めのテーブルを配置していた。
「少しはカズサさんにも働いてもらう。大赤字だからな」
ヒウタはカズサを見て笑う。
ヒウタがカズサのためにお試し期間を設けるよう説得したところ、シュイロたちの監視が弱い状況で会員ではないカズサがいるのは良くないらしい。
ヒウタとカズサはシュイロのお手伝いだ。
「カズサさんのことでヒウタがあまりにも熱心だったから」
つまり、監視さえできればいいという判断だ。
そこで、スイーツパーティという出会いの場を設けることで、お試しの役割を果たそうという考えである。
結果的に大赤字であるのがシュイロらしさだ。
「まさかここまでしてくれるなんて。驚きます」
「カズサさんのことは所詮きっかけだ。定期的にイベントを打っていたからな。期間に関して、イベント自体は二週間、会場は一週間だな。平日は夕方以降のみで入場料無し、土日は入場料が必要、みたいな感じ」
シュイロの経営戦略は謎が多いが、利用者に優しくしているからか、黒字であることがあるのか心配だった。
給料を減らしてほしいというのは、シュイロに失礼だろうが。
「普段はスペースを貸してるからな。私たちの建物だから費用は抑えられてるぞ」
表情を変えずに言う、シュイロ。
「「何者?」」
ヒウタとカズサの言葉が丁度重なるのだった。
「イベントにはたまに顔を出そうと思うのだが。ヒウタには、案内やパトロールを頼んでいる人たちと仲良くしてほしい。ヒウタにはクレーム対応や面倒な客を頼みたいんだが……」
シュイロは申し訳なさそうにヒウタを見る。
「一週間ですか?」
「土日だな。平日なら人手が足りるだろうから」
「分かりました。そんなに大変ですか?」
「なにも起きなければ必要ないがな」
「大げさに七つの大罪って言っていた人たちですか?」
「それもあるが、イベントというものはいろいろあるからな」
シュイロの表情には苦労が見えた。
テーブルの配置を終えると、ごみ箱等も準備していく。
配置が終わると掃除機を使って掃除し、床を雑巾がけしたりテーブルを拭いたりする。
ようやく終わると、ヒウタは配置した椅子に座った。
「なかなか疲れた」
「ありがと、ヒウタ。それともう疲れ果ててしまったのか?」
「こんなアナログな方法とは思わなかった。ハイテクロボットは?」
「開発者とまだ仲直りできてないからな」
どこか遠くを見るシュイロ。
そんなどうでもいい決め顔はいいから、さっさと仲直りしてもらいたいものだ。
「シュイロさんって今までもこんなに働いていたんですか?」
カズサが聞く。
「現場で動かないと分からないことだらけだからな。忙しいから人手増やして、その結果ヒウタを雇用することにしたんだ。私、高校を中退してたから、今年から女子高生なるものになって。さらに忙しくなったんだが」
「友人もシュイロさんのアプリを評価していて。どうして私が保留にされたのか分かりました。でも、こんな私にここまでしてくれるのは分かりません」
「悩んでいるのが分かったからな。なんていうか、カズサさんは幸せになったらいいと思うんだ。勝手にこんな私が、なんて言ってるが、恋をして悩んでるだけだ。いろんな人に会えばきっと幸せを探せる」
「まだ失恋を諦められない気がして。今まで仲良かったしよく話してて。魅力をたくさん知ってて。今の彼女といろいろあって付き合ってるのは分かるけど、彼女さんにいろんな魅力があったと思うけど、私の方が仲良しの期間が長くて、なのに彼女の力であの人との連絡までできなくされて。急に何もできなくなってたから、自暴自棄になってた」
カズサの表情は澄んでいた気がした。
ヒウタもシュイロも、カズサの言葉を一言も溢さないように慎重に聞いていた。
「私のこと、助けてほしい。この痛みを誰かに分けてでも助けてほしくて、そのためにはなんでもしたくて、忘れるために数をこなせばいいと思ってた。けど、なんだかな」
カズサは瞳に涙を浮かべて笑う。
「なんか救われてたみたい、ヒウタさんとシュイロさんに。こんなにいい人と出会えたなら、楽しい恋がここにはある気がするから」
「私のマッチングアプリは楽しい恋愛のための場所だ。そのために私が頑張っているからな」
「大赤字でイベントして楽しい恋愛の場所とやらは維持できるんですか?」
「な? ちょっとくらい大丈夫だが?」
シュイロはひどく動揺する。
ヒウタのような雇われた身としては、目の前で経営者があたふたしているのは心配になってしまう。
「変な人たち」
カズサはシュイロとヒウタがからかい合って互いに動揺するやり取りを見守っていた。
その様子が微笑ましい。
「まだ悩んでいるけど、ホッとしたかも」
カズサが言う。
この広い会場にゆっくりとした、しかし騒がしい時間が流れるのだった。
十数人でアプリのイベントのための準備をしている。
「ということでスイーツパーティだ」
ヒウタはシュイロと高めのテーブルを配置していた。
「少しはカズサさんにも働いてもらう。大赤字だからな」
ヒウタはカズサを見て笑う。
ヒウタがカズサのためにお試し期間を設けるよう説得したところ、シュイロたちの監視が弱い状況で会員ではないカズサがいるのは良くないらしい。
ヒウタとカズサはシュイロのお手伝いだ。
「カズサさんのことでヒウタがあまりにも熱心だったから」
つまり、監視さえできればいいという判断だ。
そこで、スイーツパーティという出会いの場を設けることで、お試しの役割を果たそうという考えである。
結果的に大赤字であるのがシュイロらしさだ。
「まさかここまでしてくれるなんて。驚きます」
「カズサさんのことは所詮きっかけだ。定期的にイベントを打っていたからな。期間に関して、イベント自体は二週間、会場は一週間だな。平日は夕方以降のみで入場料無し、土日は入場料が必要、みたいな感じ」
シュイロの経営戦略は謎が多いが、利用者に優しくしているからか、黒字であることがあるのか心配だった。
給料を減らしてほしいというのは、シュイロに失礼だろうが。
「普段はスペースを貸してるからな。私たちの建物だから費用は抑えられてるぞ」
表情を変えずに言う、シュイロ。
「「何者?」」
ヒウタとカズサの言葉が丁度重なるのだった。
「イベントにはたまに顔を出そうと思うのだが。ヒウタには、案内やパトロールを頼んでいる人たちと仲良くしてほしい。ヒウタにはクレーム対応や面倒な客を頼みたいんだが……」
シュイロは申し訳なさそうにヒウタを見る。
「一週間ですか?」
「土日だな。平日なら人手が足りるだろうから」
「分かりました。そんなに大変ですか?」
「なにも起きなければ必要ないがな」
「大げさに七つの大罪って言っていた人たちですか?」
「それもあるが、イベントというものはいろいろあるからな」
シュイロの表情には苦労が見えた。
テーブルの配置を終えると、ごみ箱等も準備していく。
配置が終わると掃除機を使って掃除し、床を雑巾がけしたりテーブルを拭いたりする。
ようやく終わると、ヒウタは配置した椅子に座った。
「なかなか疲れた」
「ありがと、ヒウタ。それともう疲れ果ててしまったのか?」
「こんなアナログな方法とは思わなかった。ハイテクロボットは?」
「開発者とまだ仲直りできてないからな」
どこか遠くを見るシュイロ。
そんなどうでもいい決め顔はいいから、さっさと仲直りしてもらいたいものだ。
「シュイロさんって今までもこんなに働いていたんですか?」
カズサが聞く。
「現場で動かないと分からないことだらけだからな。忙しいから人手増やして、その結果ヒウタを雇用することにしたんだ。私、高校を中退してたから、今年から女子高生なるものになって。さらに忙しくなったんだが」
「友人もシュイロさんのアプリを評価していて。どうして私が保留にされたのか分かりました。でも、こんな私にここまでしてくれるのは分かりません」
「悩んでいるのが分かったからな。なんていうか、カズサさんは幸せになったらいいと思うんだ。勝手にこんな私が、なんて言ってるが、恋をして悩んでるだけだ。いろんな人に会えばきっと幸せを探せる」
「まだ失恋を諦められない気がして。今まで仲良かったしよく話してて。魅力をたくさん知ってて。今の彼女といろいろあって付き合ってるのは分かるけど、彼女さんにいろんな魅力があったと思うけど、私の方が仲良しの期間が長くて、なのに彼女の力であの人との連絡までできなくされて。急に何もできなくなってたから、自暴自棄になってた」
カズサの表情は澄んでいた気がした。
ヒウタもシュイロも、カズサの言葉を一言も溢さないように慎重に聞いていた。
「私のこと、助けてほしい。この痛みを誰かに分けてでも助けてほしくて、そのためにはなんでもしたくて、忘れるために数をこなせばいいと思ってた。けど、なんだかな」
カズサは瞳に涙を浮かべて笑う。
「なんか救われてたみたい、ヒウタさんとシュイロさんに。こんなにいい人と出会えたなら、楽しい恋がここにはある気がするから」
「私のマッチングアプリは楽しい恋愛のための場所だ。そのために私が頑張っているからな」
「大赤字でイベントして楽しい恋愛の場所とやらは維持できるんですか?」
「な? ちょっとくらい大丈夫だが?」
シュイロはひどく動揺する。
ヒウタのような雇われた身としては、目の前で経営者があたふたしているのは心配になってしまう。
「変な人たち」
カズサはシュイロとヒウタがからかい合って互いに動揺するやり取りを見守っていた。
その様子が微笑ましい。
「まだ悩んでいるけど、ホッとしたかも」
カズサが言う。
この広い会場にゆっくりとした、しかし騒がしい時間が流れるのだった。
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