上 下
18 / 156
3章 任された仕事が難題すぎる!12~23話

その5 ヒウタとカズサⅡ

しおりを挟む
「僕は雑誌を置きに行きます」
 漫画雑誌を汚すわけにはいかない。
 それに、カズサが来たのなら話さなければ。
「なら、私は選んでます」
 スイーツ好きのカズサはメニューに釘付けで、ヒウタの言葉が届いているのか。
 ただヒウタにとっても伝わっているかどうかは問題ではない。
 ヒウタが席へ戻ると、依然としてカズサはメニューを握っている。
 室内灯を宿した瞳がいかに夢中であるかを示す。
「いや、こっちの方が甘々では? うーむ、ゼリーも生クリーム乗ってて。迷う、どれも食べてしまう? シュイロさんの奢りなのに、いや、だからこそ全部」
 シュイロは事前に奢ることを伝えていたらしい。
 どうしてもカズサを話し合いの場に引っ張り出したかったのか。
 ヒウタはコーラと焼きプリンを頼んだ。
 カズサはまさか遠慮せずに選んでいた。
 酸味の効いたアップルティーに、いちごのゼリー、ハチミツとバターで仕上げられたパンケーキ、チーズケーキと小さめのパフェまで。
「ヒウタさんも半分ほど食べてください。思ったよりも多くて」
 なら頼むなよ、っと思ってしまうが。
 嬉しそうな笑顔を見ると強気になれない。
「もしかして食べ残しが良かった?」
「もしかしない」
「当然食べ残しということ? 私は、私たちは一体どんな怪物を生み出してしまったのだろうか」
「先に取り皿に分けてほしい。既に取り皿が用意されているし」
「私たちがカップルに見えたから分けると思って配慮した感じか」
 まさかカズサがすべて食べるとは思わない。
 実際に食べきれる量ではなかった。
 分けてもらったイチゴのゼリーの中にはイチゴの実が入っていて、ネタバレを食らった気分だ。
「美味しい!」
 カズサはヒウタの顔を見て微笑む。
「はい、共犯。いくらシュイロさんが奢ってくれると言ってもヒウタさんよりも食べるのは罪悪感があったから」
 そういうものか、ヒウタは思う。
「日夜さんはスイーツ好きの人ならうまくいくと思いますけど」
「どうかな。恋は一旦休みでもいい気持ちと、途中まで進めたものを再開したい気持ちと、取り敢えず今の環境を一新したい気持ちがある。けど、それらすべてがなにか間違ってる気がする」
 カズサはチーズケーキをフォークで一口サイズに切る。
 その丁寧な所作からスイーツへの思いを感じる。
「スイーツ好きを探すところから、……」
「スイーツ食べない人は難しいけど、スイーツで好きになるとは思えないから」
「そうですよね」
 スイーツを食べるようになってから豊かな表情を見せる人だと思った。
 どうしたらカズサのために、シュイロのためになるだろうか。
 どちらにせよ、この場にヒウタを選んだのはシュイロのミスでは。
 この場でいい案は出ない。
 せめてマッチングアプリのお試しのような期間を設けることができれば。
「でも人と人の関係でお試しは難しい気がする。アプリを利用している人たちに迷惑はかけられない」
 ヒウタは食べ進めながら必死に悩む。
「ヒウタさんは真面目だね。私なんか無視してしまえば楽なのに。必死に考えて模索している。ヒウタさん、シュイロさんの魂が込められたマッチングアプリを使うのは申し訳ないから」
 カズサの穏やかで虚しそうな表情が突き刺さる。
 夢中になって生きているカズサ。
 ヒウタはカズサの力になりたかった。
「お試しみたいなことできないか聞いてみます」
「どうだろう? 私、人を傷つける可能性大だよ」
 カズサの言葉にたじろいでしまう。
 アプリの責任者であるシュイロが、カズサのアプリ利用に関して拒否ではなく保留と言った。
 厳しい判断だと思うが、保留である以上はシュイロもカズサの力になりたいと思っているに違いない。
「きっとシュイロさんなら分かってくれると思うので」
 食べ終わって。
「カロリー取り過ぎてしまったし昼食は食べなくて良さそう。私はヒウタさんをただのむっつりだと思ってたけど、人のために熱くなれるむっつりだと分かったから」
「結局むっつりか」
「初めて見たときにグラビアを血眼で見てたのが強烈な印象だったから」
「ええ、そんなに? 見てはいたけど」
 帰り。
 反対方向に歩いていくカズサの姿勢が良くなった気がして、ヒウタはシュイロを説得する覚悟を決めるのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

3年振りに帰ってきた地元で幼馴染が女の子とエッチしていた

ねんごろ
恋愛
3年ぶりに帰ってきた地元は、何かが違っていた。 俺が変わったのか…… 地元が変わったのか…… 主人公は倒錯した日常を過ごすことになる。 ※他Web小説サイトで連載していた作品です

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

処理中です...