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3章 任された仕事が難題すぎる!12~23話
その5 ヒウタとカズサⅡ
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「僕は雑誌を置きに行きます」
漫画雑誌を汚すわけにはいかない。
それに、カズサが来たのなら話さなければ。
「なら、私は選んでます」
スイーツ好きのカズサはメニューに釘付けで、ヒウタの言葉が届いているのか。
ただヒウタにとっても伝わっているかどうかは問題ではない。
ヒウタが席へ戻ると、依然としてカズサはメニューを握っている。
室内灯を宿した瞳がいかに夢中であるかを示す。
「いや、こっちの方が甘々では? うーむ、ゼリーも生クリーム乗ってて。迷う、どれも食べてしまう? シュイロさんの奢りなのに、いや、だからこそ全部」
シュイロは事前に奢ることを伝えていたらしい。
どうしてもカズサを話し合いの場に引っ張り出したかったのか。
ヒウタはコーラと焼きプリンを頼んだ。
カズサはまさか遠慮せずに選んでいた。
酸味の効いたアップルティーに、いちごのゼリー、ハチミツとバターで仕上げられたパンケーキ、チーズケーキと小さめのパフェまで。
「ヒウタさんも半分ほど食べてください。思ったよりも多くて」
なら頼むなよ、っと思ってしまうが。
嬉しそうな笑顔を見ると強気になれない。
「もしかして食べ残しが良かった?」
「もしかしない」
「当然食べ残しということ? 私は、私たちは一体どんな怪物を生み出してしまったのだろうか」
「先に取り皿に分けてほしい。既に取り皿が用意されているし」
「私たちがカップルに見えたから分けると思って配慮した感じか」
まさかカズサがすべて食べるとは思わない。
実際に食べきれる量ではなかった。
分けてもらったイチゴのゼリーの中にはイチゴの実が入っていて、ネタバレを食らった気分だ。
「美味しい!」
カズサはヒウタの顔を見て微笑む。
「はい、共犯。いくらシュイロさんが奢ってくれると言ってもヒウタさんよりも食べるのは罪悪感があったから」
そういうものか、ヒウタは思う。
「日夜さんはスイーツ好きの人ならうまくいくと思いますけど」
「どうかな。恋は一旦休みでもいい気持ちと、途中まで進めたものを再開したい気持ちと、取り敢えず今の環境を一新したい気持ちがある。けど、それらすべてがなにか間違ってる気がする」
カズサはチーズケーキをフォークで一口サイズに切る。
その丁寧な所作からスイーツへの思いを感じる。
「スイーツ好きを探すところから、……」
「スイーツ食べない人は難しいけど、スイーツで好きになるとは思えないから」
「そうですよね」
スイーツを食べるようになってから豊かな表情を見せる人だと思った。
どうしたらカズサのために、シュイロのためになるだろうか。
どちらにせよ、この場にヒウタを選んだのはシュイロのミスでは。
この場でいい案は出ない。
せめてマッチングアプリのお試しのような期間を設けることができれば。
「でも人と人の関係でお試しは難しい気がする。アプリを利用している人たちに迷惑はかけられない」
ヒウタは食べ進めながら必死に悩む。
「ヒウタさんは真面目だね。私なんか無視してしまえば楽なのに。必死に考えて模索している。ヒウタさん、シュイロさんの魂が込められたマッチングアプリを使うのは申し訳ないから」
カズサの穏やかで虚しそうな表情が突き刺さる。
夢中になって生きているカズサ。
ヒウタはカズサの力になりたかった。
「お試しみたいなことできないか聞いてみます」
「どうだろう? 私、人を傷つける可能性大だよ」
カズサの言葉にたじろいでしまう。
アプリの責任者であるシュイロが、カズサのアプリ利用に関して拒否ではなく保留と言った。
厳しい判断だと思うが、保留である以上はシュイロもカズサの力になりたいと思っているに違いない。
「きっとシュイロさんなら分かってくれると思うので」
食べ終わって。
「カロリー取り過ぎてしまったし昼食は食べなくて良さそう。私はヒウタさんをただのむっつりだと思ってたけど、人のために熱くなれるむっつりだと分かったから」
「結局むっつりか」
「初めて見たときにグラビアを血眼で見てたのが強烈な印象だったから」
「ええ、そんなに? 見てはいたけど」
帰り。
反対方向に歩いていくカズサの姿勢が良くなった気がして、ヒウタはシュイロを説得する覚悟を決めるのだった。
漫画雑誌を汚すわけにはいかない。
それに、カズサが来たのなら話さなければ。
「なら、私は選んでます」
スイーツ好きのカズサはメニューに釘付けで、ヒウタの言葉が届いているのか。
ただヒウタにとっても伝わっているかどうかは問題ではない。
ヒウタが席へ戻ると、依然としてカズサはメニューを握っている。
室内灯を宿した瞳がいかに夢中であるかを示す。
「いや、こっちの方が甘々では? うーむ、ゼリーも生クリーム乗ってて。迷う、どれも食べてしまう? シュイロさんの奢りなのに、いや、だからこそ全部」
シュイロは事前に奢ることを伝えていたらしい。
どうしてもカズサを話し合いの場に引っ張り出したかったのか。
ヒウタはコーラと焼きプリンを頼んだ。
カズサはまさか遠慮せずに選んでいた。
酸味の効いたアップルティーに、いちごのゼリー、ハチミツとバターで仕上げられたパンケーキ、チーズケーキと小さめのパフェまで。
「ヒウタさんも半分ほど食べてください。思ったよりも多くて」
なら頼むなよ、っと思ってしまうが。
嬉しそうな笑顔を見ると強気になれない。
「もしかして食べ残しが良かった?」
「もしかしない」
「当然食べ残しということ? 私は、私たちは一体どんな怪物を生み出してしまったのだろうか」
「先に取り皿に分けてほしい。既に取り皿が用意されているし」
「私たちがカップルに見えたから分けると思って配慮した感じか」
まさかカズサがすべて食べるとは思わない。
実際に食べきれる量ではなかった。
分けてもらったイチゴのゼリーの中にはイチゴの実が入っていて、ネタバレを食らった気分だ。
「美味しい!」
カズサはヒウタの顔を見て微笑む。
「はい、共犯。いくらシュイロさんが奢ってくれると言ってもヒウタさんよりも食べるのは罪悪感があったから」
そういうものか、ヒウタは思う。
「日夜さんはスイーツ好きの人ならうまくいくと思いますけど」
「どうかな。恋は一旦休みでもいい気持ちと、途中まで進めたものを再開したい気持ちと、取り敢えず今の環境を一新したい気持ちがある。けど、それらすべてがなにか間違ってる気がする」
カズサはチーズケーキをフォークで一口サイズに切る。
その丁寧な所作からスイーツへの思いを感じる。
「スイーツ好きを探すところから、……」
「スイーツ食べない人は難しいけど、スイーツで好きになるとは思えないから」
「そうですよね」
スイーツを食べるようになってから豊かな表情を見せる人だと思った。
どうしたらカズサのために、シュイロのためになるだろうか。
どちらにせよ、この場にヒウタを選んだのはシュイロのミスでは。
この場でいい案は出ない。
せめてマッチングアプリのお試しのような期間を設けることができれば。
「でも人と人の関係でお試しは難しい気がする。アプリを利用している人たちに迷惑はかけられない」
ヒウタは食べ進めながら必死に悩む。
「ヒウタさんは真面目だね。私なんか無視してしまえば楽なのに。必死に考えて模索している。ヒウタさん、シュイロさんの魂が込められたマッチングアプリを使うのは申し訳ないから」
カズサの穏やかで虚しそうな表情が突き刺さる。
夢中になって生きているカズサ。
ヒウタはカズサの力になりたかった。
「お試しみたいなことできないか聞いてみます」
「どうだろう? 私、人を傷つける可能性大だよ」
カズサの言葉にたじろいでしまう。
アプリの責任者であるシュイロが、カズサのアプリ利用に関して拒否ではなく保留と言った。
厳しい判断だと思うが、保留である以上はシュイロもカズサの力になりたいと思っているに違いない。
「きっとシュイロさんなら分かってくれると思うので」
食べ終わって。
「カロリー取り過ぎてしまったし昼食は食べなくて良さそう。私はヒウタさんをただのむっつりだと思ってたけど、人のために熱くなれるむっつりだと分かったから」
「結局むっつりか」
「初めて見たときにグラビアを血眼で見てたのが強烈な印象だったから」
「ええ、そんなに? 見てはいたけど」
帰り。
反対方向に歩いていくカズサの姿勢が良くなった気がして、ヒウタはシュイロを説得する覚悟を決めるのだった。
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