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3章 任された仕事が難題すぎる!12~23話
その4 ヒウタとカズサ
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喫茶店に朝十時集合。
カズサの分もヒウタの分もシュイロが奢ってくれるとの事。
自腹らしい。世話焼きだな、と感心してしまう。
「朝ご飯を食べるわけでもなく、お昼の時間でもなく。シュイロさんには考えがあると思うけど」
ヒウタは先にテーブルに着いた。
アプリ側にとってカズサはお客様、待たせるわけにはいかない。
暇なヒウタは漫画雑誌を読んでいた。
背丈のある観葉植物が落ち着いた雰囲気を醸し出している。
雑誌の紙の香りが懐かしく思うのはどんな原理か。
「途中までの話を知らないのに、この一話だけでも十分ワクワクするな」
無駄に切り取ったのではなく、読みやすい展開、つい続きが気になるラスト。
ラブコメでも冒険でもアクションでも。
ギャグマンガでは濃密な始まりと終わりが読める。
喫茶店で一週間分を読む場合は、その一話を期待してしまうし最も印象が残る気がする。
「グラビアは清楚な美人って感じがするな。昔は読み飛ばしていたのに見てしまう。これが大人ってやつか」
ヒウタがグラビアのページを頷きながら見ていた時だった。
すぐ後ろ。
シャンプーのフルーツを模した香りが、ヒウタの意識を明確にどこか曖昧にする。
きっと振り返れば、その女性に当たってしまうような距離だろう。
それにしてもどうして黙ったままなのだろうか?
グラビアのページのまま雑誌を置く。
「あ、いや、そういうわけではないのだけど?」
女性は申し訳なさそうに言うと、ヒウタの前に座った。
波を打つ髪が女性を鮮やかな印象にする。
二重で円らな瞳が真っすぐとヒウタへ。
綺麗だ、と思ってしまえば急に心臓が鳴って声は掠れてしまう気さえする。
「君が估志世陽唄くん?」
「はい」
緊張で多くは話せない。
冷たい汗がドッと流れる。
でも見定めるのがヒウタの仕事。
カズサに押されてしまっては期待外れになってしまう。
きっとシュイロは怒らないけど、落ち込んでしまうだろう。
「シュイロさんに呼ばれてきました、日夜和佐です」
「日夜さんと呼びますね。シュイロさんから詳しく話を聞いてアプリの使用許可について意見がほしいと言われましたから」
「それ言っていいのですか? 私に」
「隠さなくてもおおよそ分かると思うので」
「誠実ですね、ヒウタさん。グラビアを舐め回すように見てたくせに」
カズサという女性は悪い人という感じはしないが、ヒウタには違和感があった。
グラビアを見ていたヒウタをからかう様子から、異性を苦手としていたり緊張していたりといったことはない。
カズサが日頃男性と関わっているかは分からない。
「私、いろんな男の人を見て関わって進みたいって。でもシュイロさんからすれば、私は不誠実みたい」
「いろんな人と関わりたいとは?」
「いろんな人に会って上手くいったり失敗したりして。騒がしい日々で綺麗な思い出に蓋をして、失恋を乗り越えたいみたいな」
他人を利用して、失恋の痛みを誤魔化したいのか?
シュイロさんがアプリの使用を保留にした理由が分かってきたかもしれない。
おそらくではあるが、この人は抑えきれない自傷願望と他者への破壊衝動に似た感情を抱えている。
失恋の魔力によるものだろうけど、その危うさをシュイロさんは心配している。
この言葉はヒウタの勝手な考えかもしれない。
「カズサさんにとって魅力的な人を探すのなら僕はアプリの使用許可を出してもらうように意見します」
カズサが忘れるためではなく、恋人を探すためにアプリを使うならシュイロは許可してくれる。
「もうたぶんいないから。今まで生きていてあの人が一番仲いい男の子で、一番大好きな人だった」
ヒウタはその狂気が悲しくて言葉が詰まりそうだった。
シュイロにとってマッチングアプリは、幸せになりたい者同士が価値観を確かめ合い、時には互いに合わせて充実した生活を送るためのツールなのだろう。
カズサが持つ感情を考慮すれば、ヒウタはアプリの使用を拒否する意見をするべきだ。
意見がほしいというのがヒウタの仕事のはずだ。
それなのに。
シュイロが言っていた言葉を思い返す。
このアプリは出会いの少ない現代社会に繋がりと温かさを溢れさせるために存在している。
カズサが言う今まであった人のなかでというのは、まさにシュイロがアプリを作った理由である出会いの少なさや出会えるコミュニティの少なさに直結している。
なら、この人にはアプリを使ってほしいと思ってしまう。
「カズサさんに出会いが少なかったから、想い人が一番なんだって言ってもそれは違うよな」
カズサには聞こえない声で呟く。
カズサの忘れたいという真剣な気持ちも、シュイロが目指すマッチングアプリの形も尊重したい。
ヒウタは話しを進める前に、注文をすることにした。
カズサの分もヒウタの分もシュイロが奢ってくれるとの事。
自腹らしい。世話焼きだな、と感心してしまう。
「朝ご飯を食べるわけでもなく、お昼の時間でもなく。シュイロさんには考えがあると思うけど」
ヒウタは先にテーブルに着いた。
アプリ側にとってカズサはお客様、待たせるわけにはいかない。
暇なヒウタは漫画雑誌を読んでいた。
背丈のある観葉植物が落ち着いた雰囲気を醸し出している。
雑誌の紙の香りが懐かしく思うのはどんな原理か。
「途中までの話を知らないのに、この一話だけでも十分ワクワクするな」
無駄に切り取ったのではなく、読みやすい展開、つい続きが気になるラスト。
ラブコメでも冒険でもアクションでも。
ギャグマンガでは濃密な始まりと終わりが読める。
喫茶店で一週間分を読む場合は、その一話を期待してしまうし最も印象が残る気がする。
「グラビアは清楚な美人って感じがするな。昔は読み飛ばしていたのに見てしまう。これが大人ってやつか」
ヒウタがグラビアのページを頷きながら見ていた時だった。
すぐ後ろ。
シャンプーのフルーツを模した香りが、ヒウタの意識を明確にどこか曖昧にする。
きっと振り返れば、その女性に当たってしまうような距離だろう。
それにしてもどうして黙ったままなのだろうか?
グラビアのページのまま雑誌を置く。
「あ、いや、そういうわけではないのだけど?」
女性は申し訳なさそうに言うと、ヒウタの前に座った。
波を打つ髪が女性を鮮やかな印象にする。
二重で円らな瞳が真っすぐとヒウタへ。
綺麗だ、と思ってしまえば急に心臓が鳴って声は掠れてしまう気さえする。
「君が估志世陽唄くん?」
「はい」
緊張で多くは話せない。
冷たい汗がドッと流れる。
でも見定めるのがヒウタの仕事。
カズサに押されてしまっては期待外れになってしまう。
きっとシュイロは怒らないけど、落ち込んでしまうだろう。
「シュイロさんに呼ばれてきました、日夜和佐です」
「日夜さんと呼びますね。シュイロさんから詳しく話を聞いてアプリの使用許可について意見がほしいと言われましたから」
「それ言っていいのですか? 私に」
「隠さなくてもおおよそ分かると思うので」
「誠実ですね、ヒウタさん。グラビアを舐め回すように見てたくせに」
カズサという女性は悪い人という感じはしないが、ヒウタには違和感があった。
グラビアを見ていたヒウタをからかう様子から、異性を苦手としていたり緊張していたりといったことはない。
カズサが日頃男性と関わっているかは分からない。
「私、いろんな男の人を見て関わって進みたいって。でもシュイロさんからすれば、私は不誠実みたい」
「いろんな人と関わりたいとは?」
「いろんな人に会って上手くいったり失敗したりして。騒がしい日々で綺麗な思い出に蓋をして、失恋を乗り越えたいみたいな」
他人を利用して、失恋の痛みを誤魔化したいのか?
シュイロさんがアプリの使用を保留にした理由が分かってきたかもしれない。
おそらくではあるが、この人は抑えきれない自傷願望と他者への破壊衝動に似た感情を抱えている。
失恋の魔力によるものだろうけど、その危うさをシュイロさんは心配している。
この言葉はヒウタの勝手な考えかもしれない。
「カズサさんにとって魅力的な人を探すのなら僕はアプリの使用許可を出してもらうように意見します」
カズサが忘れるためではなく、恋人を探すためにアプリを使うならシュイロは許可してくれる。
「もうたぶんいないから。今まで生きていてあの人が一番仲いい男の子で、一番大好きな人だった」
ヒウタはその狂気が悲しくて言葉が詰まりそうだった。
シュイロにとってマッチングアプリは、幸せになりたい者同士が価値観を確かめ合い、時には互いに合わせて充実した生活を送るためのツールなのだろう。
カズサが持つ感情を考慮すれば、ヒウタはアプリの使用を拒否する意見をするべきだ。
意見がほしいというのがヒウタの仕事のはずだ。
それなのに。
シュイロが言っていた言葉を思い返す。
このアプリは出会いの少ない現代社会に繋がりと温かさを溢れさせるために存在している。
カズサが言う今まであった人のなかでというのは、まさにシュイロがアプリを作った理由である出会いの少なさや出会えるコミュニティの少なさに直結している。
なら、この人にはアプリを使ってほしいと思ってしまう。
「カズサさんに出会いが少なかったから、想い人が一番なんだって言ってもそれは違うよな」
カズサには聞こえない声で呟く。
カズサの忘れたいという真剣な気持ちも、シュイロが目指すマッチングアプリの形も尊重したい。
ヒウタは話しを進める前に、注文をすることにした。
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