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1章 アプリまでの道のりが不気味すぎる!1~5話
その3 ヒウタと不気味な場所
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ファミレスから帰ってきた。
ヒウタの妹であるアメユキは心配そうに帰りを待っていた。
好物のアイスクリームを食べなかったらしい。
「合わなかった」
「諦めないで、にいにまた私が探してくるから」
アメユキはできる妹であった。
ただ彼女ができないことでこれ以上妹を頼るわけにもいかない。
「あの人、確かに綺麗な人だったし優しそうな人だったし。安心してアメユキを任せられるな」
「あの人って呼んで、にいにもしかして名前すら聞けなかった?」
「ぎくっ。けど、最近流行りの、でもそれなりに安全性が高いらしいマッチングなるものを教えてもらったぞ」
「そうなの? やってみるの?」
「アメユキに頼ってばかりの兄貴じゃ情けないからな。よし」
ヒウタの気合はすごかった。
まず、家中のネットワーク通信速度を計測し、最も速い場所でスマホを開く。
アプリを開いて、自己紹介や個人情報などの記入欄を次々と埋めていく。
「自撮り撮るぞ!」
趣味が分かる場所で撮るといいらしい。
パソコンの前にゲーム機や漫画、受験で使った参考書や大学進学後に買った難しそうな本を並べていく。
「ふふふ、まさか今までの努力がこうして報われるとはな。ふはははは」
どんどん間違った方向へ脱線していくヒウタ。
アメユキは呆れて肘をついてじっと見る。
兄に元気が残っていたのは良かったが。
「ポンコツ、私に任せて。にいに、どうせ私がいないとろくに自撮りもできない哀れな豚なのに」
「ええ。どこで覚えたアメユキ、そんな汚い言葉忘れなさい!」
アメユキが冷蔵庫からケーキ屋のプリンを取り出す。
ヒウタはそれを持って笑顔を作った。
「にい、不気味な男は好かれないから」
一番マシな写真を選んで登録した
そうしてプロフィールが完成し。アプリに課金し。
ようやくマッチングアプリ生活が動き出した。
「登録で千円、あとで一年間分の二千円がいるのか。って、面接あるの?」
「ほんとだ。でも好きな時間に施設に行けばいいって。私本屋さん行きたいから付いていく」
「なんていい妹なんだ。アメユキ、本でもなんでも俺が奢ってやる」
アメユキはソファで座っていたヒウタの膝に座った。
「にいに、これから彼女作るんだよ、そんな痩せた財布で立ち向かえるの?」
クリティカルヒットである。
年が離れた妹に言われるのは堪える。
「お兄ちゃん泣くぞ、おら」
「ふふ、お礼したいなら彼女作ってね。私お姉ちゃん夢なんだ」
申し訳なさと申し訳なさで、申し訳なさが襲う。
「ごめんアメユキ、モテない兄貴で」
「これから頑張ろ、にいに!」
妹にまで気を遣われた兄に虚無が漂う。
このままではいけない、そう決意するヒウタであった。
次の日。
「行こう、にい」
「妹よ、あとは任せろ」
暑くなってきたのでアメユキは帽子を被っている。
二人はアメユキが来たいと言っていた本屋に着いた。
三階建てで、どのフロアも広い。
「不審な人には付いていくなよ。アメユキは素直なんだから」
「本屋で待ってるから絶対大丈夫。にい、期待してる」
店の入り口で分かれる。
道を真っ直ぐ進んで何階建てか分からないような高いビルに着いた。
ビルに入ると、電気屋やらスイーツやら、肉や野菜を売ってる店もある。
「ここか?」
エレベータを使ってフロアを変える。
この店か? ヒウタには確かめる術がない。
ただ地図が示すのはこの店だ。
「怪しいどこの民族か分からないマフラーや衣装、木製かも分からない彫刻。かと思えば、古そうな映画のパッケージ」
独特な飾りつけや商品に視線が踊らされる。
くらくらしそうで、視界あたりの情報量が多すぎる。
ヒウタは下を向いて目頭あたりを軽く抑える。
目を開くと足元に小さな箱があった。
「賽銭箱? 受付カード二千円? もしかして」
アプリの登録に必要な課金は千円。
アプリは年間二千円かけて更新手続きをしなくてはならないらしい。
「まじでこの店にあるのか、面接」
賽銭箱に千円札二枚入れ。
受付カードを手に持った。
店の奥にある扉を恐る恐る開けようとする。
「きゃっ。開ける、……ときは、ですよ」
扉から出てきた女性の言葉が聞こえにくい。
「え?」
「開ける、は。二回、……ノック。私、……みたい、説教、されないと、いいですね。お客、さま」
ゆっくりと話す女性にヒウタは戸惑う。
ただ頭から沸騰したように湯気が出ているのが分かる。
「あがり、だから。私、……行き、ます」
「ありがとうございます。僕、行きますね」
扉の中に入る。
通路が見えた。
「さっきの人可愛らしい声だったな。説教されるのか?」
利用者に説教されたなんて言われてしまえば、先ほどの強気が出せないもの。
「名前は?」
通路に受付があった。
受付カードに借りたボールペンで登録名などを記入する。
「よく見たら人型ロボットだ」
受付には人がいないらしい。
樹脂で作った肌で覆われて、普通のスーツで整えており、よく見なければ人だと思ってしまう完成度だ。
声も流暢ときた。
「カードを口に入れてください。食べてスキャンします」
女性の形、男性の形のロボットの口にカードを入れるのはやめた方がいい。
「ハイテクで不気味で、本当にここで合ってるのか」
カードの記入欄くらいしか証明がない。
ホラーが始まってもおかしくないくらい暗い受付。
「合ってますよ、ヒウタさん」
優しい女性の声が聞こえた。
通路の向こうにいくらか扉がある。
面接室だろう。
「ロボットに説教されるわけないし人だよな?」
ヒウタは不気味さに帰りたくなる。
でもアメユキを悲しませるわけにはいかない。
覚悟を決めて部屋に入った。
すると、テレビのサイズのモニタ。
モニタにはアニメ調のアバターがある。
「その手があったか」
ヒウタはなんだかおかしくなってしまって笑った。
ヒウタの妹であるアメユキは心配そうに帰りを待っていた。
好物のアイスクリームを食べなかったらしい。
「合わなかった」
「諦めないで、にいにまた私が探してくるから」
アメユキはできる妹であった。
ただ彼女ができないことでこれ以上妹を頼るわけにもいかない。
「あの人、確かに綺麗な人だったし優しそうな人だったし。安心してアメユキを任せられるな」
「あの人って呼んで、にいにもしかして名前すら聞けなかった?」
「ぎくっ。けど、最近流行りの、でもそれなりに安全性が高いらしいマッチングなるものを教えてもらったぞ」
「そうなの? やってみるの?」
「アメユキに頼ってばかりの兄貴じゃ情けないからな。よし」
ヒウタの気合はすごかった。
まず、家中のネットワーク通信速度を計測し、最も速い場所でスマホを開く。
アプリを開いて、自己紹介や個人情報などの記入欄を次々と埋めていく。
「自撮り撮るぞ!」
趣味が分かる場所で撮るといいらしい。
パソコンの前にゲーム機や漫画、受験で使った参考書や大学進学後に買った難しそうな本を並べていく。
「ふふふ、まさか今までの努力がこうして報われるとはな。ふはははは」
どんどん間違った方向へ脱線していくヒウタ。
アメユキは呆れて肘をついてじっと見る。
兄に元気が残っていたのは良かったが。
「ポンコツ、私に任せて。にいに、どうせ私がいないとろくに自撮りもできない哀れな豚なのに」
「ええ。どこで覚えたアメユキ、そんな汚い言葉忘れなさい!」
アメユキが冷蔵庫からケーキ屋のプリンを取り出す。
ヒウタはそれを持って笑顔を作った。
「にい、不気味な男は好かれないから」
一番マシな写真を選んで登録した
そうしてプロフィールが完成し。アプリに課金し。
ようやくマッチングアプリ生活が動き出した。
「登録で千円、あとで一年間分の二千円がいるのか。って、面接あるの?」
「ほんとだ。でも好きな時間に施設に行けばいいって。私本屋さん行きたいから付いていく」
「なんていい妹なんだ。アメユキ、本でもなんでも俺が奢ってやる」
アメユキはソファで座っていたヒウタの膝に座った。
「にいに、これから彼女作るんだよ、そんな痩せた財布で立ち向かえるの?」
クリティカルヒットである。
年が離れた妹に言われるのは堪える。
「お兄ちゃん泣くぞ、おら」
「ふふ、お礼したいなら彼女作ってね。私お姉ちゃん夢なんだ」
申し訳なさと申し訳なさで、申し訳なさが襲う。
「ごめんアメユキ、モテない兄貴で」
「これから頑張ろ、にいに!」
妹にまで気を遣われた兄に虚無が漂う。
このままではいけない、そう決意するヒウタであった。
次の日。
「行こう、にい」
「妹よ、あとは任せろ」
暑くなってきたのでアメユキは帽子を被っている。
二人はアメユキが来たいと言っていた本屋に着いた。
三階建てで、どのフロアも広い。
「不審な人には付いていくなよ。アメユキは素直なんだから」
「本屋で待ってるから絶対大丈夫。にい、期待してる」
店の入り口で分かれる。
道を真っ直ぐ進んで何階建てか分からないような高いビルに着いた。
ビルに入ると、電気屋やらスイーツやら、肉や野菜を売ってる店もある。
「ここか?」
エレベータを使ってフロアを変える。
この店か? ヒウタには確かめる術がない。
ただ地図が示すのはこの店だ。
「怪しいどこの民族か分からないマフラーや衣装、木製かも分からない彫刻。かと思えば、古そうな映画のパッケージ」
独特な飾りつけや商品に視線が踊らされる。
くらくらしそうで、視界あたりの情報量が多すぎる。
ヒウタは下を向いて目頭あたりを軽く抑える。
目を開くと足元に小さな箱があった。
「賽銭箱? 受付カード二千円? もしかして」
アプリの登録に必要な課金は千円。
アプリは年間二千円かけて更新手続きをしなくてはならないらしい。
「まじでこの店にあるのか、面接」
賽銭箱に千円札二枚入れ。
受付カードを手に持った。
店の奥にある扉を恐る恐る開けようとする。
「きゃっ。開ける、……ときは、ですよ」
扉から出てきた女性の言葉が聞こえにくい。
「え?」
「開ける、は。二回、……ノック。私、……みたい、説教、されないと、いいですね。お客、さま」
ゆっくりと話す女性にヒウタは戸惑う。
ただ頭から沸騰したように湯気が出ているのが分かる。
「あがり、だから。私、……行き、ます」
「ありがとうございます。僕、行きますね」
扉の中に入る。
通路が見えた。
「さっきの人可愛らしい声だったな。説教されるのか?」
利用者に説教されたなんて言われてしまえば、先ほどの強気が出せないもの。
「名前は?」
通路に受付があった。
受付カードに借りたボールペンで登録名などを記入する。
「よく見たら人型ロボットだ」
受付には人がいないらしい。
樹脂で作った肌で覆われて、普通のスーツで整えており、よく見なければ人だと思ってしまう完成度だ。
声も流暢ときた。
「カードを口に入れてください。食べてスキャンします」
女性の形、男性の形のロボットの口にカードを入れるのはやめた方がいい。
「ハイテクで不気味で、本当にここで合ってるのか」
カードの記入欄くらいしか証明がない。
ホラーが始まってもおかしくないくらい暗い受付。
「合ってますよ、ヒウタさん」
優しい女性の声が聞こえた。
通路の向こうにいくらか扉がある。
面接室だろう。
「ロボットに説教されるわけないし人だよな?」
ヒウタは不気味さに帰りたくなる。
でもアメユキを悲しませるわけにはいかない。
覚悟を決めて部屋に入った。
すると、テレビのサイズのモニタ。
モニタにはアニメ調のアバターがある。
「その手があったか」
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