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1章 アプリまでの道のりが不気味すぎる!1~5話
その1 ヒウタとアメユキ
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大型連休を無駄に潰したからか、五月病というなかなか薬が効かない大病を患ってしまった。
連休明けの土曜日、青年はソファに寝転がってテレビを眺め続けた。
ただ救いがあるとすれば、大学生にしては単発バイトしか働かず、有り余った時間でレポートを返り討ちにできたことだ。
青年の悩みは別にあった。
「はは、本気で言ってるのか?」
青年の名前はヒウタ。本名、估志世陽唄。
高校で学業と部活に打ち込み、恋愛に掠りもしなかった青年は、相変わらず女性と縁がないのだ。
「二十代の若者は結婚したくない、彼女要らない人が急増? 十年前と比較して?」
溜息ひとつ。
「俺みたいな人間は一度も取材されてないけどな。そもそも商店街で取材してるし。俺みたいな人間が通るわけないところで取材して、まるで一般論みたいに語るなよ」
画面が切り替わって、タレントやら芸人やら専門家が議論を始める。
なんて滑稽な、と思う。
しかし、女性と縁がなく商店街に用がない人間の意見は、若者の結婚離れには必要ないだろう。
そう思うと泣きそうだ。
「ったく、すごい綺麗な。すげえかわいい彼女ほしいなあ」
呟く。
まさか明るく華やかな印象がある大学生活、ここまで出会いがないとは。
微分と積分を繰り返す日々。
もはや二次元キャラを積分して彼女を生成するしかない、なんて友人の言葉が理解できてしまう。
「出会いがほしい、なんてどうしたら」
「ふふふ、いいこと教えてあげよっか?」
高い女性の声。
その長く光沢のある髪がヒウタの頭に被さる。
覗き込まれるように見下されるのは、家族でなければ許したくない。
とはいえ、ヒウタは他人の方が嬉しかった気もする。
「うわあ!」
「にい、妹のことをまるで化け物みたいに。私がすごい綺麗な女性紹介してあげる」
「いや、お前、中学生のお前が誰にどなたを紹介するんだ?」
ヒウタの妹、アメユキは棒の部分を持って、アイスを舐めて言う。
アイスが融けて、雫がアイスの表面を走る。
ヒウタは雫から目が離せないでいた。
「チッチッチ、私を崇めた方がいい。私は今塾に行ってます」
「で?」
雫がヒウタの頭の頂上へ。
ヒヤッと冷たさがヒウタを襲うが、取り敢えず諦めるのが兄である。
「彼氏いなくて綺麗なバイトの人がいて、……周りには内緒だよ。大学生ってばれないようにしてるらしいから」
「びっくりした。まさか同級生の中学生を紹介されるのかと思った」
「あ、その手があったか。ごめんね、にいに」
アメユキは素直でいい妹だ、とヒウタ。
「中学二年生を大学一年生に紹介するのは、法律とか倫理とか世間の目とかあるからな」
「倫理って? 世間ってお母さんとかママ友とか、近所の人のこと?」
「そうそう。倫理は心の正しさみたいなものだ」
「ふうん、難しい。でも、私の同級生みんな彼氏とかいい感じの人がいて紹介できないや」
中学二年で? と聞き返してしまいそうになるが、最近の中学生事情を知らない大学生が下手に突っ込んではならない、と留まる。
「私まだ恋とか分かんないけど。にいに、もうすぐ二十歳なのに。友達、彼氏二人とか三人とかいる人いるよ」
「妹よ、そっちの世界には行かないでくれ」
ヒウタは祈った。
「で、会いますか会いませんか」
「ええ、会ってどうするんだ? そもそも会ってくれるのか?」
「にいの写真見せたときには、嫌いではない顔だって」
「いつの間に見せたんだ。って、好きでもないってことだろ? いやいや、顔に自信がある人生ではないし、顔が好きなんて期待していないが」
冷たい雫がどんどん流れてくる。
おそらく相手の女性は消極的だろう、間違いない。
ヒウタ自身も積極的になれるかと思えばそうではない。
しかし、ノリノリの妹の誘いを断れる兄ではなく。
「分かった」
会うことに決めた。
「やった。初めての彼女頑張って、にいに」
アメユキはにこにこしてアイスを齧る。
崩れたアイスの大きな破片が頭の上から降ってきた。
「マジか。……」
連休明けの土曜日、青年はソファに寝転がってテレビを眺め続けた。
ただ救いがあるとすれば、大学生にしては単発バイトしか働かず、有り余った時間でレポートを返り討ちにできたことだ。
青年の悩みは別にあった。
「はは、本気で言ってるのか?」
青年の名前はヒウタ。本名、估志世陽唄。
高校で学業と部活に打ち込み、恋愛に掠りもしなかった青年は、相変わらず女性と縁がないのだ。
「二十代の若者は結婚したくない、彼女要らない人が急増? 十年前と比較して?」
溜息ひとつ。
「俺みたいな人間は一度も取材されてないけどな。そもそも商店街で取材してるし。俺みたいな人間が通るわけないところで取材して、まるで一般論みたいに語るなよ」
画面が切り替わって、タレントやら芸人やら専門家が議論を始める。
なんて滑稽な、と思う。
しかし、女性と縁がなく商店街に用がない人間の意見は、若者の結婚離れには必要ないだろう。
そう思うと泣きそうだ。
「ったく、すごい綺麗な。すげえかわいい彼女ほしいなあ」
呟く。
まさか明るく華やかな印象がある大学生活、ここまで出会いがないとは。
微分と積分を繰り返す日々。
もはや二次元キャラを積分して彼女を生成するしかない、なんて友人の言葉が理解できてしまう。
「出会いがほしい、なんてどうしたら」
「ふふふ、いいこと教えてあげよっか?」
高い女性の声。
その長く光沢のある髪がヒウタの頭に被さる。
覗き込まれるように見下されるのは、家族でなければ許したくない。
とはいえ、ヒウタは他人の方が嬉しかった気もする。
「うわあ!」
「にい、妹のことをまるで化け物みたいに。私がすごい綺麗な女性紹介してあげる」
「いや、お前、中学生のお前が誰にどなたを紹介するんだ?」
ヒウタの妹、アメユキは棒の部分を持って、アイスを舐めて言う。
アイスが融けて、雫がアイスの表面を走る。
ヒウタは雫から目が離せないでいた。
「チッチッチ、私を崇めた方がいい。私は今塾に行ってます」
「で?」
雫がヒウタの頭の頂上へ。
ヒヤッと冷たさがヒウタを襲うが、取り敢えず諦めるのが兄である。
「彼氏いなくて綺麗なバイトの人がいて、……周りには内緒だよ。大学生ってばれないようにしてるらしいから」
「びっくりした。まさか同級生の中学生を紹介されるのかと思った」
「あ、その手があったか。ごめんね、にいに」
アメユキは素直でいい妹だ、とヒウタ。
「中学二年生を大学一年生に紹介するのは、法律とか倫理とか世間の目とかあるからな」
「倫理って? 世間ってお母さんとかママ友とか、近所の人のこと?」
「そうそう。倫理は心の正しさみたいなものだ」
「ふうん、難しい。でも、私の同級生みんな彼氏とかいい感じの人がいて紹介できないや」
中学二年で? と聞き返してしまいそうになるが、最近の中学生事情を知らない大学生が下手に突っ込んではならない、と留まる。
「私まだ恋とか分かんないけど。にいに、もうすぐ二十歳なのに。友達、彼氏二人とか三人とかいる人いるよ」
「妹よ、そっちの世界には行かないでくれ」
ヒウタは祈った。
「で、会いますか会いませんか」
「ええ、会ってどうするんだ? そもそも会ってくれるのか?」
「にいの写真見せたときには、嫌いではない顔だって」
「いつの間に見せたんだ。って、好きでもないってことだろ? いやいや、顔に自信がある人生ではないし、顔が好きなんて期待していないが」
冷たい雫がどんどん流れてくる。
おそらく相手の女性は消極的だろう、間違いない。
ヒウタ自身も積極的になれるかと思えばそうではない。
しかし、ノリノリの妹の誘いを断れる兄ではなく。
「分かった」
会うことに決めた。
「やった。初めての彼女頑張って、にいに」
アメユキはにこにこしてアイスを齧る。
崩れたアイスの大きな破片が頭の上から降ってきた。
「マジか。……」
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