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101話 ヴィヴィオビストロ騒動 ~エックスバーアール管理図から導かれる異常~ 7

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 翌日、俺とティーガタ、それにオルタネータベルトの三人で伯爵の居城を訪れた。
 他のメンバーがいないのはグレイスの護衛をしてもらうためだ。
 俺は恋人たちの指輪があるので、グレイスに何かがあればすぐに戻る事が出来る。
 ただし、俺一人しか転送できないので他のメンバーは別に転移の魔法を使う必要がある。
 数名程度なら一緒に俺の魔法で転送できるので、この人数となったわけである。
 オルタネータベルトがついてくることにスターレットがむくれたが、仕事は仕事と割り切ってもらう事が出来た。
 後でなんでもひとつだけいう事をきくという約束をさせられたが。
 そのやり取りを見ていたオルタネータベルトがにやにやと笑っていたが、誰のせいでこうなっていると思っているんだと心の中で抗議した。
 冷静に考えると泥棒の片棒を担いでいるんだよなあ。
 そんな俺の苦労を全く気にしないのか、オルタネータベルトは鼻歌まじりに湖上にかかる橋を渡っていく。

 城の前で警備をしている門番に、ティーガタが身分を説明して中に案内されることとなった。
 城門をくぐるとよく手入れされた庭が目に入ってくる。
 そこを通って城の中に入るのだが、手前で伯爵に取り次ぐというので待たされることになった。
 こういうのは先ぶれをだすのだろうが、ティーガタはここに到着する日時が未定でそれが出来なかったわけだ。
 突然の来訪となるわけだが、ラパン専属の捜査官ということで伯爵との急な謁見でも可能になるわけだ。

「中から見ると城壁はかなり高いですね。ラパンはどうやってここに侵入するつもりでしょうか?」

 黙って待っているのもつらいので、俺はティーガタに話しかけた。
 ティーガタは少し考えて

「結婚式の参加者に変装してここに侵入する可能性が高いな。水の中を泳いできたとしたら、髪などを乾かすのに時間がかかる。侵入後に変装するにしても、水が滴っていては不自然だからな。案外、既に侵入しているかもしれんな」

 と言って周囲を見回した。
 正解ですよとは言えずにオルタネーターベルトの方をみると、彼女は軽くウィンクしてみせた。
 この状況を楽しんでいるのがわかる。
 まったく、人の気も知らないで。

 その後、門番の人がもどってきて伯爵のところに案内される。
 伯爵は見た目40代くらいの中年男性だった。
 この人物がデュアリス様と結婚するというのに違和感があるが、それは貴族社会では常識なのかもしれないな。
 態度は尊大で感じが悪い。
 こちらを明らかに見下しているのがわかる。
 そして、その隣には小さい老人が控えていた。

「で、捜査官風情がなんの用だ?」

「ラパンからの予告状が出ているのはご存知かと思いますが、当日の警備をするにあたり城内の見学をさせてもらいたいと思いまして。それから、当日の警備にはこちらの衛兵をお借りしたい」

「衛兵を貸せとな。これはまた無理な事を」

 伯爵は大仰な態度を見せる。

「陛下のご免状もあります。権限としては問題ありませんが」

 ティーガタの説明にも伯爵は眉一つ動かさない。
 陛下のご免状と聞いてもその態度は変えないし、衛兵の貸し出しも認めない。

「ティーガタ殿は結婚式当日、国中から王族や貴族が来訪するのをご存じないとみえる。我が領の衛兵全てを動員してそうした貴人たちの警護に当たっても足りないかもしれないというのに、そこから更に衛兵を出せと。では、何かあった場合には陛下が責任をとって下さるというわけか?」

「いや、それはまだ確認してみないと……」

「それでは貸し出しは出来ませんな。陛下が責任をとってくださるのであればまた来てくれ。もっとも、その時はラパンに盗まれたものも保証してもらえるということになりますがな」

 これはティーガタの負けだな。
 ご免状といっても賠償責任を国家に請け負わせると決めることまでは出来ないだろう。
 精々が人員の借り受けとか、機密文章の開示くらいなもんだ。

「では、我々だけで警備を担当しますが、城内の見学は許可していただきたい」

「かまわんよ。しかし、この広い城を何人で警備するつもりかな?それに、盗人対策の罠が各所に仕掛けられているので、そちらが勝手に罠にかかるのは責任を持てんよ」

「それで構いません」

「では、フィガロに案内させよう」

 伯爵のとなりに控えていた老人はフィガロという名前か。
 伯爵の家来に相応しい名前だな。

※ヴィヴィオビストロのテールランプはフィガロのテールランプを流用しており、フィガロの結婚の主人公フィガロは伯爵の家来です。

 俺達は伯爵と別れてフィガロに場内を案内される。

「ここが結婚式につかうホールとなります。当日は祭壇を用意して聖女様による祝福の言葉をいただきます」

「ここに貴重なものはあるのか?」

 ティーガタの質問にフィガロは頷く。

「この城自体が非常に高価なものであり、使われている石材ひとつとっても特注品です。初代の公爵様が築城されてから今まで戦火にもさらされず残っている芸術品ですので、どれがと言われましたら全てとお答えするしかありませんな」

「それではラパンのいう一番の宝物がなんだかはわからんではないか」

「なんなら城ごと盗んでみせてもらいましょうか、ヒッヒッヒ」

 フィガロのいやらしい笑い方にオルタネーターベルトがむすっとした顔になる。
 やるつもりなのかな?
 その後も各所を案内されるが、伯爵のいうような罠は無かった。
 フィガロからの説明はないが、罠感知スキルを常に使用している俺にまったく反応がないので、罠はないで間違いないはずだ。
 そろそろ終わりかと思った時に、地下に向かう階段が目に入る。
 しかし、その階段の途中には扉があった。

「この扉を開けてもらえますかな?」

 ティーガタの申し出にフィガロの目じりがわずかに痙攣したのが見えた。
 見せたくないのだろうか。

「こちらですか。この扉は魔法で施錠してありまして、特別な鍵が無いと開けられません」

「だが、その特別な鍵は当然もっているのだろう?」

「鍵は伯爵様とデュアリス様がそれぞれお持ちになっております」

「先ほど伯爵は見学は許可してくれた。ならば、ここは開けてもらおうではないか」

「少々おまちを」

 フィガロはそういうとどこかへと行ってしまった。
 おそらくは伯爵の許可と鍵を取りにいっているのだろう。
 彼がいない間に扉を確認するが、そこには鍵穴が無い。
 代わりに二つのくぼみがあり、それぞれに魔法が付与されているのがわかった。
 魔法の種類はロック、施錠の魔法だ。
 アンチマジックで効果を消しても良いが、元にもどせと言われると面倒なので大人しく待って居よう。

 暫くするとフィガロは金の指輪を持って帰ってきた。

「金の指輪ですか」

 俺は彼の手元を覗き込む。
 キャシュカイが持っていた銀の指輪の色違い、いや材質違いか。

「それって公爵様に代々伝わる指輪ですよね」

 オルタネーターベルトも俺を押しのけるようにして指輪を見た。

「ええ」

 オルタネーターベルトの食いつきに、フィガロは若干引き気味となる。

「これをここにはめると扉が開きます」

 そう言ってフィガロが片方のくぼみに指輪をはめ込むと、扉がひとりでに開いた。
 なるほど、二つ一緒でなくても効果を発揮するのか。

「私は扉を閉めますのでどうか先にお進みください」

 そう言われて進もうとするが、スキルが罠を感知した。
 床を踏むと開いて落下する罠だ。
 ということは、この先に見せたくないものがある確率が高い。

 ふと横を見れば、オルタネータベルトがアイコンタクトをしてきた。
 彼女も罠に気づいたか。
 彼女からの指示は落ちろだった。
 落ちるとわかっているなら危険は少ないか。
 ティーガタは任せてと目で伝え、俺達は足を先にすすめた。

ガタン

 案の定床が開いて穴が出てくる。
 俺はティーガタを掴むと頭上に魔法で暗闇を作り出す。
 これでフィガロからはこちらが見えなくなるだろう。
 どうせ光もない穴の中だ。
 のぞいたところで暗闇しか見えなくても不自然さはない。
 そして、フィガロから見えなくなったところで、今度は飛翔魔法を使って二人を抱えてゆっくりと落ちていく。
 頭上からはバタンという床が閉まる音が聞こえた。
 これで一安心か。
 フィガロは俺達が穴に落ちて死んだと伯爵に報告することだろう。
 なので、こっちは自由に城内を見て回れる。

 暫く真っ暗な中を落下していくと床に辿り着いた。
 かなりの高さなので、なんの準備も無しに落ちたら床に激突して死んでしまうだろうな。
 真っ暗で周囲が見えないのでライトの魔法を使ってみると、辺り一面に白骨化した遺体がごろごろ転がっていた。

「過去の侵入者ね」

 オルタネータベルトは遺体の持ち物をあさっている。

「何か身分がわかるものはあった?」

「なんにも。ここまで綺麗に何も無いとなると、他の貴族や王族が送り込んだスパイかもしれないわね」

「なんのためにだ?」

 ティーガタも遺体の検分をしながらオルタネータベルトに訊ねる。

「あんな魔法で守られた扉がついているくらいですもの、きっとあの先にはとんでもない何かがあるに決まっているでしょう。それを見てみようとは思わない?」

「ラパンの狙いもそれかもしれないしね」

 と俺はティーガタから見えない角度でオルタネータベルトにウインクしてみせた。
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