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50話 8Dレポートによる対策 3
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未だ意識の戻らないラティオを監視している。
気絶した振りの可能性もあるからだ。
ラティオを見ながら、「暴力による問題解決って楽だな。前世でも不良の対策で同じことが出来たらな」などと不謹慎なことを考えてしまった。
異常作業を注意されても、全く改めようとしない作業者を根気強く説得したりしていたが、大外刈り一発で即解決出来ていただろうか。
と頭に浮かんだが、否定するように首を振った。
それが認められている国であれば可能かもしれないが、日本においては絶対に無理だな。
それに、そんな対策書は客先も受け取ってくれないだろう。
暴力による解決はないな。
「黒幕を吐きなさい。誰に雇われたの!!」
――バキッ
俺の考えとは別に、シルビアが捕まえた盗賊達を尋問している。
時々勢いよく殴ったり蹴ったりする音と、その後男たちのうめき声が聞こえてきた。
こちらは日本ではないので、暴力を止める気にはならない。
それに、今まで散々他人の命を奪ってきた連中に同情するきにはなれなかった。
家族の命を人質にとられていたとかなら同情していたかもしれないが、そんな言い訳をしている奴は一人もいない。
そして、全員がラティオに雇われたとしか言わないので、真の黒幕がわからずシルビアがイラついている。
そのため、拷問のような尋問が終わらないのだ。
このままでは埒が明かないので、俺はラティオの意識を治癒魔法で回復させた。
「さて、どうしてこんなことをしていたのか話してもらおうか。それと黒幕もね。いまさらあんたが自分の為に盗賊団なんか組織するとも思えないし、塩の輸送隊ばかり狙っているのも目的があるからだろ?」
俺はラティオに質問した。
が、奴はニヤリと笑うと沈黙を貫く。
まあ、ある程度は予想通りだな。
そこで俺は尋問の作業標準書を使って、ラティオから情報を聞き出すことにした。
なぜ今までそれを使わなかったのかといえば、ラティオを止められるのは俺しかいないので、気絶している彼をずっと監視している必要があったからだ。
なので、他の連中の尋問をシルビアに任せていたのだ。
そのせいで怪我人ばかりになってしまったがな。
「さて黒幕と目的を白状してもらおうか」
再び俺が問いかける。
今度はスキルのお陰でラティオが口を開いてくれた。
「依頼主はカイロン伯爵。目的は塩の流通の支配による蓄財だ」
白金等級の実力者を雇っているので、それなりの地位の存在だとは思っていたが、まさかの伯爵様でしたか。
「嘘じゃないの?伯爵の名前を出しておけばあたしたちが諦めると思ってる可能性もあるわよ」
シルビアがラティオを睨み付ける。
だが、俺はシルビアの言葉を否定した。
「それはないよ。今回はスキルを使って白状させているから。少なくとも、ラティオ自信はカイロン伯爵が雇い主だと思っているのは間違いないんだ」
そう、作業標準書どおりの尋問をしたので、少なくともラティオが知っている情報を誤魔化していることは無い。
これでなぜなぜ分析のなぜが次の段階に来たことになる。
なぜなぜ分析とは大手車両メーカーの開発した問題解決手法で、不具合にたして5回のなぜを繰り返すことで真因を探るというものだ。
今回であれば塩の輸送が襲われるという不具合に対して、盗賊団に襲われたからというなぜがあり、そのなぜは塩の流通支配をしたかったからというなぜに繋がっている。
そして流通支配は蓄財をしたかったからとなるわけだ。
ただ、蓄財をするにしてもこれはちょっと手段が荒っぽい気がする。
なので、今度はなぜ蓄財をしたかったのかを確認する必要があるな。
「アルト、まさか伯爵様に塩の襲撃の目的を確認するの?」
俺の顔を心配そうにスターレットがのぞき込んでくる。
「そうだね。今回は多くの人の命が失われすぎている。この問題を放置する訳にはいかないんだ。それに、麻薬の件もラティオがいたとなると、背景にはカイロン伯爵がいるはずなんだ。だとしたら猶更放置は出来ないよ」
「あんた、時々よくわからない正義感が出るわよね」
「この性格のせいで、前世では苦労していたかもしれませんね」
呆れるシルビアにそう切り返した。
「アルトは前世を信じているの?エルフは死んだら精霊に生まれ変わるっていう言い伝えがあるけど」
アスカからエルフの考える死後の世界について教えてもらう。
まあ、精霊にはならなくてまた品管になってしまったので、人の輪廻転生は同じ職業になるんじゃないかという説を唱えたい。
残念ながら前世の記憶があるのは俺だけなので、信じてもらう事は出来ないだろうが。
いや、その考えはおかしいな。
俺が死んだ時点では品質管理の職業なんて100年も歴史が無かった。
前世の前世はじゃあなんだって事になるよな。
「またろくでもない事を考えている顔ね」
シルビアが再び呆れ顔となっていた。
どうも考えが脱線するな。
「ここからだと一旦戻った方がいいかな。盗賊たちをつれたままステラまで行くのは大変だから」
俺の提案に全員が賛成する。
一度戻ってラティオ以外の盗賊を引き渡す。
ラティオは国家レベルの規模でないと収容先から逃げ出すと思うので、このままステラまで連れていく事にした。
勿論、カイロン伯爵の館にも同行させるつもりだ。
今のところこいつの証言しか証拠が無いからな。
不良の出た原因が設備に残っておらず、作業者の証言だけなんてこともあったし何とかなるだろう。
いや、あの時はなんとかならなかったか。
検証しても原因がわからず、作業者が異音がしたっていう記憶を話してくれただけだったな。
残念ながら不良が出てから当時の事を思い出してもらっているので、そんな気がしたかもしれない程度だったのだ。
異音がしたならば、こすれたりぶつかった痕跡が残っていそうなものだが、最後までそれが発見されることはなかった。
検証が甘いと言われたが、再発防止対策書の提出期限もあって、結局その証言を元に対策を立てたのだ。
対策というのが抜き取り検査を全数検査に切り替えるというものだったので、恒久対策とすべきかどうか悩ましかったな。
自分が死んでからかなりの時間が経過したので、今ではその製品も生産終了となっているだろうか。
今回は工業製品と違って人間の寿命なので長い。
対策はきっちりしておかないと、再び同じ事が繰り返される。
それも長期間にわたってだ。
なんとしても改善しないとな。
おっと、ここは阻止しないとと言うべきだったな。
悪事を改善してどうする。
そういうわけで、一度街に戻って盗賊を衛兵につき出してから、再びステラを目指すことにした。
今回は塩の輸送のふりをする必要がないので、俺とスターレットとシルビア、それにアスカとラティオの五人での旅となった。
ラティオに関しては武器は取り上げ、拘束したまま睡眠の魔法で眠らせてある。
荷馬車を借りてその荷台に転がしてあるのだ。
保険に入っていない高額測定機を運搬していた時を思い出すな。
あの緊張感は二度と味わいたくないと思っていたが、今世でも味わってしまった。
多少の振動では眠りはさめないはずだが、それでも白金等級の実力者なので絶対とは言い切れない。
それに、ラティオの仲間が救出に来るかもしれないし、あるいは口封じに来るかもしれない。
電話や無線のない世界なので、ラティオが捕まったという情報が伝わる前に、なんとかステラに辿り着きたいところだ。
その考えは俺だけではない。
メンバーは皆言葉を発さずに黙々と進んでいく。
幸いな事に追加の襲撃やトラブルはなく、無事にステラに到着した。
「アルト、これからどうするの?」
街中に入るとスターレットが訊いてきた。
「入り口でラティオを捕まえてきたのを見られているので、この情報はカイロン伯爵に伝わっただろうね。ならばこのまま相手の懐に飛び込んでみようか」
「その方がいいわね。相手に策を弄する時間を与えないほうがいいわ」
シルビアも賛成してくれた。
「時を移さずに行うのが勇将の本望である。早く出立せよ」と昔の人は言ったそうだが、その言葉は伊達じゃないな。
伊達なんだけど。
それに、なぜなぜ分析はあと一歩で完成するところまで来ているのだ。
このまま真因に辿り着きたいと考えるのは当然だ。
考えるよりも行動だな。
「行こうか」
と促したところで、前から老紳士といった感じの人物が近づいてきた。
「旦那様がお呼びですと言えばわかりますかな?」
そう言われたので、俺は頷いた。
この時期に呼び出してくる奴なんて想像がついている。
気絶した振りの可能性もあるからだ。
ラティオを見ながら、「暴力による問題解決って楽だな。前世でも不良の対策で同じことが出来たらな」などと不謹慎なことを考えてしまった。
異常作業を注意されても、全く改めようとしない作業者を根気強く説得したりしていたが、大外刈り一発で即解決出来ていただろうか。
と頭に浮かんだが、否定するように首を振った。
それが認められている国であれば可能かもしれないが、日本においては絶対に無理だな。
それに、そんな対策書は客先も受け取ってくれないだろう。
暴力による解決はないな。
「黒幕を吐きなさい。誰に雇われたの!!」
――バキッ
俺の考えとは別に、シルビアが捕まえた盗賊達を尋問している。
時々勢いよく殴ったり蹴ったりする音と、その後男たちのうめき声が聞こえてきた。
こちらは日本ではないので、暴力を止める気にはならない。
それに、今まで散々他人の命を奪ってきた連中に同情するきにはなれなかった。
家族の命を人質にとられていたとかなら同情していたかもしれないが、そんな言い訳をしている奴は一人もいない。
そして、全員がラティオに雇われたとしか言わないので、真の黒幕がわからずシルビアがイラついている。
そのため、拷問のような尋問が終わらないのだ。
このままでは埒が明かないので、俺はラティオの意識を治癒魔法で回復させた。
「さて、どうしてこんなことをしていたのか話してもらおうか。それと黒幕もね。いまさらあんたが自分の為に盗賊団なんか組織するとも思えないし、塩の輸送隊ばかり狙っているのも目的があるからだろ?」
俺はラティオに質問した。
が、奴はニヤリと笑うと沈黙を貫く。
まあ、ある程度は予想通りだな。
そこで俺は尋問の作業標準書を使って、ラティオから情報を聞き出すことにした。
なぜ今までそれを使わなかったのかといえば、ラティオを止められるのは俺しかいないので、気絶している彼をずっと監視している必要があったからだ。
なので、他の連中の尋問をシルビアに任せていたのだ。
そのせいで怪我人ばかりになってしまったがな。
「さて黒幕と目的を白状してもらおうか」
再び俺が問いかける。
今度はスキルのお陰でラティオが口を開いてくれた。
「依頼主はカイロン伯爵。目的は塩の流通の支配による蓄財だ」
白金等級の実力者を雇っているので、それなりの地位の存在だとは思っていたが、まさかの伯爵様でしたか。
「嘘じゃないの?伯爵の名前を出しておけばあたしたちが諦めると思ってる可能性もあるわよ」
シルビアがラティオを睨み付ける。
だが、俺はシルビアの言葉を否定した。
「それはないよ。今回はスキルを使って白状させているから。少なくとも、ラティオ自信はカイロン伯爵が雇い主だと思っているのは間違いないんだ」
そう、作業標準書どおりの尋問をしたので、少なくともラティオが知っている情報を誤魔化していることは無い。
これでなぜなぜ分析のなぜが次の段階に来たことになる。
なぜなぜ分析とは大手車両メーカーの開発した問題解決手法で、不具合にたして5回のなぜを繰り返すことで真因を探るというものだ。
今回であれば塩の輸送が襲われるという不具合に対して、盗賊団に襲われたからというなぜがあり、そのなぜは塩の流通支配をしたかったからというなぜに繋がっている。
そして流通支配は蓄財をしたかったからとなるわけだ。
ただ、蓄財をするにしてもこれはちょっと手段が荒っぽい気がする。
なので、今度はなぜ蓄財をしたかったのかを確認する必要があるな。
「アルト、まさか伯爵様に塩の襲撃の目的を確認するの?」
俺の顔を心配そうにスターレットがのぞき込んでくる。
「そうだね。今回は多くの人の命が失われすぎている。この問題を放置する訳にはいかないんだ。それに、麻薬の件もラティオがいたとなると、背景にはカイロン伯爵がいるはずなんだ。だとしたら猶更放置は出来ないよ」
「あんた、時々よくわからない正義感が出るわよね」
「この性格のせいで、前世では苦労していたかもしれませんね」
呆れるシルビアにそう切り返した。
「アルトは前世を信じているの?エルフは死んだら精霊に生まれ変わるっていう言い伝えがあるけど」
アスカからエルフの考える死後の世界について教えてもらう。
まあ、精霊にはならなくてまた品管になってしまったので、人の輪廻転生は同じ職業になるんじゃないかという説を唱えたい。
残念ながら前世の記憶があるのは俺だけなので、信じてもらう事は出来ないだろうが。
いや、その考えはおかしいな。
俺が死んだ時点では品質管理の職業なんて100年も歴史が無かった。
前世の前世はじゃあなんだって事になるよな。
「またろくでもない事を考えている顔ね」
シルビアが再び呆れ顔となっていた。
どうも考えが脱線するな。
「ここからだと一旦戻った方がいいかな。盗賊たちをつれたままステラまで行くのは大変だから」
俺の提案に全員が賛成する。
一度戻ってラティオ以外の盗賊を引き渡す。
ラティオは国家レベルの規模でないと収容先から逃げ出すと思うので、このままステラまで連れていく事にした。
勿論、カイロン伯爵の館にも同行させるつもりだ。
今のところこいつの証言しか証拠が無いからな。
不良の出た原因が設備に残っておらず、作業者の証言だけなんてこともあったし何とかなるだろう。
いや、あの時はなんとかならなかったか。
検証しても原因がわからず、作業者が異音がしたっていう記憶を話してくれただけだったな。
残念ながら不良が出てから当時の事を思い出してもらっているので、そんな気がしたかもしれない程度だったのだ。
異音がしたならば、こすれたりぶつかった痕跡が残っていそうなものだが、最後までそれが発見されることはなかった。
検証が甘いと言われたが、再発防止対策書の提出期限もあって、結局その証言を元に対策を立てたのだ。
対策というのが抜き取り検査を全数検査に切り替えるというものだったので、恒久対策とすべきかどうか悩ましかったな。
自分が死んでからかなりの時間が経過したので、今ではその製品も生産終了となっているだろうか。
今回は工業製品と違って人間の寿命なので長い。
対策はきっちりしておかないと、再び同じ事が繰り返される。
それも長期間にわたってだ。
なんとしても改善しないとな。
おっと、ここは阻止しないとと言うべきだったな。
悪事を改善してどうする。
そういうわけで、一度街に戻って盗賊を衛兵につき出してから、再びステラを目指すことにした。
今回は塩の輸送のふりをする必要がないので、俺とスターレットとシルビア、それにアスカとラティオの五人での旅となった。
ラティオに関しては武器は取り上げ、拘束したまま睡眠の魔法で眠らせてある。
荷馬車を借りてその荷台に転がしてあるのだ。
保険に入っていない高額測定機を運搬していた時を思い出すな。
あの緊張感は二度と味わいたくないと思っていたが、今世でも味わってしまった。
多少の振動では眠りはさめないはずだが、それでも白金等級の実力者なので絶対とは言い切れない。
それに、ラティオの仲間が救出に来るかもしれないし、あるいは口封じに来るかもしれない。
電話や無線のない世界なので、ラティオが捕まったという情報が伝わる前に、なんとかステラに辿り着きたいところだ。
その考えは俺だけではない。
メンバーは皆言葉を発さずに黙々と進んでいく。
幸いな事に追加の襲撃やトラブルはなく、無事にステラに到着した。
「アルト、これからどうするの?」
街中に入るとスターレットが訊いてきた。
「入り口でラティオを捕まえてきたのを見られているので、この情報はカイロン伯爵に伝わっただろうね。ならばこのまま相手の懐に飛び込んでみようか」
「その方がいいわね。相手に策を弄する時間を与えないほうがいいわ」
シルビアも賛成してくれた。
「時を移さずに行うのが勇将の本望である。早く出立せよ」と昔の人は言ったそうだが、その言葉は伊達じゃないな。
伊達なんだけど。
それに、なぜなぜ分析はあと一歩で完成するところまで来ているのだ。
このまま真因に辿り着きたいと考えるのは当然だ。
考えるよりも行動だな。
「行こうか」
と促したところで、前から老紳士といった感じの人物が近づいてきた。
「旦那様がお呼びですと言えばわかりますかな?」
そう言われたので、俺は頷いた。
この時期に呼び出してくる奴なんて想像がついている。
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