上 下
439 / 439

第438話 エックスバーアール管理図を使おう 3

しおりを挟む
 俺はオッティとグレイスをステラの屋敷に招いて報告をしている。
 そこにはオーリスも同席していた。
 さらに、シルビアにも来てもらっている。

「国が掴んだ情報によると、贋金の出どころはどうもヴィヴィオストロ公爵領らしい」

 俺が説明をはじめると、グレイスが口を挟む。

「それって国からの情報よね」

「そうだけど、何か?」

「国が黒幕に目を付けているのなら、私たちの出番なんてないじゃない」

 と顔のまえで手をヒラヒラとさせる。
 確かに贋金作りという重罪の犯人の目星がついたなら、俺たちの出番がないと思うのも当然だ。
 しかし、今回はそうではない。
 それを伝えるために説明を続ける。

「実はヴィヴィオビストロ公爵領に送り込んだ密偵が悉く連絡を絶ってるそうなんだ。だから、こちらにお鉢が回ってきたっていうわけ。義父が凄腕の婿がいるってアピールしたらしいんだ」

 そう言うと、小箱を収納してある異空間から取り出して、テーブルの上に置いた。

「それは?」

 オッティが興味深げに小箱を眺める。

「伝言の小箱っていうマジックアイテムだよ。伝言を録音すると、指定した相手にしか再生ができないっていう便利アイテムだ。再生してみようか」

 俺は小箱に魔力を流す。
 すると、伝言が再生された。

「おはよう、アルト君。今回のターゲットはヴィヴィオビストロ公爵領だ。その公爵領は人口3500人。王国最小の公爵領である。我々はそこで行われているという贋金作りの証拠を掴むことができずにいる。そこで、君の使命だが、公爵領に行って贋金作りの証拠をつかんできてほしい。例によって、君もしくは君のメンバーが捕らえられ、あるいは殺されても当局は一切関知しないから、そのつもりで。なお、この小箱は自動的に消滅する。成功を祈る」

  そこで小箱に火が着いて激しく燃え上がる。

「あっちぃ」

 魔力を流すときに手をかざして、そのままにしていたので火傷してしまった。

「カリ城かと思ったらスパイファミリー!?」

 と驚くグレイス。

「いや、大作戦だろ」

 というオッティの冷静なツッコミをききながら、俺は火傷した箇所を魔法で治癒する。
 治癒も終わり、本題に戻る。

「そんなわけで、これからヴィヴィオビストロ公爵領に行って証拠を掴んでこようと思うんだけど、名前で呼び会うとまずいから、コードネームを決めて、これからはそれで呼び会おう」

「わかったわ。それであたしも呼ばれたのね」

 と、理解の早いシルビアさん。
 荒事専門ですからね。

「そうだよ。よろしくね。それで、俺のコードネームはオイルパンにするから、今後はそう呼んでほしい」

「わかったわ。オイ、ルパン」

「わかったぞ。オイ。ルパン」

「グレイスもオッティもオイの後ろに句読点はいらないから。というか、それがあると別物だろう」

 本当はオルタネーターにしたかったけど、直近で(2023年1月)にとあるメーカーのリコールがかかったので、縁起が悪いから止めました。
 そして、次にオッティのコードネームを発表する。

「オッティのコードネームは3679」

「3679?」

 全員から疑問の声が上がる。
 それも当然か。

「詳しくは東証にきいてくれ」

 とこたえたが、ここに東証はない。
 なので、みんなわからないだろうけど、その四桁の証券コードを割り当てられた会社名を見れば納得してくれるだろうか。

「同じ理由でオーリスは5009」

「イントネーションは『ご~ぜろぜろきゅう』ですわね」

「モノマネ選手権ならね」

 読者の皆様におかれましては、脳内で変換して下さい。

「あたしは?」

 とシルビアが訊いてきたので、シルビアのコードネームを教える。

「拷問」

「なんであたしだけそんなコードネームなのよ」

「相手を拷問して情報を吐かせるのが得意っていう設定なので…………」

「納得いかないわ」

「またつまらぬものを切ってしまったって言いながら、相手の指を落としてもいいから」

「特典の気がしないんだけど」

 と不満を口にするも、他にいい案もないのでそれに決定した。
 ここで残るはグレイス。

「それで、私がここに呼ばれた理由がわからないんだけど。私は別にヴィヴィオビストロ公爵領に行くわけじゃないでしょう。聖女でもないんだし」

 なんで聖女という単語が出てくるのかはわからないが、グレイスがこの件でやれることは無いと考えるのは当然か。
 貴族の力を借りたければ義父の力を借りればいいわけだし。

「グレイスにはサクラの面倒をお願いしたいんだ。もし万が一俺とオーリスに何かが有ったら、サクラが成人するまでの養育をお願いしたい。まだジョブがわかっていないけど、義父の唯一の相続人になるわけだからね」

 グレイスを呼んだ理由を説明した。
 唯一の相続人と言ったが、実際には貴族の後継ぎがいない場合は兄弟や親戚が相続する事になる。
 それもいない場合は国の直轄となるのだけど、サクラがいることでそれが出来ない連中に後見人だのという名目で乗り込んでこられたくはない。
 領地なんてわたしてもいいのだけど、傀儡とされるのは親としては避けたい。
 グレイスなら安心かというとなんとも言えないが、今までの付き合いから、訳のわからない親戚よりはいいだろうという判断だ。

「ああ、そういう事ならわかったわ。子育ての経験はないけど」

 無事引き受けてもらえた。
 これで後顧の憂いはない。

「それで、どうやって贋金作りの証拠を掴むつもり?」

 シルビアに訊かれたので、今後の計画を話す。

「ヴィヴィオビストロ伯爵、これは火事で亡くなったヴィヴィオビストロ公爵の親戚なんだけど、その伯爵が公爵の一人娘と結婚をすることになったんだ。それでその結婚式にグレイスも招待されている。だから、俺達はグレイスの従者として公爵領に入り、そこで証拠を掴もうと思うんだ。当然結婚式には国王陛下もご臨席される。そこで証拠を突き付けられたら最高なんだけどな」

 そんな計画にオッティから反論が来た。

「例え俺達が証拠を見つけたとしても、白を切られたらどうするんだ。貴族と平民じゃどっちを信用するのか、火を見るよりも明らかだろう」

 それには俺も頷くしかない。

「それはわかっている」

「わかっているなら何か対策があるんだろうな」

「ああ。ラパンの弟子として犯行予告を出して、捜査官をヴィヴィオビストロ公爵領におびき出すつもりだ。俺達が見つけた証拠を捜査官にも見せれば、相手はもう言い逃れは出来ないはずだ」

 そうこたえると、今度はグレイスから反論が来た。

「捜査官が相手に阿るかのうせいだってあるじゃない」

 それにはオーリスがこたえた。

「ラパン専属の捜査官はティーガタとおっしゃいますが、彼は真面目が服を着て歩いているような人物ですわ。たとえ貴族の犯罪だとしても、相手に阿るようなことはいたしませんわ」

 ティーガタとは中年の男性捜査官であり、今はラパンの事件を専属で追っている。
 オーリスからしてみてればよく知った相手であり、その性格まで把握しているのである。
 だからこそ、こんかいの方法を思いついたというのもある。
 ただ、相手がラパンの弟子という自称の犯行予告にどこまで食いついてくれるのかは疑問だけど。
 ラパンとして犯行予告を出せばよいのだが、今回の件はオーリスはあくまでもコードネーム5009として、補助的な仕事をお願いするつもりなので、ラパンとしての犯行予告は見送った。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(9件)

ぷーすけ
2020.02.11 ぷーすけ

無事な出産を祈ります。

犬野純
2020.02.12 犬野純

ありがとうございます。無事に生まれました。

解除
ぷーすけ
2020.02.08 ぷーすけ

おおぅ!
品質管理って魔王(不具合)と戦う勇者だったのね!
でも、伝説の武具とかなくて大変そう……

犬野純
2020.02.09 犬野純

呪われた武器、不具合再発防止対策書があります……

解除
あみぃ
2020.01.29 あみぃ

まだまだ継続読み込み中。

作者の願望?愚痴に思わず突っ込み。

いくら未来になろうと、
不良0、流出0はなーい〜^ - ^

瞬間、1〜2週間あっても、
残念ながら、振り返すのがお約束…。

言っては行けないんでしょうが、
0とか、撲滅とか、何処かで、
損切り、見切りしてくれないかなぁ…。

犬野純
2020.01.29 犬野純

AIが管理するようになればとは思いますが、何年先になることやら。
実際大手も0といいながら、現実的な目標はppmですしね。
それなら理論上はゼロじゃなくてもいいわけで。

解除

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。

みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。 主人公は断罪から逃れることは出来るのか?

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

冒険者ギルド品質管理部 ~異世界の品質管理は遅れている~

犬野純
ファンタジー
レアジョブにも程がある。10歳になって判明した俺の役職はなんと「品質管理」。産業革命すら起こっていない世界で、品質管理として日々冒険者ギルドで、新人の相談にのる人生。現代の品質管理手法で、ゆるーく冒険者のお手伝い。 前回の拙著が愚痴とメタ発言が多すぎたのでリメイクしました。

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

私を裏切った相手とは関わるつもりはありません

みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。 未来を変えるために行動をする 1度裏切った相手とは関わらないように過ごす

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。