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第398話 一期一会の精神で図面を描こう
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オーリスと一緒に最近街で人気の食堂に夕食を食べに来ている。
「ここは店主が世界各地を巡って、その土地土地で出会った美味しい料理を出すのが売りなんだって」
「ステラでは中々お目にかかる事の出来ない素材の料理が楽しみですわ」
テーブルに着いてメニューを確認する。
おまかせコース料理というのがあったので、二人してそれを頼むことにした。
先ずは食前酒だな。
「大陸南端の部族の集落で作られていた、南方山ブドウを使った果実酒です」
食前酒を運んできたウエイトレスが説明してくれる。
口に含むとここいらの山ブドウよりも優しい香りが口の中に広がった。
「始めて飲みましたが、普通の山ブドウでは出せない繊細な味ですわね」
オーリスは上機嫌になった。
この分なら、かなり期待が出来そうだ。
食前酒を飲んだ後は前世の牡蠣に似た料理が出てきた。
「迷宮岩牡蠣の生食です。レモンをかけてお召し上がりください」
ウエイトレスはそう説明してくれた。
迷宮岩牡蠣は迷宮で採れる牡蠣だそうだ。
全く知らなかった。
迷宮には鮟鱇もいたりして、海産物?が豊富なのだろうか。
そのうち迷宮わかめとか迷宮穴子なんていうのも出てきそうだな。
「うっ……」
牡蠣の生食にオーリスの表情が険しくなった。
俺は前世で何度も牡蠣を食べたことがあるので、生牡蠣も気にせずに食べる。
「塩味にレモンの酸味がマッチして美味しいよ」
そう言うと、オーリスは恐る恐るといった感じで牡蠣を口にした。
「不思議な味……」
「最初はみんなそう感じるよ」
と笑顔で答えた。
その時別のテーブルから大きな声が聞こえる。
聞き覚えがあるな。
「自由で柔軟な発想による、最適な味の発見が目的とかいいながら、なんで迷宮岩牡蠣にレモンなんだ?」
「あ……う……」
大きな声を出していたのはユーコンだった。
そして、テーブルを挟んで向かいに立っているのは料理人だな。
「あれ、ティーノのお父様ではないかしら」
オーリスもそちらを見る。
「そうだね。なんで怒っているのかな?」
「行ってみましょう」
オーリスに言われてユーコンのところに行く。
トラブルに首を突っ込むとかしたくないけど、妻が言う事は絶対だ。
そう、絶対だ。
「どうかいたしましたか?」
オーリスは二人の間に割って入る。
「これはこれはオーリス様」
ユーコンがオーリスに頭を下げた。
オーリスはユーコンの店の常連だから、相手も知っていて当然か。
「なにかこの料理人が粗相でも?」
「ええ。自由で柔軟な発想による、最適な味の発見を目的にしているといいながら、他者と同じようにこの迷宮岩牡蠣を生で、それにレモンをかけた料理を出してきましたので。それでは本人の言っている事とやっていることが違いますからな」
ユーコンは料理人を睨みつけた。
「わたくし、本日初めて迷宮岩牡蠣を食しましたが、とても美味しかったですよ」
「確かにうまいかもしれませんが、レモンではなく他の柑橘類を試したのか、そもそも生食が一番うまいのか。そういうところを研究してこそ最適な味がわかるというものでしょう」
「言われてみればそうですわね」
オーリスはユーコンの言う事に納得した。
それは俺も同意だ。
最適な調理方法とは、工業製品で言えば開発行為だろう。
金属の材料ひとつとっても、アルミがいいのか鉄がいいのかステンレスがいいのかとなる。
更に、それぞれの金属がJIS規格で細かく分かれている。
ステンレスを使うのにしてもSUS302がいいのか、SUS303がいいのか、SUS304がいいのかを本当に吟味したのか?
それをつなげるのに、溶接がいいのか、ロウ付けがいいのか、接着がいいのか。
溶接だってアーク溶接もあればスポット溶接だってある。
開発段階で価格と品質、それに入手性などを考慮して最適はなんなのかを吟味して欲しい。
一度登録した図面は簡単には改訂出来ない。
ならば、一期一会の心で開発に望むべきだろう。
開発起因の不良の対策なんてどうしろと。
助けて。
助けて?
ちょっと記憶が混線したようだな。
いかん、いかん。
「アルト、このままだとユーコンがこの店の事をかわら版とかで叩きそうですし、なんとかならないのですか?」
オーリスに言われて、俺は料理人の手助けをすることにした。
ユーコンは言いたいことを言い終えたので、満足したのか今日のところは店を後にした。
行きがかりで手助けすることになったこの店のオーナー兼料理人、名前はコンチェルト。
世界各地を旅して料理を味わってきたというだけあって、中年に差し掛かっている年齢に見える。
「折角だし、このあと出す予定だった料理を食べながら考えようか」
ユーコンがいなくなった後も、三人で立ったままだったのでそう促した。
「どうせアルトの事だし、迷宮岩牡蠣に熱く熱した油をかける料理を提案するのですわよね?」
「そうだね、アツアツのプレス油をかけて――」
「プレス油!?」
「嘘嘘、落花生油だよ」
オーリスがプレス油って驚いたけど、よくそんなものを知っていたな。
因みにプレス油も落花生油もネットスーパー的なスキルで入手が可能だ。
「でもなあ、それだとユーコンが既に知っていそうな気がして。なんか鼻をあかしてやりたいなあ」
「そうですわね。油をひと工夫してみるとか」
「どんだふにー」
「どんだふにー?」
「ごめん、言い間違い。どんな風にって言いたかったの」
「ああ、てっきり油の話だからダフニーの一種かと思いましたわ」
オーリスよく知っているね。
あれ、ひょっとして出〇興産が異世界に進出してきている?
俺達が会話をしていると、調理を終えたコンチェルトがテーブルにやってきた。
そして思い悩んだ表情で口を開く。
「お二人のてを煩わせるわけにもいきませんので、これからユーコンを刺してきます」
「いや、それ順番が逆だから!」
必死にコンチェルトをとめて、なんとか新しい味を探すことで納得をさせた。
後に牡蠣料理はコンチェルトの店の看板料理になるのだが、そんな描写は異世界料理小説にお任せ致します。
※作者の独り言
開発起因の不良とか、根本対策を設計が拒否したらどうにもならないよね。
今回の話を書くにあたって設計開発手順を見てみましたが、最適なものを選ぶやり方って具体的な方法が明記されていなくって、誰がやっても同じ結果にはならないよねって思いました。
だからこそ設計の給料は高くて、安い労働力を使う訳にもいかないのでしょうけど。
都市伝説でどこの業界とは言いませんが、試作図面と量産図面で材質が変わっており、量産の材質での評価試験をやっていなかった事があったとか。
そんなもん、工場の品管にはどうにもならんぜよ。
随時対策募集しております。
「ここは店主が世界各地を巡って、その土地土地で出会った美味しい料理を出すのが売りなんだって」
「ステラでは中々お目にかかる事の出来ない素材の料理が楽しみですわ」
テーブルに着いてメニューを確認する。
おまかせコース料理というのがあったので、二人してそれを頼むことにした。
先ずは食前酒だな。
「大陸南端の部族の集落で作られていた、南方山ブドウを使った果実酒です」
食前酒を運んできたウエイトレスが説明してくれる。
口に含むとここいらの山ブドウよりも優しい香りが口の中に広がった。
「始めて飲みましたが、普通の山ブドウでは出せない繊細な味ですわね」
オーリスは上機嫌になった。
この分なら、かなり期待が出来そうだ。
食前酒を飲んだ後は前世の牡蠣に似た料理が出てきた。
「迷宮岩牡蠣の生食です。レモンをかけてお召し上がりください」
ウエイトレスはそう説明してくれた。
迷宮岩牡蠣は迷宮で採れる牡蠣だそうだ。
全く知らなかった。
迷宮には鮟鱇もいたりして、海産物?が豊富なのだろうか。
そのうち迷宮わかめとか迷宮穴子なんていうのも出てきそうだな。
「うっ……」
牡蠣の生食にオーリスの表情が険しくなった。
俺は前世で何度も牡蠣を食べたことがあるので、生牡蠣も気にせずに食べる。
「塩味にレモンの酸味がマッチして美味しいよ」
そう言うと、オーリスは恐る恐るといった感じで牡蠣を口にした。
「不思議な味……」
「最初はみんなそう感じるよ」
と笑顔で答えた。
その時別のテーブルから大きな声が聞こえる。
聞き覚えがあるな。
「自由で柔軟な発想による、最適な味の発見が目的とかいいながら、なんで迷宮岩牡蠣にレモンなんだ?」
「あ……う……」
大きな声を出していたのはユーコンだった。
そして、テーブルを挟んで向かいに立っているのは料理人だな。
「あれ、ティーノのお父様ではないかしら」
オーリスもそちらを見る。
「そうだね。なんで怒っているのかな?」
「行ってみましょう」
オーリスに言われてユーコンのところに行く。
トラブルに首を突っ込むとかしたくないけど、妻が言う事は絶対だ。
そう、絶対だ。
「どうかいたしましたか?」
オーリスは二人の間に割って入る。
「これはこれはオーリス様」
ユーコンがオーリスに頭を下げた。
オーリスはユーコンの店の常連だから、相手も知っていて当然か。
「なにかこの料理人が粗相でも?」
「ええ。自由で柔軟な発想による、最適な味の発見を目的にしているといいながら、他者と同じようにこの迷宮岩牡蠣を生で、それにレモンをかけた料理を出してきましたので。それでは本人の言っている事とやっていることが違いますからな」
ユーコンは料理人を睨みつけた。
「わたくし、本日初めて迷宮岩牡蠣を食しましたが、とても美味しかったですよ」
「確かにうまいかもしれませんが、レモンではなく他の柑橘類を試したのか、そもそも生食が一番うまいのか。そういうところを研究してこそ最適な味がわかるというものでしょう」
「言われてみればそうですわね」
オーリスはユーコンの言う事に納得した。
それは俺も同意だ。
最適な調理方法とは、工業製品で言えば開発行為だろう。
金属の材料ひとつとっても、アルミがいいのか鉄がいいのかステンレスがいいのかとなる。
更に、それぞれの金属がJIS規格で細かく分かれている。
ステンレスを使うのにしてもSUS302がいいのか、SUS303がいいのか、SUS304がいいのかを本当に吟味したのか?
それをつなげるのに、溶接がいいのか、ロウ付けがいいのか、接着がいいのか。
溶接だってアーク溶接もあればスポット溶接だってある。
開発段階で価格と品質、それに入手性などを考慮して最適はなんなのかを吟味して欲しい。
一度登録した図面は簡単には改訂出来ない。
ならば、一期一会の心で開発に望むべきだろう。
開発起因の不良の対策なんてどうしろと。
助けて。
助けて?
ちょっと記憶が混線したようだな。
いかん、いかん。
「アルト、このままだとユーコンがこの店の事をかわら版とかで叩きそうですし、なんとかならないのですか?」
オーリスに言われて、俺は料理人の手助けをすることにした。
ユーコンは言いたいことを言い終えたので、満足したのか今日のところは店を後にした。
行きがかりで手助けすることになったこの店のオーナー兼料理人、名前はコンチェルト。
世界各地を旅して料理を味わってきたというだけあって、中年に差し掛かっている年齢に見える。
「折角だし、このあと出す予定だった料理を食べながら考えようか」
ユーコンがいなくなった後も、三人で立ったままだったのでそう促した。
「どうせアルトの事だし、迷宮岩牡蠣に熱く熱した油をかける料理を提案するのですわよね?」
「そうだね、アツアツのプレス油をかけて――」
「プレス油!?」
「嘘嘘、落花生油だよ」
オーリスがプレス油って驚いたけど、よくそんなものを知っていたな。
因みにプレス油も落花生油もネットスーパー的なスキルで入手が可能だ。
「でもなあ、それだとユーコンが既に知っていそうな気がして。なんか鼻をあかしてやりたいなあ」
「そうですわね。油をひと工夫してみるとか」
「どんだふにー」
「どんだふにー?」
「ごめん、言い間違い。どんな風にって言いたかったの」
「ああ、てっきり油の話だからダフニーの一種かと思いましたわ」
オーリスよく知っているね。
あれ、ひょっとして出〇興産が異世界に進出してきている?
俺達が会話をしていると、調理を終えたコンチェルトがテーブルにやってきた。
そして思い悩んだ表情で口を開く。
「お二人のてを煩わせるわけにもいきませんので、これからユーコンを刺してきます」
「いや、それ順番が逆だから!」
必死にコンチェルトをとめて、なんとか新しい味を探すことで納得をさせた。
後に牡蠣料理はコンチェルトの店の看板料理になるのだが、そんな描写は異世界料理小説にお任せ致します。
※作者の独り言
開発起因の不良とか、根本対策を設計が拒否したらどうにもならないよね。
今回の話を書くにあたって設計開発手順を見てみましたが、最適なものを選ぶやり方って具体的な方法が明記されていなくって、誰がやっても同じ結果にはならないよねって思いました。
だからこそ設計の給料は高くて、安い労働力を使う訳にもいかないのでしょうけど。
都市伝説でどこの業界とは言いませんが、試作図面と量産図面で材質が変わっており、量産の材質での評価試験をやっていなかった事があったとか。
そんなもん、工場の品管にはどうにもならんぜよ。
随時対策募集しております。
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