上 下
391 / 439

第390話 FAはファイナルアンサーじゃないよ

しおりを挟む
 ステラ近郊に新しく遺跡が発見された。
 カレンとサイノスに頼まれて、今回指名依頼という形で俺とシルビアが護衛についている。

「ここは古代魔法文明につくられた空中都市の一部なの」

 カレンは俺にそう説明してくれた。

「空中都市ねえ」

 俺は前世の記憶から、古代魔法文明の空中都市の名前を想像していた。
 なんとなく思い当たる名前があるのだが……

「レックスっていうのよ」

「まんまか!」

 カレンに思いっきりツッコミをいれた。
 まあ、この作品の命名ルールからすればそれもありなのだが。
 尚、空中都市の一部が落下途中に分裂して、ステラの近くに落ちたという事らしい。
 本体は別の場所に落ちているのだろうが、現在はまだ詳しい場所は不明だ。
 きっと、パオとかいう都市の近くに落下しているに違いない。

「この作品のジャンルを二次創作に変更する必要があるだろ」

「今さらじゃない。そもそも、日本のファンタジー小説に出てくるエルフだって、山本弘か水野良のパクリしかないわよ。全部二次創作よ」

「何故その2人?」

「女エルフといえば山本弘、男エルフといえば水野良は常識よ」

「はい……」

 身も蓋もないですがその通りですね。
 いや、男エルフはそんなにパクリはないか。
 ロードス島戦記のTRPGリプレイで、ディードリットの中の人が山本弘さん、後のと学会会長であり、ソード・ワールドTRPGリプレイで、スイフリーの中の人が水野良さんという噂。
 本当にどうでもいい知識ですね。

「古代魔法文明がその強大な魔力の暴走で一瞬にして滅び、一度文明が断絶しちゃったから、こういった遺跡はとっても貴重なのよ」

 カレンは目の前の研究材料にウキウキだ。
 オシドリも軽く奥へ進もうとする。

「危ないから待って。俺が先に進んで罠を確認するから」

 目を離すとどこに行くかわからないカレンを注意して、俺が先頭になって危険感知をしながら進む。
 が、そもそも都市の一部なので凶悪な番人や罠は無い。
 すぐに研究室と思われる部屋にたどり着いた。
 本棚があり、そこには研究日誌が置いてある。
 背表紙に研究日誌と書いてあるだけで、中身はまだ確認していないが、おそらくは研究日誌だろう。
 罠が無いのを確認してから、カレンに本棚を見てもらう。

「ねえ、サイノス、アルトこれを見て」

 カレンが手招きするので二人で研究日誌を覗き込む。

「ほら、この研究日誌、ぐの文字が大きいの」

「そっちのやつか!」

 監督が使っちゃいけないお薬使ってて、撮影途中にUFOが見えたって言って、何度も撮影が中断したとかしないとか。
 しかし、そんな下らないことで呼ばないで欲しい。
 早いところ、ここにある書類を回収して帰りたい。
 中身を確認するのは戻ってからでもいいだろう。

「だいたいわかったわ」

「何が?」

「ここはゴーレムの工房だったみたいね。古代魔法文明では元々奴隷を使役していたんだけど、食費はかかるし、病気になれば働かないし、元気だと反乱を起こすしというので、無限の魔力が塔から供給されるようになってからは、もっぱらゴーレムを単純労働に従事させていたのよ」

「なにその品管とブラック企業の社長が望む理想の世界は。あと不動産屋の土地はいいぞの理由みたい」

 土地は24時間お金を稼いでくれる。
 土地は病気で休まない。
 土地は不平不満を口にしない。
 結論、不動産投資はいいぞ。

 工場なんかでも、人によるミスが発生すると、次は無人のラインにしようとなっていく。
 作業者がミスや不満を口にしたり、休んだりすればするほどラインの無人化は進む。
 FMEAだって人よりも機械の方がよい評価となっている。
 結果、自分達の職場を失う訳なのだが、作業者はそれに気づいていないんだよね。
 最近はストライキなんていうのも殆どないけど、労働争議が頻発すれば経営者も考えるだろう。
 それと最低賃金の上昇か。
 一長一短はあるが、最低賃金が上昇すれば設備投資と比較して、どちらが経営者にとって良いのかという判断が下る。
 言いたいことはわかるが、自分達も努力しないと作業者は居場所が無くなるぞ。

「ああ、でも失業した人達に恨まれて、ゴーレムの製造工場とか研究所が何度か襲われたって書いてあるわね。ゴーレムには人を襲わないように命令してあるから、別途で護衛を雇ったって日誌に書いてあるわ」

 研究日誌を読み進めていたカレンがそう教えてくれた。

「やはりそうか」

 失業した労働者の怒りの矛先は当然ゴーレムに向かうよな。
 とその時後ろから人の気配がした。

「どんなに恐ろしい魔法を持っても、たくさんの可哀想なゴーレムを操っても、労働から離れては生きられないのよ」

 気配の方から声が聞こえた。
 その声に聞き覚えがある、その主はルーチェだ。
 シャンテとクレフも一緒にいる。

「私、まだ言ってないことがあるの。私の家に、古い秘密の名前があって、この石を受け継ぐとき、その名前も私継いだの。私の継いだ名はルーチェ。ルーチェ・マツダ・ウル・ラピュタ」

 そう言って首から下げた真っ赤な宝石を見せてくれる。
 前にも見た奴だ。

「バルテュス?」

「違うわよ!!」

 俺の質問にルーチェが怒った。

「バルテュスだったらサブタイトルがティア2の輝きってなっていたのにね」

「30年以上前のエロアニメの話をしたって、おっさんが懐かしむだけよ」

 シルビアのツッコミが痛い。
 詳しいことはウィキペディアを見てください。
 見なくてもわかる人もいるのでしょうけど。
 ヒロイン高田由美で、主人公が関俊彦、敵が玄田哲章だったりして、もう一度見たい気もするけどまあいいか。

「真面目な話をすると、人間がやる仕事をゴーレムに奪われて、結果として社会不安が増大してしまったというわけか。さて、この歴史的な事実を受けてカレンはどうする?」

 俺はカレンの方を見た。
 彼女がゴーレムの量産をするのであれば、同じ事を繰り返すことになるだろう。

「私は研究者よ。研究は続けるわ。だけど、失業問題に関わる気は全くないの。それは為政者の仕事でしょ。例えばだけど、剣が人を殺すからっていう理由で刀鍛冶を全部廃業させてしまえば、モンスターと戦う武器を誰が作るのよ。所詮は剣もゴーレムも道具でしかないわ。作る人間と使い方を決める人間を一緒にしないでもらいたいわね」

「たしかにそうだな。それにゴーレムが全ての労働者に取って代わる訳で無し。ゴーレムには出来ない仕事を見つければいいのか」

 と言っては見たが、現代社会だってAIやロボットがかなりの仕事をこなしている。
 証券会社ではディーラーなんていらなくなった。
 今、発注はAIが行っている。
 レストランでは食事の運搬はロボットだ。
 工場のAGVみたいだけどな。
 あれを見るとついつい仕事を思い出しちゃう。
 まあ、死んで転生している訳ですが。
 それに、レストランでは注文は食券かタッチパネルになっており、ウエイターやウエイトレスなんて必要なくなっている。
 工場では言わずもがな。
 材料供給さえしておけば、夜中だろうが日曜日だろうがロボットが生産を続けてくれる。
 ロボットを使役しているだけなので、労働基準監督署に怒られる事もない。
 うっかりミスによる不良も出なくてとても良い。
 ロボット最高、作業者全部解雇してオペレーターだけいればいいじゃん。

 冗談はさておき、ここ何十年かで工場からかなりの人がいなくなりましたよね。
 それって結局人件費の高騰とFAの値下がりがあって、更には技術革新があった結果なんでしょうね。
 金を出せばほとんどの事は出来るし、償却年数考えたら人を雇うよりも安い事が多い。
 そうなれば、経営者も流石に考えますよ。
 その分、設備設計と生産技術は仕事が増えて大変だけど。

「アルト、なんか意識がどこかに飛んでいっているわよ」

 シルビアに呼ばれて現実に引き戻された。
 人がいいか、ロボットがいいかなんて熱いテーマだと、ついつい熱が入っちゃうというか、熱にうなされちゃうよね。

「ごめんごめん、ところでルーチェたちはどうしてここに?」

 俺の問いにルーチェが答える。

「実は行商で各地をまわりながら、古代魔法文明の遺跡を調査しているのです。そこには魔王軍を滅ぼせる兵器があるかもしれないので。そして、この宝石はその兵器を起動するための鍵。言い伝えではソアラとゴルフを滅ぼした神の火、またはタンドラの矢とも呼ばれていたものがきっとどこかにあるはず」

「そんなものが……」

 どこかで聞いた台詞だが、それはそうとそんなすさまじい威力の兵器があるとなると、魔王軍も必死に手に入れようとするだろう。
 それにしても、ソアラとゴルフか。
 あれってソドムとゴモラじゃなかった?
 ん、ソドム。

「学園ソドム」

「それも高田由美よ」

 シルビアはそういって俺の後頭部を叩く。
 どうやっても高田由美に寄ってくな。


※作者の独り言
仕事をやりたくない作業者と、作業者の扱いに困った経営者の願いが一致して、ファクトリーオートメーションが進んだのですが、労働者は本当にそれでよかったのか疑問。
ま、イギリスでも産業革命の時に機械打壊しなんてやってましたね。
仕事が奪われるって理由で。
品管の考えとしては、自動化した方がうっかりミスが減るので助かりますが、失業者が増えて治安が悪化するのも考えもの。
でも、失業者の対策や治安は政治家が考えるべき事ですので、自分が悩んでもどうにも出来ないですよね。
弊社の製造も不良を設備のせいにばかりしていると、全部自動化されてしまうと思うよ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

みんなで転生〜チートな従魔と普通の私でほのぼの異世界生活〜

ノデミチ
ファンタジー
西門 愛衣楽、19歳。花の短大生。 年明けの誕生日も近いのに、未だ就活中。 そんな彼女の癒しは3匹のペット達。 シベリアンハスキーのコロ。 カナリアのカナ。 キバラガメのキィ。 犬と小鳥は、元は父のペットだったけど、母が出て行ってから父は変わってしまった…。 ペットの世話もせず、それどころか働く意欲も失い酒に溺れて…。 挙句に無理心中しようとして家に火を付けて焼け死んで。 アイラもペット達も焼け死んでしまう。 それを不憫に思った異世界の神が、自らの世界へ招き入れる。せっかくだからとペット達も一緒に。 何故かペット達がチートな力を持って…。 アイラは只の幼女になって…。 そんな彼女達のほのぼの異世界生活。 テイマー物 第3弾。 カクヨムでも公開中。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

処理中です...