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第384話 急造ラインって不良出やすいよね

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 ステラの大通り、陽射しが照り付ける中で俺とシルビアは魔人と対峙していた。
 カンカンと魔物の襲来を告げる鐘が切れ間無く打鐘される。
 お陰で戦闘で邪魔になる一般人はいない。

 魔人とは魔王の瘴気に当てられ理性と引き換えに凄まじい力を手に入れた人間を指す。
 目の前の魔人も服装は一般的な商人のものであり、真っ赤に光った目が無ければ魔人とは気づかないだろう。
 そいつはシルビアの方に跳躍した。

「シルビア、そっち行った!」

「まったく、これで何人目よ」

 シルビアがうんざりしながら目の前の魔人を斬る。
 勿論魔人は強敵であり、銀等級の冒険者でもソロでは命の危険がある相手だ。
 ただ、シルビアの実力は金等級に等しく、なおかつ俺が支援魔法を使ってシルビアの身体能力を嵩上げしている。
 だから、簡単に魔人を倒せるのだ。

「魔王の瘴気が濃くなってきたからねえ」

 そう、魔人が街の中に現れるのはこれが初めてではない。
 このところステラの周辺でも瘴気がかなり濃くなってきており、外からやってきた商人や冒険者が街の中で魔人になって暴れるという事態が頻発していたのだ。
 魔人の出現は緊急事態なので、冒険者に依頼を出さずに俺やシルビアが対応している。
 冒険者を待っていたのでは被害が拡大してしまうから、とっとと片付けてしまおうという訳だ。

 こうして今日も魔人を退治したのだが、これでは結局対応が後手に回ってしまうということで、神殿が中心となって魔王の瘴気を中和するポーションを開発することになった。
 勿論、瘴気に悩まされているのはステラだけではないので、国中の神殿が開発のために情報交換をしながらである。

 そしてそれは完成する。
 そしてステラの街に入る時に、必ずこれを飲まなければならないという法律が出来上がった。
 ポーションの原価は高額となっていたが、これは全て国が負担することになり、通行人は無償で提供されることになった。
 しかし、まだ量産が安定しておらず、供給量には不安があった。

 それでも、水際対策で魔人が街中に出現する事は無くなった。
 これで今までのように午後はゆっくりさぼる事が出来るとおもって、冒険者ギルドの自分の席で欠伸をしていたが、ギルド長が兵士っぽい人と一緒にこちらに歩いてくるのが見えた。

「アルト、相談に乗って欲しいって人が来ているんだが」

 そう言われて、一緒に来た人を紹介してくれた。

「アベニールです」

 そう自己紹介してくれたのは眼光の鋭い中年男性だった。
 引き締まった肉体から、よく訓練されているという事がわかる。
 イメージは刑事だな。

「はじめまして。どんなご相談でしょうか?」

「実は私の仕事はステラにある門を守る門番なのですが、最近瘴気を払うポーションを通行人に飲ませる仕事がついかされまして。それはご存知でしょうか」

 それは勿論知っている。

「ええ。そのおかげで緊急で街中に現れた魔人退治に駆り出される事がなくなりました」

「実はそのポーションを飲ませるのが上手くいかなくて、門を通った人数と配布したポーションの数が合わないんですよ」

「それはどうして?」

「おそらくですが、同じ人に二回渡しているのではないかと。門番の中で盗むような奴はいませんからね」

 瘴気を払うポーションは数が足りていないので、確かに転売すれば高額な値段がつくだろう。
 ただ、市場に出回るものでもないので、転売ルートが無い素人では売りさばくことは難しいが。
 盗品をネットで販売するのと似ているな。
 美術館や博物館の展示物の盗難なんてのも、ネットで販売すればすぐに足がつく。
 しかし、盗品を扱うブローカーなんて素人にはどこにいるのかわからない。
 結局盗んだところで換金することが出来ないわけだ。

「じゃあ、現場を見せてもらえますか」

 俺はアベニールにそう言うと椅子から立ち上がった。

「わかりました」

「じゃあアルト、あとはよろしくね」

 ここでギルド長とは別れて、アベニールと一緒にステラの門の一つである南門へと向かった。
 南門につくと、そこでは人々がポーション配布場所に群がっているのが見えた。
 長机を挟んで門番の兵士と、複数の通行人が向かい合っている。
 通行人たちは手渡されたポーションを飲んでいるが、飲むのには時間が掛かっているみたいだ。
 そして、その飲んでいる通行人に割り込んで、後ろから手を伸ばす人たちが多数。
 ぐっちゃぐちゃだっていうのが第一印象だ。
 ポーション配布以前は城門を通過する人を審査する為に、これ程の混雑はおこっていなかった。

「随分と混雑していますね」

「お恥ずかしい限りで。ポーションの味が苦くて飲みづらいらしく、どうしても時間がかかるので、ああやって混雑してしまうんです。列を作ると待ち時間が長くなるので、渡せる限り渡してしまおうという訳です」

 なるほど。
 工場でいうなら複数の工作機械を一人で同時に見ている状態だな。
 加工終了時間をずらせば、他が加工中の間に止まった工作機械のセットリセットが出来る。
 こうすれば少ない人数で多くの工作機械を動かすことが出来る。
 それに対して、以前の通行人の確認はマンマシンという、一人で一台の工作機械を管理するのと同じ手法だ。
 こうなるとオペレーターの数と、動かせる工作機械の数はイコールであり、多くの労働者を必要とする。

 今回のポーション配布業務は急遽追加された業務だから、門番の増員が間に合わなかったか認められなかったかなのだろう。
 マンツーマンの対応が出来ないのはそのためかな。

「見た感じではあそこの混乱で、ポーションの二度配布を発生させている感じですね。誰に渡したかも覚えてないでしょうね」

 そう感想を述べた。

「その通りです。しかし、この人数の顔を記憶するのも難しくて」

「そうでしょうね。俺でも記憶しろっていわれたら無理ですよ」

 工程飛びでの原因でもよくあることだが、作業前と作業後の製品がごちゃごちゃになっている事は管理上良くない。
 急ごしらえのラインなのだろうけど、こういうところが仕事を難しくしていると思う。
 そして、忙しくなったことで他に手が回らずに、さらに仕事が忙しくなるという悪循環に陥りやすい。

「まずはポーションを渡すだけの場所を作りましょう。そして、ポーションを飲むのは別の場所にします。受け取った人と受け取っていない人を区別しましょう」

 そう提案するとアベニールは驚いた顔をした。

「渡すだけだと、何度も貰いに来る人が出ますよ」

 その心配はわかる。
 勿論それも想定している。

「手にマーキングをしましょうか。渡したら受け取った手に色を塗りましょう。右手の甲がいいですね。場所を決めておかないと、確認に手間取ってしまいますから」

 これはテーマパークなどのハンドスタンプなんかでもある。
 マーキングは工業製品だけって訳ではない。
 そして重要なのはマーキングの位置を見やすい場所に統一すること。
 組み付けた時に見えない位置になってしまうと、選別時に一度外さなければならない。
 そういった事態は避けたいので、見やすい場所にすることが重要だ。

「で、飲み終わった人も別の色でマーキングしましょう。これなら飲まずにしらばっくれる事もできないですから。門番の目の前で飲み終わったらマーキングすれば、後から別の門番が確認する事もできますからね。ただし、ポーションを渡したらすぐにマーキングをしてください。誰かに呼ばれてもマーキングを終えてから、そちらに対応するようにしないと折角のマーキングルールも意味がなくなりますからね」

 途中離席厳禁。

 そうして、ポーションを受け取ったという意味のマーキングが緑、飲んだという意味のマーキングが紫となった。
 染料の素材調達の依頼が冒険者ギルドに来たので、一応自分の役にも立ってるぞ。
 ただ、これではマーキングの工数が増えたままなので、賢者の学院にお願いして瘴気に当てられて魔人化する人を検査する装置の開発をしてもらうことになった。
 こいつで門のところにゲートを作れば、一々ポーションを飲んだり、マーキングをしたりする手間が省ける。
 そういえば、検査員の資格が無い人は通れないゲートを作った会社もあったなと思い出して、そのアイディアを伝えたのだ。
 残念ながら、会社名は忘れてしまったが。


※作者の独り言
ワクチンを二度連続で接種したのって、どうやったら防げるのでしょうかね。
国が国民総背番号の管理をしているなら、注射器と接種券にQRコード印刷しておいて、バーコード照合すればいいような気もしますが、今からだとねえ。
ワクチンは二回接種という情報だけだしか知らず、当日二度接種するのかと勘違いする国民もいると思いますよ。
なぜ二度連続で接種したのか聞いてみたいですね。
対策はそれから。

ところで、検査員の資格を持ってない人が検査しているのが二回国にバレて、有資格者しか通過出来ないゲートを設置した自動車会社があったと思うのですが、どこでしたっけ?
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