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第364話 国勢調査の回答に困る

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「時代は聖女」

「「はあ?」」

 唐突に聖女と言い出したグレイスに、俺とオッティは露骨に嫌な顔をしてやった。
 今はいつものようにティーノの店で転生者の会食をしている。
 ワインを飲んで出来上がってしまったグレイスは聖女になりたいと言い出したのだが、これは酔っぱらいの戯言だろうか?

「聖女の奇跡で人々から崇められ、イケメンの王子達が私を巡って奪い合いをするのよ」

「俺は自分で勇者や賢者、聖女って言う奴は信用しないことにしているんだ。それって職業?」

 俺はグレイスをまっすぐにみると、そう言ってやった。

「そうよ。ゲームではみんなそういう職業じゃない」

「ゲームの中だけだろ。勇者ってなんだ?勇が有るものの事か?賢者って自分で賢いって言ってる時点で残念な人だろ。無知の知って知ってるか?知らないのに知っていると思い込んでいるだけでも笑い者なのに、さらに自分は賢いって言っちゃってるぞ。聖女にしても自ら聖であるとかなあ。神の奇跡とか使えるんだろうけど、そう名乗る奴は壺を売ってくるのが殆どだと思うんだ」

「なによ!印鑑ならいいの?」

「そういう問題じゃない」

 グレイスの反論は子供のそれだな。
 壺か印鑑かが重要な訳じゃないぞ。

「アルトの品質管理だって職業と言えるの?」

「品質管理はどこの会社だってあるだろ。部門の呼び名は様々だけど」

「じゃあ、なんで国勢調査や職業のアンケートで毎回悩むのよ。そもそも事務職か技術職かの線引きも曖昧じゃない」

「何故その秘密を」

「この前酔っぱらって愚痴っていたわよ」

 なんとそんなことが。
 異世界に転生したから、国勢調査はやらなくてよいのだが、酒が昔の事を思い出させたのか。
 またひとつ、ろくでもない過去を晒してしまった。
 職業アンケートについては、事務職と技術職の区分があるが、品質管理はどちらになるのか例にも出てこない。
 設計や生産技術は技術職だし、生産管理は事務職なんだろうけど、品管って中途半端なんだよな。
 測定器を扱う専門的な技術も必要だけど、文書作成がメインの品管だって同じ部署にいる。
 両方に首や足を突っ込んでいると、その線引きがわからない。
 俺がまた答えの出ない前世の事を考えていると、オッティが余計なことを口走った。

「聖女になるもなにも、悪役令嬢があるだろ」

 オッティがそう言うと、グレイスはキッと睨んだ。
 睨んだだけで人が殺せそうな勢いだ。

「そうよ。でも、その役割でキャラが立ってないじゃないじゃない。悪役令嬢が追放されて、そこから現代知識を使った内政チートが王道なのに、そういう描かれ方してないのよ!」

 バンバンとテーブルを叩くグレイス。
 ティーノに迷惑がかかるからやめてほしい。
 ほら、メガーヌが心配して見に来たぞ。
 心配っていうのは、店の物を壊されないかの心配だけどな。

「今となっては、他の異世界転生作品が化粧品をバンバン投入しているけど、その容器どうやって作って品質管理しているんだよっていうのを言いたかっただけとか告白しづらいと天啓があった」

「はあ?その為だけだっていうの」

 どうにもそうらしいな。
 一応内政チートみたいな感じにはなってはいるが、それは全部オッティのスキルによるものだ。

「あ、別の世界線で聖女枠が空いてるみたい」

「別の世界線?」

 聞き返してきたグレイスに頷いて見せた。

「そこでは俺はスターレットと付き合っていて、オーリスとは結婚しないらしい。そして、グレイスとは出会ってすらいないんだ。そこなら聖女枠が空いてるから、立候補するなら直ぐにでも成れるそうだぞ」

「じゃあ、それで」

 二つ返事でグレイスは聖女に立候補した。
 因みに、内容は全く考えてないし、今の時点で書くのかどうかもあやふやだ。

「それにしても、スターレットがメインヒロインとは、シルビアも可哀想ね。彼女がメインヒロインになることなんてあるのかしら?」

「あるとしたら、薄い本かな?」

「自費出版ね」

「紙になるだけ、ここよりも進んでいると考えることも……」

「どこで売るのよ?」

「コミケで」

「ジャンルは?」

「知人のサークルで委託しようかなと」

「あんたの本が壁サークルに並ぶの?笑い者よ」

「ですよねー」

「それに、当時最強のみ◯み美◯先生が挨拶に来たときにサークル主催者が不在で、サインの入った同人誌を預かったはいいけど、パクろうとしていたわよね」

「借りただけで……」

「借りパクする奴はみんなそうやって言うわよ」

「だって、当時『こみっくパーティー』で一世を風靡していた◯つ◯◯里先生だぞ。板垣作品で例えたらグレート巽位のランクだぞ」

「そこはグラップラーバキで例えなさいよ」

「じゃあ、現代に甦った宮本武蔵位のランクにしておくか」

「それでいいわ。で、あんたしかも当時童貞で女性と会話なんて出来ないから、テンパっちゃって取り巻きの人達にも本配ってたわよね」

「まあね……」

 ついでにいうと、サークル主催者が後でみつみ◯◯先生のところにサインをしに行ったりもしたのだが、もう異世界も品管も関係ないね。

「そんなわけで、シルビアは薄い本で二次元ドリームなんとかみたいなシチュエーションになる予定です!」



※作者の独り言
色々嘘です。
前の話が暗すぎたので、バランスを取ってみました。
職業アンケートで回答に困るのは本当です。
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