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第346話 図面に記載なし
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オーリスとステラの街を歩いている。
二人の休日が合ったので、久しぶりにデートというわけだ。
朝から既に三件の服屋を巡り、俺としてはもう帰りたいのだが、そんな態度を見せると後が怖いので、常にニコニコ笑顔でいることを心がけている。
次は青磁を扱っている工房を見るのだとか。
食事もとらずに、よくそれだけ動けるものだと感心する。
そんなわけでメインストリートを歩いていると、前方に人だかりが見えた。
「なんでしょうか?」
「行ってみようか」
人だかりをかき分けて、その中心を目指した。
たどり着くとそこでは土下座する男と、それを見下ろす柄の悪い男がいた。
「借りた金が期日までに返せなかったんだから、契約どおりお前の肉を1ポンド貰うぞ」
柄の悪い男はとんでもないことを言った。
「何てことを言うんだ。そこはグラムにしろ!」
思わず口を挟んでしまったら、二人がこちらを見た。
だって、ポンドなんて使われたら黙っていられないじゃないか。
「事情がおありのようですわね。良かったら伺いますが」
オーリスが二人に促すと、柄の悪い男が
「これはこれは、オーリス様じゃないですか。私はなにも法に触れる事などしちゃおりませんぜ。こいつが借りた金を期日までに返さなかったので、質草の肉を約453.6グラム程代物弁済しようって話でさぁ」
と事情を説明してくれた。
グラムに換算してくれたのかと俺は感心するが、問題の本質はそこじゃないな。
「俺はこのヴェゼルに嵌められたんです」
今度は土下座していた男がオーリスに事情を説明した。
男の名はヤリスといった。
柄の悪い男はヴェゼル。
二人は商売のライバル同士だった。
ある時ヤリスが全財産を使って仕入れた品を荷馬車に乗せて、使用人を行商に行かせた。
そして行商が終わらないうちに、どうしてもお金が必要になり、ライバルではあるが、すぐに現金を都合出来るヴェゼルからお金を借りた。
返済期日は使用人が行商から帰ってくる少し後に設定したのだが、使用人がいつまで経っても帰ってこない。
そうしているうちにも返済期日が来てしまったというわけだ。
どこかで聞いた話だな。
「嵌められたとおっしゃいますが、証拠はあるのですか?」
オーリスの問いにヤリスは首を振って否定した。
「それでは借りた物は返済するのが当然ですわね」
「ほら、オーリス様もそうおっしゃっているんだ。観念しな」
オーリスの賛同を得て、俄然勢いづくヴェゼル。
対照的にこの世の終わりみたいな顔をするヤリス。
まあ、肉を取るってのは実質殺されるって事だからな。
「ただし――」
ここでオーリスが更に条件を付けくわえた。
「肉は切り取っても良いが、契約書にない血を1滴でも流せば、契約違反として全財産を没収する」
と付けくわえた。
「そんな!そりゃ無理ってもんですぜ!」
抗議の声を上げるヴェゼル。
屁理屈だけど契約書は確かにその通りなんだろうな。
こういうのは製造業でもあったぞ。
傷や異物がついた製品を納入して、客先から不良だって言われても、「図面に傷無き事、異物付着無き事とは無いですよね」って言い訳して逃げたことがある。
常識的に考えて異常品なんだから、出荷するのは駄目なんだが、既に市場まで流出してしまっていると、こちらとしても針の穴を通すような可能性に賭けて、とにかく一度はごねてみるのだ。
勿論ごねている裏では真因を見つけて対策に走っているのだが。
じゃあ、全部の図面に傷無き事、異物無き事って書きますねって言われると、こちらとしてもそんなものは生産出来ないので、諸刃の剣ともいえる。
傷や異物なんてものは使い勝手から判断するべきなんだよな。
異物は難しいが、傷は「限度見本による」とかで逃げるのが常だ。
外観部品なんかはそうもいかないが、それ以外なら傷は商品価値を損なうものではないからだ。
異物は難しい。
外観部品の異物なんて、ほぼ規格が決められているからよいのだが、その他ともなると異物無き事となっていると、じゃあ全部クリーンルームで生産する単価にしますよとなってしまう。
世界的なリコールとなったアレなんかは、エアバッグが開く時に異物がものすごい勢いで射出されるので、絶対にあってはならないと思うだろうが、コンタミ確認試験を実施するとどうしても衣服の繊維が出てきてしまう。
成分分析をしてみると綿なので、どう考えても衣服から落ちた繊維だ。
厳密に図面を解釈するとそれらも不良となる。
そんなので揉めたくないので、図面に敢えて記載しなかったりすると、先述のように言い訳をしてくるサプライヤーが出てくるので、結局図面に記載する事になっちゃうんですよね。
どうしろと。
今回のオーリスの裁定もそれに似ているな。
今回はこの理屈で押し通すとしても、次回からは契約書にそれを対策する一文が追加されるだろう。
まあ、借りた物は返さないと駄目だとは思うがな。
嵌められた証拠もどこにもないだろうし。
「ヴェゼル、あなたも今回は損してないんだからそれで手を打ちなさい」
「仕方ありませんね。今回は使用人と組んで奪った商品だけで我慢しておきますぜ――」
「「「あっ!!!」」」
※作者の独り言
図面に記載してないとはいえ、常識的に考えて良くこんなもんを出荷したなってのはありますね。
確認のマーキングなんて図面に記載されてませんが、欠品などの不良が出ると追加されます。
図面にないのにマーキングした製品が流通しているのですが、じゃあ、そのマーキングがどこまで大きくてもよいのかっていうのはありますよね。
実際に作業者の手にインクが付着して、本来のマーキング位置とは違うところにも色がついてしまう事があるのですが、ちょっとくらいのインク付着なら拭き取らずに出荷してます。
じゃあそれがどこまでの範囲ならいいのってなるのですが、そんなもんまで図面に書かれるときついですね。
二人の休日が合ったので、久しぶりにデートというわけだ。
朝から既に三件の服屋を巡り、俺としてはもう帰りたいのだが、そんな態度を見せると後が怖いので、常にニコニコ笑顔でいることを心がけている。
次は青磁を扱っている工房を見るのだとか。
食事もとらずに、よくそれだけ動けるものだと感心する。
そんなわけでメインストリートを歩いていると、前方に人だかりが見えた。
「なんでしょうか?」
「行ってみようか」
人だかりをかき分けて、その中心を目指した。
たどり着くとそこでは土下座する男と、それを見下ろす柄の悪い男がいた。
「借りた金が期日までに返せなかったんだから、契約どおりお前の肉を1ポンド貰うぞ」
柄の悪い男はとんでもないことを言った。
「何てことを言うんだ。そこはグラムにしろ!」
思わず口を挟んでしまったら、二人がこちらを見た。
だって、ポンドなんて使われたら黙っていられないじゃないか。
「事情がおありのようですわね。良かったら伺いますが」
オーリスが二人に促すと、柄の悪い男が
「これはこれは、オーリス様じゃないですか。私はなにも法に触れる事などしちゃおりませんぜ。こいつが借りた金を期日までに返さなかったので、質草の肉を約453.6グラム程代物弁済しようって話でさぁ」
と事情を説明してくれた。
グラムに換算してくれたのかと俺は感心するが、問題の本質はそこじゃないな。
「俺はこのヴェゼルに嵌められたんです」
今度は土下座していた男がオーリスに事情を説明した。
男の名はヤリスといった。
柄の悪い男はヴェゼル。
二人は商売のライバル同士だった。
ある時ヤリスが全財産を使って仕入れた品を荷馬車に乗せて、使用人を行商に行かせた。
そして行商が終わらないうちに、どうしてもお金が必要になり、ライバルではあるが、すぐに現金を都合出来るヴェゼルからお金を借りた。
返済期日は使用人が行商から帰ってくる少し後に設定したのだが、使用人がいつまで経っても帰ってこない。
そうしているうちにも返済期日が来てしまったというわけだ。
どこかで聞いた話だな。
「嵌められたとおっしゃいますが、証拠はあるのですか?」
オーリスの問いにヤリスは首を振って否定した。
「それでは借りた物は返済するのが当然ですわね」
「ほら、オーリス様もそうおっしゃっているんだ。観念しな」
オーリスの賛同を得て、俄然勢いづくヴェゼル。
対照的にこの世の終わりみたいな顔をするヤリス。
まあ、肉を取るってのは実質殺されるって事だからな。
「ただし――」
ここでオーリスが更に条件を付けくわえた。
「肉は切り取っても良いが、契約書にない血を1滴でも流せば、契約違反として全財産を没収する」
と付けくわえた。
「そんな!そりゃ無理ってもんですぜ!」
抗議の声を上げるヴェゼル。
屁理屈だけど契約書は確かにその通りなんだろうな。
こういうのは製造業でもあったぞ。
傷や異物がついた製品を納入して、客先から不良だって言われても、「図面に傷無き事、異物付着無き事とは無いですよね」って言い訳して逃げたことがある。
常識的に考えて異常品なんだから、出荷するのは駄目なんだが、既に市場まで流出してしまっていると、こちらとしても針の穴を通すような可能性に賭けて、とにかく一度はごねてみるのだ。
勿論ごねている裏では真因を見つけて対策に走っているのだが。
じゃあ、全部の図面に傷無き事、異物無き事って書きますねって言われると、こちらとしてもそんなものは生産出来ないので、諸刃の剣ともいえる。
傷や異物なんてものは使い勝手から判断するべきなんだよな。
異物は難しいが、傷は「限度見本による」とかで逃げるのが常だ。
外観部品なんかはそうもいかないが、それ以外なら傷は商品価値を損なうものではないからだ。
異物は難しい。
外観部品の異物なんて、ほぼ規格が決められているからよいのだが、その他ともなると異物無き事となっていると、じゃあ全部クリーンルームで生産する単価にしますよとなってしまう。
世界的なリコールとなったアレなんかは、エアバッグが開く時に異物がものすごい勢いで射出されるので、絶対にあってはならないと思うだろうが、コンタミ確認試験を実施するとどうしても衣服の繊維が出てきてしまう。
成分分析をしてみると綿なので、どう考えても衣服から落ちた繊維だ。
厳密に図面を解釈するとそれらも不良となる。
そんなので揉めたくないので、図面に敢えて記載しなかったりすると、先述のように言い訳をしてくるサプライヤーが出てくるので、結局図面に記載する事になっちゃうんですよね。
どうしろと。
今回のオーリスの裁定もそれに似ているな。
今回はこの理屈で押し通すとしても、次回からは契約書にそれを対策する一文が追加されるだろう。
まあ、借りた物は返さないと駄目だとは思うがな。
嵌められた証拠もどこにもないだろうし。
「ヴェゼル、あなたも今回は損してないんだからそれで手を打ちなさい」
「仕方ありませんね。今回は使用人と組んで奪った商品だけで我慢しておきますぜ――」
「「「あっ!!!」」」
※作者の独り言
図面に記載してないとはいえ、常識的に考えて良くこんなもんを出荷したなってのはありますね。
確認のマーキングなんて図面に記載されてませんが、欠品などの不良が出ると追加されます。
図面にないのにマーキングした製品が流通しているのですが、じゃあ、そのマーキングがどこまで大きくてもよいのかっていうのはありますよね。
実際に作業者の手にインクが付着して、本来のマーキング位置とは違うところにも色がついてしまう事があるのですが、ちょっとくらいのインク付着なら拭き取らずに出荷してます。
じゃあそれがどこまでの範囲ならいいのってなるのですが、そんなもんまで図面に書かれるときついですね。
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