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第282話 油分残り確認
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梅雨時期って、鉄の製品や治具が錆びるから嫌ですよね。
だからといって、油を塗るのも問題があったり。
そうそう、量産が終了した金型を工場の敷地の空いている場所に、野晒しで保管しているの事がよくあります。
久しぶりに製品を生産しようと思ったら、錆びていて使い物にならなくなっていたなんて事もありますよね。
一応錆びとりをしてみるのですが、使えたり使えなかったり。
パーツセンターから取り寄せた古い車の部品を見て、表面に錆の痕があるのに気がついても、そこは目をつぶって貰えると助かります。
それでは本編いってみましょう。
雨上がりのステラは湿度が高く、ジトッとした空気が汗を呼ぶ。
新スキルの【検査室作成】は温度管理の他に、湿度の管理も出来るので、こんなときには重宝する。
検査室の使い方を間違っているかもしれないが。
「快適ね」
シルビアが椅子に座ってくつろぎながらそう言った。
これはなにも、人間のために快適にしている訳じゃないぞ。
「冒険者ギルドの中にこんな快適な空間があるなんて知りませんでした」
レオーネはお茶を飲む手を止めて、恍惚の表情を浮かべる。
MMRの活動として、ここで打ち合わせをしているのを装っているのである。
俺の検査室作成スキルは、異次元に検査室を作り出す事が出来る。
異次元なので、俺の許可した人間しか入ることが出来ない。
つまりはどんなにサボっていても、誰にも気付かれることはないのだ。
そんな検査室が欲しい。
コンコン
そんな異世界と異次元を繋ぐドアがノックされた。
誰だろうか。
「はい」
そう返事をすると、ドアの向こうから返ってきたのはホーマーの声だった。
「アルト、相談があるのですけど……」
仕事であれば仕方がないが、この快適空間から出るつもりはない。
ホーマーを中に招き入れて話を聞くことにした。
「相談ってどんなこと?」
そう訊ねると、ホーマーは相談内容を話し始めた。
「実は、この時期鉄の錆が酷いので、使う前まで油を塗って保管しているんです。だけど、油がついたままの鉄を溶接しようとすると、油が蒸発してシールドガスが破けるから、溶接前にキチンと脱脂をするんですよ」
これは悩むところだな。
防錆油をつけないと錆が出るが、防錆油が残っていると溶接不良になる。
なにもアーク溶接に限った事ではなく、スポット溶接でも油は問題になる。
部品の錆を防ぐために油を多めにしたら溶接工程からクレームを言われ、減らして錆が出たら溶接工程からクレームを言われ。
どうしろと。
なので、正規工程に脱脂を入れているのだが、ホーマーの言うことはそれと同じだ。
「そこまでは問題なさそうだけど」
俺がそう訊くと、ホーマーは説明を続けた。
「脱脂不足で溶接不良が出るんです。手でさわると錆ちゃうから、脱脂作業をしたときの感覚で、油分残りを判断しているんだけど、目で見てもよくわからないから、油分が残っている材料を溶接しちゃうんですよ」
そういうことか。
脱脂した鉄を手で触れば、その部分が錆びてしまう。
だから、目で見て脱脂の状態を管理するのだが、やはり目視確認は無理があるな。
「よし、インクを使ったぬれ性測定を教えるから、食堂に行こう」
そう言うと、シルビアとレオーネが嫌そうな顔をするが、仕事が優先だ。
途中でレオーネの受付席からインクを持っていく。
食堂では油を少し貰い、これで準備完了だ。
ブロックゲージを作り出して、油を塗った箇所と塗らない箇所に分ける。
油を塗った箇所は布で雑に油を拭き取る。
これで油分が残っているだろうな。
■■■□□□
■■■□□□
■■■□□□
ブロックゲージのイメージです。
■は油分付着あり、□は油分付着なし。
「いいかい、このブロックゲージの半分は脱脂出来ていない。ここにインクを垂らすと――」
ちょうどブロックゲージの中央部分にインクを垂らす。
すると、油分が付着している箇所はインクを弾いた。
反対側は弾かれずに黒いインクがぬれている。
「ほら、全然違うでしょ」
ホーマーに見せると、彼は頷いた。
この試験方法は脱脂の微妙な差を見つけるのには不向きだし、検査試薬を使うと、人体の油にも反応するので、試験片を素手で触ったら駄目なのだ。
墨汁やインクでも出来るので、現場での測定にはちょうどいいけど。
「ありがとうございます。これからはインクを垂らして、脱脂の状態を確認してみます」
こうして、ホーマーの問題は解決した。
ついでなので、オッティにお願いして、ぬれ性測定用のインクを開発して貰うことにした。
これはチートスキルを使わず、この世界にある技術だけで開発するので、俺たちがいなくなっても、この試験方法は残ってくれる事になるだろう。
※作者の独り言
新人作業者にぬれ性測定やらせて、洗浄不良が出たことがあります。
洗浄不良なので、多数個不良でしたね。
やはり、数値管理しないと駄目です。
だからといって、油を塗るのも問題があったり。
そうそう、量産が終了した金型を工場の敷地の空いている場所に、野晒しで保管しているの事がよくあります。
久しぶりに製品を生産しようと思ったら、錆びていて使い物にならなくなっていたなんて事もありますよね。
一応錆びとりをしてみるのですが、使えたり使えなかったり。
パーツセンターから取り寄せた古い車の部品を見て、表面に錆の痕があるのに気がついても、そこは目をつぶって貰えると助かります。
それでは本編いってみましょう。
雨上がりのステラは湿度が高く、ジトッとした空気が汗を呼ぶ。
新スキルの【検査室作成】は温度管理の他に、湿度の管理も出来るので、こんなときには重宝する。
検査室の使い方を間違っているかもしれないが。
「快適ね」
シルビアが椅子に座ってくつろぎながらそう言った。
これはなにも、人間のために快適にしている訳じゃないぞ。
「冒険者ギルドの中にこんな快適な空間があるなんて知りませんでした」
レオーネはお茶を飲む手を止めて、恍惚の表情を浮かべる。
MMRの活動として、ここで打ち合わせをしているのを装っているのである。
俺の検査室作成スキルは、異次元に検査室を作り出す事が出来る。
異次元なので、俺の許可した人間しか入ることが出来ない。
つまりはどんなにサボっていても、誰にも気付かれることはないのだ。
そんな検査室が欲しい。
コンコン
そんな異世界と異次元を繋ぐドアがノックされた。
誰だろうか。
「はい」
そう返事をすると、ドアの向こうから返ってきたのはホーマーの声だった。
「アルト、相談があるのですけど……」
仕事であれば仕方がないが、この快適空間から出るつもりはない。
ホーマーを中に招き入れて話を聞くことにした。
「相談ってどんなこと?」
そう訊ねると、ホーマーは相談内容を話し始めた。
「実は、この時期鉄の錆が酷いので、使う前まで油を塗って保管しているんです。だけど、油がついたままの鉄を溶接しようとすると、油が蒸発してシールドガスが破けるから、溶接前にキチンと脱脂をするんですよ」
これは悩むところだな。
防錆油をつけないと錆が出るが、防錆油が残っていると溶接不良になる。
なにもアーク溶接に限った事ではなく、スポット溶接でも油は問題になる。
部品の錆を防ぐために油を多めにしたら溶接工程からクレームを言われ、減らして錆が出たら溶接工程からクレームを言われ。
どうしろと。
なので、正規工程に脱脂を入れているのだが、ホーマーの言うことはそれと同じだ。
「そこまでは問題なさそうだけど」
俺がそう訊くと、ホーマーは説明を続けた。
「脱脂不足で溶接不良が出るんです。手でさわると錆ちゃうから、脱脂作業をしたときの感覚で、油分残りを判断しているんだけど、目で見てもよくわからないから、油分が残っている材料を溶接しちゃうんですよ」
そういうことか。
脱脂した鉄を手で触れば、その部分が錆びてしまう。
だから、目で見て脱脂の状態を管理するのだが、やはり目視確認は無理があるな。
「よし、インクを使ったぬれ性測定を教えるから、食堂に行こう」
そう言うと、シルビアとレオーネが嫌そうな顔をするが、仕事が優先だ。
途中でレオーネの受付席からインクを持っていく。
食堂では油を少し貰い、これで準備完了だ。
ブロックゲージを作り出して、油を塗った箇所と塗らない箇所に分ける。
油を塗った箇所は布で雑に油を拭き取る。
これで油分が残っているだろうな。
■■■□□□
■■■□□□
■■■□□□
ブロックゲージのイメージです。
■は油分付着あり、□は油分付着なし。
「いいかい、このブロックゲージの半分は脱脂出来ていない。ここにインクを垂らすと――」
ちょうどブロックゲージの中央部分にインクを垂らす。
すると、油分が付着している箇所はインクを弾いた。
反対側は弾かれずに黒いインクがぬれている。
「ほら、全然違うでしょ」
ホーマーに見せると、彼は頷いた。
この試験方法は脱脂の微妙な差を見つけるのには不向きだし、検査試薬を使うと、人体の油にも反応するので、試験片を素手で触ったら駄目なのだ。
墨汁やインクでも出来るので、現場での測定にはちょうどいいけど。
「ありがとうございます。これからはインクを垂らして、脱脂の状態を確認してみます」
こうして、ホーマーの問題は解決した。
ついでなので、オッティにお願いして、ぬれ性測定用のインクを開発して貰うことにした。
これはチートスキルを使わず、この世界にある技術だけで開発するので、俺たちがいなくなっても、この試験方法は残ってくれる事になるだろう。
※作者の独り言
新人作業者にぬれ性測定やらせて、洗浄不良が出たことがあります。
洗浄不良なので、多数個不良でしたね。
やはり、数値管理しないと駄目です。
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