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第228話 二度目の人生を品管で

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「アルト、相談に乗ってくれ」

 俺の所にやってきたのはいつものカイエンだ。
 今日は珍しく一人である。
 どうしたのだろうか。

「どうした?」

 そう訊くと、泣きそうな顔で答える。

「また失敗して……」

「まずは落ち着いて、いつどこで何がどうしてどうなったのかを話してくれ」

 5W2Hって言っても通じないだろうしな。
 アルファベットがない世界だから。
 カイエンは俺に促されて、順番に状況を説明し始めた。

「今日のことなんだけど」

「今日ね」

「うん。ステラの商業ギルドで俺の一言で依頼主が激怒したんだ」

「そうか」

 事情が少し見えてきたな。
 もう少し詳しく訊こう。

「どんなことを言ったら激怒したんだ?」

「隣の街からここまでの護衛だったんだけど、途中で盗賊団に襲われたんだ」

 新情報が衝撃的だな。
 先に言えよと心の中で愚痴る。

「護衛なんだから戦ったんだよな?」

「それが、相手は30人くらいいて、勝てそうにないから降伏したんだ。で、積み荷を渡すだけで許してもらったから、体は無事の状態でここまで戻ってくることができたんだよ」

 これは盗賊団も殺人まで犯すと本格的な討伐隊が編成されるので、殺さずに積み荷の何割かで許してくれるという事情があるからだな。
 30人規模となると、流石に討伐隊が組まれそうなもんだが。
 商人ギルドからの要請があるかどうかだろうけど、被害額が小さければ効果が薄いってことで、放置されるだろうな。
 冒険者を護衛に雇えばいいんじゃないかって領主も考えるだろうし。
 で、カイエン達が何人いたのかは知らないが、流石に30人と戦うだけの数はいなかったんだろうな。
 そんなに冒険者を雇って移動する商人なんて、余程高価なものでも運ばないと大赤字だ。

「依頼は失敗したけど、激怒ってなるのは余程気に障る事を言ったんだよな。なんて言ったのか、同じように言ってくれ」

 カイエンは頷いて、一つ咳払いをすると再現してくれた。

「『命が助かってよかったですね。あいつら実はいいやつなんじゃないですか』って言ったんだよ」

 それを聞いて、俺は駄目だこいつ早く何とかしないとと頭を抱えた。
 手元に名前を書くと死んでしまうノートが無くて本当に良かった。
 ノートっていっても、車じゃないよ。
 そんなもんが異世界にあっても困る。
 いや、死神のノートもありそうだけど、なくていいよね。

「なんでそうやって他人の神経を逆なでするような事を言っちゃうんだよ」

「だって、落ち込んでいるから励まそうと思って」

「それはお前の役目じゃない!!」

 思わず怒鳴ってしまった。
 いかんな、冷静にならねば。
 ここは品質管理の手法に則ったアドバイスをするべきだな。

「失敗したときは兎に角謝る。そして、相手が怒り疲れるまで黙って聞いておく。それが対策だ」

 これ、品質管理の手法です。
 前世ではみんなやっていたから間違いない。
 「いつまで黙っているんだ!!」って言われても、絶対に何もしゃべらない。
 だって真因をここで喋ったら、対策書はそれを潰さないといけなくなるから。
 でも、会社に帰ったら違う方向に進んでいるなんていつものことなので、余計なことは言わずに嵐が過ぎ去るのを待つのが最良だ。
 大体、不良が出て呼び出されているなんて、既に手遅れなのでどんな言葉で飾っても無理なものは無理なのである。
 失敗したら黙って頭を下げとけ。
 心から反省する必要はない(※個人の感想です)。
 そういえば、なんで品質管理スキルに謝罪が無いんだろうか?
 必須スキルだろ。
 しかもパッシブ。
 まさか、異世界の品質管理は謝罪しないのか?
 まあ、スキルだとカイエンに伝えられないがな。

 そんなわけで、カイエンには謝りかたを伝授して、依頼者を激怒させないようにした。
 残念ながら、作業標準書はありません。
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