207 / 439
第206話 ミルクラン
しおりを挟む
「リバーシのヒットに続く商品が欲しい……か」
オッティとグレイスは久しぶりにステラの街に来ており、俺達はティーノの店で食事をしていた。
現在は食事も終わってオッティから次の商品の開発を持ち掛けられているのだ。
俺の言葉にワイングラスを口につけて傾けているグレイスが頷く。
リバーシができたとなると、次に来るのはあれだな。
「将棋かチェスが定番だな。チェスの方が駒の見た目が美しいから、チェスでいいんじゃないかな」
「そう来ると思ったよ」
オッティは俺の答えを予想していたようだ。
異世界転生の定番だからな。
だったら聞くなよ。
っという思いが顔に出ていたのだろうか、オッティがなだめるような口調に変わる。
「まあまあ、そう来るのは予想の範囲内だが、問題はそれをつくるとして品質管理をどうするかってことさ。駒の材料は魔法樹脂でも、木材でも、金属でも、宝石でもいいとおもっている。大量生産の廉価版なら運搬中のキズなんて気にしないが、金持ち向けの高級品ともなると、そんなことはいってられないだろ。どうせ運搬中に傷がついたとかで、冒険者がアルトのところに相談に来るのがおちだ。そうなる前に何か手を打つべきだと思うんだよ」
結局のところFMEAの実施をしたいということか。
というか、工程が決まっていないから、FMEAの前段階だな。
高級品の外観傷については、へら絞りのグラスでも経験しているから、事前に防ぐ方策を考えたほうがいいな。
特に、貴族ともなると自分の非を認めずに、こちらの責任にしてくるからな。
「まずは高級品と廉価版で分けて考えたほうがいいな。廉価版は遊ぶことができればいいってくらいの緩い品質管理でいいだろう。そのかわり歩留まりがよくなるから安く売る。自動車だって外観不良の基準を緩くすれば、もっと安く販売できるんだよな。ボンネットの塗装工程とか、ヘッドライトの塗装工程を見ると、性能は問題ないのに、外観不良ということでNG品になっているものが多い。しかも、手直しが効かないから廃却になっているわけだ。その廃却費用だって部品単価に乗っかっている訳だからな」
そう、廃棄ロスを考慮するのは当然であり、歩留まりによって製品の単価は決まってくる。
●〇のように、廃棄を計算しない会社もあるが、そんな会社は数年後に無くなるから考慮しない。
廉価版チェスの商品価値はチェスが遊べることなので、駒の識別が出来ないほどの傷でもなければ問題ないだろう。
百均の製品について、傷だなんだと文句をいう奴はいないだろう。
しかし、これが高級品ともなると違ってくる。
チェスの駒をクリスタルや黄金で作る場合、傷が原因で光の反射が乱れると、その価値は失われる。
ゲームの駒ではなく、美術品としての扱いになるからだ。
「廉価版についてはそれでいいか。どうせ商人が荷馬車で運べば傷がつくからな。基準を緩くして、これは良品ですと言い切ってしまえばいい。高級品はどうする?傷なんてどの工程でも発生する可能性があるし、工場出荷時に良品でも運搬までは保証できないぞ。その時に傷の発生工程で揉めるだろう」
俺はオッティのその言葉で閃いた。
「そうか、運搬時の責任を負わなければいいんだ」
俺の閃きにオッティが目を丸くした。
「責任を負わないって、それは無理だろう」
「いいや、それがあるんだよ。ミルクランって覚えているか?」
「ああ」
ミルクランとは牛乳業者が酪農家の間を回って牛乳を引き取っていく様になぞらえた物流用語である。
製造業においては、客先が手配したトラックが自社までやってきて、そこで集荷して次の仕入れ先へとトラックが向かうやり方の事である。
こうすることで輸送効率を上げることができるのだが、他にもメリットがある。
それは運搬中のトラブルの責任が客先に行く事である。
納入時間の遅れの責任も、運搬中の落下等の責任も全て客先になるので、品質管理としてもありがたい。
因みに、ミルクラン方式で助かった事例は、納入伝票の貼り間違いと、製品の落下が多い。
これを自社で手配した便で行っていれば、対策書の提出を要求されていただろう。
そう、輸送の責任を顧客におわせてしまえばいいのだ。
「高級品については引き取り限定にして、その場で品質確認してもらって引き渡しにしよう。どうせ数は作れないから、この条件を受けてくれる客だけ相手にすればいい」
「ふむ」
「いいわね」
オッティとグレイスも賛成のようだ。
しかし、傷のつきやすい素材って何を使うのだろうか?
「金、若しくは銀を使って、手加工で仕上げようと思う」
オッティが素材を教えてくれた。
そうなると、やはり傷は大敵だな。
「ガラスで成形してもよかったんだが……」
「それは勘弁してください」
流石にガラスとなると、扱いが難しい。
運搬中にどうしても割れたりするだろう。
エアサスの馬車があるなら別だが。
その後チェスを売りだしたが、リバーシに比べるとルールが難しく、廉価版はさほど売れなかった。
高級品を買う貴族が、普段使い用として一緒に買ってはくれているみたいだが。
尚、王家に献上したクリスタルのチェスは、近衛騎兵が運搬にあたったとか。
傷つけたら首が飛ぶわ。
※作者の独り言
ミルクラン方式って、サプライヤーの責任が少なくなるからお得ですよね。
って思いますが、どうなんでしょうか。
運送業者は物流監査が増えるので大変でしょうけどね。
オッティとグレイスは久しぶりにステラの街に来ており、俺達はティーノの店で食事をしていた。
現在は食事も終わってオッティから次の商品の開発を持ち掛けられているのだ。
俺の言葉にワイングラスを口につけて傾けているグレイスが頷く。
リバーシができたとなると、次に来るのはあれだな。
「将棋かチェスが定番だな。チェスの方が駒の見た目が美しいから、チェスでいいんじゃないかな」
「そう来ると思ったよ」
オッティは俺の答えを予想していたようだ。
異世界転生の定番だからな。
だったら聞くなよ。
っという思いが顔に出ていたのだろうか、オッティがなだめるような口調に変わる。
「まあまあ、そう来るのは予想の範囲内だが、問題はそれをつくるとして品質管理をどうするかってことさ。駒の材料は魔法樹脂でも、木材でも、金属でも、宝石でもいいとおもっている。大量生産の廉価版なら運搬中のキズなんて気にしないが、金持ち向けの高級品ともなると、そんなことはいってられないだろ。どうせ運搬中に傷がついたとかで、冒険者がアルトのところに相談に来るのがおちだ。そうなる前に何か手を打つべきだと思うんだよ」
結局のところFMEAの実施をしたいということか。
というか、工程が決まっていないから、FMEAの前段階だな。
高級品の外観傷については、へら絞りのグラスでも経験しているから、事前に防ぐ方策を考えたほうがいいな。
特に、貴族ともなると自分の非を認めずに、こちらの責任にしてくるからな。
「まずは高級品と廉価版で分けて考えたほうがいいな。廉価版は遊ぶことができればいいってくらいの緩い品質管理でいいだろう。そのかわり歩留まりがよくなるから安く売る。自動車だって外観不良の基準を緩くすれば、もっと安く販売できるんだよな。ボンネットの塗装工程とか、ヘッドライトの塗装工程を見ると、性能は問題ないのに、外観不良ということでNG品になっているものが多い。しかも、手直しが効かないから廃却になっているわけだ。その廃却費用だって部品単価に乗っかっている訳だからな」
そう、廃棄ロスを考慮するのは当然であり、歩留まりによって製品の単価は決まってくる。
●〇のように、廃棄を計算しない会社もあるが、そんな会社は数年後に無くなるから考慮しない。
廉価版チェスの商品価値はチェスが遊べることなので、駒の識別が出来ないほどの傷でもなければ問題ないだろう。
百均の製品について、傷だなんだと文句をいう奴はいないだろう。
しかし、これが高級品ともなると違ってくる。
チェスの駒をクリスタルや黄金で作る場合、傷が原因で光の反射が乱れると、その価値は失われる。
ゲームの駒ではなく、美術品としての扱いになるからだ。
「廉価版についてはそれでいいか。どうせ商人が荷馬車で運べば傷がつくからな。基準を緩くして、これは良品ですと言い切ってしまえばいい。高級品はどうする?傷なんてどの工程でも発生する可能性があるし、工場出荷時に良品でも運搬までは保証できないぞ。その時に傷の発生工程で揉めるだろう」
俺はオッティのその言葉で閃いた。
「そうか、運搬時の責任を負わなければいいんだ」
俺の閃きにオッティが目を丸くした。
「責任を負わないって、それは無理だろう」
「いいや、それがあるんだよ。ミルクランって覚えているか?」
「ああ」
ミルクランとは牛乳業者が酪農家の間を回って牛乳を引き取っていく様になぞらえた物流用語である。
製造業においては、客先が手配したトラックが自社までやってきて、そこで集荷して次の仕入れ先へとトラックが向かうやり方の事である。
こうすることで輸送効率を上げることができるのだが、他にもメリットがある。
それは運搬中のトラブルの責任が客先に行く事である。
納入時間の遅れの責任も、運搬中の落下等の責任も全て客先になるので、品質管理としてもありがたい。
因みに、ミルクラン方式で助かった事例は、納入伝票の貼り間違いと、製品の落下が多い。
これを自社で手配した便で行っていれば、対策書の提出を要求されていただろう。
そう、輸送の責任を顧客におわせてしまえばいいのだ。
「高級品については引き取り限定にして、その場で品質確認してもらって引き渡しにしよう。どうせ数は作れないから、この条件を受けてくれる客だけ相手にすればいい」
「ふむ」
「いいわね」
オッティとグレイスも賛成のようだ。
しかし、傷のつきやすい素材って何を使うのだろうか?
「金、若しくは銀を使って、手加工で仕上げようと思う」
オッティが素材を教えてくれた。
そうなると、やはり傷は大敵だな。
「ガラスで成形してもよかったんだが……」
「それは勘弁してください」
流石にガラスとなると、扱いが難しい。
運搬中にどうしても割れたりするだろう。
エアサスの馬車があるなら別だが。
その後チェスを売りだしたが、リバーシに比べるとルールが難しく、廉価版はさほど売れなかった。
高級品を買う貴族が、普段使い用として一緒に買ってはくれているみたいだが。
尚、王家に献上したクリスタルのチェスは、近衛騎兵が運搬にあたったとか。
傷つけたら首が飛ぶわ。
※作者の独り言
ミルクラン方式って、サプライヤーの責任が少なくなるからお得ですよね。
って思いますが、どうなんでしょうか。
運送業者は物流監査が増えるので大変でしょうけどね。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。
克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位
11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位
11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位
11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位
断罪される1か月前に前世の記憶が蘇りました。
みちこ
ファンタジー
両親が亡くなり、家の存続と弟を立派に育てることを決意するけど、ストレスとプレッシャーが原因で高熱が出たことが切っ掛けで、自分が前世で好きだった小説の悪役令嬢に転生したと気が付くけど、小説とは色々と違うことに混乱する。
主人公は断罪から逃れることは出来るのか?
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
冒険者ギルド品質管理部 ~異世界の品質管理は遅れている~
犬野純
ファンタジー
レアジョブにも程がある。10歳になって判明した俺の役職はなんと「品質管理」。産業革命すら起こっていない世界で、品質管理として日々冒険者ギルドで、新人の相談にのる人生。現代の品質管理手法で、ゆるーく冒険者のお手伝い。
前回の拙著が愚痴とメタ発言が多すぎたのでリメイクしました。
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
私を裏切った相手とは関わるつもりはありません
みちこ
ファンタジー
幼なじみに嵌められて処刑された主人公、気が付いたら8年前に戻っていた。
未来を変えるために行動をする
1度裏切った相手とは関わらないように過ごす
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる