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第200話 脱脂のこと
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記念すべき200話目も愚痴です。
それでは本編、いってみましょう。
連日製図に付き合いながらも、ばらした車両をもとに戻す作業にも付き合う。
再現できない計器類を代替させるための仕組みをアドバイスしたり、溶接箇所についてホーマーにやらせるべきか、ロウ付けで代用出来ないか等を確認したりと、測定以外にもやることは多い。
丁度俺がドワーフ達と組付けようの工具について話しているときに、空調の研究をしている賢者の学院の研究者が俺を呼びに来た。
この人も鉄道プロジェクトの技官のように、神経質そうでほっそりとしている。
というか、やつれているな。
研究していたら熱が入って連日徹夜みたいな雰囲気だ。
大学の研究室でよく見たな。
俺を呼びに来るとは、品質的なトラブルだろうか?
「アルトさん、すいませんがこちらを見てください」
彼から手渡されたのはアルミ配管である。
二本のアルミ配管がナットとユニオンで締結されている。
よく見ると、ナットがユニオンの先端部で止まっている。
俺はそれを受け取ると、ナットを手で回そうとしてみた。
「噛みこみか?」
俺はナットユニオンから目を離さずに、研究者に訊ねる。
「はい。全てではありませんが、噛みこみが出るものが発生しております。ネジ形状が疑わしいので、測定をお願いしようと思いまして」
と、申し訳なさそうな声が返ってきた。
表情を見てはいないが、多分顔も申し訳なさそうにしているに違いない。
「噛みこみねえ……」
ネジの噛みこみといえば、並目と細目を間違って組付けようとして、無理やり押し込んでしまったのかもしれないな。
鉄やステンレスのネジであれば、硬いので人の手では無理だが、アルミであれば柔らかいので無理やり組付けようとすれば変形させてしまう。
近くにいたドワーフにお願いして、無理やり噛みこんだナットとユニオンを外してもらう。
直ぐに外れて、先端がつぶれたネジ山を確認することができた。
「どれどれ、ネジピッチはどうなっているのかな?」
三次元測定スキルでネジ山のピッチを確認するが、どちらも並目であった。
となると、斜めにはめ込み、無理やり締め付けたのが濃厚だな。
ユニオンはその形状ゆえ、パイプに後から溶接又はロウ付けする必要がある。
手に持っている配管も、ロウ付けされているのがわかった。
指でナットとユニオンそれぞれを触ってみるが、どちらも全く油分が無い。
「油分不足だな。これでは組付けが相当難しいぞ」
「油分不足?アルミ製品は脱脂を指定しておりますので、油分が無いのは正常ではないのでしょうか?」
研究者は納得いかないようだ。
確かに、図面には脱脂のことと謳ってある。
部品を作った工房もキッチリ脱脂してきたのだろう。
だが、それもケースバイケースだ。
「アルミ同士のネジはとても噛みこみが出やすいんだ。特にネジ山の先端部が鉄などと比較して柔らかいからね。油分があれば摩擦も低減されるのだが、これはネジ付近をロウ付けしているから、熱したときに油分が完全に飛んでしまうんだよね」
「そんなことが……」
まあこれは俺が前世で経験しているからわかることなんだよね。
何度も客先の組付けで噛みこみが出て、ネジ山の検査を全数行っても悪いところが見つからなかった。
ネジゲージはゲージ鋼で出来ているので、アルミ同士の噛みこみは再現できなかったというわけだ。
夜中までかかって、ナットとユニオンを全数ゲージ確認したのは辛かった……
「オッティを呼んできてくれるかい?」
「わかりました」
研究者はオッティを呼ぶために、一度退出した。
彼がいなくなると、俺達の話を聞いていたドワーフが声をかけてくる。
「油分もなくなりすぎるとよくないのか」
「物によりますよ。締結部では適度に油分が残っていたほうがいいんです。ただ、食品関連の設備では工業用の油が残っているのはよくないですからね」
「それもそうじゃのう。オークみたいな悪食なら別じゃが」
オークは機械油を飲んでも大丈夫なのかな?
そんな会話をしていたら、先ほどの研究者とオッティがやってきた。
「オッティ、彼の持ってきたナットとユニオンの噛みこみは油分が無いことが原因だ。ネジ山付近をロウ付けしているのだから、その工程で油分を保証させるわけにはいかない。組付け工程で油塗布を入れるべきだ」
俺の意見にオッティが首肯する。
「どれくらいにすればいいかな。塗布量となると人のばらつきが多そうだけど」
「そうだな、油を染み込ませた布でユニオンをひと拭きすればいいかな」
「では早速そうさせてもらおうか」
管理工程図を見直し、ナットとユニオンの組付け工程に油塗布を追加する。
当然水平展開も実施することにした。
「アルミという今までに無かった材質だから、今後も予期しない不具合が出るんだろうな」
オッティがしみじみと言う。
「俺達が通ってきた道だよ」
俺はオッティの肩をポンと叩いた。
※作者の独り言
アルミのナットユニオンの噛みこみって結構あるのですが、油を塗布するのってノウハウなんでしょうかね。
見積に入れていなくて、後で揉めることもありますが、図面が脱脂のことってなっていると、油塗布もこちらではできないのですよね。
調査の工数が膨大になったのを返して欲しい。
それでは本編、いってみましょう。
連日製図に付き合いながらも、ばらした車両をもとに戻す作業にも付き合う。
再現できない計器類を代替させるための仕組みをアドバイスしたり、溶接箇所についてホーマーにやらせるべきか、ロウ付けで代用出来ないか等を確認したりと、測定以外にもやることは多い。
丁度俺がドワーフ達と組付けようの工具について話しているときに、空調の研究をしている賢者の学院の研究者が俺を呼びに来た。
この人も鉄道プロジェクトの技官のように、神経質そうでほっそりとしている。
というか、やつれているな。
研究していたら熱が入って連日徹夜みたいな雰囲気だ。
大学の研究室でよく見たな。
俺を呼びに来るとは、品質的なトラブルだろうか?
「アルトさん、すいませんがこちらを見てください」
彼から手渡されたのはアルミ配管である。
二本のアルミ配管がナットとユニオンで締結されている。
よく見ると、ナットがユニオンの先端部で止まっている。
俺はそれを受け取ると、ナットを手で回そうとしてみた。
「噛みこみか?」
俺はナットユニオンから目を離さずに、研究者に訊ねる。
「はい。全てではありませんが、噛みこみが出るものが発生しております。ネジ形状が疑わしいので、測定をお願いしようと思いまして」
と、申し訳なさそうな声が返ってきた。
表情を見てはいないが、多分顔も申し訳なさそうにしているに違いない。
「噛みこみねえ……」
ネジの噛みこみといえば、並目と細目を間違って組付けようとして、無理やり押し込んでしまったのかもしれないな。
鉄やステンレスのネジであれば、硬いので人の手では無理だが、アルミであれば柔らかいので無理やり組付けようとすれば変形させてしまう。
近くにいたドワーフにお願いして、無理やり噛みこんだナットとユニオンを外してもらう。
直ぐに外れて、先端がつぶれたネジ山を確認することができた。
「どれどれ、ネジピッチはどうなっているのかな?」
三次元測定スキルでネジ山のピッチを確認するが、どちらも並目であった。
となると、斜めにはめ込み、無理やり締め付けたのが濃厚だな。
ユニオンはその形状ゆえ、パイプに後から溶接又はロウ付けする必要がある。
手に持っている配管も、ロウ付けされているのがわかった。
指でナットとユニオンそれぞれを触ってみるが、どちらも全く油分が無い。
「油分不足だな。これでは組付けが相当難しいぞ」
「油分不足?アルミ製品は脱脂を指定しておりますので、油分が無いのは正常ではないのでしょうか?」
研究者は納得いかないようだ。
確かに、図面には脱脂のことと謳ってある。
部品を作った工房もキッチリ脱脂してきたのだろう。
だが、それもケースバイケースだ。
「アルミ同士のネジはとても噛みこみが出やすいんだ。特にネジ山の先端部が鉄などと比較して柔らかいからね。油分があれば摩擦も低減されるのだが、これはネジ付近をロウ付けしているから、熱したときに油分が完全に飛んでしまうんだよね」
「そんなことが……」
まあこれは俺が前世で経験しているからわかることなんだよね。
何度も客先の組付けで噛みこみが出て、ネジ山の検査を全数行っても悪いところが見つからなかった。
ネジゲージはゲージ鋼で出来ているので、アルミ同士の噛みこみは再現できなかったというわけだ。
夜中までかかって、ナットとユニオンを全数ゲージ確認したのは辛かった……
「オッティを呼んできてくれるかい?」
「わかりました」
研究者はオッティを呼ぶために、一度退出した。
彼がいなくなると、俺達の話を聞いていたドワーフが声をかけてくる。
「油分もなくなりすぎるとよくないのか」
「物によりますよ。締結部では適度に油分が残っていたほうがいいんです。ただ、食品関連の設備では工業用の油が残っているのはよくないですからね」
「それもそうじゃのう。オークみたいな悪食なら別じゃが」
オークは機械油を飲んでも大丈夫なのかな?
そんな会話をしていたら、先ほどの研究者とオッティがやってきた。
「オッティ、彼の持ってきたナットとユニオンの噛みこみは油分が無いことが原因だ。ネジ山付近をロウ付けしているのだから、その工程で油分を保証させるわけにはいかない。組付け工程で油塗布を入れるべきだ」
俺の意見にオッティが首肯する。
「どれくらいにすればいいかな。塗布量となると人のばらつきが多そうだけど」
「そうだな、油を染み込ませた布でユニオンをひと拭きすればいいかな」
「では早速そうさせてもらおうか」
管理工程図を見直し、ナットとユニオンの組付け工程に油塗布を追加する。
当然水平展開も実施することにした。
「アルミという今までに無かった材質だから、今後も予期しない不具合が出るんだろうな」
オッティがしみじみと言う。
「俺達が通ってきた道だよ」
俺はオッティの肩をポンと叩いた。
※作者の独り言
アルミのナットユニオンの噛みこみって結構あるのですが、油を塗布するのってノウハウなんでしょうかね。
見積に入れていなくて、後で揉めることもありますが、図面が脱脂のことってなっていると、油塗布もこちらではできないのですよね。
調査の工数が膨大になったのを返して欲しい。
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