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第148話 抜型
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今日は俺の所にシエナが相談にやってきている。
シエナはランディの婚約者の魔法使いである。
相談内容はランディのことだ。
「ランディの心と胃袋をがっつり掴む料理を作りたい?」
「はい。冒険の最中に保存食として出せて、尚且つ心と胃袋を握りつぶしたいんです」
握りつぶしちゃダメだろうとは思うが、心意気はよくわかった。
しかし、俺としてもそんなのは即答できない。
というか、恋愛の品質管理があるなら、俺が独身のままというのもないだろう。
モテすぎて独身っていうわけでもないしね。
「ちょっと考える時間がほしいんだが」
「わかりました」
シエナに納得してもらい、今日は帰ってもらう。
さて、料理の事ならティーノに相談かな。
最近ではコロラドの店に客が流れて、少し空いている時間ができたのだ。
師匠の面目が危ない。
そんなわけで、昼時をずらして15時くらいにティーノの店に顔を出した。
夜の仕込みをしているティーノとメガーヌに作業しながら話を聞いてもらう。
「料理で男の心を掴もうなんていじらしいわね」
メガーヌはそんなシエナを何とかして成功させてあげたいという。
ティーノも協力的だ。
「冒険に持っていくなら焼いたものか干したものだろうな。生ものとか煮物は却下だ」
「そうねえ。焼き菓子なんていいんじゃないかしら」
「がさばらないってなると、クッキーなんかいいかな」
メガーヌとティーノの話を聞いて、クッキーはいいかもと思った。
「ただ、心と胃袋を掴むっていうと、一工夫必要よね」
「味は決まっちゃうだろ。色か?」
ティーノのは色を変えることを考えた。
しかし、それでは心を掴むのは難しいかな?
「色を変えてもいいけど、ちょっと弱いわよね。見た目をもっと劇的に変えられたらいいんだけど」
「形ってどんなのがあるの?」
俺はクッキーなんて作ったことがないからよくわからなかった。
「丸か四角ね。手でこねるから丸がおおいかな」
「あ、そうだ」
メガーヌの話を聞いていて思いついたことがあった。
「抜型をつくろうか」
「「抜型?」」
夫婦の声がハモった。
「ちょっとホーマーの所に行ってくる。夜閉店後くらいにまた来るよ」
俺はそういうと店を出た。
抜型とはその名の通り、抜くための金型だ。
クッキーの形を作るのに使っているのをテレビで見たことがある。
というか、工業的に抜型というと、木の板に刃をつけたものだったり、ベルトの穴あけポンチみたいなやつのことを指すんだけどね。
検査治具を木型で作成したときに、抜型メーカーを何度か訪れたことがある。
布を抜くのに型を使ったのだ。
外観部品だったので、木型に製品を当てたときに傷がつかないように、不織布を張り付けたのだ。
その時に抜型を使っている。
使い方はクッキーでも工業用でも一緒で、上から型を当てて強く押すのだ。
そんなわけで、ホーマーにお願いして抜型を溶接してもらう。
ビク型みたいに木をつかわない。
一般的なお菓子作りのための金型なので、ステンレスを星やハート、猫の形に曲げて溶接してもらう。
何パターンか作成して、好きなのを選んでもらえばいいのだ。
「あ、文字もいいかも」
この世界の文字の形の抜型もつくった。
これで、恋文をつくったり、相手の名前をつくったりしたらいいんじゃね?
重い女って思われるかな?
こうしてホーマーの協力の元、かなりの数の抜型が出来上がった。
これをもって再びティーノの店を訪れる。
「こういうのを作ってみたんだけど」
俺はティーノとメガーヌに抜型を見せた。
様々な抜型を手に取って興味深く眺める二人。
「どうやって使うの?」
「生地の上から押しあてればいいんだよ」
前世の記憶を頼りに使い方を説明する。
多分あっているはずだ。
試しに店にある材料でクッキーの生地を作って、型抜きしてみた。
「結構綺麗にいくもんだね」
「そうね」
ティーノとメガーヌは感心している。
そういえば、抜型っていつ頃からあるんだろうか?
地球でも古い時代の記録はなかったよな。
こちらでも抜型を作って売ろうかな。
「ティーノ、メガーヌ。この型もう一個作ったら買う?」
「そうだなー。クッキーを正式なメニューに入れるなら欲しいな」
決まって出るわけでもないからな。
まあ、ここが駄目でも商業ギルドがある。
そちらに売り込んでみようか。
なんにしても、これでシエナの相談はなんとかなるかな。
翌日、シエナに抜型とティーノに作ってもらった見本のクッキーを渡した。
「頑張ります!」
そういって笑顔でシエナは去っていった。
うまくいくといいな。
「おっと、俺の方は商業ギルドへ売り込みにいかないとだな」
商業ギルド長のシャレードに直接売り込んでみた。
王都のお菓子専門店などに売り込みをかけてみると約束してくれた。
人気店で使用してくれれば、真似をしたい店や一般人も買ってくれるかもしれないということだ。
どうせスキルで作り出した素材で作っているので、原価はホーマーの手間賃だけである。
それに、最初の抜型以外は受注生産にすれば損は出ない。
気長に待つことにした。
が、思わぬところから人気に火が付く。
「バッチリうまくいきました。友達にも薦めたいので、もっと抜型が欲しいんですけど」
狙い通りにランディの心と胃袋を掴んだシエナが広告塔になってくれた。
他の女冒険者から、一般人の女性まで抜型が広く知られることになり、ステラの街ではちょっとしたブームになった。
更に、クッキー用の抜型とは違い、鋭い刃を持った抜型もデボネアに協力してもらって作成した。
こいつは木の板に刃をくっつけたビク型である。
革や布を抜くのに使える。
そういえば、ベルトの穴をあけるのも抜きポンチっていう抜型だよね。
抜型は紙もいけるのだが紙器が一般的ではないので需要がない。
「クッキーだけに、割れやすい恋じゃないといいね」
エッセの工房に抜型を買いに来る女性たちを見ながら俺は副部長の台詞を思い出すのであった。
シエナはランディの婚約者の魔法使いである。
相談内容はランディのことだ。
「ランディの心と胃袋をがっつり掴む料理を作りたい?」
「はい。冒険の最中に保存食として出せて、尚且つ心と胃袋を握りつぶしたいんです」
握りつぶしちゃダメだろうとは思うが、心意気はよくわかった。
しかし、俺としてもそんなのは即答できない。
というか、恋愛の品質管理があるなら、俺が独身のままというのもないだろう。
モテすぎて独身っていうわけでもないしね。
「ちょっと考える時間がほしいんだが」
「わかりました」
シエナに納得してもらい、今日は帰ってもらう。
さて、料理の事ならティーノに相談かな。
最近ではコロラドの店に客が流れて、少し空いている時間ができたのだ。
師匠の面目が危ない。
そんなわけで、昼時をずらして15時くらいにティーノの店に顔を出した。
夜の仕込みをしているティーノとメガーヌに作業しながら話を聞いてもらう。
「料理で男の心を掴もうなんていじらしいわね」
メガーヌはそんなシエナを何とかして成功させてあげたいという。
ティーノも協力的だ。
「冒険に持っていくなら焼いたものか干したものだろうな。生ものとか煮物は却下だ」
「そうねえ。焼き菓子なんていいんじゃないかしら」
「がさばらないってなると、クッキーなんかいいかな」
メガーヌとティーノの話を聞いて、クッキーはいいかもと思った。
「ただ、心と胃袋を掴むっていうと、一工夫必要よね」
「味は決まっちゃうだろ。色か?」
ティーノのは色を変えることを考えた。
しかし、それでは心を掴むのは難しいかな?
「色を変えてもいいけど、ちょっと弱いわよね。見た目をもっと劇的に変えられたらいいんだけど」
「形ってどんなのがあるの?」
俺はクッキーなんて作ったことがないからよくわからなかった。
「丸か四角ね。手でこねるから丸がおおいかな」
「あ、そうだ」
メガーヌの話を聞いていて思いついたことがあった。
「抜型をつくろうか」
「「抜型?」」
夫婦の声がハモった。
「ちょっとホーマーの所に行ってくる。夜閉店後くらいにまた来るよ」
俺はそういうと店を出た。
抜型とはその名の通り、抜くための金型だ。
クッキーの形を作るのに使っているのをテレビで見たことがある。
というか、工業的に抜型というと、木の板に刃をつけたものだったり、ベルトの穴あけポンチみたいなやつのことを指すんだけどね。
検査治具を木型で作成したときに、抜型メーカーを何度か訪れたことがある。
布を抜くのに型を使ったのだ。
外観部品だったので、木型に製品を当てたときに傷がつかないように、不織布を張り付けたのだ。
その時に抜型を使っている。
使い方はクッキーでも工業用でも一緒で、上から型を当てて強く押すのだ。
そんなわけで、ホーマーにお願いして抜型を溶接してもらう。
ビク型みたいに木をつかわない。
一般的なお菓子作りのための金型なので、ステンレスを星やハート、猫の形に曲げて溶接してもらう。
何パターンか作成して、好きなのを選んでもらえばいいのだ。
「あ、文字もいいかも」
この世界の文字の形の抜型もつくった。
これで、恋文をつくったり、相手の名前をつくったりしたらいいんじゃね?
重い女って思われるかな?
こうしてホーマーの協力の元、かなりの数の抜型が出来上がった。
これをもって再びティーノの店を訪れる。
「こういうのを作ってみたんだけど」
俺はティーノとメガーヌに抜型を見せた。
様々な抜型を手に取って興味深く眺める二人。
「どうやって使うの?」
「生地の上から押しあてればいいんだよ」
前世の記憶を頼りに使い方を説明する。
多分あっているはずだ。
試しに店にある材料でクッキーの生地を作って、型抜きしてみた。
「結構綺麗にいくもんだね」
「そうね」
ティーノとメガーヌは感心している。
そういえば、抜型っていつ頃からあるんだろうか?
地球でも古い時代の記録はなかったよな。
こちらでも抜型を作って売ろうかな。
「ティーノ、メガーヌ。この型もう一個作ったら買う?」
「そうだなー。クッキーを正式なメニューに入れるなら欲しいな」
決まって出るわけでもないからな。
まあ、ここが駄目でも商業ギルドがある。
そちらに売り込んでみようか。
なんにしても、これでシエナの相談はなんとかなるかな。
翌日、シエナに抜型とティーノに作ってもらった見本のクッキーを渡した。
「頑張ります!」
そういって笑顔でシエナは去っていった。
うまくいくといいな。
「おっと、俺の方は商業ギルドへ売り込みにいかないとだな」
商業ギルド長のシャレードに直接売り込んでみた。
王都のお菓子専門店などに売り込みをかけてみると約束してくれた。
人気店で使用してくれれば、真似をしたい店や一般人も買ってくれるかもしれないということだ。
どうせスキルで作り出した素材で作っているので、原価はホーマーの手間賃だけである。
それに、最初の抜型以外は受注生産にすれば損は出ない。
気長に待つことにした。
が、思わぬところから人気に火が付く。
「バッチリうまくいきました。友達にも薦めたいので、もっと抜型が欲しいんですけど」
狙い通りにランディの心と胃袋を掴んだシエナが広告塔になってくれた。
他の女冒険者から、一般人の女性まで抜型が広く知られることになり、ステラの街ではちょっとしたブームになった。
更に、クッキー用の抜型とは違い、鋭い刃を持った抜型もデボネアに協力してもらって作成した。
こいつは木の板に刃をくっつけたビク型である。
革や布を抜くのに使える。
そういえば、ベルトの穴をあけるのも抜きポンチっていう抜型だよね。
抜型は紙もいけるのだが紙器が一般的ではないので需要がない。
「クッキーだけに、割れやすい恋じゃないといいね」
エッセの工房に抜型を買いに来る女性たちを見ながら俺は副部長の台詞を思い出すのであった。
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